この記事でわかること(結論)
SIAS(Stroke Impairment Assessment Set)は、脳卒中の機能障害を22 項目・最大 76 点で評価します。まずは「評価方法」→「22 項目の詳細」の順にご覧ください。採点は初回のパフォーマンスを原則とし、疼痛・理解困難・既存障害で評価不能の際は理由を所見に明記します。
結論・早見表(SIAS の全体像)
| 領域 | 項目 | 配点 | 要点 |
|---|---|---|---|
| 運動(上肢) | ① 上肢近位(膝・口) | 0–5 | 膝→口の一連動作(3 回)。 |
| ② 上肢遠位(手指) | 0–5 | 母指→小指の屈曲/小指→母指の伸展。 | |
| 運動(下肢) | ③ 下肢近位(股関節) | 0–5 | 座位で股屈曲(3 回)。 |
| ④ 下肢近位(膝伸展) | 0–5 | 90°屈曲位→伸展(3 回)。 | |
| ⑤ 下肢遠位(足パット) | 0–5 | 踵接地で背屈・底屈→高速背屈。 | |
| 筋緊張 | ⑥ 上肢筋緊張 | 0–3 | 肘の他動屈伸で判定。 |
| ⑦ 下肢筋緊張 | 0–3 | 膝の他動屈伸で判定。 | |
| 腱反射 | ⑧ 上肢腱反射(上腕二頭筋/三頭筋) | 0–3 | 左右差・クローヌス。 |
| ⑨ 下肢腱反射(膝蓋腱/アキレス腱) | 0–3 | 左右差・クローヌス。 | |
| 感覚 | ⑩ 上肢触覚(手掌) | 0–3 | 綿棒などの軽刺激。 |
| ⑪ 下肢触覚(足底) | 0–3 | 同上。 | |
| 位置覚 | ⑫ 上肢位置覚(母指/示指) | 0–3 | 他動で上下方向の弁別。 |
| ⑬ 下肢位置覚(母趾) | 0–3 | 他動で上下方向の弁別。 | |
| 関節可動域 | ⑭ 肩外転(他動) | 0–3 | 角度閾値で採点。 |
| ⑮ 足関節背屈(膝伸展位・他動) | 0–3 | 角度閾値で採点。 | |
| 疼痛 | ⑯ 疼痛(脳卒中由来) | 0–3 | 由来の限定に注意。 |
| 体幹機能 | ⑰ 垂直性 | 0–3 | 座位保持と修正可否。 |
| ⑱ 腹筋 | 0–3 | 45°後傾からの起き上がり。 | |
| 高次脳機能 | ⑲ 視空間認知 | 0–3 | テープ中央指示(ずれ量)。 |
| ⑳ 言語(失語) | 0–3 | 構音障害は除外。 | |
| 健側機能 | ㉑ 握力 | 0–3 | 握力計で kg 記録。 |
| ㉒ 健側大腿四頭筋力 | 0–3 | 座位で膝伸展筋力。 |
評価方法(手順)
- 体位・準備:標準体位を取り、必要時は安全のための最小限介助を可。
- 実施順:上肢運動→下肢運動→筋緊張→腱反射→感覚→位置覚→ROM→疼痛→体幹→高次脳→健側。
- 採点:原則は初回反応で判定。規定回数がある項目は明示回数を実施。
- 注記:鎮痛・せん妄・既存障害など評価に影響する要因は所見に明記。
SIAS の読み方・判定のコツ(実務版)
SIAS は 9 領域・22 項目の短時間プロトコルです。各項目は 0–3 または 0–5 点(高得点ほど軽症)。ここでは臨床で迷いやすい代表項目を、趣旨/判定基準/観察ポイント/しきい値の目安の順で整理します。
上肢:膝‐口テスト
趣旨: 近位優位の共同運動から選択的運動への回復段階をざっくり把握。
判定基準: 膝→口への往復で、随意性・速度低下・拙劣さ・補助の要否で段階化。
観察ポイント: 体幹側屈や肩すくめ代償、手指の固定化、疼痛による途中停止。
しきい値: 「明らかな拙劣さを超えて自立往復可(≒4/5)」で食事動作へ展開しやすい。
手指:分離運動テスト
趣旨: 把持・つまみ再獲得の可否を決めるコア。
判定基準: 集団屈伸のみ ⇨ 一部分離 ⇨ 全指分離・十分な可動の順に段階化。
観察ポイント: DIP/PIP の連動、母指対立の質、手関節固定の要否。
しきい値: 「一部でも分離成立」で自助具+課題特異的練習を導入、全指分離ならピンチ課題へ。
下肢:フット・パット
趣旨: 下肢の選択的・交互運動(歩行リズムの素地)を確認。
判定基準: 連続叩打の可否・律動性・誤動作の程度で段階化。
観察ポイント: 股外転や骨盤傾きの代償、足指屈曲の“ズル”、疲労での失調化。
しきい値: 「明らかな失調なくテンポ維持(≒3/5 以上)」で歩行リズム課題へ。
感覚(表在・深部)
趣旨: 運動学習の前提(入力の質)を簡潔に確認。
