身体拘束廃止委員会と施設基準の全体像
身体拘束や委員会業務で「赤信号」を感じたときの動き方を見る( PT キャリアガイド)
身体拘束廃止は、倫理的な観点だけでなく、運営基準(体制・研修・記録)としても扱われるテーマです。多くの施設では、身体拘束廃止委員会(または同等の役割を担う会議体)を設置し、指針・研修・記録・定期的な見直しをセットで運用することが求められます。PT ・ OT ・ ST も、転倒・チューブ自己抜去・自己抜糸などのリスクを “評価と言語化” し、代替手段を具体案として提示することで、この枠組みに深く関わります。
本記事では、①身体拘束の 3 要件(切迫性・非代替性・一時性)を「説明できる記録」に落とすコツ、②委員会を形骸化させない “固定アジェンダ”、③監査でも迷わない「証跡 4 点セット(委員会・指針・研修・記録)」、④身体拘束記録・同意・再評価の最短フローを整理します。自己点検チェックシートと身体拘束記録・再評価シート( A4 )のダウンロードも用意しました。
身体的拘束等とは?対象になる行為の整理
身体的拘束等は、いわゆる “縛る” 行為だけでなく、用具や環境の使い方が結果として行動制限になるケースも含めて整理する必要があります。現場では「安全のため」「ケアが回らないから」という理由で恒常化しやすいため、まずは “該当しうる行為” を委員会で棚卸しし、例外対応(緊急やむを得ない場合)の手順に接続しておくと、判断がぶれにくくなります。
| 分類 | 例 | 見落としポイント |
|---|---|---|
| 身体の固定 | 抑制帯、腰ベルト、四肢の固定 | 「転落防止」の名目で長期化しやすい |
| 離床の制限 | ベッド柵で囲む、立ち上がりを妨げる椅子、車いすテーブルの固定的使用 | 用具そのものより “使い方” で拘束に近づく |
| 手指機能の制限 | ミトン型手袋等 | チューブ自己抜去対策で選ばれやすい |
| 衣類・環境 | つなぎ服、本人が出られない隔離 | 夜間帯や少人数シフトで起こりやすい |
身体拘束の 3 要件と適応判断のポイント
身体拘束は「切迫性」「非代替性」「一時性」の 3 要件をすべて満たす場合に限り、例外的に認められるとされています。切迫性とは、転落や自己抜去など生命・身体に重大な危険が具体的かつ差し迫っていること、非代替性とは、環境調整や見守り強化など他の手段では安全確保が困難であること、一時性とは、状態改善などに応じて速やかに中止・緩和が検討されることです。重要なのは、チェックの丸付けではなく「なぜ満たすと言えるのか」を短文で説明できることです。
適応判断では、問題行動そのものだけでなく、背景にあるせん妄・疼痛・不安・コミュニケーション障害などを丁寧に評価します。例えば、繰り返すベッド柵乗り越えは「ただの徘徊」ではなく、排泄困難や環境不適合が原因かもしれません。PT ・ OT ・ ST は、筋力・バランス・注意機能・視覚・疼痛などを評価し、「なぜその行動に至っているのか」「動きや環境をどう変えれば安全に過ごせるか」を多職種で共有する役割を担います。
| 要件 | NG(抽象) | OK(具体) | PT が添える観察 |
|---|---|---|---|
| 切迫性 | 転倒しそう | 夜間に 30 分で 3 回 立ち上がり。立位保持が不安定で、転倒歴あり。見守り体制では防げない状況が継続 | 立ち上がり初動、方向転換、疲労でのふらつきパターン |
| 非代替性 | 他に方法がない | 低床・マット・照明・動線・排泄誘導・疼痛対応・見守り強化を実施したが、危険行動が継続 | 環境 → 観察 → 活動設計の順で “やったこと” を残す |
| 一時性 | しばらく必要 | 上限時間を設定し、一定間隔で解除可否を再評価。解除条件を明文化 | 解除条件(覚醒、見当識、離床回数、見守り体制)を定義 |
監査でも迷わない「証跡 4 点セット」
身体拘束の実施有無に関わらず、体制として “整っている証拠” を出せる状態が重要です。現場では情報が散らばりがちなので、委員会で「どこに何を保管するか」まで決め、ファイル構成を固定すると、引き継ぎや監査対応が楽になります。
| 項目 | 最低ライン(そろえるもの) | 現場での固定ポイント |
|---|---|---|
| 委員会 | 開催記録、参加者、議事概要、決定事項、 ToDo(担当・期限) | 議事録テンプレを統一し、毎回 “担当と期限” まで書く |
| 指針 | 原則、例外手順( 3 要件)、代替策、記録、再検討、家族説明の位置づけ | 改訂履歴(版・日付)を残し、委員会で更新する |
| 研修 | 年 1 回以上(新人含む)、資料、出席簿、理解度確認(簡易で可) | 「事例で代替策を回す」形式にして現場で再現しやすくする |
