理学療法の評価入門|評価→介入→再評価の型(総論)
評価 → 介入 → 再評価の流れを 3 分で復習する( #flow )
理学療法の評価は、テストやスケールを “ 集める ” 作業ではなく、介入の優先順位と再評価の基準を先に決めるための工程です。本記事では、初回から再評価までを迷わず回せる型として「評価→介入→再評価」を 1 本にまとめます。
リンク集から探したい方は、評価ハブも合わせて使うと最短です。
結論:評価は 5 ステップで回すとブレません
| ステップ | やること | アウトプット(記録に残す) |
|---|---|---|
| 1:目的を決める | 何を良くしたいか(転倒予防/歩行自立/ADL 改善 など)を 1 行で固定 | 「目的 1 行」+達成の期限(例:2 週) |
| 2:安全を確認する | 症状・バイタル・禁忌を拾い、中止基準を共有 | 中止条件(SpO2 / BP / 痛み / めまい など) |
| 3:アウトカムを選ぶ | 目的に直結する “ ものさし ” を 1〜2 個に絞る | スケール名+主指標(例:歩行速度、時間、点数) |
| 4:条件を固定して測る | 補装具・介助量・環境・声かけを固定し、再現性を上げる | 条件(杖/装具/監視/椅子高/休憩 など) |
| 5:介入して再評価する | 介入は “ 評価の仮説 ” を検証する設計にし、同条件で再評価 | 介入内容+再評価日+同条件での数値 |
5 分で回す評価フロー(初回~再評価)
| 順番 | 見るもの | ポイント |
|---|---|---|
| ① 問診・背景 | 主訴/困りごと/生活背景 | “ 何ができないか ” より「何をしたいか」を 1 行で言語化 |
| ② 安全(リスク) | バイタル・症状・禁忌 | 実施可否と中止基準を先に決める(チームで共通言語に) |
| ③ 観察(質) | 動作・姿勢・代償 | 点数化の前に “ 左右差/代償/疲労 ” を短文で拾う |
| ④ アウトカム測定 | スケール/タイム/距離 | 目的に直結する 1〜2 個に絞り、条件を固定して測る |
| ⑤ 仮説と優先順位 | 原因仮説(どこがボトルネックか) | 「最も効く 1 つ」に絞って介入計画を立てる |
| ⑥ 介入(検証) | 練習・環境調整・教育 | “ 変化するはずの指標 ” を決めて介入する |
| ⑦ 同条件で再評価 | 同じテストを同条件で | 条件が違うと比較不能。条件固定が最大の時短 |
目的別:何を選ぶ?(最短の選び方)
| 目的 | まず選ぶ(入口) | 補助的に足す(必要時) | 見たい “ 変化 ” |
|---|---|---|---|
| ADL / IADL を上げたい | FIM / Barthel Index / Lawton IADL | 活動量・環境因子(家屋・介護力) | 介助量・時間・安全性 |
| 歩行を安定させたい | 10 m 歩行 / TUG | SPPB / BBS など | 速度・方向転換・ふらつき |
| 呼吸・持久力を上げたい | Borg / 6 MWT | SpO2・血圧・症状ログ | 距離・症状・中止閾値 |
| 疼痛の影響を減らしたい | NRS / VAS + 生活影響 | 心理社会(不安・抑うつ) | 強さ “ だけ ” でなく生活の困り |
| 脳卒中の重症度を共有したい | NIHSS / mRS | 体幹・プッシャーなどの特性 | 重症度の共通言語と経過 |
| PD の重症度を揃えたい | Hoehn & Yahr | UPDRS / MDS-UPDRS(必要時) | ステージ変化と生活影響 |
※閾値(カットオフ)は対象・条件で変わります。臨床では “ 同条件での経時変化 ” を最優先にすると迷いが減ります。
記録テンプレ(SOAP で “ 再評価できる ” 形に)
| 区分 | 書くこと(最小) | 例(そのまま使える) |
|---|---|---|
| S | 主訴・困りごと(1 行) | 「廊下歩行でふらつく。トイレまで安全に行きたい」 |
| O | アウトカム+条件 | 10 m 歩行 0.62 m/s(T 字杖・監視、靴あり、廊下)、TUG 17.8 s |
| A | 仮説(最も効く 1 つ) | 方向転換で一歩目が遅れ、左右差と恐怖で質が落ちる |
| P | 介入+再評価条件 | 方向転換ドリル+歩行練習。同条件で 1 週後に 10 m 歩行・TUG を再評価 |
現場の詰まりどころ(よくある失敗 → 対策)
| 詰まりどころ | よくある原因 | 対策(最短) |
|---|---|---|
| 毎回、点数がズレる | 補装具・介助量・椅子高・休憩が固定されていない | 条件テンプレ(補助具/介助/環境)を “ 1 行 ” で固定して記録 |
| 点数は同じだが印象が違う | 質の所見(代償・左右差・疲労)が残っていない | 「左右差/代償/疲労/環境依存」の 4 語彙を短文で追記 |
| 評価が多すぎて疲れる | 目的が曖昧で、スケールを増やしてしまう | 目的に直結するアウトカムを 1〜2 個に絞り、深掘りは “ 必要時 ” のみ |
| 介入が “ なんとなく ” になる | 仮説が 3 つ以上あり、優先順位が決まらない | 最も効く 1 つ(ボトルネック)だけに絞って検証する |
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
スケールは何個くらい取るのが適切ですか?
初回は「目的に直結するアウトカム」を 1〜2 個に絞るのが現実的です。たくさん取るより、条件を固定して同条件で再評価できる方が臨床価値が高く、チーム共有もしやすくなります。
カットオフ(閾値)はそのまま使っていいですか?
閾値は便利ですが、対象や条件(補装具・介助・環境)が違うと解釈がズレます。臨床では “ 閾値で断定 ” よりも、同条件での経時変化と、転倒・ADL・活動量など目的アウトカムとの整合を優先すると迷いが減ります。
点数以外に、最低限なにを残すと役立ちますか?
「左右差」「代償」「疲労」「環境依存」の 4 つです。短文でも十分で、次回の比較が一気に楽になります(例:方向転換で右への偏倚、後半で質が低下)。
再評価の頻度はどのくらいが目安ですか?
変化が出る “ 介入量 ” と “ 疾患・病期 ” によりますが、まずは 同条件で比較できる周期を決めるのが重要です。回復期なら 1 週単位、慢性期や外来なら 2〜4 週単位など、チームの運用に合わせて固定すると記録が安定します。
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おわりに
評価は「目的の明確化 → 条件の固定 → スコア記録 → 所見(質) → 同条件で再評価」というリズムで回すほど、迷いが減って介入の精度が上がります。面談準備のチェックと職場評価の視点をそろえたい方は、マイナビコメディカルのチェックリストも合わせて使うと整理が速くなります。
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

