- 上前腸骨棘( ASIS )は骨盤前方の起点として触れます
- ASIS とはどこ?まずは「腸骨の前上方の突出」として押さえます
- ASIS を押さえると何が楽になるか|骨盤・測定・記録がつながります
- ASIS の触診のコツ|前上方の突出を「線」で確認します
- ASIS はどの体位で触りやすい?まずは背臥位が基本です
- ASIS は何と一緒にみる? PSIS ・大転子・内果とつなげると実務で使いやすいです
- よくある失敗| ASIS だけで骨盤の結論を急がないことが大切です
- ASIS を臨床でどう使う?測定と股関節前面の評価につなげます
- 記録のコツ|「どこをどう触ったか」を 1 行で残します
- よくある質問
- 次の一手
- 参考文献
- 著者情報
上前腸骨棘( ASIS )は骨盤前方の起点として触れます
上前腸骨棘( ASIS )は、骨盤の前上方で触れやすい骨性ランドマークです。理学療法士の臨床では、骨盤の位置関係を整理したいとき、下肢長を測りたいとき、股関節周囲の所見を具体化したいときの “ 入口 ” になります。まずここを安定して触れるだけで、骨盤・股関節まわりの評価がかなり組み立てやすくなります。
大切なのは、 ASIS を “ 触れたかどうか ” で終わらせないことです。どの体位で、どこから触って、何と比較したかまでそろえて初めて評価に使いやすくなります。骨性ランドマーク全体の位置づけは 理学療法士が押さえる骨性ランドマーク【部位別早見】 で全体像を確認できます。
ASIS とはどこ?まずは「腸骨の前上方の突出」として押さえます
ASIS は anterior superior iliac spine の略で、日本語では上前腸骨棘と呼ばれます。骨盤の前面をたどったときに触れやすい突出で、前方から骨盤をみる際の基準点として使いやすいのが特徴です。細かな解剖を一度に覚えるより、まずは “ 骨盤前方で最初に触れる骨の目印 ” として理解すると実務で迷いにくくなります。
ASIS が重要なのは、骨盤の左右差や前後の位置関係をみる入口になり、さらに棘果長のような下肢長測定の起点にもなるからです。すでに 形態測定(四肢長・周径)の測り方 でも、 ASIS 〜 内果を区間にした棘果長を扱っています。つまり ASIS は、触診と測定をつなぐ “ 前方の基準点 ” として覚えるのが実用的です。
ASIS を押さえると何が楽になるか|骨盤・測定・記録がつながります
ASIS を安定して触れると、骨盤の前方基準ができるため、左右差の見方、骨盤の回旋や傾きの確認、股関節前面の痛み部位の整理がしやすくなります。特に「骨盤がずれている気がする」「下肢長を測りたい」「鼠径部痛の位置を具体化したい」といった場面で、観察の出発点として使いやすいです。
もう 1 つの利点は、記録が具体化することです。「骨盤が不安定」「股関節前面が痛い」では曖昧でも、「 ASIS 左右差は目立たない」「右 ASIS 近傍に圧痛」「 ASIS 〜 内果で右短縮傾向」と残せると、再評価や申し送りがかなりしやすくなります。 ASIS は “ 解剖の知識 ” より “ 共通言語の起点 ” として押さえると価値が上がります。
スマホでは表を横スクロールできます。
| 場面 | ASIS をどう使うか | 記録の例 |
|---|---|---|
| 骨盤の観察 | 前方の左右基準として位置関係をみる | 立位で ASIS の左右差は目立たない |
| 下肢長測定 | ASIS 〜 内果の区間の起点にする | 背臥位で ASIS 〜 内果を測定 |
| 股関節前面痛 | 鼠径部や周辺の圧痛位置を整理する | 右 ASIS 内下方に圧痛あり |
| 座位・シーティング | 骨盤前後傾の見方の入口にする | 座位で骨盤後傾優位、前方指標は触れにくい |
ASIS の触診のコツ|前上方の突出を「線」で確認します
ASIS を触るときは、いきなり 1 点で当てようとしない方が安定します。まず骨盤前方の広い面を確認し、そのあと腸骨稜の流れを前方へたどっていくと、前上方の突出として見つけやすくなります。 “ 点を探す ” より “ 線をたどって最後に点を決める ” 感覚の方が、初学者には再現しやすいです。
また、 ASIS は強く押し込むほど分かりやすくなるとは限りません。圧が強すぎると防御や不快感が出やすく、軟部組織の緊張でかえって触れにくくなることがあります。最初は軽めの接触で骨盤前面の広がりをとらえ、突出の縁を確かめるように触れた方が迷いにくくなります。
5 分で確認する ASIS 触診フロー
順番を固定すると、 ASIS の触診はかなり安定します。毎回ゼロから探すのではなく、同じ流れを繰り返すのがコツです。
- 体位を決める:まずは背臥位で骨盤前面を触れやすくします。
- 左右の骨盤前面に軽く触れる:張りや防御の有無を先に確認します。
