高次脳機能障害の ST 評価と CBA の使い方【多職種連携の視点】

評価
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この記事のねらい(高次脳機能 × ST × CBA)

臨床で伸びる学び方の流れを見る(PT・OT・ST 共通ガイド)

本記事では、高次脳機能障害の評価において言語聴覚士( ST )がどこを押さえ、どのように CBA(認知関連行動アセスメント) を活用するかを整理します。机上の神経心理検査だけでは見えにくい「ふだんの行動」「生活のしづらさ」を、多職種で共通言語として扱うことがねらいです。

意識・感情・注意・記憶・判断・病識といった領域を CBA で俯瞰しつつ、ST としてはコミュニケーション・食事・家族との関わりにどう結びつけて解釈するかを解説します。評価票の設問そのものではなく、観察の視点と多職種連携のコツ に焦点を当てます。

ST が見る高次脳機能障害と評価の全体像

高次脳機能障害は、注意障害・記憶障害・遂行機能障害・社会的行動障害など多様で、失語や構音障害と重なって現れることも少なくありません。ST は「話す・聞く・読む・書く」だけでなく、会話中の注意の持続や話題転換、食事場面での二重課題、約束の想起など、コミュニケーションと ADL の接点に着目して評価します。

実務では、①ベッドサイドでの初期観察、②必要に応じた神経心理検査(注意・記憶・遂行機能など)、③家族やスタッフからの聴き取り、④CBA のような行動観察尺度、の 4 つを組み合わせるイメージです。すべてを一度に行うのではなく、「今この方のリスクと目標に照らして、どの情報が必要か」を考えて優先順位をつけることが重要です。

CBA とは?(6 領域を多職種で共有する枠組み)

CBA(認知関連行動アセスメント)は、高次脳機能障害に関連する行動を 意識・感情・注意・記憶・判断・病識 の 6 領域で整理し、日常場面に即した観察を行うための尺度です。紙筆検査の得点だけでは見えにくい「実際のふるまい」を、病棟やリハ場面での行動として捉え直すためのツールといえます。

最大の特徴は、ST だけでなく PT・OT・看護師など多職種が同じ枠組みで評価できる点です。誰が見ても同じ項目構造のもとで記録することで、「注意が続かない」「感情のコントロールが難しい」といった印象論を、領域と程度をそろえた情報として共有できるようになります。

6 領域と評価の考え方(項目文を出さずに押さえる)

CBA の各領域には複数の項目があり、それぞれを 5 段階程度で評価する構造になっています。ここでは具体的な文言は扱わず、「どのような視点で行動を見るか」を概念的に押さえます。例えば注意では「覚醒」「持続」「選択」のように、病棟生活の中でどの場面で破綻しやすいかを観察していきます。

評価時のポイントは、①一度の場面だけで判断しないこと、②できる/できないの二択ではなく「支援や環境調整があればどうか」まで含めてみること、③その人なりの長所もメモしておくことです。ST は会話・食事・家族とのやり取りのなかで観察した行動を、6 領域のどこに位置づけるかを意識しながら記録すると、後のカンファレンスで説明しやすくなります。

PT・OT・ST・看護での使い分けと共有の仕方

CBA を多職種で使うときは、「誰が・どの場面を担当して観察するか」をあらかじめ決めておくと効率的です。例えば、PT は歩行や移乗中の注意・判断、OT は更衣や買い物練習中の遂行・病識、ST は会話や食事時の注意・記憶・感情面、看護師は病棟生活全般の様子を担当する、といった分担が考えられます。

カンファレンスでは、各職種が気づいた行動を 6 領域のどこに対応させるかを確認しながら、具体的なエピソードとともに共有します。「注意 3・記憶 2」といった数字だけではなく、「ナースコールの押し忘れが目立つ」「トイレへの導線を一緒に確認すると安定する」などの行動記述をセットで示すことで、支援策の検討につながりやすくなります。

机上検査+CBA+ADL 観察を組み合わせた評価フロー

実際の評価フローの一例として、①急性期〜病初期に簡便な注意・記憶検査とベッドサイド観察で大枠を把握、②回復期に入ってから詳細な神経心理検査で障害プロファイルを整理、③同時期に CBA を用いて病棟やリハ場面での行動を多職種で観察、④在宅・外来期には家族からの聴き取りと生活場面の観察を追加、という段階的な進め方が挙げられます。

