OMP( One-minute Preceptor )は「短時間で学びが深まる」臨床指導の型
OMP( One-minute Preceptor )は、忙しい臨床の中でも「学習者の思考を引き出す → 根拠を確認する → 汎用ルールを教える → 具体的に褒める → 具体的に修正する」を短時間で回すための指導モデルです。実習・新人指導・ OJT の “その場” を、ただの助言で終わらせず、再現性のある学びに変えられます。
本稿では 5 つのマイクロスキル(手順)を、 PT / OT / ST の臨床教育で使えるように言い換えて整理します。最後に「 1 分で回す台本」「よくある失敗の潰し方」「記録の残し方」までまとめます。
OMP( One-minute Preceptor )とは? 5 手で “学習者の臨床推論” を引き出す枠組み
OMP は、学習者が提示した症例・場面をもとに、指導者が 5 つの短い問いかけで “思考の中身” を見える化し、すぐにフィードバックへつなげるモデルです。時間がないほど、話が散らばるほど、型が効きます。
ポイントは「答えを教える」より先に、学習者の “判断” と “根拠” を言語化させることです。これにより、誤りの修正だけでなく、良かった判断の再現(次も同じようにできる)まで設計できます。
5 つのマイクロスキル(基本形)
OMP の中核は 5 手順です。順番どおりに回すと “短いのに深い” 指導になります。逆に順番を飛ばすと、学習者は「結局、答えを言われた」で終わりやすくなります。
以下は原型を、リハ領域で使いやすい表現に置き換えたものです。
| 手順 | 狙い | 問いかけ例(そのまま使える) | 記録の軸 |
|---|---|---|---|
| ① コミットを取る | “あなたの判断” を明確化 | 「今の最優先は何ですか?」「次に何をしますか?」 | 判断(優先順位) |
| ② 根拠を掘る | 推論の材料を確認 | 「そう考えた根拠は?」「どの所見が決め手?」 | 根拠(所見・情報) |
| ③ 汎用ルールを教える | 次も使える “原則” にする | 「この場面は “まず ◯◯ を押さえる” が基本です」 | 原則(ルール) |
| ④ 良い点を強化 | 再現性のある行動を固定 | 「今の “◯◯ を先に確認した” のが良かった」 | 良かった行動 |
| ⑤ 修正点を具体化 | 次の 1 回で改善できる形へ | 「次は “◯◯ を 1 つ足して” 判断しましょう」 | 次回の改善点 |
どんな場面で使う?(実習・新人・病棟の “よくある瞬間” )
OMP は「症例報告」「介入の相談」「記録の振り返り」「リスク判断」など、学習者が “迷い” を持ち込んだ瞬間に最も効果を発揮します。 1 回の指導が短いほど、型で質を担保できます。
リハ現場での使いどころは、たとえば「離床の可否」「歩行補助具の選択」「嚥下の観察ポイント」「疼痛の対応」「自主トレの処方」など、判断と根拠がセットになる場面です。答えの前に ①② を挟むだけで、学習者の理解が一段深くなります。
1 分で回す “台本” :会話は短く、論点は鋭く
「忙しいので無理」と感じるときほど、 OMP は “短く終える” ための道具になります。会話の長さを削るのではなく、問いの順番で迷走を防ぎます。
まずは ①→②→④→⑤ の 4 手だけでも十分です(③ は最後に 1 文で足す)。慣れてくると、 30 秒でも “学習者の推論” に触れられるようになります。
| 秒 | 指導者の動き | 一言テンプレ | 到達点 |
|---|---|---|---|
| 0–10 | ① コミット | 「今、何を最優先にしますか?」 | 判断が出る |
| 10–25 | ② 根拠 | 「その根拠は?決め手は?」 | 材料が出る |
| 25–35 | ③ ルール( 1 文 ) | 「この場面は “まず ◯◯ ” が基本です」 | 原則が残る |
| 35–45 | ④ 強化 | 「今の ◯◯ が良かった」 | 再現ポイント |
| 45–60 | ⑤ 修正 | 「次は ◯◯ を 1 つ足しましょう」 | 次回の課題 |
現場の詰まりどころ:OMP が “回らない” 3 パターン
OMP は型がシンプルな分、詰まり方も典型的です。多くは「問いが早すぎる」「褒め方が曖昧」「修正が多すぎる」のどれかに集約されます。
対策は、①② で “論点を 1 つに絞る” → ④⑤ は “行動を 1 つだけ” にすることです。改善点を盛り込みすぎるほど、学習者の次回行動は薄まります。
| よくある崩れ | 起きること | 戻し方( 1 手 ) | 次回の合言葉 |
|---|---|---|---|
| 指導者が結論を言ってしまう | 学習者の推論が見えず、成長点が掴めない | 結論の前に「あなたはどう判断しますか?」を 1 回だけ挟む | “まず ① ” |
| 根拠が浅いまま進む | 思いつきの判断が強化される | 「決め手の所見は 1 つに絞ると?」で収束させる | “根拠は 1 つ” |
| フィードバックが抽象的 | 次回行動が変わらない | ④⑤ を “行動” の言葉に直す(何を、いつ、どう) | “行動で言う” |
記録に残すコツ:短くても “再評価できる” 形にする
OMP の価値は、短い介入が “継続的な指導” に接続できる点です。そのためには、口頭で終わらせず、最小限の記録( 1 行でも可 )を残すのが有効です。
