MASとMTSの違いと評価方法|痙縮評価の記録例・PDF付き

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MASとMTSは「何を測るか」と記録方法が異なる

MASとMTSは、どちらも筋緊張亢進を確認する際に用いられますが、評価している内容は同じではありません。MASは、受動運動中に感じる抵抗を0、1、1+、2、3、4の6段階で記録します。一方、MTSは伸張速度を変え、速い伸張で反応が生じる角度R1、遅い伸張で得られる最大他動可動域R2、筋反応の質を記録します。

短時間で受動運動時の抵抗を共有する場合はMAS、速度によって変化する反応と関節可動域制限を分けて検討したい場合はMTSが候補です。本記事では、両者の違い、実施条件、カルテへの書き方、再評価時にそろえる条件を、記録例とPDFを交えて整理します。

筋緊張評価の全体像から確認する

評価ハブを確認する

MASとMTSの違いと使い分け

MASは受動運動時に感じる抵抗を順序尺度で表し、MTSは伸張速度による反応の変化を角度と筋反応の質で記録します。MASの点数だけでは、速度依存性の伸張反射、疼痛、防御性収縮、筋・腱・関節などの非神経性要因を明確に分離できません。

両者は優劣ではなく、評価目的によって使い分けます。複数の筋群を短時間で確認する場合はMASが使いやすく、反応が生じる角度と遅い伸張での可動域を分けて検討する場合はMTSが適しています。MASで全体を確認し、詳しく調べたい筋群へMTSを追加する方法もあります。

MASとMTSの違いと使い分け
比較項目 MAS(Modified Ashworth Scale) MTS(Modified Tardieu Scale)
主な評価内容 受動運動時に感じる抵抗 伸張速度による筋反応の変化と角度
記録する結果 0、1、1+、2、3、4の等級 R1、R2、R2−R1、筋反応の質
向いている目的 簡便なスクリーニング、経時変化の共有 速度による反応と可動域制限の内訳の検討
強み 短時間で実施しやすく、共通言語として使いやすい 反応が生じる角度と最大他動可動域を分けて記録できる
注意点 疼痛、防御性収縮、軟部組織の硬さなどの影響を受ける 体位、開始肢位、速度、角度表記、採用する手順を統一する必要がある
最低限の記録 側、筋群、体位、開始肢位、等級、影響因子 側、筋群、体位、開始肢位、R1、R2、筋反応の質、速度条件

MASのやり方

MASでは、対象筋が伸張される方向へ関節を受動的に動かし、運動中に感じる抵抗を等級化します。MASは痙縮だけを分離して測る尺度ではなく、受動運動時に検者が感じた抵抗を記録する尺度として扱うことが重要です。

再評価で比較するには、体位、開始肢位、関節の運動方向、把持位置、運動速度をできるだけ統一します。また、判定前に関節可動域検査や反復伸張を繰り返すと、その後の反応が変化する可能性があるため、評価の順番も固定します。

MASの基本手順

  1. 安静時の姿勢、疼痛、皮膚状態、既知の関節可動域制限、安全上の注意を確認する
  2. MAS判定前に、対象筋への反復した他動運動や持続伸張を行わない
  3. 対象筋が伸張される開始肢位を設定し、近位部を支持する
  4. 施設内で定めた一定の速度で、利用可能な可動範囲を受動的に動かす
  5. 抵抗が現れる範囲と受動運動の難しさから等級を判定する
  6. 体位、開始肢位、速度条件、影響因子と一緒に結果を記録する

MASは運動速度の影響を受けますが、厳密な速度条件が一律に統一されているわけではありません。施設内で「利用可能な可動範囲を約1秒で動かす」などの手順を採用する場合は、毎回同じ方法で実施してください。

必要以上に反復すると、繰り返しの伸張によって反応が変わる場合があります。測定回数と採用値の決め方も施設内で統一し、再測定した場合は記録に残します。

MASの等級と判定の目安
等級 判定の目安 整理するときの表現
0 筋緊張の増加を認めない 明らかな抵抗増加なし
1 可動域終末でキャッチと解放、または最小限の抵抗を認める 終末域を中心に軽い抵抗
1+ キャッチ後、残りの可動域の半分未満で最小限の抵抗が続く キャッチ後に短い範囲で抵抗が続く
2 可動域の大部分で明らかな筋緊張増加を認めるが、受動運動は容易 広い範囲で抵抗するが動かせる
3 筋緊張が著明に増加し、受動運動が困難 強い抵抗により動かしにくい
4 患部が屈曲位または伸展位でほぼ固定されている 受動的にほとんど動かせない

