VR リハビリテーションとは?|従来リハとの違い
VR リハビリテーションは、ヘッドマウントディスプレイや大画面スクリーンなどを用いて、仮想空間の中で運動課題を行うリハビリテーション手法です。上肢到達動作やバランス練習、歩行課題などをゲーム感覚で高頻度に反復でき、リアルタイムのフィードバックが得られる点が特徴です。近年は、没入型 VR(頭部装着)、半没入型(プロジェクター)、家庭用ゲーム機ベースなど、デバイスの多様化が進んでいます。
従来のリハと比べると、VR リハは「訓練量を確保しやすい」「動機づけを維持しやすい」一方で、注意機能障害やめまい・酔いやすさなどへの配慮が不可欠です。また、VR そのものが魔法の治療ではなく、あくまで「課題指向型訓練を支えるツール」と捉え、評価指標と組み合わせて計画的に使うことが重要です。
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VR リハのエビデンス総まとめ:上肢・歩行・バランス
脳卒中の上肢機能については、通常リハに VR 訓練を追加することで FMA などの運動機能スコアや ADL が有意に改善したメタ解析が複数報告されています。特に、課題指向型の上肢 VR トレーニングは「反復回数」「フィードバックの質」を高めやすく、従来訓練と比べて小〜中等度の効果量が示されています。
下肢・歩行では、ベルグバランススケール( BBS )や Timed Up and Go( TUG )などの指標で、VR 介入群が通常リハよりも改善が大きいという報告が増えてきました。VR を 20 セッション以上継続した群でバランス指標がより改善したメタ解析もあり、一定の「量」と「期間」を確保した上で導入した方が効果が見えやすいと考えられます。高齢者の転倒予防領域でも、バランス練習に VR を組み合わせることで、恐怖感の軽減や ADL の維持・向上に寄与し得るとされています。
VR リハが向く患者・避けたい患者
VR リハが比較的向きやすいのは、脳卒中や高齢者のバランス障害・歩行障害・上肢巧緻性低下など、反復練習で改善が期待できるケースです。注意機能がある程度保たれ、指示理解が可能で、立位や座位の安全が確保できる患者では、ゲーム性を活かして「もう少し頑張れる」環境を作りやすくなります。慢性期や在宅復帰後の活動量確保ツールとしても検討の余地があります。
一方で、強いめまい・乗り物酔いの既往がある方、重度の注意障害やせん妄、重度視力障害、コントロール不良のてんかんなどでは慎重な適応判断または回避が必要です。心疾患や高血圧などを有する場合も、運動強度や血圧・心拍の変動をモニタリングしながら負荷設定を行うことが重要です。初回は短時間から開始し、症状出現の有無を確認しながら段階的に時間・難易度を上げていきます。
現場の詰まりどころ:「ゲームで遊んでいるだけ」にしない工夫
VR リハでよくある悩みは、「患者さんは楽しそうだが、目的と結びついているのか分からない」「評価指標との関連づけが曖昧になる」という点です。これを避けるためには、あらかじめ「どの能力を変えたいのか(例:片脚立位、歩行速度、上肢のリーチ距離)」を明確にし、SPPB・ TUG ・ BBS ・上肢 FMA などの指標をセットで記録しておくことが大切です。
セッション前後で評価をルーチン化すると、「VR でこの課題を何分行うと、この指標がどれくらい変化しやすいか」という感覚が蓄積されます。また、画面内のスコアだけで完結させず、現実の ADL ・ IADL にどうつなげるかを、患者さんと一緒に振り返ることも重要です。例えば、「今日のバランスゲームでの前方リーチが伸びたので、洗面時の前屈み姿勢が少し安定してきましたね」といった形で、生活場面とリンクさせてフィードバックすると、本人の納得感と意欲につながります。
在宅・遠隔リハでの VR 活用と今後の展望
在宅や通所リハの領域では、家庭用ゲーム機や軽量 HMD を用いた VR トレーニングが現実的な選択肢になりつつあります。センサー内蔵コントローラーやカメラで動きをトラッキングし、バランス課題や上肢課題を自宅で実施できるため、「病院では頑張れるが、家ではなかなか続かない」というギャップを埋める一手になり得ます。
ただし、デバイスコスト・ネットワーク環境・安全管理(転倒リスク、発作リスク)の課題は残ります。今後は、テレリハプラットフォームと VR を組み合わせ、PT が遠隔で負荷設定やプログラム変更を行える仕組みが整ってくると、施設と在宅をつなぐ「ハイブリッド型リハビリ」の一要素として普及していく可能性があります。
よくある質問(FAQ)
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VR リハはどれくらいの頻度・期間で行うと効果が出やすいですか?
研究報告では、週 2〜3 回・1 回 20〜45 分程度のセッションを、4〜8 週間以上続けた場合にバランスや上肢機能の有意な改善がみられたものが多いです。ただし、施設の体制や患者さんの疲労度・酔いやすさによって調整が必要です。はじめは短時間から開始し、症状が出ない範囲で段階的に頻度・時間を増やしていくのが現実的です。
VR 酔い・めまいが心配な場合、どのように対応すればよいですか?
初回は立位よりも座位や半座位で、視覚刺激の少ないシンプルな課題から始めると安全です。めまい・頭痛・吐き気・気分不良が出た場合は速やかに中止し、その日は再開しないようにします。また、前庭障害や乗り物酔いの既往が強い方では、事前に十分な説明を行い、VR 以外のアプローチと比較しながら適応を慎重に判断します。
脳卒中のどのような患者さんに VR リハを優先して導入しますか?
注意機能がある程度保たれ、指示理解が可能で、座位・立位が安全に保てる患者さんが候補になります。上肢巧緻性の改善やバランス機能の向上を目標とするケースでは、課題指向型の VR を通常リハと組み合わせることで、反復回数とモチベーションを高めやすくなります。一方、重度失語やせん妄、強い視覚障害を伴う症例では、VR 以外のアプローチを優先することが多いです。
おわりに:VR 時代でも PT のコアは「評価と戦略」
VR リハビリテーションは、うまく使えば「楽しさ」と「高反復」を両立できる便利なツールですが、あくまで主役はセラピストと患者さんです。どの指標をどれくらい改善させたいのか、そのために VR をどのタイミングで何回組み込むのか、といった戦略設計ができれば、機器に振り回されることなく臨床効果を最大化できます。
一方で、働き方やキャリアの観点からは、こうした新技術をキャッチアップしつつ、自分の強み領域(脳卒中・運動器・高齢者リハなど)をどう磨いていくかも重要です。VR やテレリハに強い職場・教育体制の整った職場を検討したいときは、面談準備チェックリストや職場評価シートが付属するマイナビコメディカル活用ガイドを活用すると、情報収集と職場比較が整理しやすくなります。
参考文献
- Mekbib DB, Han J, Zhang L, et al. Virtual reality therapy for upper limb rehabilitation in patients with stroke: a meta-analysis of randomized clinical trials. Brain Inj. 2020;34(4):456-465. doi:10.1080/02699052.2020.1725126.
- Lu W, Shi M, Liu L, et al. Effect of virtual reality–based therapies on lower limb functional recovery in stroke survivors: systematic review and meta-analysis. J Med Internet Res. 2025;27:e72364. doi:10.2196/72364.
- Martínez Montilla LA, López Cruces K, Calderón Erazo HS, et al. Effectiveness of virtual reality in balance training for fall prevention in older adults: systematic review. Sports Med Arthrosc Rev. 2023;31(2):41-48. doi:10.1097/JSA.0000000000000367.
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

