口腔機能の評価を最短ルートで:目的別“最小セット”と使い分け
本記事は「地域・病棟・施設で誰がどこまでできるか」を軸に、口腔機能の代表的評価を最小セットで整理します。スクリーニング(OF-5/EAT-10)、機器不要の機能指標(オーラル DDK〈ODK〉)、衛生・肺炎リスクの把握(舌苔スコア TCI)、定量指標(舌圧)の 4 本立てで、“場面別の使い分け”→“手順”→“カットオフ”の順で提示します。ODK は < 6.0 回/秒を低下の目安、舌圧は < 30 kPa が口腔機能低下の基準です。
ST のキャリアと学び方(嚥下・コミュニケーションの道しるべ)
場面別の使い分け(横スクロール可)
| 目的 | 現場・想定 | 推奨ツール | 手順の要点 | 判定目安 |
|---|---|---|---|---|
| 包括スクリーニング | 地域健診・介護予防・外来 | OF-5(問診) | 5 項目の簡易問診(自己歯・固い物・むせ・口渇・構音) | 2 項目以上該当でオーラルフレイル疑い |
| 嚥下症状の把握 | 病棟・施設・訪問 | EAT-10(自己記入) | 10 項目の自覚症状を 0–4 点で合計 | 合計 ≥ 3 点で嚥下障害の可能性 |
| 舌口唇の運動機能 | 多職種の場面で簡便に | オーラル DDK(ODK) | 各音節を 10 秒全力→回数/10=回/秒 | < 6.0 回/秒で低下の目安 |
| 衛生・肺炎リスク | 病棟・施設・周術期 | 舌苔スコア(TCI) | 舌を 9 区画、0/1/2 で観察 | TCI ≥ 50%(合計 ≥ 9)で衛生不良 |
| 定量・経過追跡 | 歯科/嚥下外来・回復期 | 舌圧(デジタル舌圧計) | リング把持→口蓋前方へ最大挙上(数秒) | < 30 kPa で口腔機能低下の基準 |
ダウンロード(A4・印刷用)
- 口腔機能ミニセット 記録シート(OF-5/EAT-10 合計/ODK/TCI/舌圧)
- オーラル DDK(ODK)クイックリファレンス
- 舌苔スコア(TCI)記録シート
- 舌圧 記録シート
- OF-5(オーラルフレイル簡易)記録シート
A4/余白 10–12 mm/ヘッダ・フッタ非表示で印刷。さらに “そのまま病棟掲示・新人オリエンで使用可”。
OF-5(オーラルフレイル簡易スクリーニング)
オーラルフレイルは口腔機能低下症の前段階で、食の偏り・軽微な機能低下など早期のサインを拾います。OF-5 は問診のみで、歯の本数や固い物の食べにくさ、むせ、口渇、発音の明瞭性を問う 5 項目で構成され、現場負担が低いのが利点です。評価は該当数で判断し、2 項目以上でオーラルフレイル疑い。陽性なら ODK や TCI、必要に応じて EAT-10/舌圧へ進めると見落としが減ります。
舌苔スコア(TCI:Tongue Coating Index)
舌苔は細菌・剥離上皮・食渣の集合で、口臭や誤嚥性肺炎のリスクと関連します。TCI は舌を 9 区画 × 0/1/2 点で観察し、(合計 ÷ 18)×100%で算出する簡便指標です。TCI ≥ 50%(=合計 ≥ 9)を衛生不良の目安とし、清掃・保湿・摂食前の口腔ケアの優先度判断に役立ちます。厚い苔と乾燥はセットで増悪しやすいため、保湿や水分・唾液量の評価も併せて行いましょう。
(合計 ÷ 18)×100で算出。TCI ≥ 50%(合計 ≥ 9)は衛生不良の目安。臨床メモ: 口腔ケアの前後で TCI を取り、保湿・清掃の効果を経時で比較すると改善の見える化に有効です。
オーラル DDK(ODK)
ODK は舌口唇の巧緻性と速度をみる検査です。/pa/(口唇), /ta/(舌前方), /ka/(舌後部)を 10 秒間で可能な限り速く明瞭に反復し、回数 ÷ 10 = 回/秒で評価します。< 6.0 回/秒を低下の目安とし、/ka/ 低下は嚥下機能リスクのサインになりやすい点に留意。鼻咽腔閉鎖不全が疑われる置換(例:/pa/→/ma/)は要精査です。
< 6.0 回/秒は低下の目安。同一条件での経時比較を優先。臨床メモ: 息継ぎ可・口形は図で視覚提示。音節ごとに 2 試行して高い方を採用すると再現性が上がります。
舌圧(デジタル舌圧計)
舌圧は「舌が口蓋前方部との間で食塊に与える力」を定量化する中核指標です。リングを前歯で軽く把持し、口蓋前方へ数秒最大挙上して最大舌圧(kPa)を記録します。判定目安は< 30 kPa で口腔機能低下の基準、< 20 kPa で高度低下が疑われます。義歯・口腔痛・理解面は測定値に影響するため、前提条件(疼痛・義歯適合・理解)を整えてから実施しましょう。
32 kPa)。< 30 kPa は口腔機能低下の基準。臨床メモ: 2–3 回測定して最高値(または中央値)で記録。義歯装着条件は必ず記載して再検時も統一。
EAT-10(簡易嚥下評価)
EAT-10 は嚥下に関する自覚症状を 0–4 点で評価する 10 項目の自己記入式ツールです(合計 ≥ 3 点 で嚥下障害の可能性)。スクリーニングに適し、介入前後の主観的変化も追跡できます。詳しい運用・判定のコツはEAT-10 専用記事へ。
評価ワークフロー(現場導線)
① 問診開始(OF-5/EAT-10)→ ② 机上で ODK(/pa/ /ta/ /ka/)→ ③ 口腔ケア前後で TCI → ④ 必要時に舌圧で定量 → ⑤ 陽性なら専門職へ連携(歯科・ST)。時間対効果と安全性の両面で実装しやすい流れです。
測定条件チェック: 姿勢(座位/端坐位)・義歯装着・直前の口腔ケア・時間帯・測定者・機器(機種/プローブ)を固定して 同一条件での経時比較 を徹底。
FAQ
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
ODK の“6.0 回/秒未満”は絶対ですか? 年齢や練習の影響は?
閾値はあくまで目安です。高齢者や初回測定では学習効果が出やすく、反復で 0.5 回/秒程度伸びることも。同一条件での経時比較を優先しましょう。
TCI はどのくらいの頻度で観察すべき?
誤嚥性肺炎リスクが高い場面では毎食前の観察が理想。少なくとも口腔ケア前後や抗菌薬投与中は頻度を上げ、厚い苔+乾燥が続く場合は保湿や清掃手順の見直しを。
舌圧は機器が無いと評価できますか?
定量は機器が必要ですが、ODK と食形態・摂食状況の観察でも介入方針は立てられます。機器導入まではスクリーニング+機能訓練で十分に価値があります。


