被動性検査とは?何が分かる評価か
被動性検査は、検者が関節を他動的に動かし、動かしやすさ、速度による変化、抵抗が現れる角度、抵抗の質、疼痛を確認する筋緊張評価です。被動性亢進は抵抗が少なく動かしやすい状態、被動性低下は抵抗が強く動かしにくい状態を指します。
ただし、抵抗が強いだけで痙縮や固縮と確定することはできません。本記事では、疼痛・防御性収縮・拘縮を切り分けながら被動性検査を進め、再評価できる形で記録する手順を解説します。MASの採点やMTSの筋別手順は、別記事で扱います。
評価方法を領域別に確認する
先に結論:被動性検査は、低速で疼痛や機械的制限を確認し、速度を上げたときの抵抗変化を比べ、条件と所見をその場で記録します。病態名を決める検査ではなく、次に行うROM、反射、MAS、MTSなどを選ぶためのスクリーニングです。
被動性検査のやり方|5ステップ
被動性検査は、条件固定 → 低速 → 速度比較 → 所見の整理 → 記録の順に進めます。最初から速く動かすと、疼痛や防御性収縮を痙縮様の抵抗と誤認しやすいため、低速での確認を省かないことが重要です。
| 段階 | 確認すること | 次の判断 |
|---|---|---|
| 1. 条件固定 | 体位、支持、安静、疼痛、開始肢位 | 安全に速度比較できるか |
| 2. 低速 | 他動可動域、終末域感、疼痛、防御 | 機械的制限が混在していないか |
| 3. 速度比較 | 速度を上げたときの抵抗、キャッチ、角度 | 速度依存性があるか |
| 4. 所見整理 | 連続・断続・低抵抗・終末域制限 | 次に行う評価を選ぶ |
| 5. 即時記録 | 条件、方向、速度、角度、抵抗、疼痛 | 同じ条件で再評価できる形にする |

ステップ1|体位・支持・疼痛をそろえる
対象者ができるだけ力を抜ける安定した体位を選びます。仰臥位が使いやすい場面は多いものの、すべての関節や尺度で仰臥位に固定するわけではありません。対象関節、使用する評価方法、対象者の状態に合わせ、毎回同じ体位と開始肢位を再現できることを優先します。
近位側は関節軸がぶれないように支持し、遠位側は過度に握り込まず保持します。開始前に「ゆっくり動かした後、少し速く動かします。痛みがあれば教えてください」と説明し、疼痛や恐怖がある場合は十分にならしてから進めます。
ステップ2|低速で他動可動域と疼痛を確認する
最初はゆっくり動かし、他動可動域、終末域感、疼痛、表情、防御性収縮を確認します。ここで見ているのは筋緊張だけではありません。関節包、筋・腱などの軟部組織、浮腫、疼痛、恐怖による随意的な力みも抵抗に影響します。
低速でも明確な可動域制限があり、同じ角度で終末域の抵抗が再現される場合は、痙縮だけでなく拘縮や組織性の制限を考えます。強い疼痛や防御が出る場合は、無理に速度を上げず、疼痛条件つきの所見として記録します。
ステップ3|速度を上げて抵抗の変化を比べる
低速で安全を確認した後、同じ関節、方向、開始肢位で速度を上げます。確認するのは、速くしたときに抵抗が強くなるか、特定の角度でキャッチが現れるか、抵抗が全域で続くかです。
- 速いほど特定角度の反応が明確になる:痙縮様の所見
- 速度を変えても全域で比較的一様な抵抗が続く:固縮様の所見
- 低速でも同じ終末域で制限される:拘縮・組織性制限を疑う所見
- 抵抗が少なく、関節が動かされやすい:低緊張を疑う所見
- 痛みや予測で抵抗が変動する:防御性収縮を疑う所見
これらは病態を確定する所見ではありません。反射、クローヌス、随意運動、姿勢、動作、疼痛、他動可動域などと合わせて解釈します。
ステップ4|一般的な被動性検査とMAS・MTSを分ける
一般的な被動性検査では、低速と速い条件を比べ、抵抗の変化を言語化できれば目的を達成できます。一方、V1・V2・V3やR1・R2は、主にTardieu Scale/Modified Tardieu Scaleで用いる定義です。
| 方法 | 速度・記録 | 主な目的 |
|---|---|---|
| 一般的な被動性検査 | 低速と速い条件を比較し、抵抗の質と変化を記録 | 筋緊張異常や機械的制限のスクリーニング |
