運動器 PROM ハブとは?(この記事のねらい)
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本記事は、当ブログで個別に解説している 運動器系の患者立脚型アウトカム指標(PROM) をまとめるハブ記事です。頸部の NDI 、上肢全体の DASH/QuickDASH 、下肢全体の LEFS 、股関節の HOOS 、膝関節の KOOS 、腰痛による生活障害の ODI までを一か所で一覧し、「どの症例にどの指標を組み合わせるか」「評価フローの中でどこに位置づけるか」を整理します。
それぞれの詳細な実施方法やスコアリングは各記事に譲り、本稿では 部位別の守備範囲・強み・使い分けの考え方 にフォーカスします。明日からの臨床で「このケースならどの PROM を押さえるとよいか」を瞬時に思い浮かべられるようにすることがねらいです。運動器以外も含めた評価の全体像は、評価ハブ(総合ガイド) もあわせて確認していただくと整理しやすくなります。
この記事で扱う運動器 PROM 一覧
運動器リハでよく用いる PROM を、当ブログでは次のように整理して解説しています。部位別の記事と組み合わせてお読みください。
- NDI(Neck Disability Index):頸部痛による生活障害を評価
- DASH/QuickDASH:肩〜手まで上肢全体の機能障害を評価
- LEFS(Lower Extremity Functional Scale):股・膝・足首など下肢全体の機能を評価
- HOOS(Hip disability and Osteoarthritis Outcome Score):股関節 OA・THA 術前後の症状〜QOL
- KOOS(Knee injury and Osteoarthritis Outcome Score):膝 OA・TKA・スポーツ膝の症状〜QOL
- ODI(Oswestry Disability Index):慢性腰痛・脊椎手術前後の生活障害
PROM は「それ単体」で完結させるよりも、部位別の疼痛評価(NRS・VAS)、ROM・筋力・歩行・ADL テストと組み合わせて使うことで威力を発揮します。次のセクションでは、運動器全体を見渡した評価フローの中で、これら PROM をどこに置くかをイメージしてみます。
PROM をどう組み合わせるか(臨床フローのイメージ)
運動器の評価フローをシンプルに整理すると、①レッドフラッグの除外 ②構造・機能評価(痛み・ROM・筋力など)③部位別 PROM ④歩行・ADL・パフォーマンス ⑤ゴール設定と再評価の 5 ステップで考えると分かりやすくなります。PROM は、本人の「困りごと」や QOL を可視化するパートとして ③ に位置づけると、検査の目的がはっきりします。
下の図は、「症状が出ている部位」から代表的 PROM を選び、構造・機能評価や歩行テストとどう束ねるかをイメージしたフローです。実際には施設や症例によって順番は前後しますが、「どの箱にどの指標が入るか」をざっくり押さえておくと、評価設計の迷いが減ります。歩行・バランス評価の詳細は、TUG や BBS をまとめた BBS×TUG 記事 なども参考になります。
PROM ごとの守備範囲と使い分け(現場の詰まりどころ)
「NDI と DASH のどちらを入れるか」「LEFS と KOOS/HOOS の使い分けは?」「腰痛患者さんに PROM を何種類も入れる余裕がない」など、PROM の選択は現場の悩みどころです。以下の表では、当ブログで扱っている代表的な運動器 PROM を、評価部位・主な対象・強み・よくある使いどころの観点で整理しました。
すべてを一度に埋めようとするのではなく、まずは「自分の主戦場」となる 1〜2 領域(例:頸・上肢/股・膝/腰痛)から、軸となる PROM を決めておくと臨床で回しやすくなります。
| 指標 | 主な評価部位・対象 | 主な評価内容 | 強み・よくある使いどころ |
|---|---|---|---|
| NDI | 頸部痛・頸椎術前後・むち打ちなど | 頸部痛に伴う日常生活の制限 | 頸部に特化した生活障害を把握しやすい。シンプルで外来でも回しやすい。 |
