痙縮評価( MAS / MTS )の違いとカルテの書き方(記録例)

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痙縮評価( MAS / MTS )は「違い・やり方・書き方」まで押さえる

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痙縮評価で迷いやすいのは「 MAS と MTS ( Modified Tardieu )の違い」と「カルテにどう書くか」です。本記事では、 MAS = 抵抗の強さを等級化MTS = 速度を変えて R1 / R2 を角度で残すという役割分担を軸に、やり方(手順)書き方(記録例)まで、現場でそのまま使える形にまとめます。

結論として、回診・スクリーニングは MAS 、治療方針(装具・薬物・ボツリヌス等)を検討するなら MTS が実務的です。 MTS では R2−R1 を残すことで、動的(神経)成分と固定(構造)成分の当たりをつけやすくなります。

MAS と MTS の違い(使い分け早見)

痙縮評価: MAS と Modified Tardieu( MTS )の使い分け
視点 MAS( Modified Ashworth Scale ) MTS( Modified Tardieu Scale )
何を測る? 受動運動時の抵抗の強さを等級化 速度を変えて角度( R1 / R2 )と反応の質を記録
得意な場面 スクリーニング、回診、経時フォロー 治療方針検討、介入前後の変化判定、多職種共有
強み 短時間・シンプル、全体像を押さえやすい R2−R1 で動的成分と固定成分の当たりをつけやすい
弱み 速度や体位のブレで評価が揺れやすい 体位・速度・角度計が揃わないと再現性が落ちる
記録の要点 側・筋群・体位・等級( 0〜4 ) 側・筋群・体位・R1 / R2・反応の質・R2−R1

MAS( Modified Ashworth Scale )のやり方

MAS は「一定の条件で、ゆっくり動かして」抵抗の強さを等級化します。コツは体位と開始肢位を固定し、毎回同じ速度で動かすことです。疼痛や恐怖による防御反応があると抵抗が増えて見えるため、事前に痛みと不安の有無を確認します。

実施手順は、①対象筋の伸張方向に受動運動 ②抵抗がどの範囲で出るか(終末だけ/大部分/全体) ③動かせるか(容易/困難)を見て、下表の等級に当てはめます。 MAS は「速さを上げるほど硬く見える」ため、急いで回さないことが重要です。

MAS 等級( 0 / 1 / 1+ / 2 / 3 / 4 )の目安
等級 目安(要約) 書き分けのコツ
0 トーヌス増加なし 抵抗は感じない
1 わずかな増加( ROM 終末でひっかかり/最小抵抗) 「終末域だけ」
1+ ひっかかり後、 ROM の半分未満で最小抵抗が続く 「ひっかかり+少し続く」
2 ROM の大部分で明らかな抵抗(ただし動かせる) 「広い範囲で抵抗」
3 ROM 全体で著明な抵抗(受動運動が困難) 「かなり動かしにくい」
4 屈曲または伸展で固着 「ほぼ動かない」

MAS の書き方(カルテ記録の型)

MAS は「等級」だけだと解釈が割れるため、側・筋群・体位をセットで残すのが安全です。加えて、疼痛や防御反応の有無を一言添えると、過大評価の疑いを後から検討できます。

記録の最小セットは 【側】+【筋群】+【体位】+ MAS 等級です。余裕があれば開始肢位(膝伸展など)代償(骨盤回旋など)をメモします。

MAS 記録例(そのまま貼れる型)
評価部位 記録例(短文) 補足の一言(任意)
足関節 底屈群 右 足関節 底屈群:背臥位・膝伸展で MAS 2 疼痛なし/代償なし
肘屈筋群 左 肘屈筋群:背臥位で MAS 1+ 終末域でひっかかり
手関節 掌屈群 右 手関節 掌屈群:座位で MAS 3 疼痛で防御あり

Modified Tardieu( MTS )のやり方

MTS は速度を変えて角度を残す評価です。基本は V1(非常にゆっくり)で R2V3(できる限り速く)で R1を測ります。角度計(または角度計アプリ)を用い、体位と開始肢位を固定します。安全のため、痛みが強い・抵抗が急に強い場合は無理に押し切りません。

評価後は R2−R1 を差分として記録します。差分が大きいほど動的成分を疑いやすく、差分が小さいほど固定成分(拘縮寄り)を疑いやすい、という意思決定の材料になります(単独で断定せず、 ROM や姿勢・歩行所見と合わせます)。

