2026 年度介護報酬改定とリハ職 理学療法士が今から備えるポイント

制度・実務
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2026 年度介護報酬改定と理学療法士の立ち位置

臨床力を底上げする学び方の流れを見る(PT キャリアガイド)

2026 年度(令和 8 年度)の介護報酬改定は、3 年ごとの通常改定とは位置づけが異なる「期中の臨時改定」として予定されています。背景には、介護人材の確保難や物価高騰の中で、介護職員などの処遇改善を早期に進めたいというねらいがあります。一方で、2027 年度から始まる第 10 期介護保険事業計画に向けた本格的な制度改正とは別枠で、2024 年改定と 2027 年改定をつなぐ“橋渡し”的な役割を持つ点が特徴です。

理学療法士・リハ職にとって重要なのは、「点数が上がるか下がるか」だけで一喜一憂しないことです。2024 年改定で強調された自立支援・重度化防止、LIFE データの活用、リハ・栄養・口腔・認知の一体的な支援という流れは、そのまま 2026〜2027 年へとつながっていきます。本記事では、2025 年 12 月時点で公表されている情報と議論をもとに、理学療法士が押さえておきたい論点と「今からできる準備」を整理します。

2024 改定から続く流れを整理する

2024 年度の介護報酬改定では、通所リハ・通所介護・特養・老健などを中心に、リハビリ・機能訓練・栄養・口腔を一体的に評価する枠組みが強化されました。個別リハの提供時間や算定回数だけでなく、「生活機能の維持・向上」「在宅生活の継続」といったアウトカムを、チームとしてどれだけ実現できているかが問われています。LIFE へのデータ提出やフィードバックの活用も、加算算定の前提として定着しつつあります。

この流れの中で、理学療法士に暗黙のうちに求められているのは、「運動メニューをこなす専門職」から「生活機能の変化を設計し、数値で示す専門職」へのシフトです。ROM・筋力といった身体機能だけでなく、ADL・IADL・活動参加、栄養状態、口腔機能、認知機能などとの関連を説明し、チームの共通言語として活用できるかどうかが、今後の改定での評価に影響していきます。

2026 年臨時改定で注目したい論点(2025 年時点)

2026 年度の臨時改定で中心となるのは、介護に携わる職員の処遇改善をどのような仕組みで実現するか、という論点です。既存の処遇改善加算・特定処遇改善加算を拡充するのか、基本サービス費自体の引き上げと組み合わせるのか、といった選択肢が議論されています。ここは事業所の収支に直結するため、経営層や管理者がもっとも注目するポイントですが、現場のリハ職としても「どの職種が対象になるか」「どのような体制整備が求められるか」を早めに把握しておく必要があります。

もう一つの論点は、サービスごとの収支差率を踏まえた「メリハリある配分」がどこまで行われるかです。収支差率の高いサービスは抑制、低いサービスは手当てという原則は維持される見込みであり、通所リハ・訪問リハ・通所介護・施設系サービスなど、類型ごとに影響は異なります。ただし、2026 年の段階で報酬体系そのものが大きく組み替えられる可能性は高くなく、「処遇改善を中心とした部分的な見直し」と捉えておくのが現実的です。

理学療法士・リハ職に直結するポイント

通所リハ・通所介護の個別機能訓練

通所リハや通所介護の個別機能訓練では、すでに 2024 年改定から「多職種一体の自立支援」の中での役割整理が進んでいます。機能訓練加算や生活機能向上連携加算などでは、個別訓練の実施そのものよりも、生活場面での変化や在宅生活の継続をどう生み出しているかが問われています。2026 年改定では、処遇改善の対象としてリハ職がどう位置づけられるかに加え、「機能訓練の成果をどの程度可視化できているか」が改めて焦点になる可能性があります。

具体的には、短時間デイやリハビリ特化型デイなどで、筋トレやエルゴのセット数を増やすだけでなく、「転倒回数の減少」「屋外歩行範囲の拡大」「入浴動作の自立」などの変化を、評価スケールや活動量の記録とセットで示せることが重要です。リハ職が生活機能の変化をわかりやすく説明できれば、事業所としても「自立支援・重度化防止に取り組む事業所」として報酬改定の波に流されにくくなります。

訪問リハ・訪問看護と PT の役割

訪問リハは、医療と介護の両側面から評価される領域であり、診療報酬と介護報酬の動きをセットで見ておく必要があります。ここ数年、訪問看護ステーションにおける PT 配置やリハビリ提供の在り方が見直されており、「どの場面を誰が担うのか」という役割分担が整理されつつあります。2026 年改定では、人員配置やサービス提供実態に合わせた調整が行われる可能性があり、訪問リハ PT は自分たちの強みと役割を言語化しておくことが求められます。

例えば、「医師との連携による急性増悪時の早期介入」「日中独居高齢者に対する在宅生活維持プログラム」「住宅改修や福祉用具選定を含めた包括支援」など、訪問リハならではの付加価値を明確にしておくことが重要です。単に「自宅でリハビリをする」だけでは、他職種との役割の重なりが大きくなり、報酬上の評価や体制整備の議論でも不利になりかねません。

