体圧分散マットレス導入後 72 時間の見方
結論として、体圧分散マットレスは「入れた瞬間」に正解が決まるのではなく、導入当日から 72 時間で 皮膚・睡眠・離床 がそろうかを見て初めて適合と判断します。本記事は、候補の支持面が決まったあとに、何を固定し、何を観察し、どこで調整・継続・見直しを分けるかを整理する実務ページです。
つまり、このページで決めるのは「いまの支持面を続けてよいか」「条件修正で戻せるか」「支持面そのものを見直すか」です。種類比較や方式別の選び方、スコア帯からの初期選定は別ページに譲り、本記事では 導入後 72 時間の再評価 に絞ります。本文後半には、そのまま使える A4 記録シート PDF も載せています。
評価や再評価の型は、個人の努力だけで安定するとは限りません。今の職場で教育体制がない、相談相手がいない、教材に触れにくい、標準手順をそろえにくいと感じるなら、学び方と環境の整え方も先に整理しておくと動きやすくなります。
この記事で扱うこと/扱わないこと
カニバリを避けるには、このページの守備範囲を先に固定するのが有効です。本記事は 導入後の運用と再評価 を担当し、「何を選ぶか」「どのスコア帯で何を入れるか」は別ページに任せます。
※スマホでは表を左右にスクロールできます。
| テーマ | このページで扱う | 別ページで扱う |
|---|---|---|
| 何を導入するか | 候補が決まったあとの運用確認 | 種類と選び方 |
| どのスコア帯で何を選ぶか | 再評価の結果をどう次判断につなぐか | OH スコア別マットレス選定プロトコル |
| 導入直後に何を見るか | 沈み込み、ずれ、離床、機器安全、転落 | このページで扱う |
| 72 時間でどう判断するか | 継続、条件修正、支持面見直しの線引き | このページで扱う |
導入前に最低限そろえる情報
このページは「選び方」の記事ではありませんが、再評価をぶらさないために、導入前の前提情報はそろえておく必要があります。細かな機種比較ではなく、あとで見直しに使う最小情報だけ固定します。
| 見る項目 | 確認内容 | 記録の最小セット |
|---|---|---|
| 皮膚 | 発赤、硬結、水疱、既存褥瘡、守るべき部位 | 部位、所見、発赤の戻り方 |
| 活動性 | 寝返り、端座位、立ち上がり、移乗、離床頻度 | 介助量、離床手段、難所 |
| ケア体制 | 夜間マンパワー、体位変換の実施間隔、申し送りの回りやすさ | 夜間の体制、体位変換間隔 |
| 悪化因子 | 湿潤、ずれ、疼痛、不穏、睡眠の崩れやすさ | 汗・失禁、ギャッチアップ時の滑り、痛みの出る体位 |
導入当日に固定する 3 条件
支持面の導入で最も多い失敗は、条件が毎回変わるまま観察だけが進むことです。発赤や ADL 低下が出ても、何が原因か切り分けられません。まずは導入当日に、次の 3 条件だけ固定してください。
- 基本体位
仰臥位と側臥位の型、クッション位置、踵骨免荷の方法を決める。 - ギャッチアップ条件
角度の上限、骨盤後傾や頭側すべりを防ぐ足側支持を決める。 - 離床手順
ベッド高さ、端座位の整え方、立ち上がりや移乗の介助手順を決める。
この 3 条件が固定できると、 24 / 48 / 72 時間で見た変化を「支持面そのものの問題」か「運用条件の問題」かに分けやすくなります。
導入時チェックリスト(セットアップ)
導入当日は「寝たとき」「起こしたとき」「離床したとき」で見え方が変わります。以下は、導入直後に必ず確認したい項目です。
| 観点 | 見るポイント | メモ(条件固定) |
|---|---|---|
| 沈み込み | 仙骨・踵・肩甲部に点当たりがないか。沈み込み過多で姿勢が崩れていないか。 | 体位、クッション使用、踵骨免荷の方法 |
| ずれ・滑り | 頭側すべりや骨盤後傾が助長されていないか。ギャッチアップ時の滑りが増えていないか。 | ギャッチアップ角度、足側支持条件 |
| 端座位の安定 | 端座位で沈下や滑走が強くないか。足底支持が取りやすい高さか。 | 端座位時間、介助量、足台の要否 |
| 離床への影響 | 立ち上がり、移乗、歩行開始がやりにくくなっていないか。 | 離床手段、難所、介助のコツ |
| 機器安全 | アラーム誤作動、ホース屈曲、電源コードのつまずきがないか。 | 設置位置、ベッド周囲動線 |
| 転落リスク | 端部の沈下や厚みにより、転落リスクが上がっていないか。 | 柵、センサー、見守り条件 |
導入後 72 時間のモニタリングプロトコル
導入後の 3 日間は、支持面が「良いか悪いか」を感覚で判断せず、同じ観察軸で 3 回比較することが重要です。目安は 0–24 時間 / 24–48 時間 / 48–72 時間 です。
