階段降り(降段)の動作分析|新人 PT が「制動」を言語化するコツ
新人 PT が迷わない「評価設計の型」を見る(PT キャリアガイド)
結論:階段降り(降段)の動作分析は、①準備(止まる・足位置)→②降ろす(制動:膝・股の遠心性)→③着地して受け止める(荷重受け)の 3 局面で相分けすると、新人でも「どこで破綻したか」を説明できます。特に降段は“下ろす局面”の制動で崩れやすく、膝痛・恐怖・手すり依存の理由が動作に出やすい課題です。
本記事は、観察ルーティン、局面別チェック表、よくあるパターン(膝痛・恐怖・つま先接地・ふらつき)と原因仮説、声かけ、 2 行記録テンプレまでを「貼って使える型」としてまとめます。
図解:階段降りは「準備→制動→受け止め」の 3 局面で見る
まずは 30 秒:観察ルーティン(同じ順番で見る)
| 順番 | 観察方向 | 見る場所 | メモ例 |
|---|---|---|---|
| ① 正面 | 膝・骨盤 | 膝の内外側偏位、骨盤の左右傾斜、支持脚への荷重 | 「制動で右膝内側偏位」 |
| ② 側面 | 体幹・膝 | 体幹前傾の量、膝屈曲の深さ、着地の衝撃 | 「②で前傾増大、ドスン着地」 |
| ③ 後方 | 骨盤・体幹 | 体幹側屈、骨盤下制、肩の高さ(手すり側へ逃げ) | 「手すり側へ側屈で回避」 |
| ④ 足元 | 足部 | 踵接地かつま先接地か、足部の回内・回外、踏み外し | 「つま先接地で減速」 |
局面別チェック表(見える現象→原因仮説→その場で確認)
| 局面 | まず見る(優先 3 つ) | よくある代償 | 原因仮説 | その場での確認 |
|---|---|---|---|---|
| ① 準備(止まる) | 足位置(段の奥 / 手前)、視線、支持脚への荷重 | 足踏み、手すりを強く握る、体幹が硬い | 恐怖回避、支持脚不安、注意資源不足 | 「止まってから降りる」指示で改善するか |
| ② 制動(下ろす) | 膝屈曲の深さ、体幹前傾、足部での減速 | ドスン着地、膝が耐えられず手すり依存、つま先接地 | 膝伸展の遠心性低下、膝痛回避、足部支持不安 | 段差を下げると衝撃が減るか/足部位置を奥にすると減るか |
| ③ 受け止め(荷重受け) | 着地後のふらつき、支持脚膝の位置、骨盤の水平性 | 着地後に揺れる、膝内側偏位、骨盤が傾く | 股外転の支持不足、感覚入力不足、疲労 | 着地後に「 1 秒静止」で収束するか |
よくある 5 パターン(所見→仮説→最初の一手)
| パターン | 見える所見 | まず疑う | 最初の 1 手(その場で確認) | 再評価の指標 |
|---|---|---|---|---|
| A:ドスン着地 | ②制動が浅い、着地音が大きい | 膝伸展の遠心性不足、恐怖回避 | 段差を下げて「静かに置く」キューで変化を見る | 着地音、体幹前傾、手すり依存 |
| B:膝痛が出る | ②で膝前面痛、体幹が後ろに残る | 膝関節への負担集中、股関節戦略不足 | 体幹をわずか前方へ(股で受ける)キューで痛みが変わるか | 痛み NRS、膝屈曲深さ、速度 |
| C:つま先接地で降りる | 足部が踵から入らず、前足部で探る | 足部支持不安、足背屈制限、恐怖 | 段の奥に足を置き、視線を次段へ誘導して変化を見る | 接地様式、ふらつき、歩幅 |
| D:手すり依存が強い | 手すりを強く引く、体幹が手すり側へ側屈 | 支持脚不安、制動不足、恐怖回避 | 「軽く触れる」条件で、制動の質が保てるか確認する | 握りの強さ、側屈量、着地衝撃 |
| E:着地後に揺れる | ③でふらつきが残り、次の一歩が遅い | 股外転の支持不足、感覚入力不足 | 着地後に「 1 秒静止」条件で収束時間が変わるか | 収束時間、歩数、踏み外し |
声かけ(キュー)の型:新人でも言い切れる短文テンプレ
| 狙い | 声かけ(短文) | 効きやすい局面 |
|---|---|---|
| 準備を作る | 「いったん止まって、足を置く場所を決めてから降ります」 | ① |
| 制動を深くする | 「静かに下ろします。音を小さく」 | ② |
| 膝痛の回避(股で受ける) | 「少し前へ。腰(股)で受けましょう」 | ② |
| 着地後の安定 | 「降りたら 1 秒止まって、真っすぐ立てたら次へ」 | ③ |
安全管理:降段で中止・変更を考えるサイン
| サイン | リスク | まず行う条件変更 | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| 踏み外し/つま先が毎回当たる | 転倒 | 段差を下げる、手すり使用、速度を落とす | どの局面で当たったか(②か③) |
| ドスン着地が強く制御できない | 膝痛増悪、転倒 | 「静かに置く」キュー+ 1 段反復へ | 着地音、手すり依存 |
| 痛みが増悪する | 症状悪化 | 体幹戦略の変更、段差低下、回数制限 | NRS、痛み部位、増悪条件 |
| 恐怖で動作が固まり停止する | すくみ・不随意停止 | 止まる→ 1 段→休憩の分割、介助量調整 | 停止の頻度、タイミング(①か②) |
記録の書き方: 2 行で「局面×所見×仮説×次」を残す
