パーキンソン病の理学療法評価は「条件固定 → 最小セット → 追加評価」で迷いません
パーキンソン病の理学療法評価は、最初から検査を増やすよりも、オン / オフ・病期・安全性を先に固定してから最小セットを選ぶ方が実務でぶれにくいです。この記事では、評価項目一覧と選び方、オン / オフを踏まえた評価タイミング、HY 病期別の優先順位、MDS-UPDRS の使いどころを、記録シート付きで実務目線に整理します。
答えることは、初回〜再評価で何を、どの順番で、どこまで見るかです。いっぽうで、各尺度の細かな採点基準や全文手順はこのページでは深掘りしません。まずはこの記事で全体像と記録の型を決め、必要になった尺度だけを各論に進む読み方が最短です。
評価の型は、個人の努力だけで身につくとは限りません。今の職場で教育体制がない、相談相手がいない、教材に触れにくい、適切なアセスメントの見本が少ないと感じるなら、学び方と環境の整え方を先に整理しておくと動きやすくなります。
初回に固定する最小セット
検索意図に最短で答えると、PD 評価は「まず 1 本決める」より「最小セットを 1 組決める」方が運用しやすいです。HY だけ、TUG だけ、嚥下だけで終えると、病期・症状変動・生活場面のズレが残りやすくなります。
目安は、全体像 1 本+歩行 / バランス 1 本+生活 1 本+必要時の追加評価です。最初に同条件で再評価できる形を作ると、介入後の説明が格段にしやすくなります。
| 困りごと | まず取る評価 | 追加で見るもの | 固定する条件 |
|---|---|---|---|
| 初回の全体像 | HY + MDS-UPDRS II / III | 転倒歴、補助具、内服時刻 | オン / オフ、靴、歩行路、介助条件 |
| 歩行・ふらつき | TUG + FBS / FRT | Mini-BESTest、方向転換、歩行速度 | 時間帯、見守りレベル、環境 |
| すくみ足 | 誘発場面の観察 + FOG-Q / NFOG-Q | 狭所、回転、二重課題、外的キュー反応 | 安全確保、誘発条件、出現頻度 |
| 食事・むせ / 安全域 | EAT-10、RSST / MWST | 起立性低血圧、疲労、睡眠、疼痛 | 食事場面、体位、血圧、症状の時間帯 |
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評価項目一覧(チェックリストと使い分け)
最初に主訴/HY/オン・オフ状態/安全性でスクリーニングし、必要に応じて精査へ進みます。目的は “ 網羅 ” ではなく、疑い・変化の“ 兆し ”を拾って再評価に耐える指標セットを決めることです。
| カテゴリ | 目的 | 代表評価 | 記録のコツ |
|---|---|---|---|
| 総合重症度(基軸) | 全体像の共有/経時追跡 | HY、MDS-UPDRS II / III | 内服時刻・オン / オフ・補助具・靴を固定 |
| 歩行・バランス | 転倒リスク/介入効果 | TUG、FBS(BBS)、FRT、Mini-BESTest | ピーク時間帯を避け、同一環境で再評価 |
| 凍結歩行(FOG) | 誘発条件の特定/対策 | FOG-Q / NFOG-Q(名称で運用) | 狭所・回転・二重課題の “ 出やすさ ” を併記 |
| ADL / IADL | 介護量/生活再建 | FIM、Barthel Index、Lawton IADL | 「している」か「できる」かを混ぜない |
| 嚥下 | 誤嚥リスク/栄養 | EAT-10、RSST、MWST(必要時 VE / VF) | むせ・湿性嗄声・食事場面をセットで記録 |
| 非運動症状 | QOL/安全管理 | 起立性低血圧、睡眠・気分・便秘、疼痛 | 悪化の時間帯(オン / オフ)と誘因を聴取 |
| 認知 | 運動学習/安全配慮 | MMSE、HDS-R ほか | 注意・遂行機能(手順保持)を行動で観察 |
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記録シート(PDF 配布)
評価項目を見たあとに迷いやすいのが、どの条件を固定して、何を毎回残すかです。そこで、オン / オフ、HY、MDS-UPDRS、歩行・バランス、ADL、嚥下、非運動症状を 1 枚で整理しやすい A4 記録シートを用意しました。
初回評価の抜け漏れ防止にも、再評価時の比較にも使いやすい構成です。紙で印刷しても、カンファレンス用の下書きとして使っても運用しやすいようにしています。