MAS 0は「筋緊張が正常」という意味ではありません。筋緊張低下がある場合も、MASでは抵抗の増加を認めないため0になります。MAS単独で筋緊張の低下、速度依存性、疼痛、拘縮を評価することはできません。

MASの書き方とカルテ記録例

MASは等級だけでなく、評価した側、筋群、体位、開始肢位を一緒に記録します。同じ「MAS 2」でも、膝伸展位と膝屈曲位では伸張される筋や測定条件が異なるため、数値だけでは再現できません。

疼痛、防御性収縮、逃避反応、代償運動がみられた場合は、痙縮以外の影響を区別できるように補足します。強い疼痛や防御性収縮がある場合は、等級を記録しても解釈を保留することがあります。

MASのカルテ記録例
評価部位 記録例 補足所見の例
足関節底屈筋群 右足関節底屈筋群:背臥位、膝伸展位、一定速度でMAS 2 疼痛なし、骨盤代償なし
肘屈筋群 左肘屈筋群:背臥位、肩関節中間位、MAS 1+ キャッチ後、短い範囲で軽度抵抗あり
手関節掌屈筋群 右手関節掌屈筋群:座位、前腕回内位、MAS 3 伸張時痛と防御性収縮があり、解釈は参考値

記録の基本形:側+筋群+体位+開始肢位+速度条件+MAS等級+評価へ影響した所見

MTSのやり方

MTSでは、同じ筋群に対して異なる速度で受動伸張を行います。非常に遅い速度で得られる最大他動可動域をR2、速い伸張でキャッチまたはクローヌスが生じる角度をR1として、角度計などを用いて記録します。

角度だけでなく、速い伸張に対する筋反応の質も記録します。再評価では、体位、開始肢位、近位固定、角度の基準、運動方向、速度条件、使用する手順を毎回そろえる必要があります。

V1・V2・V3の違い

MTSで使用する伸張速度
速度 定義 主な用途
V1 できる限りゆっくりした速度 最大他動可動域R2を測定する
V2 肢節が重力によって落下する速度 重力条件での筋反応を確認する
V3 できる限り速い安全な速度 反応角度R1と筋反応の質を確認する

R1・R2を中心に記録する手順では、V1とV3が用いられます。V2の実施方法や使用範囲は採用する手順によって異なるため、複数の方法を混在させず、使用した速度条件を記録してください。

MTSの基本手順

  1. 対象筋、測定体位、開始肢位、近位固定、角度の基準を決める
  2. V1でゆっくり伸張し、最大他動可動域R2を測定する
  3. 開始肢位へ戻し、過度な反復伸張を避ける
  4. V3で安全を保ちながら速く伸張する
  5. 最初のキャッチまたはクローヌスが生じた角度R1を測定する
  6. 採用している様式に従って筋反応の質を判定する
  7. 疼痛、代償運動、防御性収縮、測定困難などの条件を記録する

強い疼痛、防御性収縮、関節の不安定性、急激な症状変化がみられた場合は、無理に速い伸張や終末域までの測定を行いません。安全条件を確認し、必要に応じて医師や他職種へ相談します。

R1・R2・R2−R1の意味

R1は速い伸張で最初に筋反応が生じる角度、R2はゆっくりした伸張で得られる最大他動可動域です。R2−R1は両者の角度差であり、速度によって変化する動的な反応を検討する材料になります。

差が大きい場合は速度依存性の反応が関与している可能性を考え、差が小さくR2自体も制限されている場合は、筋・腱の短縮、関節拘縮、疼痛などの非神経性要因も確認します。