| 記録 | 態様・時間、理由、代替策、 3 要件の根拠、解除条件、再評価の追記 | 再評価のたびに追記し “更新され続ける記録” にする |
身体拘束廃止委員会の役割とカンファレンス運営
身体拘束廃止委員会は、施設としての方針を確認しつつ、実際に行われた身体拘束事例やハイリスク事例を多職種で振り返る場です。委員には、医師・看護職・介護職に加え、リハ職・支援相談員・管理栄養士などが含まれることが望ましく、概ね月 1 回以上の定例開催が目安になります。委員会では、身体拘束の実施状況、代替手段の検討内容、再評価の結果、職員研修の計画・実施状況などを確認し、改善策や優先的に取り組むテーマを決定します。
カンファレンスは「個人を責める」のではなく、環境・体制・手順のどこに改善余地があるかを中心に議論します。PT ・ OT ・ ST は、転倒や自己抜去などの事例について、動作課題の難易度設定、ポジショニング、シーティング、福祉用具選定、歩行補助具の使い方などの観点から意見を出せます。委員会で決定した方針を現場に落とし込む “橋渡し役” も、リハ職が担いやすい役割です。
委員会を形骸化させない:固定アジェンダ(毎回同じ順番)
委員会が “反省会” になると、対策が抽象のまま終わりやすいです。そこで、アジェンダを固定し「再発防止の設計」に寄せます。おすすめは、①前回 ToDo の確認 ②新規事例(またはヒヤリ)のレビュー ③代替策の選択肢づくり ④指針・研修の更新点 ⑤次回までの役割分担、の 5 点です。
| 順番 | 議題 | 持ち込みメモ(例) |
|---|---|---|
| 1 | 前回 ToDo の実施状況 | 代替策の実施率、解除条件の妥当性、夜間の運用可否 |
| 2 | 新規事例のレビュー | 危険行動の “いつ・どこで・なぜ” (排泄、疼痛、疲労、せん妄) |
| 3 | 代替策の選択 | 環境 → 観察 → 活動設計(活動量・休息・誘導)の順で候補提示 |
| 4 | 指針・研修の更新点 | 現場で詰まった “言葉” を定義し直す(例:「解除条件」) |
| 5 | 次回までの役割分担 | 担当+期限を明記(誰が・いつまでに・何を) |
身体拘束記録・説明・再評価の流れ
身体拘束を例外的に実施する場合、目的・理由・代替手段の検討内容・実施方法・予定期間などを明確に記録しておくことが不可欠です。まず、どのような行動(点滴自己抜去、繰り返すベッド柵乗り越えなど)が問題となり、どのような危険(出血、骨折、窒息など)が予測されるかを整理します。そのうえで、環境調整、ケア方法の工夫、見守り強化、リハビリテーションやシーティング調整など、身体拘束以外の代替手段を検討し、実施の有無と結果を記録します。
それでもなお身体拘束が避けられない場合、使用する具体的な方法(ミトン・抑制帯・ベッド柵 等)、実施目的、開始予定日時、実施予定期間・時間帯、一時性を担保するための再評価タイミングを明記します。本人・家族への説明内容と同意状況、多職種カンファレンスの結論も重要な記録項目です。再評価では、状態の変化や危険の程度を再確認し、「継続」「内容変更」「中止」の判断を定期的に行います。リハ職は、状態改善や新たな代替手段の提案を通じて、拘束の軽減・中止につなげるポジションにあります。
記録の型:再評価の “追記” が一番大事
記録は「実施した事実」よりも、「なぜ必要で、いつ解除できるか」を残すためにあります。 3 要件は各要件ごとに根拠を書き、代替策の実施履歴と効果判定をセットで残します。再評価のたびに追記し、記録が “更新され続ける” 状態を作ることが、形骸化を防ぎます。
| 欄 | 書く内容 | 例(短文) |
|---|---|---|
| 態様・時間 | 何を、いつから、いつまで | 抑制帯を 22:00–23:30。 30 分ごとに解除可否を確認 |
| 心身状況 | 覚醒、見当識、疼痛、せん妄、歩行能力など | 夜間せん妄で離床頻回。立位が不安定 |
| 3 要件の根拠 | 切迫性・非代替性・一時性を分けて記載 | 代替策実施後も危険行動が継続。上限時間と解除条件を設定 |
| 代替策 | 実施したことと効果 | 低床+マット、照明調整、排泄誘導、見守り強化 → 一部改善 |
| 解除条件 | 解除の目安を明文化 | 見当識改善、離床回数低下、見守り体制確保で解除 |
| 再評価の追記 | いつ、誰が、結果は | 23:00 再評価:離床なし。23:30 解除 |
PT ・ OT ・ ST が担う「代替手段」と環境調整
身体拘束廃止に向けた「代替手段」の多くは、 PT ・ OT ・ ST の専門性と密接に関連します。例えば、夜間のベッド上で不安定な方に対しては、ベッド高さやマットレス、サイドレール・ベッドテーブル・ナースコールの配置を調整し、ポジショニングで体幹・骨盤を安定させることが転落リスク低下につながります。座位保持が難しい方には、シーティング評価に基づいてクッションや車椅子を選定し、座位時間や休憩タイミングを設計することで、「ずり落ち予防のための拘束」を避けやすくなります。