- 腸骨稜を前方へたどる:面ではなく線の流れで前方へ進みます。
- 前上方の突出を確認する:最後に突出の位置と縁を確かめます。
- 反対側と比較する:高さ・触れやすさ・圧痛を左右で見比べます。
ASIS はどの体位で触りやすい?まずは背臥位が基本です
ASIS を最初に練習するなら、背臥位がいちばん扱いやすいです。骨盤前面に触れやすく、下肢の位置もそろえやすいため、左右比較がしやすくなります。立位は機能的な観察には向きますが、最初の触診練習では筋緊張や姿勢の影響が混ざりやすく、初心者には少し難しくなります。
臨床では、背臥位で位置を確認してから、必要に応じて立位や座位へ広げる流れがおすすめです。たとえば下肢長測定では背臥位、骨盤の左右差観察では立位、シーティングでは座位、というように “ 目的に応じて体位を変える ” と整理しやすくなります。最初から全部の体位で完璧を目指す必要はありません。
ASIS は何と一緒にみる? PSIS ・大転子・内果とつなげると実務で使いやすいです
ASIS 単独でも前方基準として使えますが、実務では他のランドマークと組み合わせると価値が上がります。代表は PSIS 、大転子、内果です。前後の骨盤関係をみるなら PSIS 、股関節周囲の位置関係を整理するなら大転子、測定へつなげるなら内果、というように相手を変えると役割がはっきりします。
特に ASIS 〜 内果は、棘果長の区間として使う場面が多いです。ただし、骨盤の回旋や傾き、下肢の回旋位が変わると値がぶれやすいため、 “ ASIS を触れたから正確 ” ではありません。目的、体位、肢位をそろえたうえで測ることが前提です。関連する測り方は 形態測定(四肢長・周径)の測り方 で詳しく整理しています。
よくある失敗| ASIS だけで骨盤の結論を急がないことが大切です
ASIS の触診でありがちな失敗は、 “ 左右差がある=そのまま骨盤の問題 ” と早く結論づけてしまうことです。実際には、体位、下肢位置、腹部や股関節前面の緊張、触診者の押し方でも印象は変わります。だからこそ、 ASIS の高さ差や触れやすさは “ 仮説の入口 ” として扱い、必要に応じて他の所見と組み合わせて考える方が安全です。
もう 1 つ多いのが、点だけを探して迷うことです。 ASIS は骨盤前面の広がりや腸骨稜の流れから入ると見つけやすくなります。迷ったときは、強く押すより、起点を広げて触り直す方が成功しやすいです。
スマホでは表を横スクロールできます。
| よくある失敗 | 起こりやすいこと | 修正ポイント |
|---|---|---|
| 点だけを探す | 位置が定まらず毎回ずれる | 骨盤前面 → 腸骨稜 → 前上方の突出の順で確認する |
| 強く押しすぎる | 防御が出て触れにくくなる | 軽い接触で輪郭を取り、最後に縁を確かめる |
| 左右差だけで断定する | 骨盤所見を過大解釈しやすい | 体位、下肢位、 PSIS や測定値も合わせてみる |
| 体位が毎回違う | 再評価で比較しにくい | 背臥位か立位かを固定して記録に残す |
| 痛みの強い場所を先に押す | 不快感が強く協力が得にくい | 少し離れた部位から入り、徐々に近づく |
ASIS を臨床でどう使う?測定と股関節前面の評価につなげます
ASIS は、 “ 触れて終わり ” より “ 次の評価へ渡す ” ときに真価が出ます。代表的なのは、①棘果長の測定、②骨盤前方の左右比較、③股関節前面〜鼠径部の痛み位置の整理です。この 3 つを押さえるだけでも、臨床での出番はかなり多くなります。
股関節周囲の痛み評価では、 ASIS そのものの圧痛だけでなく、内下方、外側、鼠径部寄りなど、どこに症状が出るかを言葉にすると次の評価が選びやすくなります。股関節前面痛の読み分けは FABER テストの見方と解釈 と組み合わせると整理しやすく、荷重で骨盤がどう崩れるかは Trendelenburg テストの見方 ともつながります。
記録のコツ|「どこをどう触ったか」を 1 行で残します
ASIS の記録では、単に「触知可」と書くより、体位、左右差、圧痛の有無、次に何をみたかまで残す方が再評価に使えます。たとえば「背臥位で両 ASIS 触知可、左右差は目立たない」「右 ASIS 周囲に圧痛あり、棘果長を追加測定」のように、触診が次の行動につながる形で書くと実務向きです。
逆に、「骨盤のゆがみあり」のような広すぎる表現だけでは、再評価や申し送りで使いにくくなります。 ASIS は結論を断定するためではなく、評価の入口を具体化するための言葉として使うと、記録の質が上がりやすくなります。
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
ASIS はどこから触り始めると分かりやすいですか?