| タイミング | 必ず見る項目 | 判断の目安 | 次の一手 |
|---|---|---|---|
| 0–24 時間 | 発赤の持続、体位変換の回りやすさ、端座位・離床のしやすさ | 導入直後から発赤が戻りにくい、滑りが増えた、離床が落ちたら要調整 | まず条件セット(体位・角度・離床手順)をそろえ、設定やケアを修正する |
| 24–48 時間 | 初期発赤の経過、疼痛や不穏、離床回数・歩行距離、睡眠の崩れ | 皮膚は守れても ADL や睡眠が落ちるなら「守り過ぎ」を疑う | 端座位や立ち上がり条件を調整し、皮膚・睡眠・離床のバランスで再確認する |
| 48–72 時間 | 皮膚所見の安定、再発赤の有無、離床の戻り、継続可否 | 皮膚・睡眠・離床の 3 つがそろって初めて「適合」と判断する | 継続条件を明文化し、次回再評価の時点を固定する。そろわなければ支持面見直しへ進む |
現場の詰まりどころ・よくある失敗
現場で止まりやすいのは、「支持面の問題」と「運用の問題」が混ざる場面です。特に、条件固定が不十分なまま機種変更へ進む、発赤だけを追って離床低下を見落とす、ずれや湿潤を支持面だけで解決しようとする、の 3 つが典型です。
※スマホでは表を左右にスクロールできます。
| 失敗 | まず疑うもの | 先に直すこと | 記録に残すこと |
|---|---|---|---|
| 発赤だけ減って離床が落ちた | 沈み込み過多、端座位条件、立ち上がり条件 | ベッド高さ、足底支持、起き上がり条件を再設定する | 介助量、離床回数、歩行距離の前後差 |
| 発赤が残るので即交換した | 体位のばらつき、背上げ時のずれ、湿潤 | 条件固定とケア条件の見直しを先に行う | 体位、角度、湿潤、クッション配置 |
| 夜だけ不穏・不眠が増えた | 作動音、揺れ、見守り条件 | 夜間だけ設定や見守り条件を分けて検証する | 夜間覚醒、不穏、日中の傾眠 |
| 汗や失禁で皮膚が悪化した | 微気候、リネン、防水素材、交換頻度 | 保清と交換の流れを整えてから支持面を再評価する | 湿潤の原因、交換回数、皮膚の戻り方 |
うまくいかないときの切り分け順
導入後に問題が出たとき、すぐ機種変更へ進むと判断がぶれやすくなります。まずは 運用条件 → ケア条件 → 支持面そのもの の順に切り分けると、無駄な変更を減らしやすくなります。
| 最初に疑うもの | 具体例 | 先にやること |
|---|---|---|
| 運用条件 | 体位が毎回違う、角度がばらつく、離床手順が人で違う | 基本体位、ギャッチアップ、離床手順の 3 条件を固定し直す |
| ケア条件 | 体位変換が回らない、汗や失禁で湿潤が続く、クッションが不足する | 体位変換間隔、リネン、スキンケア、クッション配置を見直す |
| 支持面そのもの | 条件をそろえても発赤、疼痛、睡眠障害、離床低下が続く | 継続か見直しかを判断し、必要時に別支持面を再検討する |
シナリオ別の調整パターン
ここでは「少し合っていないかも」と感じたときの代表的な切り分けをまとめます。ポイントは、すぐ交換ではなく、まず条件修正で戻せるかを見ることです。
ケース 1:仙骨発赤が残る
- 側臥位の型、クッション位置、踵骨免荷を見直す。
- ギャッチアップ角度が高すぎて、ずれや摩擦が増えていないか確認する。
- 条件修正後も改善しない場合に、支持面見直しへ進む。
ケース 2:離床が進みにくくなった
- ベッド高さ、端座位での沈み込み、足底支持を確認する。
- 立ち上がり時だけベッドフラットに近づけるなど、離床条件を調整する。
- ADL 低下が続く場合は、皮膚保護とのバランスで再検討する。
ケース 3:睡眠が崩れた/不安感が強い
- 夜間の動き、音、振動と症状の関係を確認する。
- 夜間だけ条件を変える、見守り条件を追加するなど、時間帯で切り分ける。
- 睡眠障害が続くなら、継続条件を見直す。
ケース 4:腰痛や肩痛が増えた
- 沈み込み過多で脊柱アライメントが崩れていないか確認する。
- 痛みの出ない体位を固定し、必要部位の支持を追加する。
- 疼痛で離床が落ちる場合は、「皮膚」だけでなく「活動性」を守れる条件へ修正する。
ケース 5:汗・湿潤が増えて皮膚がふやける
- 清拭、更衣、リネン、防水素材など「支持面以外」の要因を切り分ける。
- 湿潤対策を入れたうえで、 24 時間単位で皮膚所見を再確認する。
- 改善が乏しければ、ケア条件と支持面条件を合わせて見直す。
記録と申し送りの型
支持面は「入れたら終わり」ではなく、再評価を回すための記録が重要です。交代制でもぶれにくくするために、 SOAP には次をセットで残します。
| 項目 | 最低限残すこと |
|---|---|
| S | 痛み、違和感、眠りにくさ、めまい、不安感 |