また、せん妄や認知症を有する方では、「わからないことへの不安」から危険な行動が生じることも多いため、日内リズムの調整や活動量の適正化、分かりやすい環境表示、繰り返しの声かけなどを多職種で工夫します。嚥下障害や失語を持つ方では、 ST によるコミュニケーション支援や嚥下環境の整備が、食事場面の混乱と拘束リスクを減らす鍵になります。リハ職が提案・実行した内容を記録やカンファレンス記録に残すことが、「非代替性」の検討を支える根拠になります。
年間計画と自己点検チェックシートの活用
身体拘束廃止を継続的に進めるためには、単発の事例検討だけでなく、年間計画と自己点検の仕組みが重要です。年間計画には、委員会の開催予定、身体拘束関連研修( 3 要件・倫理・代替手段・家族支援など)のテーマと時期、新人オリエンテーションの内容、実施状況の集計・分析スケジュールなどを含めます。これらを 1 枚の表にまとめておけば、「いつ・何をしたか」を説明しやすくなります。
自己点検では、指針、委員会の構成と開催状況、記録と再評価の運用、研修や家族支援の実施状況、リハ部門の関わり方などを俯瞰して確認します。定期的に見直すことで、方針と現場運用のギャップを見つけやすくなり、次年度の改善計画にもつなげやすくなります。
身体拘束廃止委員会チェックシート/身体拘束記録・再評価シート(ダウンロード)
記事で解説してきた内容を、院内でそのまま使えるように 2 種類の A4 シートにまとめました。いずれも HTML 形式なので、必要に応じて自施設のルールや様式に合わせて修正し、印刷してご利用ください。
- 身体拘束廃止委員会・身体拘束運用チェックシート( A4 )
指針、委員会の構成・開催状況、身体拘束記録・再評価の体制、研修・家族支援、リハ部門の関わりを自己点検するための 1 枚です。 - 身体拘束記録・再評価シート( A4 )
目的・理由、代替手段の検討内容、実施方法、説明・同意、多職種カンファレンス、再評価の結果を 1 枚に整理できます。
身体拘束廃止委員会・身体拘束運用チェックシート( A4 ・無料ダウンロード)
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
家族が同意すれば、身体拘束は実施できますか?
同意は大切な情報ですが、身体拘束の根拠を “同意そのもの” に置くと運用が崩れます。 3 要件(切迫性・非代替性・一時性)の根拠、代替策の検討と実施、解除条件、再評価の追記を含めて、組織として説明できる形に整えることが重要です。
身体拘束をしていない施設でも、委員会・指針・研修は必要ですか?
必要です。身体的拘束等をしていない場合でも、適正化を図るための措置(委員会、指針、研修など)が講じられていないと、運用上の不備として扱われ得ます。拘束が少ない施設ほど “体制としての証跡” を整えることで、判断のブレが減ります。
委員会の議事録には、最低限何を書けばよいですか?
開催日時、参加者、議題、議事概要、決定事項(代替策・再発防止策)、次回までの ToDo(担当と期限)が最低限です。事例検討では、 3 要件の根拠と “解除に向けた条件” を短文で残すと、次のケースで判断が揃います。
ミトンやベッド柵は、身体的拘束等に当たりますか?
状況によっては該当し得ます。用具そのものより、行動制限として機能していないか(代替策が尽くされたか、解除条件が明確か)を委員会で共通言語にしておくことが重要です。
おわりに:要件確認 → 代替策 → 記録 → 再評価 のリズムを回す
身体拘束を減らす実務は、判断の正しさだけでなく「要件確認 → 代替策 → 記録 → 再評価」のサイクルを “同じ順番” で回せるかで差が出ます。まずは、証跡 4 点セットと固定アジェンダを整え、記録は再評価の追記で更新し続ける運用に寄せましょう。
面談準備チェック( A4 ・ 5 分)と職場評価シート( A4 )を使って、体制づくりと働き方の両方を整理したい方は ダウンロードページ も活用できます。
参考資料
- 厚生労働省. 介護施設・事業所等で働く方々への 身体拘束廃止・防止の手引き(令和 7 年 3 月). PDF
- 厚生労働省. 身体拘束廃止・防止の手引き(補足版). PDF
- 独立行政法人福祉医療機構( WAM ). 介護保険最新情報 Vol.1345(令和 7 年 1 月 20 日). PDF
- 身体拘束ゼロへの手引き(参考). PDF
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


