- 方向転換(ターン)の動作分析とは?(結論:まず「体重移動→軸→足運び」を 30 秒で見る)
- なぜ「方向転換」を別枠で見るべきか
- 図解:ターンを「 3 つの要素× 3 つの相」で整理する
- まずはこれだけ: 30 秒の観察ルーティン(新人でも再現できる)
- ターンを「 3 相」に分けて見る(準備→回る→再安定)
- チェックリスト:新人が迷いにくい 10 項目(観察→仮説へ直結)
- よく見る 3 パターン:所見→仮説→「最初の 1 手」を決める
- 声かけ(キュー)の型:新人でも言い切れる短文テンプレ
- 記録の書き方: 2 行で「所見→解釈→次」を残す
- 現場の詰まりどころ:新人がハマる 5 つ(対策つき)
- よくある質問(FAQ)
- おわりに
- 参考文献
- 著者情報
方向転換(ターン)の動作分析とは?(結論:まず「体重移動→軸→足運び」を 30 秒で見る)
方向転換(ターン)の動作分析は、「体重移動が作れるか」「軸が保てるか」「足運びで回れるか」を短時間で分解して観察し、ふらつき・小刻み・すくみ・痛み回避などの原因仮説を立てる技術です。まずは準備(止まる)→回る→再安定の 3 つに分け、どこで破綻しているかを当てにいきます。
本記事は、歩行そのものの分析は扱わず、その場方向転換( 90° / 180° / 360° )や立位でのターンを中心に、観察手順・図解(インライン SVG )・チェック表・記録テンプレまで「貼って使える型」としてまとめます。
なぜ「方向転換」を別枠で見るべきか
方向転換は、直進よりも内外側方向の重心移動と支持基底面( BOS )の再配置が大きく、転倒やふらつきが目立ちやすい動作です。臨床では、立位・移乗・トイレ動作・ベッド周りなど、歩行距離が短い場面でもターンが頻出します。
同じ「バランス低下」に見えても、破綻点が体重移動なのか、軸(体幹・骨盤)の回旋協調なのか、足部の切り返し(ステップ戦略)なのかで、介入の当て先が変わります。だからこそ、ターンは相(フェーズ)で分けて観察します。
図解:ターンを「 3 つの要素× 3 つの相」で整理する
まずはこれだけ: 30 秒の観察ルーティン(新人でも再現できる)
最初は「細かい角度」を追わず、同じ順番で同じ場所を見て、違いを拾うのが最短です。以下は病棟でも外来でも使える固定ルーティンです。
| 順番 | 見方 | 観察ポイント | ひと言メモ例 |
|---|---|---|---|
| ① 正面 | 胸〜骨盤〜膝の一直線 | 骨盤の左右移動、膝の内外反、支持脚への荷重 | 「右支持で骨盤が落ち、膝が内側へ」 |
| ② 側面 | 体幹前傾と足関節の使い方 | 前方への重心移動、踵離れ、足部の回内 / 回外 | 「止まるときに後方へ残る」 |
| ③ 背面 | 肩甲帯と骨盤の連動 | 肩と骨盤が一塊( en bloc )か、上から順に回れるか | 「頭・胸・骨盤が同時に回る」 |
| ④ 足元 | 足運びの戦略 | pivot / step、歩数、すり足、足部の引っかかり | 「 180° に 6 歩、すり足」 |
ターンを「 3 相」に分けて見る(準備→回る→再安定)
ターンの失敗は、だいたいどこか 1 相で起きています。「全体が下手」に見えても、破綻点がわかると、声かけも環境設定も一気に当たります。
① 準備(止まる):ここが崩れると「回れない」
準備相で大事なのは、支持脚へ乗ることです。止まる直前に重心が後方へ残ったり、支持脚が決まらないまま回そうとすると、ターン中のふらつきが増えます。
| サイン | まず疑う要因 | その場でできる確認 |
|---|---|---|
| 止まると後ろへよろける | 前方への重心移動不足、恐怖、足関節戦略低下 | 「止まってから回る」指示で改善するか |
| 支持脚が決まらず足踏み | 片脚支持の不安定、股関節外転筋の支持不足 | 手すり / 介助で支持を増やすと改善するか |
| 回る前に上体が傾く | 体幹側屈の代償、骨盤の側方安定不足 | 骨盤を軽く支えると傾きが減るか |
② 回旋・切り返し:軸(体幹)と足運びの「協調」を見る
回旋相では、上(視線)→体幹→骨盤の順に向きが変わると回りやすくなります。一方で、頭・体幹・骨盤が一塊で同時に回る( en bloc )と、足運びが増えて小刻みになりやすいです。パーキンソン病などではこの特徴が報告されています。
| 型 | 見た目 | メリット | 崩れやすいポイント |