判定基準: 触圧・痛覚・位置覚の正答率や誤り方で段階化。
観察ポイント: 視覚代償の遮断、刺激タイミングのランダム化、言語理解との鑑別。
しきい値: 位置覚の大きな誤差が残る場合は視覚/体性感覚フィードバック併用を前提に課題設定。
筋緊張(肘・膝)
趣旨: 伸張速度への反応と姿勢依存性をスクリーニング。
判定基準: 受動運動での抵抗の強さ・持続・クローヌスの有無で段階化。
観察ポイント: 体位・速度の標準化、ROM 制限や疼痛との鑑別。
しきい値: 明らかな過緊張があれば反復課題前に体位・荷重・準備運動で調整。
体幹:垂直性/腹筋
趣旨: 座位制御と起居・歩行の基盤。
判定基準: 垂直保持の自立度・修正の速さ、腹筋の抗重力保持で段階づけ。
観察ポイント: 骨盤前後傾、肩すくめ代償、持続時間の落ち込み。
しきい値: 体幹合計が低いと歩行自立化が遅れやすい(下の早見参照)。
| 指標 | カットオフ | 備考 |
|---|---|---|
| SIAS 総点 | ≥ 59 点 | 感度 0.83/特異度 0.74(ROC) |
| 下肢運動(L/E)合計 | ≥ 9 点 | 感度 0.92/特異度 0.56 |
| 体幹(Trunk)合計 | ≥ 3 点 | 感度 0.97/特異度 0.51 |
| 感覚(Sensation)合計 | ≥ 9 点 | 感度 0.72/特異度 0.77 |
※ 対象や評価順序で閾値は前後します。予測は「説明変数の 1 つ」として解釈してください。
各項目の詳細(定義・手順・配点)
運動機能
① 上肢近位(膝・口テスト)|0–5
手順:座位において患肢の手部を対側膝(大腿)上より挙上し、手部を口まで運ぶ。肩は90°まで外転、その後膝上まで戻す。3 回繰り返す。肩・肘に拘縮がある場合は可動域内での連動をもって課題可能と判断。
| 点 | 定義 |
|---|---|
| 0 | まったく動かない |
| 1 | 肩のわずかな動きがあるが手部が乳頭に届かない |
| 2 | 肩肘の共同連動があるが手部が口に届かない |
| 3 | 課題可能。中等度のあるいは著明なぎこちなさあり |
| 4 | 課題可能。軽度のぎこちなさあり |
| 5 | 健側と変わらず。正常 |
② 上肢遠位(手指テスト)|0–5(1A/1B/1C を含む)
手順:手指の分離運動を母指→小指の順に屈曲、小指→母指の順に伸展。
| 点 | 定義 |
|---|---|
| 0 | まったく動かない |
| 1 | 1A: わずかな動き または 集団屈曲可能/1B: 集団伸展が可能/1C: 分離運動が一部可能 |
| 2 | 全指の分離運動可能なるも屈曲伸展が不十分 |
| 3 | 課題可能(全指の分離運動が十分な屈曲伸展を伴って可能)。中等度〜著明なぎこちなさ |
| 4 | 課題可能。軽度のぎこちなさ |
| 5 | 健側と変わらず。正常 |
③ 下肢近位(股関節テスト)|0–5
手順:座位にて股関節を90°より最大屈曲。3 回行い、必要なら座位保持のための介助は可。
| 点 | 定義 |
|---|---|
| 0 | まったく動かない |
| 1 | 大腿にわずかな動きがあるが足部は床から離れない |
| 2 | 股関節の屈曲運動あり、足部は床より離れるが十分ではない |
| 3 | 課題可能。中等度〜著明なぎこちなさ |
| 4 | 課題可能。軽度のぎこちなさ |
| 5 | 健側と変わらず。正常 |
④ 下肢近位(膝伸展テスト)|0–5
手順:座位で膝関節を90°屈曲位→十分伸展(-10°程度まで)。3 回行い、必要なら座位保持の介助可。
| 点 | 定義 |
|---|---|
| 0 | まったく動かない |
| 1 | 下腿にわずかな動きがあるが足部は床から離れない |
| 2 | 膝伸展あり、足部は床より離れるが十分ではない |
| 3 | 課題可能。中等度〜著明なぎこちなさ |
| 4 | 課題可能。軽度のぎこちなさ |
| 5 | 健側と変わらず。正常 |
⑤ 下肢遠位(足パットテスト)|0–5
手順:座位または臥位(座位は介助可)。踵を床につけたまま、足部の背屈⇄底屈を 3 回、その後できるだけ速く背屈を反復。
| 点 | 定義 |
|---|---|
| 0 | まったく動かない |
| 1 | わずかな運動があるが前足部は床から離れない |
| 2 | 背屈運動あり、足部は床より離れるが十分でない |