| DASH/QuickDASH | 肩〜手まで上肢全体の疾患・術前後 | 上肢機能(ADL・労作・趣味・仕事) | 「上肢全体」の不自由さを 0〜100 で可視化。四十肩から末梢神経障害まで幅広く使える。 |
| LEFS | 股・膝・足首など下肢全体の疾患・術前後 | 歩行・階段・しゃがみ・荷重動作など | 下肢全体の機能を 1 指標でカバー。股・膝・足関節の混在例にも使いやすい。 |
| HOOS | 変形性股関節症・THA 術前後など | 股関節の痛み・症状・ADL・スポーツ・QOL | 股関節 OA・THA 専用 PROM。股特有の QOL を捉えやすく、LEFS と併用されることが多い。 |
| KOOS | 膝 OA・TKA・スポーツ膝(ACL・半月板など) | 膝の痛み・症状・ADL・スポーツ・QOL | 膝 OA からスポーツ膝まで広く対応。TKA 前後や ACL 再建後の経過観察に有用。 |
| ODI | 慢性腰痛・脊椎手術前後・在宅腰痛 | 腰痛による生活障害(0〜100%) | 中等度〜重度の生活障害も追いやすい。NRS・神経学的所見と組み合わせて用いる。 |
カルテへの書き方とチーム共有のコツ
PROM を複数併用する際の「よくある詰まりどころ」は、①カルテの書き方がバラバラになる、②医師・看護師・他職種に伝わりにくい、③再評価のタイミングが曖昧になる、の 3 点です。カルテでは、少なくとも 「指標名」「スコア」「測定日」「簡潔な解釈」 をセットで記録するだけでも、情報の通りがぐっと良くなります。
例えば「NDI 26/50(52%):頸部痛に伴う中等度障害」「DASH 40/100:上肢の作業・家事に中等度の制限」「ODI 30%:腰痛による中等度障害」などと記載し、それぞれの PROM については詳細記事(NDI・DASH・LEFS・HOOS・KOOS・ODI など)への院内マニュアル(URL)を用意しておくと、チーム全体で共通言語として扱いやすくなります。退院サマリーでは、「PROM の変化」が歩行・ADL・復職状況の変化とどのように対応しているかを 1〜2 行で示せると、次の担当者にも意図が伝わりやすくなります。
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
PROM をたくさん覚えきれません。どこから優先して導入すればよいですか?
すべての PROM を一度に完璧に使いこなす必要はありません。まずは自分が多く担当する領域を 1〜2 つ決め(例:頸部・上肢/股・膝/腰痛など)、その領域に対応する PROM を 1 本ずつ軸にするのがおすすめです。例えば「頸部なら NDI」「上肢なら DASH/QuickDASH」「下肢なら LEFS+HOOS/KOOS」「腰痛なら ODI」といった形で、部位ごとに“第一選択”を決めておくと実装しやすくなります。
その上で、痛みスケール(NRS・VAS)、ROM・MMT・整形外科テスト、TUG・6MWT などの客観指標と組み合わせれば、PROM が 1〜2 種類でも十分に臨床的な意思決定につなげられます。慣れてきたら、症例に応じて PSFS や慢性痛系のスケールなどを追加していくイメージで段階的に広げていきましょう。
高齢者や認知機能低下がある患者さんでは PROM が取りにくいのですが、どうすればよいですか?
高齢者や認知機能低下のある症例では、設問文が長い PROM は負担になりやすく、回答の信頼性も下がりがちです。その場合は、①設問ごとに意味をかみ砕いて口頭で確認する、②家族や介護者の意見も参考にしつつ「普段の様子」を具体的に聞き取る、③どうしても難しい場合は、よりシンプルなスケールや PSFS など患者特異的な指標へ切り替える、といった工夫が有効です。
必ずしも「すべての設問に完璧に答えられること」が条件ではなく、患者さんの負担と情報量のバランスを取りながら、必要最低限の項目に絞って実施することも選択肢です。その際は、どのような支援や代替手段を用いたかをカルテに明記しておくと、再評価時の比較や他職種への共有がスムーズになります。
PROM のスコア変化が小さいとき、リハビリ効果がないと判断してよいのでしょうか?