現場の詰まりどころ(よくある失敗と立て直し)
| 詰まりどころ | NG(やりがち) | OK(立て直し) | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| オンで数値が安定しない | ピークで測ってジスキネジアに巻き込まれる | オンの “ 安定帯 ” で測定、必要ならオン / オフを分けて併記 | 内服時刻、測定時刻、オン / オフ自己申告 |
| オフ測定が怖い | 単独で実施、環境が普段どおり | 監視者追加、歩行路の整理、安全ベルト、最小課題に絞る | 介助者の有無、見守りレベル、転倒リスク要因 |
| FOG が再現できない | 直線歩行だけで “ 出なかった ” で終える | 狭所・回転・二重課題を段階的に、危険なら中止 | 誘発条件(場所 / 課題)、出現頻度、対処法の反応 |
| HY だけで判断する | 病期は書いたが、介入の指標が固定されていない | HY+最小セット(例:TUG+ADL)で “ 再評価の軸 ” を決める | 最小セット名、次回も同条件で測る宣言 |
| 非運動を見落とす | 運動だけで終了、離床の安全域が曖昧 | 起立性低血圧・睡眠・疼痛を “ 最低限 ” で拾い上げる | 血圧変化、めまい、転倒の時間帯、疼痛部位 |
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オン / オフを踏まえた評価タイミング
同一患者でも内服オン / オフで所見は変動します。目的に応じて評価タイミングを固定し、経時比較の再現性を担保します。初回から “ どちらが正しいか ” を決めるのではなく、何を知りたい評価かで時間帯を分けるのが実務的です。
| 目的 | 推奨タイミング | 代表評価 | 安全・備考 |
|---|---|---|---|
| 日常機能の代表値 | 内服オンの至適時間帯 | TUG/FBS/FRT/FIM | ピーク回避(過可動・ジスキネジア) |
| 変動の把握 | オフとオンの両条件 | MDS-UPDRS Part III/歩行速度 | オフ時は転倒・起立性低血圧に注意 |
| 転倒・凍結対策 | 患者が “ 悪い ” と感じる時間帯 | Mini-BESTest/FOG-Q(名称で運用) | 監視者追加・環境整備を徹底 |
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病期別(HY)での優先評価
HY は「病期の共有言語」です。いっぽうで、HY だけでは介入の軸が決まりません。病期 × 困りごと × 条件固定で優先指標を決め、再評価の組み合わせを先に固定しておくと、申し送りと家族説明が安定します。
| HY | 歩行・バランス | ADL / IADL | 嚥下 | 非運動 |
|---|---|---|---|---|
| I | 歩行速度/FRT | BI(更衣・移動) | スクリーニング(EAT-10) | 非運動の初期拾い上げ |
| II | TUG/FBS | FIM(移乗・トイレ) | RSST/MWST | 起立性低血圧チェック |
| III | Mini-BESTest/転倒歴 | FIM 全体/Lawton | VE / VF 連携を検討 | 睡眠・気分・便秘の介入 |
| IV–V | 介助下の座位・立位保持 | 介護量評価/ポジショニング | 嚥下安全性・栄養管理 | 疼痛・せん妄・自律神経 |
※ 施設基準・多職種体制に合わせて調整してください。
MDS-UPDRS の使いどころ(運用)
MDS-UPDRS は総合評価の基軸です。スコア表の全文転載は行わず、公式配布ページを参照のうえ、施設内で入手・運用してください。理学療法では Part II / III を中心に、オン / オフ、転倒歴、補助具、時間帯を併記して追うと、スコアだけでは見えにくい臨床像が整理しやすくなります。
- Part II:日常生活で経験する運動症状の把握
- Part III:運動診察の経時変化を追う主軸
- 毎回フルセットより、目的に応じて範囲を固定する方が実務では回しやすい
非運動症状と起立性低血圧
PD では非運動症状が QOL と安全性を規定します。睡眠(RBD 等)・気分・便秘・頻尿・嗅覚低下・疼痛を系統的に聴取し、起立性低血圧は段階離床/弾性ストッキング・腹帯/水分・塩分調整/内服調整の連携まで含めてプロトコル化すると、歩行練習の “ 当日安全域 ” が揃いやすくなります。
