立ち上がり練習の進め方|椅子の高さと手の使い方で調整する

臨床手技・プロトコル
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立ち上がり練習は「回数をこなす」より条件調整が先です

臨床の型を整えたい方へ

評価や再評価が回りやすい職場の探し方は、PT 向けの総合ガイドにまとめています。

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立ち上がり練習で大切なのは、いきなり回数を増やすことではありません。まずは椅子の高さ、足位置、手の使い方、支持物の有無をそろえて、「この条件なら安全に立てる」を作ることが先です。条件が合わないまま反復すると、反動頼みや左右差が固定されやすくなります。

立ち上がりは、下肢筋力だけでなく、体幹前傾、股関節戦略、上肢支持、立位での安定まで一度に関わる基本動作です。この記事では、評価の次にそのまま介入へつなげやすいように、立ち上がり練習の調整ポイントを最小構成で整理します。

まず決めること|何を改善したい立ち上がりなのか

同じ「立てない」でも、何が詰まっているかで練習の組み方は変わります。離殿が重いのか、立ち切る直前で止まるのか、立ったあとにふらつくのか、回数を重ねると崩れるのかを最初に分けると、調整する順番がはっきりします。

ここを曖昧にすると、椅子を高くするのか、手を使わせるのか、回数を減らすのかが決まらず、再評価も散らばります。まずは「主訴 1 つ」「詰まりやすい局面 1 つ」「確認する評価 1 つ」を固定すると、介入の狙いがぶれにくくなります。

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立ち上がり練習の詰まりどころ別にみた最初の調整
主な詰まりどころ まず見ること 優先しやすい調整 再評価の例
離殿できない 椅子高さ、足位置、前傾量 椅子を高くする、足を少し引く 5xSTS
反動が強い 前傾のタイミング、勢い依存 回数を減らす、テンポを落とす 動作観察
立位でふらつく 支持基底面、立位保持、左右差 支持物を使う、立位保持を短く入れる 5xSTS / TUG
後半で崩れる 耐久低下、ペース配分 反復回数を減らす、休息を入れる 30 秒法

最初に調整する 4 つ|椅子の高さ・足位置・手の使用・支持物

立ち上がり練習は、筋力を変える前に条件を変えるだけで成功率が大きく変わります。臨床で最初に触りやすいのは、椅子の高さ、足位置、手の使用、支持物の 4 つです。ここを調整すると、「立てない」を「立てる」に変えやすくなります。

特に、条件調整をせずに「もっと頑張って」と回数だけ増やすと、反動や代償が強まりやすくなります。最初は成功しやすい条件を作り、そこから少しずつ難度を上げる方が再学習しやすいです。

立ち上がり練習の調整 4 ポイントを整理した図版
立ち上がり練習は、椅子の高さ・足位置・手の使用・支持物を先に整え、そのあとに回数と難度を調整すると進めやすくなります。

椅子の高さ

椅子が低いほど、立ち上がりに必要な下肢負荷は上がりやすくなります。最初に立ち上がりが重い症例では、座面を高くするだけで成功率が大きく上がることがあります。

まずは「立てる高さ」を見つけ、その条件でフォームをそろえます。高さを下げるのは、その条件で反復しても崩れが少なくなってからで十分です。

足位置

足位置は、離殿のしやすさに直結します。足が前に出すぎると立ち上がりは重くなりやすく、逆に少し引くと前傾から離殿へつなげやすくなります。

ただし、引きすぎると膝や足関節の負担が増えたり、左右差が出たりすることがあります。足部の位置は「毎回同じ条件で再現できること」を優先すると、再評価が安定します。

手の使い方

手の使用は、「使うか・使わないか」の二択ではありません。大腿支持、肘掛け、前方支持など、どこまで手を使うかで難度を細かく調整できます。

最初から手を完全禁止にすると、立てない経験だけが残ることがあります。まずは成功しやすい支持で立ち、そこから手の量を減らしていく方が進めやすいです。

支持物の使い方

立ち上がったあとのふらつきが強い症例では、離殿だけでなく立位保持まで含めて練習条件を整える必要があります。手すりや平行棒、机支持を使うと、立位での不安を減らしやすくなります。

