痛み評価スケールの使い分けガイド【PT向け】

評価
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痛みの評価スケールは、対象や場面によって「最適解」が変わります。本記事では、成人の自己申告から小児・認知症・神経障害性疼痛・生活影響までを 1 ページで俯瞰し、臨床で迷わないための「使い分けの型」を整理します。スコアはゴールではなく、機能・活動・参加の変化とセットで記録し、介入の前後比較につなげていきましょう。

この記事の使い方

まず「対象別のおすすめ」をざっと確認し、自施設の患者層に合うスケールを 1〜2 種類に絞って運用するのがおすすめです。各セクションでは、選択のポイントと落とし穴、記録テンプレの例を示しています。既存の強さ評価の詳説は こちら(痛みの強さの評価) を参照してください。

慢性痛では、強さの低下だけでなく生活影響とセルフマネジメントの変化が重要です。PDAS(生活障害)や BPI(干渉)を組み合わせ、週単位で小さな変化を見える化することで、患者教育(ペーシング、セルフケア)の動機づけにもつなげていきます。

成人の自己申告:NRS / VAS / VRS の選び方

成人における NRS・VAS・VRS の使い分け 成人の痛み評価:まず NRS、目的に応じて VAS / VRS NRS(0〜10) 標準スケール 安静・運動・夜間を 同じ文言で反復 VAS(10 cm) 研究・微小変化重視 ライン上に印をつけ 長さを mm で計測 VRS 認知負荷に配慮 言葉の選択肢を 少なく・分かりやすく 「どのスケールか」よりも「同じ条件・同じ説明で時系列フォロー」が重要
成人では NRS を標準とし、研究目的なら VAS、認知負荷に配慮するときは VRS を選ぶイメージ図です。

成人ではまず NRS( 0〜10 )を標準スケールとして揃え、説明文(アンカー)と測定条件(安静・運動・夜間など)をプロトコル化します。研究的精度が必要で微小変化を拾いたい場合は VAS( 10 cm )を、認知機能や理解度に配慮したい場合は VRS を選択します。いずれも同じ文言・同じ条件で反復し、時系列での変化を追うことが大切です。

レビューでは、NRS は順守性・応答性のバランスが良いと報告されています。初診・再診・週次の場面で「最強時・現在・運動時(または ADL 時)」の 3 点を押さえておくと、カンファレンスや多職種での共有がスムーズになります。

小児:FPS-R と FLACC(非言語)

小児における FPS-R と FLACC の使い分け 小児の痛み評価:年齢とコミュニケーション能力で選ぶ 0〜2 歳 FLACC(顔・脚・活動・泣き・なだめ) 自己申告困難 → 行動観察で評価(術後・集中治療でも使用) 3〜7 歳 FPS-R(自己申告)+ 必要に応じて FLACC 表情イラストを使い、短く一貫した説明で実施 8 歳〜 FPS-R または NRS(理解度に応じて) 場面(歩行後・母子分離直後など)とセットで記録
年齢帯ごとに「自己申告か・行動観察か」を切り替えるイメージ図です。

自己申告が可能な 3 歳以上では、顔のイラストを用いる FPS-R( 0・2・4・6・8・10 )が第一選択です。表情イラストに「悲しい顔」「怒った顔」のような感情ラベルを付けず、短く一貫した声かけで実施します。自己申告が難しい乳幼児や術後の一時的な評価には、行動観察の FLACC(顔・脚・活動・泣き・なだめ)を用います。

小児では「いつ」の痛みかが特に重要です。例:歩行後 5 分、母子分離直後、鎮痛投与 30 分後など、場面とセットで記録します。家族にも共有しやすいシンプルな図表で定点観測を行うと、介入の効果や悪化のサインをつかみやすくなります。

認知症:PAINAD / Abbey Pain Scale

認知症の痛み評価:観察尺度を軸にした流れ 認知症の痛み評価:観察尺度 + 行動・睡眠の変化 ステップ 1 環境を整える 姿勢・騒音・トイレなど 評価タイミングを固定 ステップ 2 PAINAD / Abbey 呼吸・表情・身体言語・ 慰撫可能性で観察 ステップ 3 行動・睡眠・摂食 + 試験的介入 → 再評価 スコアが低くても「痛みなし」とは限らない。行動変化と併せて判断する。
環境調整 → 観察尺度 → 行動・睡眠の変化と再評価、という 3 ステップの流れを示しています。

認知症で言語的な訴えが難しい場合は、観察尺度を第一選択とします。PAINAD は「呼吸・発声・表情・身体言語・慰撫可能性」を 0〜2 点で採点し、合計 0〜10 点。Abbey は 6 項目を 0〜3 点で評価します。評価は、環境を整えた状態やケア直前 / 直後などタイミングを標準化し、複数職種が同じ場面でスコアを確認できるようにしておきます。

