OMP(ワンミニッツプレセプター)は「1 分でフィードバックを回す」会話の型です
忙しい臨床では、指導が「助言だけ」「感想だけ」になりやすく、学習者の行動が変わらないまま時間だけが過ぎます。OMP( One-minute Preceptor )は、短い問いかけで学習者の判断と根拠を引き出し、“次回の行動 1 つ”まで落とすための指導モデルです。
本記事は、OMP を「5 手順の説明」で終わらせず、その場で言える台本/よくある失敗の潰し方/短い記録の残し方まで、実習・新人指導で迷わない形にまとめます。
まずは結論:1 分で回す “台本”(そのまま使えます)
OMP は 5 手順ですが、最初から全部を完璧にやる必要はありません。①②で思考を引き出し、④⑤は“行動 1 つ”に絞るだけで、指導の質が安定します。
| 手順 | 言い方(例) | 狙い |
|---|---|---|
| ① コミットを取る | 「今この場面で、最優先は何だと思う?」 | 判断(優先順位)を言語化 |
| ② 根拠を掘る | 「そう考えた根拠は?どの所見が決め手?」 | 推論の材料を確認 |
| ③ 汎用ルールを教える | 「この場面は“まず ◯◯ を押さえる”が基本です」 | 次回も使える原則に一般化 |
| ④ 良い点を強化 | 「今の“◯◯ を先に確認した”のが良かった」 | 再現したい行動を固定 |
| ⑤ 修正点を具体化 | 「次は“◯◯ を 1 つ足して”判断しよう(次回は 1 つだけ)」 | 次回行動を 1 つに絞る |
| 順番 | 聞くこと(短い一言) | 詰まった時の戻し先 |
|---|---|---|
| ① | 「最優先は何?」(結論を 1 行) | 長くなったら ① に戻す |
| ② | 「根拠は?決め手は?」(材料を 1 行) | 黙る/硬い空気 → ② を “材料集め” に言い換える |
| ③ | 「この場面はまず ◯◯ が原則」 | 説明が長い → ③ は “原則 1 つ” だけ |
| ④ | 「◯◯ を先に確認したのが良かった」(行動で褒める) | 抽象的 → “見えた行動 1 つ” にする |
| ⑤ | 「次は ◯◯ を 1 つ足そう」(次回行動 1 つ) | 直し過多 → ⑤ は 1 つに固定 |
会話が長くなりやすい場合は、④⑤を“各 1 文”に固定してください。「良かった点 1/修正 1/次回 1」に揃うだけで、学習者の動きが変わります。
OMP(5 マイクロスキル)とは?短いのに学びが深くなる理由
OMP の強みは、「答えを教える」より先に、学習者の判断と根拠を引き出すことです。ここが曖昧なままだと、フィードバックは“指導者の正解発表”になり、学習者は再現できません。
逆に、①②で思考が見えると、③で原則化でき、④⑤で「次も同じようにできる/次はここを 1 つ直す」が作れます。結果として、短時間でも再現性と改善の両方が残ります。
どんな場面で使う?(実習・新人・病棟の “よくある瞬間” )
OMP が効くのは、学習者が「迷い」を持ち込んだ瞬間です。とくに、症例報告や介入相談が“長い説明”に流れそうなときに、型で論点を回収できます。
| 場面 | よくある詰まり | OMP の入れどころ |
|---|---|---|
| 症例報告 | 情報が多くて結論が出ない | ①「最優先は?」→②「根拠は?」で要点化 |
| 介入の相談 | 選択肢が増え、指導が長くなる | ③「この場面の原則」を 1 つだけ教える |
| リスク判断 | “怖い”で止まり、学びが残らない | ②で判断材料を整理→⑤で次回の観察 1 つ |
| 記録の振り返り | 感想コメントになり、次に繋がらない | ④⑤を「行動 1 つ」に固定して残す |
現場の詰まりどころ:OMP が “回らない” 3 パターン
このゾーンは“読ませるパート”なので、ボタンは置かずに迷いを減らします。OMP が回らない原因は、ほぼ次の 3 つです。
- ①②が浅い:結論と根拠が曖昧なまま助言に入ってしまう
- ④⑤が多い:直す点が増え、学習者の次回行動が決まらない
- 詰問化する:問いかけが責め口調になり、学習者が黙る
よくある失敗:NG を OK に直す(短く、行動で)
| よくある NG | なぜ起きる? | OK への直し方(例) |
|---|---|---|
| 助言が先に出る | ①②を飛ばして“正解”を言ってしまう | 「結論は何?」→「根拠は?」を 2 問だけ先に入れる |
| 改善点が多すぎる | 直したい点が増えてしまう | ⑤は 1 つだけ:「次は◯◯を 1 つ足そう」 |
| 褒めが抽象的 | 行動でなく性格を評価してしまう | ④は行動で:「◯◯を先に確認したのが良かった」 |
| 問いが詰問になる | “試す質問”になり、黙ってしまう | ②は材料集め:「何が決め手だった?」に戻す |
1 分で戻すチェック(回らない時の立て直し)
- ①②が出ていない → 結論 1 行+根拠 1 行だけ言わせる
- ④⑤が増えた → 良い点 1/修正 1/次回 1に戻す
- 詰問っぽい → ②を材料集めの質問に言い換える(責めない)
OMP は“完璧に回す”より、崩れたら戻すほうが続きます。チェックを 3 点に固定しておくと、忙しい日でも運用が崩れにくいです。
記録に残すコツ:短くても “再評価できる” 形にする
OMP の成果は、点数ではなく判断・根拠・次回行動で残すと次に繋がります。おすすめは、以下の 1 行テンプレです。
| 要素 | 書き方(例) |
|---|---|
| 判断 | 最優先:転倒リスクの確認を先に行う |
| 根拠 | ふらつき+既往+環境(段差)を材料に判断 |
| 次回行動(1 つ) | 次回:◯◯を 1 つ追加してリスク判断する |
ここまで短くても、「次は何を見ればいいか」が残るので、学習者の行動が変わりやすくなります。
よくある質問(FAQ)
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Q1. OMP は 5 手順を必ず全部やる必要がありますか?