| 3 | 課題可能。中等度〜著明なぎこちなさ |
| 4 | 課題可能。軽度のぎこちなさ |
| 5 | 健側と変わらず。正常 |
筋緊張
⑥ 上肢筋緊張(肘の他動屈伸)|0–3
手順:肘関節を他動で伸展・屈曲して筋緊張を評価。
| 点 | 定義 |
|---|---|
| 0 | 上肢の筋緊張が著明に亢進 |
| 1 | 1A: 中等度(はっきりと)亢進/1B: 他動的筋緊張の低下 |
| 2 | 軽度(わずかに)亢進 |
| 3 | 正常。健側と対称的 |
⑦ 下肢筋緊張(膝の他動屈伸)|0–3
手順:膝関節の他動伸展・屈曲で評価。
| 点 | 定義 |
|---|---|
| 0 | 下肢の筋緊張が著明に亢進 |
| 1 | 1A: 中等度亢進/1B: 他動的筋緊張の低下 |
| 2 | 軽度亢進 |
| 3 | 正常。健側と対称的 |
腱反射
⑧ 上肢腱反射(上腕二頭筋 or 上腕三頭筋)|0–3
| 点 | 定義 |
|---|---|
| 0 | 反射が著明に亢進、または容易にクローヌス(肘・手関節)が誘発 |
| 1 | 1A: 中等度に亢進/1B: ほぼ消失 |
| 2 | 軽度に亢進 |
| 3 | 正常、健側と対称的 |
⑨ 下肢腱反射(膝蓋腱 or アキレス腱)|0–3
| 点 | 定義 |
|---|---|
| 0 | 反射が著明に亢進、または容易にクローヌス(膝・足関節)が誘発 |
| 1 | 1A: 中等度に亢進/1B: ほぼ消失 |
| 2 | 軽度に亢進 |
| 3 | 正常、健側と対称的 |
感覚
⑩ 上肢触覚(手掌)|0–3
| 点 | 定義 |
|---|---|
| 0 | 強い皮膚刺激もわからない |
| 1 | 重度あるいは中等度低下 |
| 2 | 軽度低下、あるいは主観的低下。または異常感覚あり |
| 3 | 正常 |
⑪ 下肢触覚(足底)|0–3
| 点 | 定義 |
|---|---|
| 0 | 強い皮膚刺激もわからない |
| 1 | 重度あるいは中等度低下 |
| 2 | 軽度低下、あるいは主観的低下。または異常感覚あり |
| 3 | 正常 |
位置覚
⑫ 上肢位置覚(母指 or 示指)|0–3
手順:指を他動的に運動。
| 点 | 定義 |
|---|---|
| 0 | 全可動域の動きもわからない |
| 1 | 全可動域の運動なら方向がわかる |
| 2 | ROM の1 割以上の動きなら方向がわかる |
| 3 | ROM の1 割未満の動きでも方向がわかる |
⑬ 下肢位置覚(母趾)|0–3
手順:足趾を他動的に運動。
| 点 | 定義 |
|---|---|
| 0 | 全可動域の動きもわからない |
| 1 | 全可動域の運動なら方向がわかる |
| 2 | ROM の5 割以上の動きなら方向がわかる |
| 3 | ROM の8 割未満の動きでも方向がわかる |
※ 施設版シートの表現差が出やすい項目です(例:2=50%以上、3=10%未満など)。院内基準に合わせて調整してください。
関節可動域・疼痛
⑭ 上肢関節可動域(肩外転・他動)|0–3
| 点 | 角度基準 |
|---|---|
| 0 | 60°以下 |
| 1 | 90°以下 |
| 2 | 150°以下 |
| 3 | 150°以上 |
⑮ 下肢関節可動域(膝伸展位での足関節背屈・他動)|0–3
| 点 | 角度基準 |
|---|---|
| 0 | -10°以下 |
| 1 | 0°以下 |
| 2 | 10°以下 |
| 3 | 10°以上 |
⑯ 疼痛(脳卒中由来)|0–3
含めない:既往としての整形外科的(腰痛など)、内科的(胆石など)疼痛/過度でない拘縮伸張時のみの痛み。
| 点 | 定義 |
|---|---|
| 0 | 睡眠を妨げるほどの著しい疼痛 |
| 1 | 中等度の疼痛 |
| 2 | 加療を要しない軽度の疼痛 |
| 3 | 疼痛の問題がない |
体幹機能
⑰ 垂直性|0–3
| 点 | 定義 |
|---|---|
| 0 | 座位がとれない |
| 1 | 静的座位で側方性の姿勢異常。指摘・指示でも修正されず、介助を要する |
| 2 | 静的座位で側方性の姿勢異常(傾き 15°以上)があるが、指示でほぼ垂直位に修正・維持可能 |
| 3 | 静的座位は正常 |
⑱ 腹筋|0–3
