呼吸評価とは?最初に押さえる「観察の型」
呼吸評価(呼吸アセスメント)は、目の前の呼吸状態を「危険度」「原因の方向性」「次に確認すべき情報」に分けて整理するための手順です。現場では検査が揃う前に、視診・触診・打診・聴診とバイタルから、酸素・体位・離床の可否まで判断する場面が多くあります。本記事では、初学者でも再現できるように、ベッドサイドでの順番と記録のコツを 1 本にまとめます。
結論から言うと、呼吸評価は「①危険サインの拾い上げ → ②観察( IPPA ) → ③客観指標( SpO₂ / RR など) → ④介入反応の再評価」の流れで、同じフォーマットに落とすほど強くなります。評価の全体像や他の指標も含めた整理は、評価ハブにまとめています。
まずは 60 秒で回す:呼吸評価のクイックフロー
最初の 1 分は「見て・数えて・聞いて・記録する」に徹します。ここで危険度が高いと判断したら、評価を続けるより先に医師・看護へ共有し、酸素・体位・モニタリング強化などの対応を優先します。
| 順番 | 見る/聞く | 記録(最低限) | 次の一手 |
|---|---|---|---|
| ①危険サイン | 会話困難、チアノーゼ、意識変化、冷汗、強い努力呼吸 | 所見+発症時刻 | 共有・酸素・体位・中止判断 |
| ②数える | 呼吸数( RR )、呼吸パターン、左右差 | RR、努力呼吸の有無 | IPPA に進む |
| ③測る | SpO₂、脈拍、血圧、体温(可能なら) | SpO₂、脈拍 | 酸素/体位の調整前後で比較 |
| ④聞く | 聴診(部位・左右差・副雑音) | 部位+音の種類 | 痰/無気肺/気管支攣縮の方向性 |
問診は「呼吸困難の型」と「痰の情報」を短く取る
問診は長くやるほど正確になるわけではありません。呼吸評価で効くのは、呼吸困難がいつから・何で増悪するか(安静時/労作時/体位)と、痰の出方(量・粘稠度・色・出せる/出せない)です。胸痛、発熱、誤嚥のエピソード、既往( COPD、心不全、喘息など)も短く確認します。
コツは、質問を「増悪因子」と「介入で変わるか」に寄せることです。たとえば「体位で楽になるか」「吸入や排痰で変わるか」を先に聞くと、理学療法で扱える部分が早く見えてきます。
視診:呼吸パターンと努力呼吸を先に押さえる
視診は「呼吸の仕事量」を見るパートです。肩の挙上、胸鎖乳突筋の緊張、陥没呼吸、鼻翼呼吸などがあれば、呼吸負荷が高いサインです。左右差(片側の胸郭運動低下)や、体位での変化(側臥位で SpO₂ が上がる/下がる)も同時に拾います。
| 観察ポイント | 所見例 | 示唆 | 次の確認 |
|---|---|---|---|
| 努力呼吸 | 肩挙上、陥没、鼻翼呼吸 | 換気負荷↑ | RR、SpO₂、聴診、疲労 |
| 左右差 | 片側の胸郭運動が小さい | 無気肺/胸水/気胸など | 打診、聴診の左右比較 |
| 体位で変化 | 座位で改善、側臥位で悪化 | 換気血流/分泌物 | 体位ドレナージの適否 |
触診:胸郭運動と疼痛で「換気の入り」をみる
触診は「胸郭が動いているか」「左右で差があるか」を短時間で確認できます。胸郭運動は、上部(鎖骨周囲)・中部(肋骨弓)・下部(側胸部)で、左右差と呼吸に伴う動きの質を見ます。疼痛がある場合は、浅速呼吸になりやすく、分泌物貯留の背景になります。
重要なのは「左右差が一貫しているか」です。細かな絶対値よりも、同条件での変化に注目します。
打診:濁音と鼓音で「空気と液体」の方向性をつける
打診は慣れが必要ですが、左右差が出たときに強力です。濁音なら胸水や無気肺など、鼓音なら気胸や過膨張などを疑う方向性になります。コツは、上から下へ左右を交互に比べ、同じ部位・同じ強さで叩くことです。
ただし、打診だけで断定はしません。視診・触診・聴診とセットで一致するかを確認し、必要なら画像検査や医師評価へつなぎます。
聴診:部位を固定し「音の種類」と「左右差」を記録する
聴診は、音の種類(正常/副雑音)と、どの部位で強いか(左右差)をセットで記録すると伝わります。たとえば「右下肺野で coarse crackles」「両側呼気終末の wheeze」など、部位とタイミング(吸気/呼気)を添えるだけで共有の質が上がります。
| 音の例 | 典型的な特徴 | 示唆 | 再評価の観点 |
|---|---|---|---|
| Crackles | 吸気でパチパチ(細/粗) | 分泌物、無気肺、間質性変化など | 体位/排痰で減るか |
| Wheeze | 連続性、高調、呼気で増えやすい | 気道狭窄(喘息、分泌物、攣縮) | 吸入/呼気延長の変化 |
| Pleural rub | ギシギシ、呼吸で一致 | 胸膜の炎症など | 疼痛・呼吸パターンの変化 |
客観指標:SpO₂ と RR を「介入前後」で並べる
呼吸評価で最も実用的なのは、SpO₂ と RR を介入前後で同条件比較することです。体位変更、咳介助、排痰、離床、酸素流量変更の前後で、SpO₂ / RR / 努力呼吸 / 聴診所見を同じ順番で記録します。これだけで「効いた介入」と「効かなかった介入」が見えるようになります。