A. 最初は全部やらなくて大丈夫です。まずは①②で「結論と根拠」を出し、④⑤は“行動 1 つ”に絞るだけで効果が出ます。回らない時も、この形に戻すと短時間で安定します。
Q2. 学習者が黙ってしまう(詰問っぽくなる)のが怖いです
A. ②の質問を「正解当て」ではなく「材料集め」に戻すのがコツです。「何が決め手だった?」「どの所見を重く見た?」のように、思考過程を聞く形にすると空気が硬くなりにくいです。
Q3. 直したい点が多すぎて 1 つに絞れません
A. ⑤は“次回の 1 回で変えられる行動”に限定します。どうしても複数ある場合は、重要度順に 1 つだけ選び、残りは次回に回すほうが学習者の行動が変わります。
Q4. どのタイミングで OMP を差し込むのが自然ですか?
A. 症例報告や介入相談が「説明が長くなりそう」な瞬間が最適です。①「最優先は?」→②「根拠は?」の 2 問だけでも、論点が回収でき、短い原則(③)と次回行動(⑤)に繋げやすくなります。
Q5. mini-CEX と OMP はどう使い分けますか?
A. OMP は「会話の型(その場の 1 分指導)」、mini-CEX は「直接観察+評価+短い記録の型」です。指導が長くなりそうな瞬間は OMP で論点を回収し、観察→振り返り→記録まで残す必要がある時は mini-CEX に寄せると運用が安定します。
Q6. PT 実習/新人指導での差し込みタイミングは?
A. 「相談が長くなりそう」「情報が多くて結論が出ない」瞬間がベストです。まず ①「最優先は?」②「根拠は?」の 2 問だけ入れると、論点が整理されます。最後に ⑤で “次回行動 1 つ” を決めて終えると、忙しい日でも学びが残ります。
次の一手
- 運用を整える:臨床実習・新人教育ハブ(受け入れ側の型)(全体像)
- 共有の型を作る:mini-CEX(短時間の直接観察+即時フィードバック)(すぐ実装)
教育体制・人員・記録文化など“環境要因”を一度見える化すると、次の打ち手が決めやすくなります。
チェック後に『続ける/変える』の選択肢も整理したい方は、PT キャリアナビで進め方を確認しておくと迷いが減ります。
参考文献
- Neher JO, Gordon KC, Meyer B, Stevens N. A five-step “microskills” model of clinical teaching. J Am Board Fam Pract. 1992;5(4):419-424. doi: 10.3122/jabfm.5.4.419
- Aagaard E, Teherani A, Irby DM. Effectiveness of the one-minute preceptor model for diagnosing the patient and the learner: proof of concept. Acad Med. 2004;79(1):42-49. doi: 10.1097/00001888-200401000-00010
- Salerno SM, O’Malley PG, Pangaro LN, et al. Faculty development seminars based on the one-minute preceptor improve feedback in the ambulatory setting. J Gen Intern Med. 2002;17(10):779-787. doi: 10.1046/j.1525-1497.2002.11233.x
- Farrell SE, Hopson LR, Wolff M, Hemphill RR, Santen SA. What’s the Evidence: A Review of the One-Minute Preceptor Model of Clinical Teaching and Implications for Teaching in the Emergency Department. J Emerg Med. 2016;51(3):278-283. doi: 10.1016/j.jemermed.2016.05.007
- Gatewood E, De Gagne JC. The one-minute preceptor model: A systematic review. J Am Assoc Nurse Pract. 2019;31(1):46-57. doi: 10.1097/JXX.0000000000000099
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


