歩行観察(視診)のコツ| 5 分フロー+チェック表+記録テンプレ
歩行観察(視診)は「知っているのに、毎回ブレる」評価です。原因はシンプルで、①見る順番と②条件(速度・補助具・靴)が揃っていないこと。本記事では、相分け× 3 平面で観察を固定し、 5 分で所見→仮説→次テストまでつなげる型をまとめます。
さらに、現場で止まりやすい「よくある失敗」を先回りし、チーム共有しやすい 1 行記録テンプレも用意しました。まずはこのページを “親(総論)” として運用し、所見が出たら小記事(各論)へ飛ぶ形にすると回遊も強くなります。
同ジャンル回遊:「評価の全体像 → 総論 → 所見別(各論)」で迷いを減らします。
- 総論(評価の選び方):歩行・バランス評価の選び方( SPPB / TUG )
- 所見別(各論の例):膝過伸展( genu recurvatum )歩行|原因仮説と確認テスト
歩行観察がブレる 3 つの理由
歩行観察が安定しない理由は、だいたい 3 つに集約できます。ここを押さえるだけで「見え方」が変わります。
- 順番がない:気になった所見から拾うため、毎回 “見る場所” が変わる
- 条件が揃わない:靴・補助具・速度・歩行路が違い、同じ所見でも出方が変わる
- 言語化が弱い:相(どのタイミング)と平面(どの方向)が書けず、共有できない
観察前に 30 秒で揃える(条件固定)
最初に “条件” を揃えると、所見の再現性が一気に上がります。観察時間を増やすより先に、ここを固定します。
- 歩行路:直線 8〜 10 m(可能なら往復)
- 速度:快適速度(必要なら “ゆっくり” を 1 回だけ追加)
- 靴:裸足/院内靴/普段靴のどれかを明記して統一
- 補助具:杖・歩行器・手すり使用の有無(使うなら同条件で)
- 介助量:見守り/軽介助などを最初に書く
5 分フロー:相分け→ 3 平面→仮説→次テスト
このページの核は “見る順番” です。①相(タイミング)を決めてから、② 3 平面(矢状・前額・水平)で拾う。最後に③仮説と④次の確認へつなげます。
※スマホでは表を左右にスクロールできます。
| 手順 | 見るポイント | メモの書き方 | 次にやること |
|---|---|---|---|
| ① 相を決める | 初期接地〜荷重応答/立脚中期/終期立脚/遊脚(初期〜終期) | 「立脚中期で〜」「遊脚初期で〜」 | 所見が出る “瞬間” を固定 |
| ② 矢状面 | 体幹前後/股屈伸/膝屈伸/足関節背屈・底屈 | 「矢状面:膝過伸展」 | 推進・つまずきの当たり |
| ③ 前額面 | 骨盤下制/体幹側屈/膝内外反/足部の内外反 | 「前額面:骨盤下制」 | 支持・安定性の当たり |
| ④ 水平面 | 骨盤回旋/下肢回旋/つま先の向き | 「水平面:つま先外旋」 | 代償と方向性の当たり |
| ⑤ 仮説( 2〜3 個) | ROM /筋出力・タイミング/疼痛・感覚・恐怖 | 「候補:背屈 ROM・恐怖・疼痛」 | 決め打ちしない |
| ⑥ 次テスト(最小) | 追加評価は 2〜3 個だけ | 「次:背屈 ROM、支持変更」 | 評価が終わる |
チェック表: “拾い漏れ” を防ぐ最小セット
観察は「拾い漏れ」が起きます。まずは下の “最小セット” を毎回通し、気になる所見が出たら小記事(各論)へ飛ぶ運用が安定します。
| 領域 | 代表所見(例) | 相 | 平面 | 一言メモ |
|---|---|---|---|---|
| 体幹・骨盤 | 骨盤下制、体幹側屈、体幹後方偏位 | 立脚中期 | 前額/矢状 | 支持側へ倒れる など |
| 股関節 | 伸展不足、外転不足、回旋の偏り | 終期立脚 | 矢状/水平 | 推進が弱い など |
| 膝 | 膝過伸展、膝折れ、内外反 | 荷重応答〜中期 | 矢状/前額 | 伸び切る/怖がる など |
| 足関節・足部 | つまずき(足尖クリアランス低下)、踵早期離地、内反 | 遊脚初期/終期 | 矢状/前額 | 足が上がらない など |
所見別(小記事)で深掘り
観察で「気になる所見」が出たら、ここから各論へ。原因を決め打ちせず、仮説→最小テスト→記録まで一気に整理できます。
※スマホでは表を左右にスクロールできます。
| 所見(よくある) | 何が分かる? | 小記事 |
|---|---|---|
| 膝過伸展(反張) | 出現相で候補を絞り、確認テストへ | 膝過伸展( genu recurvatum )歩行|原因仮説と確認テスト |