スコアが低いからといって「痛みなし」とは限りません。基礎疾患や行動変化、睡眠・摂食リズムの乱れ、不穏の出現なども合わせて判断します。必要に応じて簡易な自己申告尺度や試験的介入(姿勢・ポジショニング調整、温罨法、軽い運動など)を組み合わせ、再評価を行うことが重要です。

神経障害性疼痛:DN4(スクリーニング)

神経障害性疼痛が疑われるときの DN4 活用の流れ 神経障害性疼痛を疑う → DN4 → 方針決定 疑うサイン しびれ・電撃痛・灼熱感・しみる痛み など デルマトーム / 皮神経に沿った分布 DN4 でスクリーニング 質問 + 触覚 / ピンプリック所見 所見を「地図化」 デルマトーム / 皮神経・温冷・伸張での 増悪 / 寛解パターンをメモ DN4 高スコア → 神経診・薬物・運動戦略の検討。低スコアでも症状が続けば経過観察と再評価。
DN4 は「診断」ではなく、神経障害性の可能性を層別化するための入口であることを示す図です。

しびれ・電撃様の痛み・灼熱感など、神経障害性疼痛が疑われる場合は DN4 によるスクリーニングを行います(質問項目 + 触覚 / ピンプリック所見)。スコア閾値で確定診断はできませんが、「神経障害性の可能性が高い層」を抽出し、神経内科診察や薬物選択、運動戦略の検討につなげるのに有用です。

DN4 は各国語版で検証されており、日本語版も報告されています。臨床では、評価結果に加えて「デルマトーム・皮神経に沿った痛みの地図」「温冷・軽擦・伸張での増悪 / 寛解パターン」なども記録し、運動負荷や日常生活動作の調整とセットでマネジメントしていきます。

生活影響:BPI / PDAS の活用

痛みの「強さ」と「生活影響」をセットでみる 慢性痛では「強さ × 生活干渉 × 行動」をセットで記録 痛みの強さ NRS(安静 / 運動 / 夜間) 最強・現在・活動時 を定点観測 生活干渉 BPI:干渉(歩行・仕事・睡眠 など) PDAS:生活障害のスコア 週次でフォロー 行動・機能 歩行距離・階段段数 家事時間・睡眠時間 = 具体的な変化 例:NRS 6→3、PDAS 18→9、歩行 200 m→600 m のように「数値 + 行動」で自己効力感を高める。
NRS・BPI/PDAS・行動指標の 3 要素をセットで追うことで、慢性痛の変化を立体的に捉えるイメージ図です。

BPI は「痛みの強度 + 生活干渉(歩行・仕事・睡眠・気分など)」を一体で把握でき、慢性痛のゴール設定や患者教育に直結します。PDAS は生活障害のスクリーニングに適しており、例えば 10 点以上を目安に多面的な介入(運動・心理・薬物・環境調整など)の検討が勧められます。

これらは週単位の定点観測が効果的です。「NRS 6 → 3、PDAS 18 → 9、歩行 200 m → 600 m」のように、数値 + 行動(機能・活動)をセットで記録することで、患者の自己効力感を高めやすくなります。カンファレンス記録やリハ実施計画書にも転記しやすい形式で残しておきましょう。

運用テンプレ(貼って使う項目)

  • 強さ:NRS(安静 / 運動 / 夜間)
  • 性状:刺す・灼熱・しびれ・締め付け など(複数選択可)
  • 部位:体表マップ(右 / 左・デルマトーム・皮神経)
  • 生活影響:BPI または PDAS の合計点と代表的な下位項目
  • 行動:歩行距離、階段段数、家事に費やせた時間、睡眠時間 など
  • 教育・セルフケア:ペーシング、EIH(運動誘発性鎮痛)を意識した運動メニュー

参考文献

おわりに

痛みの評価では、「対象に合ったスケールを選ぶ → 同じ条件で記録を続ける → 介入内容を調整する → 再評価する」というリズムを意識しておくと、チーム全体での方針共有がしやすくなります。強さだけでなく生活干渉や行動指標までセットで押さえることで、患者さん自身が変化を実感しやすくなる点も臨床のメリットです。

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本記事のスケールを「共通言語」として活用しつつ、日々の臨床で得られた気づきや違和感を記録に残していくことで、評価と介入の精度は少しずつ高まっていきます。自施設の患者層に合った 1〜2 種類からで構わないので、まずはプロトコルを決めて、明日からの評価に組み込んでみてください。

著者情報

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rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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