酸素投与中は、目標 SpO₂ の設定をチームの方針に合わせます。目標域は疾患背景で変わるため、院内ルールと主治医指示を優先してください。
現場の詰まりどころ:呼吸評価がブレる 3 つの原因
呼吸評価がうまくいかない原因は、技術不足よりも「記録の型がない」「部位が固定されていない」「前後比較ができない」の 3 つが多いです。特に聴診は、毎回聞く場所が違うと変化に見えてしまい、チーム共有が崩れます。まずは部位(前面/側面/背面)を 4〜6 点に固定し、同じ順番で回すだけで精度が上がります。
もう 1 つの詰まりどころは「申し送りが曖昧で、次の勤務帯に評価が引き継がれない」ことです。記録様式を整えると、教育コストが下がり、ケアの再現性が上がります。
配布 PDF:呼吸評価 初回記録シート(A4・印刷用)
ベッドサイドで「観察→所見→介入反応」を同じ順番で残せるように、A4 印刷用の記録シートを用意しました。印刷してそのまま使えます。
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よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
RR はいつ数えるのが正確ですか?
原則は安静時です。会話や移動直後は上がりやすいので、可能なら 30〜60 秒で数え、体位・酸素条件も一緒に記録します。介入前後を比べるときは「同じ条件」で揃えるのが最優先です。
SpO₂ が下がったとき、まず何を確認しますか?
測定条件(センサー位置、末梢冷感、体動、爪など)を確認し、次に呼吸数・努力呼吸・意識の変化を見ます。酸素投与中なら流量・デバイスのズレ、体位、痰の貯留(聴診)を合わせて評価します。
聴診が苦手で、記録が曖昧になります
音の名前を増やすより、「部位を固定して左右差を書く」「吸気/呼気のどちらで強いかを書く」「体位や排痰で変化するかを書く」の 3 点だけで十分に伝わります。テンプレ化すると一気に安定します。
排痰や体位で変化した場合、何を「効いた」と判断しますか?
SpO₂ と RR の改善に加え、努力呼吸が減ったか、聴診の副雑音が減ったか、咳嗽で痰が出せたかをセットで見ます。どれか 1 つではなく「複数の一致」を狙うと判断がブレにくいです。
次の一手
呼吸評価は「測る」だけでなく、条件を固定して比較できる状態にして初めて価値が出ます。まずは運用の型を小さく作って、説明と再評価のコストを下げましょう。
次にやることは、①観察条件と再評価間隔の固定、②申し送り項目の統一、③合計点だけ残さない(所見と理由も残す)の 3 点です。ここが揃うと「伸びない/読めない」が一気に減ります。
- 運用を整える:観察条件(体位・酸素条件・部位)と再評価間隔をチームで固定する
- 共有の型を作る:SpO₂ / RR +所見(視診・聴診)+介入反応をセットで残す
- 環境の詰まりも点検:教育体制や記録文化の抜け漏れ確認に 無料のチェックシートを見る
参考文献
- O’Driscoll BR, et al. British Thoracic Society Guideline for oxygen use in adults in healthcare and emergency settings. Thorax. 2017;72(Suppl 1):ii1-ii90. doi: 10.1136/thoraxjnl-2016-209729
- Sarkar M, et al. Auscultation of the respiratory system. Ann Thorac Med. 2015;10(3):158-168. PMC4518345
- Pasterkamp H, et al. Towards the standardisation of lung sound nomenclature. Eur Respir J. 2016;47(3):724-732. ERS(本文)
- Melbye H, et al. Wheezes, crackles and rhonchi: simplifying description of lung sounds increases the agreement on their classification. BMC Pulm Med. 2016. PMC4854017
- Maitre B, et al. Physical examination of the adult patient with respiratory diseases: inspection and palpation. Eur Respir J. 1995;8(9):1584-1593. PDF
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