とくに「歩けない」の背景が、純粋な運動症状ではなく血圧低下・疲労・睡眠不良にあることは少なくありません。運動症状だけで介入を組み立てない視点が重要です。
凍結歩行(FOG)の評価
すくみ足・突進現象の自覚がある場合は FOG-Q / NFOG-Q(名称で運用)を導入します。歩行課題では狭所・方向転換・二重課題で誘発しやすく、環境調整(床目印・メトロノーム等)と身体戦略(大きい一歩・体幹伸展)の併用を介入へつなげます。
重要なのは、「出なかった」で終えないことです。出なかった場合も、どの条件では出ず、どの条件で出そうだったかを記録しておくと、次回の再評価と生活指導にそのままつながります。
よくある質問(PD 評価編)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
初回は何から測れば良いですか?
安全確保 → HY と MDS-UPDRS(Part II / III)で全体像 → 歩行・バランス(TUG / FBS) → ADL(FIM / BI) → 必要時に嚥下(RSST / MWST)・非運動、の順が実務的です。以降は目的に応じた最小セットを同条件で再評価に固定します。
オン / オフはどちらで評価するべき?
「日常の代表値」はオン、「変動の把握」はオン+オフです。オフ測定時は転倒・低血圧に注意し、介助者・環境を整えます。
MDS-UPDRS は毎回フルで取るべきですか?
毎回フルで回す必要はありません。初回や節目は包括的に、通常の再評価は目的に関係する Part と補助情報を固定して追う方が運用しやすいです。大事なのは、回数を増やすことよりも条件をそろえることです。
FOG が再現できないときはどう記録しますか?
「出現なし」だけでは不十分です。実施した課題、場所、時間帯、二重課題の有無、外的キューへの反応を残し、次回どの条件で再評価するかまで書くと、介入設計がぶれません。
病期が進んだら何を優先しますか?
HY III 以降は転倒予防と介護量の把握に軸足を移し、Mini-BESTest/FIM/嚥下安全性の比重を上げます。ポジショニングや栄養・排泄など多職種連携が鍵です。
次の一手
この記事で全体像と記録の型が決まったら、次はPD 全体の索引かMDS-UPDRS の運用整理に進むと迷いません。
参考文献
- Goetz CG, Tilley BC, Shaftman SR, et al. Movement Disorder Society-sponsored revision of the Unified Parkinson’s Disease Rating Scale (MDS-UPDRS): Scale presentation and clinimetric testing results. Mov Disord. 2008;23(15):2129-2170. doi: 10.1002/mds.22340 / PubMed
- Osborne JA, Botkin R, Colon-Semenza C, et al. Physical Therapist Management of Parkinson Disease: A Clinical Practice Guideline From the American Physical Therapy Association. Phys Ther. 2022;102(4):pzab302. doi: 10.1093/ptj/pzab302 / PubMed
- 日本神経学会監修 「パーキンソン病診療ガイドライン」作成委員会 編. パーキンソン病診療ガイドライン 2018. 医学書院; 2018. ISBN: 978-4-260-03596-5. 公開ページ
- 中西 亮二ほか. パーキンソン病の障害評価とリハビリテーション. Jpn J Rehabil Med. 2013;50:658-670. 本文
- 中馬 孝容. パーキンソン病に対するリハビリテーション. Jpn J Rehabil Med. 2016;53:524-528. 本文
- MDS-UPDRS 日本語版(最終版 PDF). International Parkinson and Movement Disorder Society. PDF
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