| 行 | 例文 |
|---|---|
| 所見 | 「階段降段( 20 cm、手すりなし)。②制動で膝屈曲が浅く、着地衝撃が大。③着地後のふらつきが 3 秒残存。」 |
| 解釈→次 | 「膝伸展の遠心性低下と恐怖回避が関与と推定。段差低下+『静かに下ろす』キューで着地衝撃と収束時間の変化を再評価する。」 |
現場の詰まりどころ:新人がハマる 5 つ(対策つき)
| 詰まり | 起こりやすい理由 | 解消のコツ |
|---|---|---|
| 「怖いのか筋力不足か」迷う | どちらも手すり依存に見える | 段差低下で改善するなら要求量依存、止まる指示で改善するなら恐怖要素を疑う |
| 膝痛の原因が決めきれない | 痛みで戦略が変わる | 体幹が後ろに残るなら膝負担集中を疑い、「少し前へ」で変化を見る |
| つま先接地をどう評価するか | 足部・恐怖・可動域が混ざる | 足位置(段の奥)と視線誘導で変化が出るかを先に確認する |
| 観察が“感想”になる | 局面が混ざっている | 必ず ①〜③ のどこで起きたかを先に書く(局面ラベルを付ける) |
| 再評価が曖昧 | 指標が固定されていない | 「着地音」「手すり依存」「ふらつき収束時間」の 3 つに固定する |
よくある質問(FAQ)
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Q1.階段降りで一番大事な観察ポイントは何ですか?
A.新人はまず ② 制動(下ろす局面)です。膝屈曲の深さ、体幹前傾、足部で減速できているかを見て、着地音や手すり依存が増えるタイミングを言語化してください。ここが言えれば、介入の当て先が決まります。
Q2.「ドスン」と降りるのは筋力不足だけが原因ですか?
A.筋力(膝伸展の遠心性)だけでなく、恐怖回避で制動を浅くしている場合もあります。段差を下げる、止まってから降りる、着地音を小さくするキューなどで変化が出るかを確認し、原因候補を 1〜 2 個に絞るのが実務的です。
Q3.膝痛があるとき、どういう戦略が出やすいですか?
A.体幹が後ろに残る、制動を浅くして早く足を置く、手すりで引き上げるなどが出やすいです。まず「少し前へ(股で受ける)」のキューで痛みと着地衝撃が変わるかを確認すると、当て先が整理できます。
Q4.つま先接地(踵から入れない)を見たら、まず何をしますか?
A.足部支持の不安と恐怖が混ざりやすいので、段の奥に足を置く、視線を次段へ誘導する、速度を落とすなどで変化を見るのが先です。可動域や筋力の詳細評価は、条件操作で仮説が絞れた後に行うと迷いにくいです。
おわりに
階段降りは、準備→制動→受け止めの 3 局面に分けるだけで、観察が「感想」から「判断」に変わります。まずは 30 秒ルーティンで見る場所を固定し、着地音・手すり依存・ふらつき収束時間の 3 指標で再評価を回してみてください。
面談や見学で「教育体制」や「リスク管理の型」を確認したいときは、準備に使えるチェックもあるので 面談準備チェックと職場評価シート もあわせて活用してみてください。
参考文献
- Reeves ND, Spanjaard M, Mohagheghi AA, Baltzopoulos V, Maganaris CN. The demands of stair descent relative to maximum capacities in elderly and young adults. Gait Posture. 2011;34(2):239-244. doi: 10.1016/j.gaitpost.2011.05.005
- Novak AC, Brouwer B. Strength and balance components contribute to mobility in individuals with chronic stroke and healthy controls. Gait Posture. 2011;33(1):54-60. doi: 10.1016/j.gaitpost.2010.09.024
- Reeves ND, Spanjaard M, Mohagheghi AA, Baltzopoulos V, Maganaris CN. The effect of handrail use on joint kinetics during stair negotiation. Gait Posture. 2008;28(2):327-336. doi: 10.1016/j.gaitpost.2008.01.014
- Vallabhajosula S, Tan CW, Mukherjee M, Davidson AJ, Stergiou N. Biomechanical adaptations during stair descent under dual-task conditions. J Biomech. 2015;48(6):921-929. doi: 10.1016/j.jbiomech.2015.02.024
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