| 骨盤下制・体幹側屈 | 「中殿筋だけ」に決め打ちしない整理 | Trendelenburg 歩行|原因仮説と確認テスト |
| つまずき(足尖クリアランス低下) | 下垂足/代償/速度条件を最短で整理 | 足尖クリアランス低下(つまずき)|原因仮説と確認テスト |
記録テンプレ: 1 行で “共有できる” 形にする
歩行観察は「メモの型」が揃うと、再評価と共有が速くなります。まずは条件→相→平面→次の順で 1 行に落とします。
- 条件:普段靴、 T 字杖(右)、見守り、快適速度
- 1 行 O:「立脚中期に前額面で骨盤下制、矢状面で膝過伸展が目立つ。」
- 1 行 A:「候補:背屈 ROM /支持戦略(恐怖)/疼痛回避。」
- 1 行 P:「次:背屈 ROM、支持変更で変化確認。」
現場の詰まりどころ
→ よくある失敗へ / → 回避の手順へ / 関連:動作分析のやり方(型と記録テンプレ)
よくある失敗( OK / NG )
失敗は “知識不足” ではなく、運用の問題で起きます。ここだけ直すと観察が安定します。
| NG | 何がまずい? | OK( 1 つだけ直す ) | 記録の一言 |
|---|---|---|---|
| 所見だけ書いて相がない | 原因仮説が立たない | まず相を書く(立脚中期/遊脚初期など) | 「立脚中期で〜」 |
| 平面を書かない | 共有でズレる | 矢状/前額/水平のどれかを付ける | 「前額面:骨盤下制」 |
| 原因を 1 つに決め打ち | 外れたときに迷子になる | 候補を 2〜3 個にする( ROM /出力/疼痛・戦略) | 「候補は 3 本柱」 |
| 追加評価をやり過ぎる | 評価が終わらない | 次テストは 2〜3 個だけに絞る | 「次: 2 つだけ」 |
回避の手順/チェック
- 条件(靴・補助具・介助量・速度)を固定して最初に書く
- 所見が出る相を 1 つ決める(まずは立脚中期か遊脚か)
- 3 平面で “言語化” する(矢状/前額/水平)
- 原因候補を 2〜3 個に絞る( ROM /出力・タイミング/疼痛・戦略)
- 次テストは 2〜3 個だけ(その場検証は 1 つだけ)
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. 歩行観察は “どこから” 見ればいいですか?
最初は「相」からです。気になる所見を拾う前に、立脚中期/遊脚初期など “いつ起きるか” を決めると、見る順番が固定されます。その後に 3 平面(矢状・前額・水平)で拾うとブレが減ります。
Q2. 原因はどこまで決めて書くべきですか?
観察だけで断定しない方が安全です。 ROM /筋出力・タイミング/疼痛・感覚・恐怖の 3 本柱で候補を 2〜3 個に絞り、次に確認する評価( 2〜3 個)へつなげる形が運用に向きます。
Q3. 記録は最短でどう書けばいいですか?
条件→相→平面→次テストの順で 1 行にします。例:「普段靴、 T 字杖(右)、快適速度。立脚中期に前額面で骨盤下制。次:支持変更と背屈 ROM。」の形だと共有しやすいです。
次の一手(行動)
- 運用を整える:所見が出たら 所見別(小記事) へ飛び、仮説→次テストを最短で固定する
- 共有の型を作る:動作分析のやり方(型と記録テンプレ)で、記録の言い回しをチームで揃える
教育体制・人員・記録文化など“環境要因”を一度見える化すると、次の打ち手が決めやすくなります。
チェック後に『続ける/変える』の選択肢も整理したい方は、PT キャリアナビで進め方を確認しておくと迷いが減ります。
参考文献
- Perry J, Burnfield JM. Gait Analysis: Normal and Pathological Function. 2nd ed. SLACK; 2010.
- McGinley JL, et al. Accuracy and Reliability of Observational Gait Analysis Data: Judgments of Push-off in Gait After Stroke. Phys Ther. 2003;83(2):146-160. doi:10.1093/ptj/83.2.146
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


