BMS 基本動作|9 項目の評価スケールと採点

評価
記事内に広告が含まれています。

BMSとは?(目的と使いどころ)

理学療法のキャリアガイドを見る

BMS( Basic Movement Scale )は、リハビリテーションの現場で基本動作を評価するために用いられる基本動作 評価スケールです。寝返り・起き上がり・立ち上がり・保持・移乗・踏み返し・歩行という 9 項目を 1〜5 点で採点し、合計 60 点で機能レベルを把握します。特に片麻痺や一側優位な障害では、左右差の影響を受けやすい動作を左右別採点(各 5 点)とすることで、回復過程や代償パターンの変化を追いやすいのが特徴です。

所要時間は概ね 5〜10 分と短く、ベッドサイドでのスクリーニングから在宅移行前の確認まで幅広く使えます。BMS 基本動作の評価結果を、歩行速度やバランス評価、筋力測定などと組み合わせることで、BMS リハビリとしての介入計画を具体化しやすくなります。特に脳卒中などの神経疾患では、BMS 理学療法の一環として、ゴール設定や家屋調査前の整理にも有用です。

BMS の評価項目(9 項目と配点)

1・2・8 は左右別採点(各 5 点)とし、それ以外の項目は単一 5 点で評価します。左右別採点の合計と単一項目の合計を合わせて最大 60 点となります。

表 1.BMS の 9 項目と配点の考え方(成人)
# 項目 採点 評価のポイント
1 寝返り(右/左) 各 5 点(左右別) 上肢使用の有無、動作の連続性、体幹回旋の質やタイミングを確認する。
2 起き上がり(右/左) 各 5 点(左右別) 肩甲帯と骨盤の協調、上肢支持の要否、めまい・起立性低血圧症状の有無を観察する。
3 端座位保持 5 点 骨盤前後傾と体幹保持、足部接地の安定性、上肢支持の有無を確認する。
4 立ち上がり 5 点 足圧の前方移動、股・膝・足関節の伸展の同期性、補助手段や介助の要否を評価する。
5 立位保持 5 点 上肢支持の有無、体幹の揺れや姿勢偏位、視覚入力への依存の程度などを観察する。
6 着座 5 点 股関節屈曲主導でのコントロール、後方失調や着座直前の制動の質を確認する。
7 乗り移り 5 点 方向転換・段差処理・ブレーキ操作の確実性、介助量や動作の安全性を評価する。
8 足の踏み返し(右/左) 各 5 点(左右別) ステップ反応、足関節戦略、支持脚側の安定性を確認し、転倒リスクの手がかりとする。
9 歩行 5 点 歩容・歩行速度・補助具・上肢支持の有無などを総合的に観察する。

採点基準(5〜1 点)

各項目は「上肢使用の有無」と「成功の安定性」に着目して 5〜1 点で評価します。同じ得点でも動作の質や安全性が異なる場合があるため、自由記載欄もセットで活用します。BMS 基本動作の変化を追う際には、数値とコメントを一体で見返せるようにしておくと便利です。

表 2.BMS の採点基準
得点 区分
5 上肢を使わなくても、安定してできる。
4 上肢を使わなくてもできるが、毎回ではなく一貫性に欠ける。
3 上肢を使うと、安定してできる。
2 上肢を使うとできるが、毎回ではなく成功が不安定。
1 上記条件でも実施できない、もしくは危険が大きく実施困難。

実施手順(簡易プロトコル)

  1. 評価の目的と流れを説明し、同意を得たうえで、バイタルサインと転倒リスクを確認する。
  2. ベッド・椅子・歩行補助具・手すりなど必要物品を準備し、環境を整える。
  3. 各項目を安全第一で実施し、上肢使用の有無再現性(毎回できるか)に着目して採点する。
  4. 左右別項目( 1・2・8 )は、右と左を個別に評価し、偏りを記録しておく。
  5. 合計点( /60 )を算出し、補助手段・介助量・痛み・バランスなどの観察所見を自由記載に残す。

評価者間で結果を共有する際は、動画や写真の記録、チェックシートを併用することで解釈のズレを減らせます。BMS リハビリの流れをチームでそろえておくと、申し送りやカンファレンスでも共有しやすくなります。

判定と臨床解釈の目安

  • 合計点が高いほど基本動作の自立度が高く、入退院や在宅移行の目安として経時的変化を追跡しやすい。
  • 左右別項目(寝返り・起き上がり・踏み返し)の偏りは、片側の支持性低下や選択的運動障害の示唆となる。
  • 同じ合計点でも、補助手段の有無や介助量、安全余裕度が異なることがあるため、必ず自由記載とセットで解釈する。
  • 歩行やバランス評価、筋力評価、ADL 尺度と組み合わせることで、基本動作 評価スケールとしての BMS の位置づけが明確になり、ゴール設定や在宅環境調整の具体化につながる。

臨床では、合計点のみを見るのではなく、どの項目でつまずいているか(ボトルネック)と、左右差や再現性の有無を重視してプランニングする方が有用です。特に神経筋疾患では、動作パターンの変化を早期に捉え、Basic Movement Scale のスコア推移と照らし合わせながら介入内容を調整していきます。

