転倒インシデント後 48 時間対応(病棟で迷わない“型”)
転倒は「身体・環境・薬剤・注意機能」など複数要因の重なりで起こります。発生後は 48 時間で 安全確認 → 観察 → 原因仮説 → 評価 → 環境是正 → 共有 → 記録を一気通貫で回すと、再発防止策が“行動レベル”まで落ちやすくなります。
本記事では、病棟で共有しやすい 48 時間フロー、再発防止チェックリスト、SBAR テンプレ、ハドル(振り返り)、記録テンプレを 1 セットで提示します。担当が変わっても一定水準を担保し、抜け漏れを減らすことが目的です。
48 時間の流れ(院内標準)
まずは全体像を 1 分で。細部より「いつ・誰が・どこまで」を揃えるのが優先です。
| 時間 | 目的 | やること(最小セット) | 共有・記録 |
|---|---|---|---|
| 0–2 時間 | 安全確認(見逃し防止) | 外傷・意識・疼痛、バイタル、赤旗の有無、状況聴取(何をして・どこで・どう崩れたか) | 医師/看護へ即時共有(必要時)、経過メモ(時刻と所見) |
| 2–24 時間 | 原因仮説 → 対策のたたき台 | 歩行・バランスのクイック評価、移乗/トイレ動線、環境是正、薬剤/せん妄/起立性低血圧などの確認 | チェックリストを埋める、対策案を SBAR に下書き |
| 24–48 時間 | 提案の合意 → 実装 | SBAR で多職種へ提案、家族説明(必要時)、介助量/補助具/離床の更新、再発防止策の固定 | カンファ要点・決定事項を記録し、申し送りへ載せる |
まず見る赤旗(医師へ即時連絡の目安)
転倒後の対応で一番怖いのは「様子見で見逃す」ことです。下表は“迷ったら即共有”の基準として使ってください(院内ルールがあればそれを優先)。
| カテゴリ | 赤旗(例) | すぐやること |
|---|---|---|
| 意識・神経 | 意識低下、急な麻痺/しびれ、構音障害、けいれん、強い頭痛、反復する嘔吐 | 医師へ即時連絡、神経所見と時刻を記録、観察頻度を上げる |
| 頭部打撲 | 頭部打撲の可能性、抗凝固/抗血小板薬の内服、出血傾向 | 医師へ共有(画像/観察の要否を相談)、転倒状況(打った部位)を明確化 |
| 骨折・外傷 | 強い疼痛、荷重不能、変形、広範な腫脹/皮下出血 | 疼痛部位と荷重可否を記録、安静/固定、検査オーダーの要否を相談 |
| 循環・代謝 | 著しい血圧低下/徐脈/頻脈、低血糖疑い、胸痛・呼吸苦 | バイタル再確認、原因薬剤/食事/脱水の情報を集め、医師へ即共有 |
観察の標準(神経・バイタルを“セット”で残す)
「何となく大丈夫そう」は再発にも監査にも弱いです。最低限、時刻と数値と変化が追える形で残します。
- バイタル:血圧・心拍・ SpO2 ・体温(可能なら起立前後)
- 神経:意識、会話の違和感、瞳孔/麻痺の有無、歩行時のふらつきの変化
- 疼痛:NRS と部位(どの動作で増悪するか)
再発防止チェックリスト(“抜け漏れゼロ”にする表)
転倒後対応は「確認したつもり」で抜けます。担当と記録までセットにして、院内で使える表にします。
| 領域 | 実施項目(最小セット) | 担当 | 記録/基準(例) |
|---|---|---|---|
| 身体 | 疼痛、外傷、めまい/ふらつき、起立性低血圧の疑い、 DVT 徴候 | PT/NS | 疼痛 NRS、起立前後 BP、症状の出現条件 |
| 運動機能 | 歩容観察、移乗/方向転換の破綻、必要なら BBS / TUG / 5xSTS など | PT | 条件固定(椅子/補助具/速度)、前回との差 |
| 認知・注意 | せん妄疑い、注意散漫、夜間の見当識、指示理解 | NS/多職種 | 夜間帯の状況、転倒直前の行動 |
| 環境 | 床、履物、照度、動線、コール位置、手すり/段差 | NS/介護 | 是正前後(写真/図でも可)、誰がいつ直したか |
| 薬剤 | 鎮静、抗コリン、降圧、低血糖薬などの有害事象の疑い | 医師/薬剤師 | 変更の有無と理由、時間帯の調整 |
| 補助具 | 杖/歩行器の適合、グリップ高さ、練習計画、介助量 | PT | 採寸、介助量、禁止事項(独歩 NG 等) |
SBAR テンプレ(提案の型:空欄 → 例 → NG)
“気づき”を“提案”に変えると、再発防止が動きます。まずは空欄テンプレで統一してください。
空欄テンプレ(コピペ用)
S(状況): ・いつ/どこで/何をして転倒したか: ・受傷(頭部打撲・疼痛・出血など): B(背景): ・直近の変化(薬剤、夜間せん妄、排泄、起立性低血圧、疲労): ・転倒リスク(過去歴、補助具、見当識、環境): A(評価): ・原因仮説(身体/環境/薬剤/注意): ・観察所見(バイタル、神経、疼痛、歩容): R(提案): ・今すぐ(0–24 時間): ・48 時間で固定する運用(介助量、補助具、動線、離床、薬剤相談): ・誰が、いつまでに:
文例(例)
S:夜間トイレ移動中に転倒。受傷は軽微だが右膝痛あり。 B:降圧薬調整後から立ちくらみの訴え。夜間の排尿回数が増え、眠前薬も内服。 A:起立時に血圧低下とふらつき。トイレ動線が暗く、方向転換でバランス破綻が出た可能性。 R:夜間は固定型歩行器+介助量アップ、動線にセンサーライト設置。降圧薬・眠前薬の時間帯を主治医/薬剤師と再検討を提案。