MTSのR1、R2、R2−R1の関係と解釈の考え方を示した図版
図:速い伸張で生じるR1、ゆっくりした伸張で得られるR2、両者の差R2−R1の見方
MTSで記録する角度と反応
項目 意味 記録上の注意
R1 V3でキャッチまたはクローヌスが最初に生じる角度 運動方向、角度の基準、測定肢位を明記する
R2 V1で得られる最大他動可動域 疼痛、骨性制限、防御性収縮で終了した場合は理由を記録する
R2−R1 遅い伸張と速い伸張で得られた角度の差 同じ運動方向と角度表記で算出する
筋反応の質 速い伸張に対して生じた抵抗、キャッチ、クローヌスなどの反応 採用した版とスコア範囲を明記する

R1とR2の差が大きい場合は、速い伸張で生じる速度依存性の動的な反応が関与している可能性を検討します。差が小さく、R2自体も制限されている場合は、筋・腱の短縮、関節拘縮、疼痛などの非神経性要因も確認します。

ただし、R2−R1だけで病態や治療適応を断定することはできません。測定誤差、肢位、近位固定、角度表記、疼痛などの影響を確認し、随意運動や活動場面の所見と合わせて解釈します。

筋反応の質を記録する

筋反応の質は、文献や評価用紙によってQMR、X scoreなど表記が異なり、0〜4版と0〜5版があります。本記事では、0〜5で記録する版の一例を示します。実際の運用では、施設で採用している様式の定義を優先してください。

MTSにおける筋反応の質の目安(0〜5版の一例)
スコア 筋反応の目安
0 受動運動中に明らかな抵抗を認めない
1 受動運動中に軽度の抵抗を認めるが、明確な角度でのキャッチはない
2 明確な角度でキャッチが生じ、その後に解放する
3 明確な角度で、10秒未満の疲労性クローヌスが生じる
4 明確な角度で、10秒以上持続するクローヌスが生じる
5 関節を他動的に動かせない状態

MTSの書き方とカルテ記録例

MTSでは、側、筋群、測定体位、開始肢位、角度の表記方法、R1、R2、筋反応の質、速度条件を記録します。同じ角度でも、足関節背屈角度として記載するのか、中間位を0°として底屈をマイナス表記するのかによって数値の意味が変わります。

施設内で角度表記を統一し、記録用紙にも基準を明示してください。疼痛や防御性収縮によって測定が影響された場合は、数値のみで痙縮を解釈せず、参考値または解釈保留として残します。

MTSのカルテ記録例
評価部位 記録例 補足所見
足関節底屈筋群 右足関節底屈筋群:背臥位・膝伸展位、R1背屈10°、R2背屈25°、筋反応2 V3で明瞭なキャッチ、疼痛なし
肘屈筋群 左肘屈筋群:背臥位、R1伸展−40°、R2伸展−10°、筋反応2 V3でキャッチ後に解放あり
手関節掌屈筋群 右手関節掌屈筋群:座位、前腕回内位、R1背屈5°、R2背屈10°、筋反応1 伸張時痛と防御性収縮があり、数値の解釈は保留

記録の基本形:側+筋群+体位+開始肢位+角度の表記方法+R1+R2+筋反応の質+速度条件+疼痛や代償運動

MAS・MTS記録シートPDF

MASとMTSを経時的に比較するには、評価結果だけでなく、体位、開始肢位、近位固定、速度などの測定条件を固定する必要があります。以下の記録シートでは、患者情報、評価前に固定する条件、MAS・MTSの測定結果、根拠メモ、再評価時の情報をA4用紙1枚にまとめられます。

本シートは記録用であり、MAS・MTSの正式な判定基準全文を掲載するものではありません。評価方法を確認したうえで、条件と結果を残すために使用してください。

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MAS・MTSの再現性を落とす5つの原因

同じ患者を評価しても結果が変わる場合は、病態の変化だけでなく、体位、開始肢位、近位固定、速度、疼痛、角度表記が変わっていないかを確認します。MAS判定前に行ったROM測定や反復伸張も、前回と今回で条件が異なる原因になります。

MAS・MTSで結果がばらつく原因と対策
原因 結果への影響 対策 記録する内容
体位や開始肢位が違う 対象筋の長さや代償運動が変わる 枕やタオルで支持し、開始肢位を統一する 体位、関節肢位、支持方法
速度や評価前の伸張条件が違う 速度依存性の反応や抵抗の感じ方が変わる 評価順序を固定し、MASは一定速度、MTSは使用した速度を明記する 評価順序、速度条件、事前の伸張
疼痛や防御性収縮がある 痙縮以外の抵抗を強く感じる 表情、逃避、息止め、疼痛部位を確認する 疼痛の有無、部位、誘発角度、反応
角度の基準が違う R1・R2を正しく比較できない 測定方向、基本軸、移動軸、角度表記を統一する 背屈角度、伸展不足角度などの表記方法
拘縮や固縮と区別していない 受動抵抗をすべて痙縮として解釈してしまう 速度による変化、終末感、疼痛、全可動域での抵抗を確認する 速度差、抵抗の型、終末感、疼痛