最初は骨盤前面の広い面に軽く触れ、そこから腸骨稜の流れを前方へたどると分かりやすいです。いきなり 1 点を当てようとするより、面 → 線 → 突出の順で探す方が安定します。
ASIS の左右差があれば骨盤のゆがみと考えてよいですか?
ASIS の左右差だけで断定しない方が安全です。体位、下肢位置、筋緊張、触診の強さでも印象は変わるため、必要に応じて PSIS 、大転子、測定値、動作所見と合わせて考えます。
ASIS は下肢長測定でどう使いますか?
代表的には、 ASIS 〜 内果を区間にした棘果長の起点として使います。ただし、骨盤の回旋や下肢の回旋位が変わると値がぶれやすいため、背臥位や股関節回旋中間など条件固定が前提です。
立位と背臥位ではどちらがよいですか?
最初の触診練習は背臥位がおすすめです。左右比較がしやすく、骨盤前面に触れやすいからです。立位は機能的な観察には向きますが、筋緊張や姿勢の影響が混ざりやすいため、目的に応じて使い分けます。
ASIS 周囲に痛みがあるときの注意点はありますか?
痛みの強い場所をいきなり押さず、少し離れた部位から入りましょう。軽い接触で位置関係を作ってから必要最小限の圧で確認する方が、防御や不快感を減らしやすくなります。
次の一手
まずは、背臥位で両 ASIS を 10 回続けて同じ順番で触るところから始めてみてください。骨盤ランドマークの全体像に戻るなら 骨性ランドマーク親記事、測定へつなげるなら 形態測定(四肢長・周径)の測り方 が次に読みやすいです。
股関節前面痛の読み分けまで広げたい場合は FABER テストの見方と解釈、荷重時の骨盤の崩れ方をみたい場合は Trendelenburg テストの見方 に進むと、 ASIS の使い道がさらに具体化します。
参考文献
- Moriguchi CS, Carnaz L, Silva LCCB, Salasar LEB, Carregaro RL, Sato TO, et al. Reliability of intra- and inter-rater palpation discrepancy and estimation of its effects on joint angle measurements. Man Ther. 2009;14(3):299-305. DOI / PubMed
- Lee AS, Pyle CW, Redding D. Accuracy of Anterior Superior Iliac Spine Symmetry Assessment by Routine Structural Examination. J Am Osteopath Assoc. 2015;115(8):482-489. DOI / PubMed
- Cho JC, Reckelhoff KE. The impact on anatomical landmark identification after an ultrasound-guided palpation intervention: a pilot study. Chiropr Man Therap. 2019;27:47. DOI
- Horsak B, Schwab C, Durstberger S, Thajer A, Greber-Platzer S, Kainz H, et al. 3D free-hand ultrasound to register anatomical landmarks at the pelvis and localize the hip joint center in lean and obese individuals. Sci Rep. 2021;11(1):10650. DOI / PubMed
- Gajdosik RL, Bohannon RW. Clinical measurement of range of motion. Review of goniometry emphasizing reliability and validity. Phys Ther. 1987;67(12):1867-1872. PubMed
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