よくある NG(伝わらないパターン)
- 原因を 1 つに決め打ち(「スリッパが悪いだけ」など)→ 背景要因が落ちる
- 提案が抽象的(「気をつける」)→ 介助量・補助具・動線・時間帯まで落とす
- “誰がいつ”がない → 実装されずに終わる
ポストフォールハドル(10 分の振り返り)
転倒直後の対応で終わらせず、「次を減らす」ための短い振り返りを入れると、再発防止策が定着しやすくなります。
- 何が起きたか:行動(トイレ/移乗/離床)と環境(暗所/段差/動線)
- なぜ起きたか:身体・薬剤・注意/せん妄・補助具の重なり
- 次をどう防ぐか:“今日から変える 1 つ”を決める(介助量、ライト、コール、補助具など)
記録テンプレ(最小セット:あとで再発に効く書き方)
記録は「起きたこと」だけでなく、「次を防ぐ材料」まで残すのがコツです。最低限、下の 4 点が揃うと強いです。
| 要素 | 書く内容(例) |
|---|---|
| 状況 | いつ・どこで・何をして・どう崩れたか(方向転換/立ち上がり/歩行開始など) |
| 所見 | 疼痛 NRS、バイタル、神経の変化、歩行時の破綻パターン |
| 原因仮説 | 身体/環境/薬剤/注意の“重なり”で整理(決め打ちしない) |
| 対策 | 介助量、補助具、動線、夜間対応、薬剤相談など(誰が・いつまでに) |
現場の詰まりどころ(よくある抜け漏れ)
多いのは「転倒直後の処置で終わる」パターンです。外傷確認や疼痛コントロールはできても、歩行・バランスのクイック評価、環境是正、薬剤や起立性低血圧の確認が“時間切れ”で後回しになります。さらに、チェックした内容が個人メモのまま終わり、多職種へ十分共有されない点も詰まりやすいポイントです。
もう一つは「原因を 1 つに決め打ちする」ことです。夜間・トイレ・履物など分かりやすい要因だけに着目すると、背景(せん妄、薬剤、有害事象、循環変動)が落ちます。安全管理の“型”を部署で揃えるうえで、面談準備チェックのような 抜け漏れ防止のチェックツール も併用すると、共有の質が上がりやすいです。
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
転倒インシデント後、PT が最初の 2 時間で優先すべきは?
最初の 2 時間は「安全確認」と「赤旗の除外」が最優先です。外傷・疼痛・意識/神経の変化、バイタル(可能なら起立前後)を押さえ、転倒状況(何をして・どこで・どう崩れたか)を短く整理します。詳細なスケールは後で構いません。
48 時間プロトコルを全部回せない日は、どこを残す?
優先は「身体安全 > 環境是正 > 共有」です。最低限、赤旗とバイタル/神経の変化がないこと、動線や照度など即効性の高い環境是正、そして“どこまでやったか”を記録・申し送りに残してください。
SBAR が長くなりがちです。短くするコツは?
R(提案)を先に決めて、そこに必要な情報だけを S/B/A に残すと短くなります。提案は「介助量」「補助具」「動線」「時間帯」「薬剤相談」のどれを変えるか、の形に落とすと伝わりやすいです。
記録はどこまで具体的に書くべき?
再発防止に役立つ具体性が目安です。「場所・状況」に加えて「崩れた方向」「タイミング」「補助具/介助者との位置関係」「本人の自覚」を残すと、次のカンファレンスで効きます。数値化できる項目は数字で残します。
次の一手(回遊)
参考文献
- Montero-Odasso M, et al. World guidelines for falls prevention and management for older adults: a global initiative. Age and Ageing. 2022;51(9):afac205. doi: 10.1093/ageing/afac205
- Jones KJ, et al. The impact of post-fall huddles on repeat fall rates and perceptions of safety culture: a quasi-experimental evaluation. J Patient Saf. 2019; doi: 10.1177/1548051818781820 / PubMed: 31500609
- NICE. Head injury: assessment and early management ( NG232 ). NICE guideline
- Royal College of Physicians. Post-fall medical examination ( resources / toolkit ). RCP
- 厚生労働省. 医療安全に関する手引き・指針(転倒・転落等を含む). 厚労省
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