このとき ST は、検査成績と CBA を照らし合わせて「検査ではできているが生活場面では難しい」「検査では難しいが、支援があれば生活ではこなせている」などのギャップに注目します。そのギャップこそが、環境調整や家族支援、就労支援などのターゲットになりやすく、CBA はその橋渡し役として機能します。

現場の詰まりどころ(CBA 運用でありがちな悩み)

CBA を導入した現場でよく聞かれる悩みは、「主観が入りそうで採点に自信が持てない」「項目数が多くて全部を埋めるのが大変」「点数ばかりが一人歩きする」といったものです。特に多職種で使う場合、「誰がどの視点で評価したのか」が曖昧になると、解釈にばらつきが生じやすくなります。

対策としては、①導入初期に数例をチームで一緒に採点して“すり合わせ”を行うこと、②すべての項目を一度に埋めるのではなく、気になる領域から優先的に記録すること、③点数だけでなく代表的な行動エピソードを 1〜2 個メモすること、の 3 点が有効です。「CBA の点数をそろえる」ことが目的なのではなく、「同じ行動を見て同じように説明できる」状態を目指す、という意識を共有しておくと運用しやすくなります。

よくある質問

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップすると閉じます。

Q. CBA と神経心理検査のどちらを優先すべきか迷います。

A. 目的によって優先順位が変わります。診断や障害プロファイルの把握が主目的なら、注意・記憶・遂行機能などの神経心理検査が優先されます。一方、「病棟での危険行動を減らしたい」「在宅生活の見通しを立てたい」といった行動レベルの課題が大きい場合は、CBA を用いて日常場面の様子を整理することが重要です。多くのケースでは両者を補い合う形で使い分けることになります。

Q. 多職種に CBA をお願いしても、なかなか記入が進みません。

A. 「全部の項目を埋めてください」と依頼するとハードルが高くなりやすいです。まずは「注意」と「判断」など 1〜2 領域に絞り、「気になる行動があったらメモする」程度から始めてもらうと参加しやすくなります。カンファレンスで具体的な事例が役立った経験を共有できると、「次も書いてみよう」というモチベーションにつながります。

Q. CBA の結果を家族にどう説明すればよいですか?

A. 専門用語や点数は最小限にとどめ、「どのような場面で困りやすいか」「どのように声かけや環境を工夫すればよいか」を具体例で示すことが大切です。例えば「注意が続きにくいので、お願いごとは一度に 1 つだけにしましょう」「メモや写真を一緒に使うと覚えやすくなります」など、家族がすぐに試せる工夫を 1〜2 個伝えるだけでも、支援の方向性が共有しやすくなります。

おわりに(評価→共有→環境調整→再評価のリズムへ)

高次脳機能障害の評価では、紙筆検査の得点だけでなく、日常場面での行動や周囲の人の困りごとを含めて捉えることが重要です。CBA は、その橋渡しとして多職種で“同じものを見て話す”ための枠組みを提供してくれます。ST としては、コミュニケーション・食事・家族とのやり取りを軸に、検査と CBA・ADL 観察を統合していくことが求められます。

評価やカンファレンスの質を高めながら、自分自身の働き方やキャリアの選択肢を整理したいときには、面談準備チェック(A4・5分)と職場評価シート(A4)も役立ちます。詳しくは マイナビコメディカルのまとめページ にまとめているので、転職を考えていない段階でも「情報整理用メモ」として活用してみてください。

参考文献

  • 小嶋知幸ほか. 認知関連行動アセスメント(CBA)の開発と信頼性・妥当性の検討. 高次脳機能研究. 2010;30(3):342–352.
  • 日本高次脳機能障害学会. 高次脳機能障害の診断とリハビリテーション. 東京: 医学書院; 2019.
  • 厚生労働省. 高次脳機能障害支援モデル事業報告書. 2009.
  • Sohlberg MM, Mateer CA. Cognitive Rehabilitation: An Integrative Neuropsychological Approach. New York: Guilford Press; 2001.

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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