NPI/NPI-NH の違い【比較・使い分け】BPSD 評価

評価
記事内に広告が含まれています。

NPI/NPI-NH の結論:迷ったら「情報源」で決める(在宅=家族、施設=職員)

NPI( Neuropsychiatric Inventory )と NPI-NH( Nursing Home version )は、認知症の BPSD(行動・心理症状)をドメイン別に整理し、頻度( 0–4 )×重症度( 0–3 )で負荷を定量化する評価です。どの症状が、どの程度、どんな誘因で起きているかを「共通言語」にできるため、非薬物的介入(環境・ケア手順)と薬物療法の優先順位づけに役立ちます。

使い分けの本質は「内容」より情報源です。家族・キーパーソンから面接で情報を取るなら NPI病棟・老健・特養などで職員観察を集約して回すなら NPI-NHが実務に乗ります。迷うときは「誰が、どの場面の事実を一番持っているか」で決めるのが最短です。

5 秒で決める:NPI/NPI-NH の使い分け早見

NPI/NPI-NH の最短判断(成人・認知症領域/ 2025 年版)
あなたの場面 主情報提供者(中心) まず選ぶ
在宅・外来フォロー 家族・キーパーソン NPI
病棟・老健・特養(施設ケア) 介護・看護スタッフ(観察共有) NPI-NH
移行期(在宅→入所、病棟→施設など) 情報が分散しやすい 情報源を固定できる方(家族中心なら NPI、職員中心なら NPI-NH)
  1. まず「誰が日常の事実を一番持っているか」を決める(家族か、職員か)。
  2. 次に「観察期間」を固定する(例:過去 1 週間)。
  3. 最後に「再評価の間隔」を固定する(例: 1〜2 週間)。

NPI と NPI-NH の違い(ここだけ押さえれば運用が崩れません)

どちらも基本構造は同じですが、NPI は介護者面接(家族)、NPI-NH は施設の職員観察を前提に運用が組まれています。導入時に「情報源」「観察期間」「どのドメインまで採用するか」をチームで決めておくと、カンファレンスの議論と経時比較がスムーズです。

NPI と NPI-NH の主要な違い(運用で差が出るポイント)
項目 NPI NPI-NH
主情報提供者 家族・キーパーソン 介護・看護スタッフ(施設観察)
拾いやすい場面 家庭内の生活史・こだわり・介護負担 食事・排泄・更衣・夜間など施設の具体場面
ブレやすい要因 家族の観察量・表現の差 担当者差(勤務帯・経験差)
対策(コツ) 具体例を 1 件以上、時間帯と誘因つきで記録 観察ログを先に集約し、代表例で面接を進める
所要時間(目安) 約 10–20 分 約 10–15 分(観察共有で短縮しやすい)
スコア 頻度( 0–4 )×重症度( 0–3 )→ ドメイン( 0–12 ) 同様(施設運用のルール化で再現性が出やすい)

ドメイン(領域)の見取り図:何を拾う評価か

ドメインは「症状名を付ける」ためではなく、「介入優先度を決める」ための整理枠です。合計点の高さだけでなく、どのドメインが高いかを見て、誘因(時間帯・場面・人物)とセットで共有します。

  • 妄想( Delusions )
  • 幻覚( Hallucinations )
  • 興奮・攻撃性( Agitation / Aggression )
  • 抑うつ・ディスフォリア( Depression / Dysphoria )
  • 不安( Anxiety )
  • 多幸( Euphoria / Elation )
  • 無関心・アパシー( Apathy / Indifference )
  • 脱抑制( Disinhibition )
  • 易刺激性・感情不安定( Irritability / Lability )
  • 異常行動(常同行動・目的のない歩行など/ Aberrant Motor )
  • 夜間行動・睡眠( Night-time Behavioral Disturbances )
  • 食欲・摂食異常( Appetite / Eating Abnormalities )

採点と解釈:見るのは「合計点」より「上位ドメイン」

各ドメインで 頻度 0–4重症度 0–3を掛け合わせ、ドメインスコア 0–12 点を算出します。合計点はドメイン構成で上限が変わるため、チーム内の様式に「上限( 120 or 144 )」と「採用ドメイン」を明記し、再評価も同条件で比較します。

計算例:妄想=頻度 3 ×重症度 2= 6 点、無関心= 2 × 3= 6 点、易刺激性= 2 × 2= 4 点 … → 合計 24 点。合計点が同じでも、上位ドメインが変われば「介入の当て方」が変わります。上位 1〜3 ドメインを先に決め、誘因(時間帯・場面・人物)と対処(声かけ・環境)もセットで記録します。