評価条件をそろえる4ステップ

MAS・MTSの再評価を崩さない手順
手順 実施内容 確認ポイント
1 評価目的を決める 簡便な経時評価か、速度による反応の詳しい検討か
2 測定条件を固定する 体位、開始肢位、近位固定、把持位置、速度、角度の基準
3 目的に合う尺度を実施する MAS、MTS、または両者の併用を選ぶ
4 再現できる形で記録する 側、筋群、条件、結果、評価へ影響した所見を残す

MAS・MTSの結果は活動目標と組み合わせる

MASやMTSの結果だけで治療方針を決めることはできません。痙縮や筋緊張亢進が動作を妨げているのか、立位保持や移乗を補助しているのか、疼痛、衛生管理、装具装着、介助量に影響しているのかを確認します。

再評価では、尺度の数値に加えて、治療目標に関係する変化を1〜2項目選びます。

  • 他動関節可動域と終末感
  • 疼痛と防御性収縮
  • 随意運動と選択的運動
  • 立位、歩行、移乗、更衣、整容などの活動
  • 装具の適合性と装着後の動作
  • 介助量、介護負担、清潔保持

「MASが1段階下がった」「R1とR2の差が変わった」という結果だけでなく、設定した生活目標に役立つ変化が得られたかを確認してください。

MASとMTSに関するよくある質問

Q1. 痙縮評価ではMASとMTSのどちらを優先しますか?

短時間で受動運動時の抵抗を共有する場合はMASが使いやすく、速度による反応と最大他動可動域を分けて検討したい場合はMTSが適しています。評価目的によって選び、必要に応じて併用します。

Q2. MASの1と1+はどのように区別しますか?

可動域終末でキャッチと解放、または最小限の抵抗がみられる場合は1です。キャッチ後、残りの可動域の半分未満で最小限の抵抗が続く場合は1+と判定します。開始肢位や運動速度が変わると判定も変わりやすいため、条件を統一します。

Q3. MTSのV2は必ず実施しますか?

採用する手順や評価目的によって異なります。R2を測るV1とR1・筋反応の質を確認するV3を中心に記録する方法もあります。V2を実施または省略した場合も、使用した速度条件と手順を明記してください。

Q4. R2−R1が大きければ痙縮と判断できますか?

差が大きい場合は、速い伸張で生じる速度依存性の動的な反応が関与している可能性を検討します。ただし、R2−R1だけで痙縮の有無や治療適応を断定せず、測定条件、疼痛、関節可動域、姿勢、随意運動、活動への影響と合わせて判断します。

Q5. MASやMTSは何回測定すればよいですか?

すべての場面に共通する測定回数だけでなく、採用する手順に従うことが重要です。必要以上に反復すると伸張反応が変化する可能性があるため、施設内で測定回数と採用値を統一し、再測定した場合は条件を記録します。

まとめ|MASとMTSは条件と記録をそろえて使う

MASは受動運動時の抵抗を簡便に段階化し、MTSは異なる伸張速度に対する反応をR1、R2、R2−R1、筋反応の質で記録する評価です。MASの点数やR2−R1だけで病態を断定せず、疼痛、関節可動域、随意運動、姿勢、活動への影響を合わせて解釈します。

再評価で比較するには、側、筋群、体位、開始肢位、近位固定、把持位置、速度、角度の基準を記録し、同じ条件を再現することが重要です。まず評価目的を決め、簡便な経時評価にはMAS、速度による反応と可動域を詳しく見る場合にはMTSを選択してください。


参考文献

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著者情報

rehabilikun

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。

現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。

保有資格

  • 脳卒中認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター2級

専門分野

脳卒中、褥瘡・創傷ケア、呼吸リハビリテーション、リハビリテーション栄養、シーティング、摂食・嚥下

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