MTS の用語( V1 / V2 / V3 と R1 / R2 )
項目 意味(要約) 測る目的
V1 非常にゆっくり伸張 R2(最大受動 ROM 角)を測る
V2 重力下の自然速度 必要に応じて参考
V3 できる限り速い伸張 R1(キャッチ角)と反応の質を観察
R1 V3 で急に抵抗が出る角度 動的(神経)成分の目安
R2 V1 で得られる最大角度 固定(構造)成分の目安
R2−R1 差分 意思決定(動的/固定の当たり)に使う

MTS の書き方( R1 / R2 の残し方)

MTS は「角度が命」です。最低限、側・筋群・体位・ R1 / R2(度)・ R2−R1 を残します。可能なら反応の質(キャッチ・クロー ナス等)と疼痛の有無も添えます。

記録の型は 【側】+【筋群】+【体位】+ R1 / R2(度)+ R2−R1 です。例:右 足関節 底屈群(背臥位・膝伸展) R1 10° / R2 25°、 R2−R1 = 15°。

現場の詰まりどころ(再現性を落とす原因と対策)

痙縮評価でブレるポイント( MAS / MTS 共通 )
詰まりどころ なぜ起きる? 対策 記録で守る 1 行
体位が毎回違う 支持不足で代償が混ざる 枕・タオルで支持し、開始肢位を固定 体位+開始肢位(膝伸展など)を書く
速度が一定でない 急ぐほど硬く見える MAS は一定にゆっくり、 MTS は V1 と V3 を明確に MAS / V1 / V3 を併記する
疼痛・防御反応を見落とす 痛みで抵抗が上がる 痛みを確認し、痛みが強い日は無理をしない 疼痛あり/なしを必ず書く
角度を残さない( MTS ) 主観情報になり共有できない 角度計(アプリでも可)で R1 / R2 を数値化 R1 / R2(度)と R2−R1 をセットで
固縮・失調と混同 抵抗は似るが機序が異なる 速度依存性や臨床像で切り分け、必要なら別評価を併用 速度依存性の有無を短く添える

よくある質問( FAQ )

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

Q1. 痙縮評価は MAS と MTS のどちらを優先すべきですか?

A. 回診・スクリーニングは MAS 、治療方針の検討や介入前後の判定には MTS が実務的です。 MTS は R1 / R2 を角度で残すことで、共有と再評価が一気に楽になります。

Q2. MAS の「 1 」と「 1+ 」の違いが曖昧になります

A. 迷うときは「ひっかかりが ROM 終末だけか( 1 )」「ひっかかり後に半分未満で抵抗が続くか( 1+ )」の 2 点に戻ります。速度が上がると抵抗が増えて見えるので、一定にゆっくりを守るほど判定が安定します。

Q3. MTS の V2 は必須ですか?

A. 必須ではありません。基本は V1( R2 )V3( R1 )の 2 本立てで十分です。 V2 は自然速度での反応を補助的に見たいときに参考にします。

Q4. MTS の角度計がありません。どうすればいいですか?

A. 可能なら角度計を用意するのが理想ですが、まずはスマホの角度計アプリ等で「数値化」を始めるだけでも価値があります。体位・開始肢位・速度( V1 / V3 )を固定して測ることが最重要です。

おわりに

痙縮評価は、体位と開始肢位を固定 → 速度を守って実施 → MAS で全体像 → MTS で R1 / R2 を角度で残す → 同条件で再評価の順に回すと、所見が治療方針につながりやすくなります。臨床のリズムを整えつつ、準備の抜け漏れを減らしたいときは、マイナビコメディカル(面談準備チェック&職場評価シート)も合わせて活用してみてください。

参考文献

  • Bohannon RW, Smith MB. Interrater reliability of a modified Ashworth scale of muscle spasticity. Phys Ther. 1987;67(2):206-207. doi: 10.1093/ptj/67.2.206. PMID: 3809245.
  • Shu X, McConaghy C, Knight A. Validity and reliability of the Modified Tardieu Scale as a spasticity outcome measure in adults with neurological conditions: a systematic review. BMJ Open. 2021;11(12):e050711. doi: 10.1136/bmjopen-2021-050711. PMID: 34952873.
  • Gracies JM. Pathophysiology of spastic paresis. I: Paresis and soft tissue changes. Muscle Nerve. 2005;31(5):535-551. doi: 10.1002/mus.20284. PMID: 15714510.
  • Shirley Ryan AbilityLab. Ashworth Scale / Modified Ashworth Scale(概要). SRALab.
  • Shirley Ryan AbilityLab. Tardieu Scale / Modified Tardieu Scale(概要). SRALab.

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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