MWST と WST の違い・使い分け【比較】
ベッドサイドの嚥下スクリーニングは「順番」と「中止基準」で安全性が決まります。本稿は MWST(3 mL) と WST(30 mL) を“何のために・誰に・いつ使うか”で比較し、RSST や VE/VF との関係まで 1 ページで整理します。
結論:安全第一で “RSST → MWST → WST”
結論はシンプルです。まず RSST で嚥下反射の準備性を把握し、次に MWST(3 mL) で安全域を段階判定します。問題がなければ WST(30 mL) に進み、プロフィールと時間で飲水のパターンを評価します。いずれかで異常があれば即 VE/VF に切り替えるのが原則です。
MWST は少量で安全に始められますが、不顕性誤嚥は拾いにくいことがあります。湿性嗄声・SpO2 低下・呼吸切迫などの臨床所見を優先し、危険兆候があれば中止・精査へ。詳細な手順や判定は総合ガイド(MWST/WST の実施手順・判定・中止基準)をご覧ください。
MWST:3 mL の段階判定(安全域の確認)
MWST は 3 mL の冷水を口腔底に注ぎ、むせ・湿性嗄声・呼吸状態・反復嚥下の可否を 1〜5 点で評価します。4〜5 点で次段階へ、3 点未満は誤嚥疑いとして VE/VF を検討します。体位や水の性状(冷水・常温・とろみ)は必ず記録して再現性を担保します。
研究報告では感度・特異度に幅があり(例:感度 0.70–1.00、特異度 0.71–0.88 程度の報告)、単独での意思決定は避け、RSST・VE/VF と組み合わせて総合判断します。むせが少ない方でも所見(湿性嗄声、SpO2 低下)があれば中止の判断を優先します。
WST:30 mL の一気飲み(パターン+時間)
WST は 30 mL を一度に飲み、むせの有無・飲み方・所要時間を観察する方法です。MWST で問題なし を前提に適応を絞り、プロフィール(1〜5)と 5 秒基準で総合判定します。むせが明らか、過度の慎重さ、口唇流出などの所見は判定に反映します。
海外には 3 oz(約 90 mL)を用いる Yale Swallow Protocol や 100 mL テストもありますが、目的・対象や運用前提が異なるため、国内では無理な流用を避けるのが無難です。比較検討の際は一次情報(原著・ガイドライン)を必ず参照してください。
MWST と WST の比較表(目的・手順・判定)
両者の評価目的・判定法・強み/弱みを 1 表に集約しました。臨床の現場では「安全域の確認(MWST)→パターン把握と時間評価(WST)」の段階化が基本です。誤嚥疑い時には無理をせず、速やかに検査モダリティへ移行します。
表は成人の一般臨床を想定した要約です。小児・高度認知症・重症呼吸障害など特殊条件では適応と解釈が異なるため、施設手順書と医師指示に従ってください。
項目 | MWST(3 mL) | WST(30 mL) |
---|---|---|
主目的 | 少量で安全域を段階判定 | 飲水パターン+所要時間の評価 |
判定 | 1〜5 点(4–5 点で次へ) | プロフィール(1–5)× 5 秒基準 |
強み | 少量・安全性が高い、導入に適す | 一回の飲水でパターンと耐容量を把握 |
弱み | 不顕性誤嚥を拾いにくい | 誤嚥リスクが相対的に高い |
次の一手 | 問題なければ WST/必要時 VE/VF | 異常は中止して VE/VF |
禁忌・中止基準(安全第一)
検査の安全性は適応の見極めと中止判断に依存します。以下は臨床上の一般的な中止・回避目安であり、施設手順書と医師の指示を優先してください。
禁忌・中止の例:JCS 1 以上の意識障害、重度の呼吸切迫、SpO2 90 % 未満(目安)、座位保持困難、安静時の湿性嗄声・強い咳、発熱を伴う肺炎疑い。明らかなむせ、チアノーゼ、吸気困難が出現したら即時中止・体勢確保・医師連絡・VE/VFへ。
使い分けアルゴリズム(簡易)
現場で迷ったときの最短手順です。ポイントは「少量で始めて、所見が悪ければ無理をしない」。安全第一で段階的に評価してください。
また、MWST・WST の結果が良好でも、湿性嗄声や微妙な呼吸変化、直後の SpO2 低下があれば不顕性誤嚥を疑い、VE/VF を積極的に検討します。
- RSST(30 秒)→ 3 回未満は VE/VF 検討。
- MWST(3 mL)→ 4–5 点で次へ、3 点未満は VE/VF。
- WST(30 mL)→ プロフィール × 5 秒基準。異常は中止して VE/VF。