| MAS | 定めた条件で受動運動時の抵抗を段階化 | 受動運動時の抵抗を簡便に共有 |
| MTS | V1・V2・V3、R1・R2、筋反応の質を使用 | 速度による反応と最大他動可動域を分けて記録 |
V1・V2・V3とR1・R2の注意点
- V1:できるだけゆっくり動かす速度
- V2:検査肢が重力で落下する速度
- V3:安全な範囲でできるだけ速く動かす速度
- R2:V1で確認する最大他動可動域
- R1:速い伸張で最初の明確な反応が現れる角度
使用するMTSの版や手順によって細部が異なる可能性があるため、正式に採点する場合は採用している手順へ統一してください。
R2−R1の差が大きい場合は速度に関連する動的成分を考えやすく、差が小さい場合は機械的な短縮の寄与を考えやすくなります。ただし、測定肢位、疼痛、検者の速度、角度の読み方などに影響されるため、差だけで病態や治療方針を断定しません。
ステップ5|条件と所見をその場で記録する
被動性検査は、後から「どの体位で、どの速度で、どこに抵抗が出たか」を思い出しにくい評価です。最低限、側、体位、関節・方向、開始肢位、速度、角度、抵抗の型、疼痛をその場で残します。
被動性亢進・被動性低下の意味
被動性は、筋緊張そのものの高さではなく、検者が他動的に動かしたときの動かされやすさを表す言葉です。そのため、筋緊張と被動性では「亢進・低下」の向きが反対になりやすい点に注意します。
| 用語 | 意味 | 筋緊張との関係 |
|---|---|---|
| 被動性亢進 | 抵抗が少なく、外力で動かされやすい | 筋緊張低下を疑う |
| 被動性低下 | 抵抗が強く、外力で動かしにくい | 筋緊張亢進や機械的制限を疑う |
| 他動運動 | 検者や器具などの外力で関節を動かすこと | 被動性を確認するための操作 |
| 受動性 | 外からの働きかけを受ける状態を表す一般的な言葉 | 被動性検査の所見名とは区別する |
被動性低下があっても、原因が痙縮とは限りません。固縮、拘縮、疼痛、防御性収縮、浮腫や軟部組織の硬さでも動かしにくくなります。
痙縮・固縮・低緊張・拘縮・疼痛防御の見分け方
被動性検査では、病名を一つに決めるのではなく、速度で変わるか、抵抗がどこに出るか、低速時の可動域が保たれているかを基準に、次に確認する評価を選びます。
表は横スクロールできます。
| 所見 | 速度による変化 | 抵抗の特徴 | 次に確認すること |
|---|---|---|---|
| 痙縮様 | 速い伸張で現れやすい | 特定角度のキャッチ、クローヌス、抵抗の立ち上がり | 腱反射、クローヌス、MTS、動作への影響 |
| 固縮様 | 速度差が比較的小さい | 屈曲・伸展方向で持続する抵抗、鉛管様または歯車様 | 寡動、振戦、姿勢反射などの神経学的所見 |
| 低緊張 | 明確な速度依存性を認めにくい | 抵抗が乏しく、関節が動かされやすい | 姿勢保持、反射、筋力、関節の安定性 |
| 拘縮・組織性制限 | 低速でも制限される | 同じ終末域で抵抗が再現される | ROM、終末域感、疼痛、筋長、関節包・軟部組織 |
| 疼痛・防御性収縮 | 説明、予測、反復で変動しやすい | 表情変化、息こらえ、不規則な力み、痛み回避 | 疼痛部位、誘発条件、安楽肢位、反復による変化 |
判断の境界:「速く動かすと抵抗が強い」だけでは痙縮と確定できません。疼痛、防御、開始肢位、近位支持、反復による変化を確認し、反射所見や標準化された尺度と合わせて判断します。
被動性検査の記録方法と記載例
再評価に使える記録は、「硬い」「トーンが高い」ではなく、どの条件で、どの角度に、どのような抵抗が出たかが分かる記録です。角度を残す場合は、測定肢位と0°の基準も併記します。
| 項目 | 記録する内容 |
|---|---|
| 側・部位 | 左右、対象関節、対象筋群 |
| 体位 | 仰臥位、座位、膝屈曲位など |
| 支持・開始肢位 | 近位支持、関節の開始角度、隣接関節の位置 |
| 運動方向 | どの方向へ他動運動したか |
| 速度 | 低速、速い条件、またはV1・V2・V3 |
| 角度 | 抵抗が現れた位置、最大他動可動域、角度の基準 |