安全管理と中止基準の例

  • 収縮期血圧が 180 mmHg 以上、または著明な自覚症状(めまい・息切れ・胸部不快感など)が出現した場合は中止を検討する。
  • 立ち上がり・踏み返し・歩行の項目では、介助者を配置し、十分なスペースと手すりなどの退避手段を確保する。
  • 疼痛や痙縮の増悪、低血糖・低酸素血症が疑われる所見があれば、評価を延期し、必要に応じて主治医や看護師へ連絡する。
  • 認知機能障害や高リスク症例では、難易度の高い項目を省略し、日常生活で必要な場面に絞って実施する。

記録例(カルテ記載のサンプル)

BMS:32/60
内訳:寝返り 右 3・左 4、起き上がり 右 3・左 3、端座位 5、立ち上がり 3、
立位保持 3、着座 4、乗り移り 3、踏み返し 右 2・左 3、歩行 3
補助手段:T 字杖、平行棒併用
介助量:起立・乗り移りは一部介助
所見:立位で体幹後方偏位と右支持脚不安定。踏み返し時に右股関節屈曲不足。

カルテ記載では、数値だけでなく「どの動作で・どのような失敗や代償が出ているか」を 1〜2 行で具体的に残しておくと、カンファレンスや退院サマリー作成時に流用しやすくなります。

BMS 評価用紙(A4)とチェックシート

  • BMS 評価用紙(Excel 版・A4):得点欄と所見欄をそのまま印刷して使用可能。施設用に編集すれば、独自の基本動作 評価スケールとしても運用できます。
  • BMS 評価用紙(HTML 版・A4):ブラウザで開いて印刷、または PDF として保存しても文字化けしにくい形式です。

これらの BMS 評価用紙をあらかじめ病棟やリハビリ室にストックしておくと、初回評価や再評価の際にすぐ使えて便利です。BMS 評価用紙と他の評価スケールを同じファイルで管理しておくと、指示のない休日リハや当直帯でも評価の標準化に役立ちます。

現場の詰まりどころ

  • 合計点だけを追ってしまう
    「何点だったか」だけが共有され、どの項目がボトルネックなのかが曖昧になるケースが多く見られます。特に寝返り・起き上がり・踏み返しは、点数以上に「どこで止まるか」「どこに代償が出るか」を言語化しておくと、チームカンファレンスでの議論が深まります。
  • 左右別採点の活かし方がぼんやりしている
    左右別採点をしているのに、「右と左、どちらを優先して介入するか」が整理されないまま訓練に入ってしまうことがあります。得点差が大きい側を重点ターゲットとしつつ、「安全側(支持脚)」「挑戦側(遊脚)」の役割を決めておくと、訓練設計がシンプルになります。
  • 環境・補助手段込みで評価されていない
    普段と違うベッドや椅子、高さの合わないトイレで評価すると、患者の本来のパフォーマンスから乖離することがあります。可能な範囲で「日常使用している環境」を再現するか、「いつもと違う条件」で評価したことを必ず記録に残しましょう。
  • 評価者間での基準のズレ
    5 点と 4 点、3 点と 2 点の境界が評価者によって違うと、経時変化が患者の実力変化なのか評価者の違いなのか分からなくなります。BMS 運用開始前に、動画やロールプレイで「これは 4 か 3 か」をすり合わせておくと、評価の信頼性が高まります。

おわりに

BMS は「安全確認 → 基本動作の評価 → ボトルネックの共有 → 訓練と環境調整 → 再評価」という臨床のリズムを、一枚の評価用紙に落とし込めるツールです。筋力や歩行速度だけでは見えにくい「動作の組み立て方」「左右差の活かし方」を整理し、チームで同じイメージを持つきっかけとして活用できます。

働き方を見直すときの抜け漏れ防止に、見学や情報収集の段階でも使える面談準備チェック( A4・5 分)と職場評価シート( A4 )を無料公開しています。印刷してそのまま使えるので、次の一歩を考えるときの土台づくりに活用してみてください。ダウンロードはこちら

よくある質問(FAQ)

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

Q.対象となる患者は?

脳卒中を含む成人の入院期・回復期・生活期で幅広く利用できます。高齢者の廃用症候群や整形外科疾患でも、「基本動作のボトルネック」を整理する目的で使用可能です。特に在宅復帰を見据えた症例では、家屋調査や福祉用具選定の前に BMS で全体像を押さえておくと、優先順位を決めやすくなります。

Q.評価にかかる時間は?

初回は説明も含めて 10 分前後、慣れてくると 5〜7 分程度が目安です。立位や歩行の安全確保に時間を要する症例では、リスクの高い項目を省略し、必要な基本動作に絞って実施します。記録欄をあらかじめ印刷しておき、評価と同時にメモしていくと、全体の所要時間を短縮しやすくなります。

Q.片麻痺でも評価できますか?

左右別採点の設計のため、片麻痺症例でも評価可能です。特に寝返り・起き上がり・踏み返しは、患側と健側の差を経時的に追うことで、介入効果や代償パターンの変化を把握しやすくなります。必要に応じて「患側での試行は危険」などの条件を記録に残し、チームで共有しておくと安全です。

Q.他の評価とどう組み合わせればよいですか?

BMS は「基本動作の質」に強い尺度です。歩行速度やバランス評価、筋力評価、ADL 尺度などと組み合わせることで、評価と訓練の導線が明確になります。例えば、BMS で「起き上がり 3 点・立ち上がり 2 点」の患者では、ベッド高や椅子高の調整、手すり・スライディングボードの導入など、環境調整と動作練習をセットで検討すると効果的です。

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

運営者について編集・引用ポリシーお問い合わせ

タイトルとURLをコピーしました