聞き取りの型:有無 → 具体例 → 頻度 → 重症度の順で迷いません

聞き取りは、いきなり点数を決めにいくとブレます。まず有無を確認し、次に代表的な具体例を 1 件以上(時間帯・場面・誘因つき)で固め、その具体例をもとに頻度重症度を決めます。

面接の順番(ブレを減らす型)
順番 確認すること 記録のコツ
1 そのドメインはあるか(有無) 迷ったら「直近 1 週間で 1 回でもあったか」で統一
2 代表的な具体例(いつ・どこで・何の直後に) 時間帯/場面(食事・排泄・更衣・夜間)を必ず入れる
3 頻度( 0–4 ) 「週に何回か」「ほぼ毎日」などをチームの言葉で固定
4 重症度( 0–3 ) 介助量・安全リスク・中断の有無を軸に判断するとブレにくい

施設で回すコツ:観察ログを集めてから NPI-NH を回す

施設版( NPI-NH )で一番起きやすい失敗は、担当者ごとに「見ている場面」が違い、結果としてスコアがぶれることです。対策は、面接の前に観察ログ(時間帯・場面・誘因・対応・結果)を集約し、代表例をそろえてから回すことです。

全体の運用(原因の除外 → 観察 → 尺度 → 介入 → 再評価)を 1 本で整理した記事もあります:BPSD 評価の進め方(フロー)

  1. 準備:直近 1 週間の具体例を、日勤・夜勤それぞれ 1 件以上集める(時間・場面・誘因・対応・結果)。
  2. 面接:代表例を確認しながら、有無 → 頻度 → 重症度を決める(情報源は職員に固定)。
  3. 共有:上位 1〜3 ドメインに絞って、非薬物的介入(環境調整・ケア手順)を決める。
  4. 再評価: 1〜2 週間後に同じ期間・同じ情報源で取り直し、具体例の変化も併記する。

現場の詰まりどころ:点数より「条件固定」が先です

詰まりやすいのは、①情報源が一定でない(家族と職員が混在)、②観察期間が曖昧(いつの話かが混ざる)、③具体例がなく点数だけが残る、の 3 つです。これが起きると、合計点の増減が「症状変化」なのか「評価条件の変化」なのか分からなくなります。

対策は、情報源・観察期間・再評価間隔を固定し、上位ドメインには必ず具体例(時間帯・場面・誘因・対応・結果)を 1 行で添えることです。点数は「介入の優先度」と「変化」を見える化する道具として機能しやすくなります。

よくある質問(FAQ)

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

Q1.NPI と NPI-NH はどう使い分けますか?

結論は「情報源」です。家族・キーパーソンの面接で情報を取れる在宅・外来は NPI、日々の観察を職員から集約して回せる病棟・老健・特養などは NPI-NH が実務的です。移行期は「どちらの情報源を固定できるか」で先に決め、記録に明記して混乱を防ぎます。

Q2.合計点は 120 と 144 のどちらを使えばよい?

採用するドメイン構成で上限が変わります。重要なのは、チームで「採用ドメイン」と「上限」を決め、評価用紙と記録様式に明記し、再評価も同条件で比較することです。

Q3.短時間で概況だけ把握したいときは?

短時間なら NPI-Q が選択肢になります。ただし、介入設計や効果判定まで行うなら、上位ドメインと具体例が整理できる NPI/NPI-NH のほうが「次の一手」を決めやすくなります。

おわりに

NPI/NPI-NH は、BPSD を「上位ドメイン+具体例」で整理し、介入の優先度と変化をチームで共有するための尺度です。評価は 1 回で完結させず、条件固定 → 介入 → 再評価までを 1 セットで回すと、非薬物的介入が当たりやすくなります。

面談前の整理や職場選びの抜け漏れ防止に。見学・情報収集の段階でも使える面談準備チェック( A4・5 分 )と職場評価シート( A4 )を公開しています:詳しく見る

参考文献

  • Cummings JL, Mega M, Gray K, Rosenberg-Thompson S, Carusi DA, Gornbein J. The Neuropsychiatric Inventory: Comprehensive assessment of psychopathology in dementia. Neurology. 1994;44(12):2308–2314. DOI: 10.1212/WNL.44.12.2308
  • Wood S, Cummings JL, Hsu M-A, et al. The NPI—Nursing Home version ( NPI-NH ): Development and validation. Am J Geriatr Psychiatry. 2000;8(1):75–83. DOI: 10.1097/00019442-200002000-00010
  • Kaufer DI, Cummings JL, Christine D, et al. Validation of the NPI-Q, a brief clinical form of the Neuropsychiatric Inventory. J Neuropsychiatry Clin Neurosci. 2000;12(2):233–239. DOI: 10.1176/jnp.12.2.233

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

運営者について編集・引用ポリシーお問い合わせ

タイトルとURLをコピーしました