手順:車椅子/椅子に座り、殿部を前にずらして体幹を45°後方へ傾け背もたれにもたれる。大腿が水平になるよう検者が押さえ、体幹を垂直位まで起き上がらせる(抵抗は胸骨上部に付与)。
| 点 | 定義 |
|---|---|
| 0 | 垂直位まで起き上がれない |
| 1 | 抵抗を加えなければ起き上がれる |
| 2 | 軽度の抵抗に抗して起き上がれる |
| 3 | 強い抵抗に抗して起き上がれる |
高次脳機能
⑲ 視空間認知(テープ中央指示)|0–3
手順:長さ50 cm のテープを眼前約50 cmに提示し、中央を健側指で示してもらう。2 回行い、中央からのずれが大きい方を採用。
| 点 | ずれ量 |
|---|---|
| 0 | 15 cm 以上 |
| 1 | 5 cm 以上 |
| 2 | 3 cm 以上 |
| 3 | 3 cm 未満 |
⑳ 言語(失語)|0–3
注:構音障害は含めない。
| 点 | 定義 |
|---|---|
| 0 | 全失語。まったくコミュニケーションがとれない |
| 1 | 1A: 重度感覚性失語(重度混合性失語を含む)/1B: 重度運動性失語 |
| 2 | 軽度失語 |
| 3 | 失語なし |
健側機能
㉑ 握力|0–3
手順:座位で握力計の握り幅を約5 cmに設定して計測。健側のkg 数を記録。
| 点 | 基準 |
|---|---|
| 0 | 0 kg |
| 1 | 10 kg 以下 |
| 2 | 10〜25 kg |
| 3 | 25 kg 以上 |
㉒ 健側大腿四頭筋力|0–3
手順:座位で健側の膝伸展筋力を評価。
| 点 | 基準 |
|---|---|
| 0 | 重力に抗しない |
| 1 | 中等度に筋力低下 |
| 2 | わずかな筋力低下 |
| 3 | 正常 |
合計点の読み方と臨床活用
合計点は最大 76 点(高いほど障害は軽い)。ただし意思決定は領域内訳を優先します(例:手指低得点→巧緻 ADL 配慮、垂直性/視空間低得点→転倒・逸脱対策 など)。
| 所見 | 解釈 | 次アクション例 |
|---|---|---|
| ② 手指 1B/1C | 分離不十分 | 把持/つまみ訓練、補助具(太柄・滑り止め) |
| ⑰ 垂直性 1–2 | 体幹中間位の破綻 | 端座位中間位再学習、移乗時の誘導 |
| ⑲ 視空間 0–1 | 半側無視傾向 | 視覚スキャン訓練、掲示配置、歩行監視 |
| ⑯ 疼痛 0–1 | 疼痛優位 | ポジショニング・鎮痛→再評価 |
判定で迷いやすいポイント(チェック)
- 練習しすぎ厳禁:採点は初回反応で。
- ROM 条件:⑮ は膝伸展位で足背屈を評価。
- 疼痛の扱い:⑯ は脳卒中由来のみ(整形/内科の既往痛は除外)。
- 言語:⑳ は失語のみ(構音障害は別扱い)。
評価の整理と並行して進めるなら、最短 3 ステップの転職フローを押さえておくと意思決定がスムーズです。
FAQ(よくある質問)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
SIAS と NIHSS / FIM の違いは?
SIAS は機能障害、NIHSS は神経学的重症度、FIM はADL 自立度に主眼があります。目的に応じて併用します。
実施時間の目安は?
標準化されていれば約 10 分で可能です(回数規定のある項目は遵守)。
評価不能はどう扱う?
疼痛・理解困難・既存障害など理由を所見に記すうえで可能な範囲で採点します。
参考文献
- Chino N, Sonoda S, Domen K, et al. Stroke Impairment Assessment Set (SIAS). Jpn J Rehabil Med. 1994;31(2):119–125. PDF
- Liu M, et al. Psychometric properties of the SIAS. Neurorehabil Neural Repair. 2002;16(4):339–351. DOI
- Yagihashi K, et al. Pattern of item score change in SIAS. Jpn J Compr Rehabil Sci. 2020;11:79–84. PMCID
- 日本理学療法士協会学術集会 抄録(2015)入棟時 SIAS による退院時歩行自立予測(総点≥59、L/E≥9、Trunk≥3、Sensation≥9)。Link