PROM のスコア変化は、あくまで「患者さん自身が感じる変化」の一側面です。MCID(最小限臨床的重要差)を参考にすると目安にはなりますが、ベースラインの重症度や活動レベル、併存症などにより同じ 10 点の変化でも意味合いは大きく異なります。また、疼痛や生活障害の変化が遅れて出るケースでは、短期間のフォローアップだけでは十分に評価できないこともあります。
したがって、PROM の変化量だけで「リハビリの効果があった/なかった」と単純に判断するのではなく、痛みスケール・筋力・可動域・歩行距離・復職状況など他の指標と統合して解釈することが重要です。「スコア変化は小さいが、患者さんの主観的満足度は高い」「逆にスコアは改善しているが QOL の実感は乏しい」といったギャップも含めて、カンファレンスや患者教育に活かしていきましょう。
おわりに
運動器のリハビリでは、「レッドフラッグの除外 → 構造・機能評価(痛み・ROM・筋力・神経学的所見)→ 部位別 PROM(NDI/DASH/LEFS/HOOS/KOOS/ODI など)→ 歩行・ADL・パフォーマンス → ゴール設定・再評価」という共通のリズムを押さえておくと、疾患や部位が変わっても評価の軸がぶれにくくなります。本記事で示したハブ構造を頭に置きつつ、現場でよく担当する領域から 1〜2 種類の PROM を「自分の武器」として使い込んでいくイメージが現実的です。
一方で、評価の重要性を理解していても、外来枠の短さや病棟スケジュールの制約から「やりたい評価・介入までなかなか手が回らない」と感じる場面も多いと思います。働き方を見直すときの抜け漏れ防止に。見学や情報収集の段階でも使える面談準備チェック( A4・5 分)と職場評価シート( A4 )を無料公開しています。印刷してそのまま使えますので、転職に限らず情報収集や見学の場面でもダウンロードページを活用してみてください。
参考文献
- Kamper SJ, Maher CG, Mackay G. Global rating of change scales: a review of strengths and weaknesses and considerations for design. J Man Manip Ther. 2009;17(3):163–170. doi:10.1179/jmt.2009.17.3.163.
- Cleland JA, Whitman JM, Fritz JM. Effectiveness of manual physical therapy, exercise, and traction for patients with cervical radiculopathy: a randomized clinical trial. Spine (Phila Pa 1976). 2005;30(22):2609–2617.(NDI の使用例)
- Hudak PL, Amadio PC, Bombardier C; Upper Extremity Collaborative Group. Development of an upper extremity outcome measure: the DASH (Disabilities of the Arm, Shoulder and Hand). Am J Ind Med. 1996;29(6):602–608. doi:10.1002/(SICI)1097-0274(199606)29:6<602::AID-AJIM4>3.0.CO;2-L.
- Binkley JM, Stratford PW, Lott SA, Riddle DL. The Lower Extremity Functional Scale (LEFS): scale development, measurement properties, and clinical application. Phys Ther. 1999;79(4):371–383. doi:10.1093/ptj/79.4.371.
- Fairbank JCT, Pynsent PB. The Oswestry Disability Index. Spine (Phila Pa 1976). 2000;25(22):2940–2952. doi:10.1097/00007632-200011150-00017.
- Roos EM, Lohmander LS. The Knee injury and Osteoarthritis Outcome Score (KOOS): from joint injury to osteoarthritis. Health Qual Life Outcomes. 2003;1:64. doi:10.1186/1477-7525-1-64.
- Nilsdotter AK, Lohmander LS, Klässbo M, Roos EM. Hip disability and osteoarthritis outcome score (HOOS)–validity and responsiveness in total hip replacement. BMC Musculoskelet Disord. 2003;4:10. doi:10.1186/1471-2474-4-10.
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