| 抵抗の質 | 連続、キャッチ、クローヌス、低抵抗、終末域制限 |
| 疼痛・防御 | 有無、部位、表情、息こらえ、随意的な力み |
記載例
痙縮様の所見
右足関節背屈、仰臥位・膝伸展位。低速では終末域に弾性抵抗を認め、疼痛なし。速度を上げると中間域に明確なキャッチを認める。角度測定と反射所見を追加確認する。
固縮様の所見
右手関節伸展、座位・前腕支持。低速と速い条件の双方で全域に連続抵抗を認め、速度差は明確でない。疼痛なし。固縮様所見として他の神経学的所見と合わせて確認する。
MTSを使用する場合の型
対象筋群:___/測定肢位:___/角度基準:___/R1:__°/R2:__°/筋反応の質:__/疼痛:有・無
被動性検査|記録シートPDF
記録シートでは、患者情報、体位・支持、疼痛、速度条件、抵抗の型、R1・R2、再評価メモをA4一枚に整理できます。条件の書き忘れを減らし、同じ条件で再評価したい場合に使用してください。
使用上の注意:このPDFは所見と再評価条件をそろえるための記録補助シートです。MASやMTSの公式評価用紙ではありません。V1〜V3、R1・R2を正式な尺度として使用する場合は、採用している尺度の定義と測定条件へ統一してください。
被動性検査で迷いやすい場面と対策
所見の再現性を下げやすいのは、疼痛と防御の混在、速度条件の曖昧さ、近位支持の不足、尺度用語の自己流使用です。結果だけでなく、検査条件を修正してから再確認します。
表は横スクロールできます。
| よくある失敗 | 起こる問題 | 回避方法 | 記録 |
|---|---|---|---|
| 痛みがあるまま速度を上げる | 防御性収縮を痙縮様の抵抗と誤認する | 説明、安楽肢位、ならし、低速確認を優先する | 疼痛部位と誘発条件を残す |
| 低速と速い条件の差が小さい | 速度依存性を判断できない | 開始肢位と可動範囲をそろえ、安全な範囲で速度差を明確にする | 使用した速度条件を記録する |
| 近位支持が不足する | 代償運動や関節軸のずれを抵抗として捉える | 近位を支持し、隣接関節の位置を固定する | 体位と支持方法を残す |
| V1・V2・V3を自己流で使う | 検者間で速度条件が一致しない | 一般観察では低速・速い条件と記載し、MTSでは正式な定義へ統一する | 使用した尺度名と版を残す |
| 抵抗だけで病態を決める | 拘縮、疼痛、固縮、痙縮を誤分類する | ROM、反射、疼痛、随意運動、動作所見を追加する | 「痙縮様」など仮説として記載する |
被動性検査のよくある質問
Q. 被動性亢進は、筋緊張が高いという意味ですか?
反対です。被動性亢進は、検者が関節を動かしたときの抵抗が少なく、動かされやすい状態を指します。そのため、筋緊張低下を疑う所見になります。抵抗が強く動かしにくい状態は、被動性低下です。
Q. MASとR1・R2は、どちらを優先すべきですか?
目的によって異なります。受動運動時の抵抗を短時間で段階化して共有する場合はMAS、速度による反応と最大他動可動域を分けて確認する場合はMTSのR1・R2が適しています。どちらも疼痛や機械的制限の影響を受けるため、結果だけで病態を断定しません。
Q. 痛みで力が入る場合は、痙縮を評価できますか?
疼痛による防御性収縮が強い状態では、痙縮由来の抵抗と分けにくくなります。無理に高速条件まで進めず、疼痛部位、誘発条件、低速時の所見を記録し、疼痛や体位を調整した後に再評価します。
Q. 被動性検査だけで痙縮と固縮を見分けられますか?
被動性検査は見分けるための手掛かりになりますが、単独で確定はできません。速度による変化、キャッチ、連続抵抗の有無に加え、反射、クローヌス、寡動、振戦、姿勢、随意運動などを合わせて判断します。
次の一手
- 動かす前の視診・触診から整理する:筋緊張評価の視診と触診|抵抗の正体を見分ける
- 痙縮が疑われる場合に定量する:痙縮評価のMAS・MTS|違い・手順・記録例
参考文献
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著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