LIFE・アウトカム評価とリハの関わり

LIFE データの提出とフィードバックは、今後も介護報酬と切り離せない仕組みとして発展していくと考えられます。理学療法士としては、「なぜこの評価項目を取っているのか」「どの加算やアウトカム評価と接続しているのか」を、チームに説明できる立場になることが求められます。FIM・Barthel Index・各種 PROM など、すでに現場で用いている指標を LIFE の枠組みとどう接続するかを整理しておくと、改定ごとの“書類対応”に追われ過ぎずに済みます。

また、評価の選び方・実施タイミング・記録方法を、事業所内で標準化しておくことも重要です。測るだけで終わる評価から、「介入の方針決定 → 介入内容 → 結果の振り返りまで一連で使う評価」へと位置づけを変えていくと、改定による評価指標の変更があっても柔軟に対応しやすくなります。

2027 年制度改正を見据えた「今からの準備」

2027 年度から始まる第 10 期介護保険事業計画では、介護保険制度そのものの見直しや、サービス類型の再編、給付と負担のバランス調整など、より大きな議論が予定されています。人口構造の変化や財源の制約を踏まえ、「本当に必要なサービスに限られた資源をどう配分するか」が問われる中で、リハビリテーションも例外ではありません。「医学的リハ」「生活期リハ」「機能訓練・体操」など、近接するサービスの線引きや役割分担が整理されていく可能性があります。

理学療法士として今からできる準備としては、第一に「評価指標の標準化」が挙げられます。施設内で使用する評価スケールを整理し、LIFE や加算との対応表を作っておくと、改定時の見直しがスムーズになります。第二に「記録テンプレートの整備」です。SOAP やフローシートに、アウトカム指標とリンクする視点を組み込んでおくことで、後から振り返りやすくなります。第三に「自施設の強みの言語化」です。重度者対応、認知症ケア、短時間高頻度リハなど、何を強みとして打ち出していくのかをチームで共有しておくと、改定後の加算選択や体制整備の議論が進めやすくなります。

現場の詰まりどころ・よくある誤解

「どうせ給付削減だから、頑張っても報われない」

財源制約の中で、すべてのサービスが一律に報酬アップすることは考えにくく、収支差率の高いサービスにはマイナス方向の調整が入りやすいのは事実です。そのため、「どうせ給付削減だから頑張っても意味がない」という諦めムードが現場に広がりがちです。しかし実際には、同じ類型の中でも、「自立支援・重度化防止にしっかり取り組んでいる事業所」と「そうでない事業所」の差が、加算取得状況や利用者・家族からの評価に反映されていきます。

理学療法士は、評価・記録・説明のプロフェッショナルとして、事業所の“防御力”を高める役割を担えます。例えば、転倒リスクや栄養状態の改善を介入前後で数値化して示したり、生活機能の変化をグラフや簡単な指標で可視化したりすることで、「この事業所はきちんと自立支援に取り組んでいる」という根拠を積み上げることができます。

「処遇改善は介護職だけで、リハ職には関係ない」

処遇改善という言葉から、「介護福祉士などの介護職だけが対象で、PT・OT・ST には関係ない」と感じている方も少なくありません。確かに、これまでの処遇改善加算は介護職を主対象として設計されてきましたが、今後の議論では「介護に携わる職員全体」をどう扱うか、という視点も含まれています。少なくとも、リハ職が介護職とは別世界の専門職として孤立しているよりも、ケアワーカーと一体で自立支援に取り組んでいる姿が示されている方が、処遇改善の議論にもプラスに働きやすいと考えられます。

現場としては、職種間の分断を強めるのではなく、「ケアとリハが一体となったチーム」としての実態を作りながら情報発信していくことが重要です。リハ職が介護職の技術向上を支援し、介護職から生活場面の情報を引き出し、互いの強みを活かし合う関係性は、処遇改善・報酬改定の波を乗り越えるうえでも大きな武器になります。

おわりに|改定を“待つ”から“備える”へ

2026 年度の介護報酬改定は、あくまで 3 年サイクルの中間ポイントであり、ゴールではありません。2024 年改定で示された自立支援・重度化防止の方向性と、2027 年の第 10 期制度改正の間をつなぐ「橋渡し」のような位置づけです。だからこそ、理学療法士にとって大事なのは、「情報を追いかけて嘆くこと」ではなく、「自分たちの評価・記録・チーム連携を整えておくこと」です。

通所・訪問・施設、どのフィールドにいても、「生活機能の維持・向上を数字で示せるリハ」は制度が変わっても必要とされ続けます。詳細な算定要件や書類の書き方は、制度・実務カテゴリの記事群も合わせて確認しつつ、2026 年改定の行方をフォローしていきましょう。本記事の内容は 2025 年 12 月時点の情報にもとづくものであり、今後の審議・通知により変更される可能性があります。最新情報を確認しながら、自職場でできる準備をひとつずつ進めていきましょう。

参考資料

  • 厚生労働省:介護給付費分科会 資料(2024〜2025 年、令和 8 年度介護報酬改定に向けた議論関連)
  • 厚生労働省:令和 6 年度介護報酬改定に関する通知・ Q&A・リハビリテーション・機能訓練関連資料
  • 厚生労働省:第 10 期介護保険事業計画に向けた制度改正の検討状況(議事録・配布資料)
  • 各種団体(老健協・介護福祉士会・リハ関連学会など)による介護報酬改定の解説資料・提言書

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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