| O | 皮膚所見、体位変換状況、離床状況、条件セット(体位・角度・離床手順) |
| A | 皮膚・睡眠・離床の 3 つでみて適合しているか |
| P | 継続、条件修正、支持面見直し、次回再評価の時点 |
申し送りでは「良かった・悪かった」ではなく、どの条件で、何が起きたかを 1 行でそろえると、判断がかなり揃いやすくなります。
| 場面 | 1 行の型 |
|---|---|
| 継続 | 「仰臥位+踵骨免荷+背上げ 20° で、仙骨発赤なし、離床 3 回で継続可」 |
| 条件修正 | 「背上げ 30° で前滑り増加、端座位不安定のため、背上げ 20° +足側支持へ修正」 |
| 見直し候補 | 「条件固定後も 48 時間で仙骨発赤持続、睡眠不良あり、支持面見直しを検討」 |
A4 記録シートを開く
現場で使うなら、本文の流れをそのまま紙に落とした A4 記録シートを併用すると、交代制でも判断がぶれにくくなります。導入当日の条件固定から 72 時間の再評価までを 1 枚で追えるようにしています。
導入直後の条件固定、 0–24 時間、 24–48 時間、 48–72 時間の記録を 1 枚で整理できます。病棟やチームで共有するときは、体位・角度・離床条件を先にそろえてから使うと記録が揃いやすいです。
PDF プレビューを開く
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. このページは「選び方」の記事と何が違いますか?
このページは、候補の支持面が決まったあとに 導入直後〜 72 時間で合っているかを見るページです。種類比較や方式の違い、初期選定の総論ではなく、導入後の再評価と調整を担当します。
Q2. 機種変更は、いつ考えればいいですか?
導入直後にすぐ変更するのではなく、まずは体位・角度・離床手順の条件固定と、湿潤やクッション条件の見直しを先に行います。それでも 皮膚・睡眠・離床 の 3 つがそろわない場合に、支持面見直しを考えるとぶれにくいです。
Q3. 発赤は減りましたが、離床が落ちました。失敗ですか?
失敗とまでは言えませんが、「守り過ぎ」の可能性はあります。支持面は皮膚だけでなく、睡眠と離床も合わせて評価する必要があります。まずは離床条件の調整を行い、それでも難しければ見直しを検討します。
Q4. 体位変換の頻度は 2 時間固定でよいですか?
固定ではありません。皮膚反応、ずれ、疼痛、睡眠、使用中の支持面を合わせて個別化するほうが実務では安定します。頻度だけでなく、当たりとずれが減っているかをセットで確認してください。
次の一手
- 褥瘡予防の基本フローで、評価 → 除圧 → 再評価の全体像を整理する
- OH スコア別マットレス選定プロトコルで、スコア帯と支持面の方向性をそろえる
参考文献
- Guideline Governance Group. Support Surfaces. International Guideline. Updated 2025 Feb 25. 公式ページ
- Guideline Governance Group. Repositioning. International Guideline. Updated 2025 Feb 25. 公式ページ
- Shi C, Dumville JC, Cullum N, Rhodes S, Leung V, McInnes E. Reactive air surfaces for preventing pressure ulcers. Cochrane Database Syst Rev. 2021;5(5):CD013622. DOI / PubMed
- Shi C, Dumville JC, Cullum N, Rhodes S, McInnes E. Foam surfaces for preventing pressure ulcers. Cochrane Database Syst Rev. 2021;5(5):CD013621. DOI / PubMed
- 創傷・褥瘡・熱傷ガイドライン策定委員会. 2 褥瘡診療ガイドライン(第 3 版). 日皮会誌. 2023;133(12):2735-2797. PDF
- Wu Z, Song B, Liu Y, Zhai Y, Chen S, Lin F. Barriers and facilitators to pressure injury prevention in hospitals: A mixed methods systematic review. J Tissue Viability. 2023;32(3):355-364. DOI / PubMed
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