支持物は「甘やかし」ではなく、安全に立ち上がりの反復を増やすための調整手段です。立ち切ったあとに 1〜2 秒静止できる条件を作ると、動作の終わりまでそろえやすくなります。

負荷設定の考え方|高さを下げる前に何をそろえるか

立ち上がり練習でよくあるのは、「できたからすぐ椅子を低くする」進め方です。ただ、条件を早く難しくしすぎると、反動や左右差が増え、練習の質が落ちやすくなります。高さを下げる前に、まずフォームと再現性をそろえる方が安全です。

進め方の基本は、① 成功しやすい条件で反復、② 崩れが少なくなったら手の量を減らす、③ その次に椅子高や支持物を調整する、の順です。高さだけで難度を上げるより、複数の条件を小さく触る方が失敗しにくくなります。

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立ち上がり練習で使いやすい難度調整の基本
困りごと よくある原因 まず下げるもの 代わりに残すもの
離殿が重い 座面が低い、足が前 椅子の低さ 成功しやすい反復
反動が強い 難度が高い、回数が多い 回数、速度 ゆっくりした正確な動き
左右差が目立つ 足位置不良、痛み回避 難度、支持なし条件 左右をそろえた条件
立位でふらつく 支持不足、立位保持不足 支持なし条件 支持ありでの立位保持

よくある失敗|反動頼み・膝前方偏位・左右差・立位でふらつく

立ち上がり練習は、できた回数だけを追うと代償を見落としやすいです。とくに、反動頼み、膝の過剰な前方偏位、左右差、立位でのふらつきは、回数だけでは隠れやすい代表例です。

重要なのは、「失敗を減らしてから負荷を上げる」順番です。よくある崩れ方を先に知っておくと、何を戻すべきかが分かりやすくなります。

反動頼みになる

勢いをつけないと立てない場合は、下肢の出力だけでなく、難度設定が高すぎることもあります。椅子を高くする、回数を減らす、手の支持を許可するだけで、勢い依存が減ることがあります。

反動が強いまま反復を増やすと、動作の再現性が落ちやすくなります。まずはゆっくり 1 回ずつ立てる条件を優先した方が、介入効果をつなげやすいです。

膝が前に出すぎる

膝前方偏位が強いときは、足位置、前傾、椅子高のどれかが合っていないことがあります。膝痛がある症例では、無理に深い角度を通る条件だと痛み回避が強くなりやすいです。

足位置を少し調整し、前傾から離殿までを分けて練習すると、膝だけに負担が集まるのを減らしやすくなります。

左右差が強い

左右差があるときは、弱い側の出力不足だけでなく、痛み回避や恐怖感も関わることがあります。足部の前後差や荷重量の偏りをそろえないまま練習すると、代償が固定されやすくなります。

まずは足位置をそろえ、必要なら手や支持物を使って左右差が強く出ない条件を作ります。そのうえで、回数より「左右差が減ったか」を見た方が変化を拾いやすいです。

立位でふらつく

立ち上がれたとしても、立位で止まれないと実用性は上がりにくいです。離殿だけを課題にすると、立ち切ったあとの不安定さを見落としやすくなります。

立ち上がり練習では、「立つ」だけで終わらず、「立って 1〜2 秒止まる」までを 1 回にすると、着地のように動作をそろえやすくなります。

症例別の進め方|膝痛がある、腰痛がある、ふらつきが強い

立ち上がり練習は、症例ごとに詰まりどころが違います。同じ練習をそのまま当てはめるより、痛みや不安の出やすい場面に合わせて条件を変える方が、開始しやすく継続もしやすくなります。

ここでは、臨床でよくある 3 パターンに絞って、最初に触りやすい調整ポイントを整理します。

膝痛がある場合

膝痛があるときは、低い椅子や深い屈曲角度で痛み回避が強くなりやすいです。まずは椅子を高くし、膝の屈曲を深くしすぎない条件で成功体験を作ります。

必要なら手支持を許可し、反復数も少なめから始めます。痛みが減ったからすぐ低くするのではなく、同じ条件で反復が安定してから次の段階へ進める方が崩れにくいです。

腰痛がある場合

腰痛がある場合は、前傾の怖さや立ち上がりの勢いで症状が出やすいことがあります。立ち上がりを一気にさせるより、前傾、離殿、立位保持を少しずつ分けて練習する方が導入しやすいです。