おすすめは「判断/根拠/次回の 1 行動」の 3 点セットです。これだけで、次の見学・次の担当で「前回からの変化」を追いやすくなります。
| 項目 | 書き方(短文で OK ) | 例 |
|---|---|---|
| 判断(①) | 優先順位・次の一手 | 「離床は可。まず血圧変動を確認して段階実施」 |
| 根拠(②) | 決め手の所見を 1 つ | 「起立後の SBP 低下は軽度、症状なし」 |
| 次回の 1 行動(⑤) | “足す” か “変える” を 1 つ | 「次回は起立 1 分の自覚症状も確認して判断」 |
よくある質問(FAQ)
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Q1. 学習者が「分かりません」と言って止まります。どうしますか?
A. いきなり答えを渡す前に、①コミットを “選択式” にします。たとえば「 A と B ならどちら寄り?」「優先は安全確認と評価のどちら?」のように二択へ落とすと、学習者は根拠(②)まで進みやすくなります。選択できたら「なぜそう思った?」で材料を拾い、最後は⑤を “ 1 つだけ” に絞ると次回行動が変わります。
Q2. ③の “汎用ルール” がうまく言えません。
A. ③は長い解説ではなく「次も使える 1 文」です。コツは “条件 → 原則” の形にすることです。例として「ふらつきがあるときは、まず安全(介助量・環境)を固定してから負荷を上げます」のように、状況と原則を 1 セットで言い切ります。慣れるまでは「この場面の基本は ◯◯ 」の定型で十分です。
Q3. ④と⑤の順番は逆でもいいですか?
A. 原則は ④→⑤ が推奨です。先に良い点を言語化すると、学習者が “できている基盤” を理解した上で修正を受け取れます。時間がないときほど、④を 1 文でも入れてから⑤へ進むと、心理的安全性が保たれやすく、次回の実行率も上がります。
Q4. OMP は mini-CEX などの評価とどうつなげますか?
A. OMP は “その場の指導” に強く、 mini-CEX は “観察に基づく評価” に強い、という役割分担にすると整理しやすいです。観察後に OMP の ①②で学習者の自己評価・根拠を引き出し、④⑤で具体的な行動目標に落とすと、評価が “次の成長” に直結します。
参考文献
- Neher JO, Gordon KC, Meyer B, Stevens N. A five-step “microskills” model of clinical teaching. J Am Board Fam Pract. 1992;5(4):419-424. doi: 10.3122/jabfm.5.4.419
- Aagaard E, Teherani A, Irby DM. Effectiveness of the one-minute preceptor model for diagnosing the patient and the learner: proof of concept. Acad Med. 2004;79(1):42-49. doi: 10.1097/00001888-200401000-00010
- Salerno SM, O’Malley PG, Pangaro LN, et al. Faculty development seminars based on the one-minute preceptor improve feedback in the ambulatory setting. J Gen Intern Med. 2002;17(10):779-787. doi: 10.1046/j.1525-1497.2002.11233.x
- Farrell SE, Hopson LR, Wolff M, Hemphill RR, Santen SA. What’s the Evidence: A Review of the One-Minute Preceptor Model of Clinical Teaching and Implications for Teaching in the Emergency Department. J Emerg Med. 2016;51(3):278-283. doi: 10.1016/j.jemermed.2016.05.007
- Gatewood E, De Gagne JC. The one-minute preceptor model: A systematic review. J Am Assoc Nurse Pract. 2019;31(1):46-57. doi: 10.1097/JXX.0000000000000099
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下
おわりに
OMP は「観察→問いかけ→短い原則→具体フィードバック→次回の 1 行動」という “リズム” を作るだけで、忙しい現場でも学習者の臨床推論が一段深くなります。まずは ①② を丁寧にして、④⑤ を “行動 1 つ” に絞るところから始めてみてください。
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