とくに、手を全く使えない条件より、少し支持を使いながら動作を整える方が「動いても大丈夫だった」を作りやすくなります。

ふらつきが強い場合

ふらつきが強い症例では、離殿そのものより、立ち切った直後のバランスが課題になりやすいです。この場合は、支持物を使いながら立位保持まで含めて練習した方が実用性につながります。

椅子から立つ → 支持物で止まる → ゆっくり座る、の 1 往復を丁寧にそろえると、動作全体の安定性を高めやすくなります。

再評価のやり方|5xSTS / 30 秒法をどう戻すか

再評価は、目的で 1 つ固定すると回しやすくなります。立ち上がり速度や負荷耐性をみたいなら 5xSTS、後半の失速や反復耐久をみたいなら 30 秒法が使いやすいです。評価条件を先に整理したい場合は、立ち上がり評価の実践ガイド|5 回法・30 秒法の使い分けと記録 を先に確認すると、介入とのつながりが作りやすくなります。

再評価で大切なのは、時間や回数だけでなく、「どの条件で」「どの代償が減ったか」を一緒に残すことです。たとえば、椅子 45 cm、手支持なし、反動軽減、立位保持 2 秒可能、のように条件と質を 1 行で残すと前後比較がしやすくなります。

よくある質問

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

立ち上がり練習はまず何から調整すればいいですか?

最初は、椅子の高さ、足位置、手の使い方、支持物の 4 つから調整します。いきなり回数を増やすより、「この条件なら安全に立てる」を作る方が先です。

椅子は低い方が練習になりますか?

低い椅子は難度が上がりやすいですが、早く使いすぎると反動や左右差が強くなることがあります。まずは立てる高さで反復を安定させ、そのあとに少しずつ下げる方が実務では進めやすいです。

手を使わせてもいいですか?

はい。手の使用は難度調整の手段です。最初から完全に禁止するより、少し使いながら成功体験を作り、徐々に減らしていく方が導入しやすいことがあります。

再評価は 5xSTS と 30 秒法のどちらを使えばいいですか?

速度や負荷耐性をみるなら 5xSTS、反復耐久や後半の失速をみるなら 30 秒法が使いやすいです。同じ患者さんを追うときは、途中で切り替えず、同じ条件で戻すことを優先してください。

次の一手

まずは、主訴に合わせて「何が詰まる立ち上がりか」を 1 つ決め、椅子の高さ・足位置・手の使用の 3 つから最初の条件をそろえてみてください。回数を増やすより、立てる条件を作る方が先です。

続けて整理したい方は、次の 3 本を読むと評価から介入までつながります。

環境を整える視点も一緒に見直したい方は、面談準備チェック&職場評価シート も活用してみてください。


参考文献

  1. Chaovalit S, Taylor NF, Dodd KJ. Sit-to-stand exercise programs improve sit-to-stand performance in people with physical impairments due to health conditions: a systematic review and meta-analysis. Disabil Rehabil. 2020;42(9):1260-1268. DOI: 10.1080/09638288.2018.1524518
  2. Shirley Ryan AbilityLab. 30 Second Sit to Stand Test. RehabMeasures Database. SRALab
  3. Bohannon RW. Reference values for the five-repetition sit-to-stand test: a descriptive meta-analysis of data from elders. Percept Mot Skills. 2006;103(1):215-222. DOI: 10.2466/pms.103.1.215-222
  4. Kuo YL. The influence of chair seat height on the performance of community-dwelling older adults’ 30-second chair stand test. Aging Clin Exp Res. 2013;25(3):305-309. PubMed
  5. Bohannon RW. Five-repetition sit-to-stand test performance by community-dwelling adults: a preliminary investigation of times, determinants, and relationship with self-reported physical performance. Isokinet Exerc Sci. 2007;15(2):77-81. DOI: 10.3233/IES-2007-0253

著者情報

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rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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