|---|---|---|---|
| pivot(軸足で回る) | 歩数が少ない、軸が明確 | 素早い方向転換が可能 | 軸足の支持が弱いと破綻 |
| step(複数歩で回る) | 小刻み / すり足になりやすい | 支持基底面を広げやすい | 歩数増加でタイミングが乱れる |
③ 再安定:ふらつきが「いつ収束するか」を観察する
ターン直後にふらつきが残るなら、回旋中の問題だけでなく、回った後に支持を作り直す力(足部での立ち直り、股関節戦略、視線の固定)も疑います。ここは「回れているのに危ない」ケースで特に重要です。
チェックリスト:新人が迷いにくい 10 項目(観察→仮説へ直結)
| 分類 | 項目 | OK の目安 | NG サイン |
|---|---|---|---|
| 体重移動 | 支持脚へ乗れる | 回る前に荷重が決まる | 足踏み / 体幹が流れる |
| 体重移動 | 骨盤が落ちない | 左右の傾きが小さい | 中殿筋の代償が目立つ |
| 軸 | 視線の先行 | 顔が先に向く | 最後まで顔が動かない |
| 軸 | 体幹と骨盤の協調 | 上から順に回る | en bloc(同時回旋) |
| 足運び | 歩数 | 目的角度に対して過剰でない | 歩数が増えて失速 |
| 足運び | すり足 / つまづき | 足がクリアに上がる | 足先が床を擦る |
| 足部 | 足部の支え | 内外側へ崩れない | 回内で潰れる / 外側へ逃げる |
| タイミング | 止まる→回るが分かれる | 切り替えが明確 | 動きが混ざってふらつく |
| 再安定 | ターン後のふらつき | 1〜 2 秒で収束 | 収束しない / 追加の支えが必要 |
| 安全 | 手の使い方 | 支持が目的に合う | 壁・家具へ反射的に掴む |
よく見る 3 パターン:所見→仮説→「最初の 1 手」を決める
パターン化すると、観察が「感想」から「判断」に変わります。以下は臨床で頻出の型です。
| 見え方 | よくある背景 | 最初の 1 手(その場で確認) | 再評価の見方 |
|---|---|---|---|
| 小刻みで歩数が増える | 支持脚不安、回旋の硬さ、すくみ傾向 | 「止まってから回る」+ 視線先行の声かけ | 歩数とふらつきが減るか |
| 上半身が一塊で回る( en bloc ) | 体幹回旋協調の低下、頸部・体幹の硬さ | 「顔→胸→骨盤」順のキュー(下に例) | 頭部先行が出るか |
| 回った直後にふらつきが残る | 足部で支持を作り直せない、視線固定不良 | ターン角度を小さくし、着地位置を明確化 | 収束時間が短くなるか |
声かけ(キュー)の型:新人でも言い切れる短文テンプレ
| 目的 | 声かけ(短文) | 狙い |
|---|---|---|
| 準備相を作る | 「いったん止まって、片足に乗ってから回りましょう」 | 支持脚の決定 |
| 視線先行 | 「まず顔だけ向けます。次に胸、最後に腰です」 | 上から順の回旋 |
| 足運びを整理 | 「足を 1 歩ずつ。置く場所を決めてから出します」 | すり足・焦りの抑制 |
| 再安定を作る | 「回ったら 1 秒止まって、まっすぐ立てたら OK です」 | ふらつき収束の確認 |
記録の書き方: 2 行で「所見→解釈→次」を残す
動作分析は文章が長くなりがちです。相(どこで)+所見(何が)+仮説(なぜ)+次(どうする)の 4 点だけ残すと、伝達と再評価が回ります。
| 行 | 例文 |
|---|---|
| 所見 | 「立位 180° ターンで 6 歩を要し、回旋中に体幹が en bloc。ターン後のふらつきは 3 秒残存。」 |
| 解釈→次 | 「準備相の支持脚決定と視線先行が不十分と推定。『止まる→顔→胸→骨盤』のキューで歩数とふらつきの変化を再評価する。」 |
現場の詰まりどころ:新人がハマる 5 つ(対策つき)
| 詰まり | よくある原因 | 解消のコツ |
|---|---|---|
| 見る場所が多くて散る | 視点が固定されていない | 本記事の「正面→側面→背面→足元」の順に固定する |
| 歩数の多さをどう解釈するか迷う | 足運びだけを見ている | まず準備相(支持脚)と軸(視線先行)を同時に見る |
| en bloc を言語化できない | 「同時回旋」を見落とす | 背面から「頭・胸・骨盤の動き出し」を 1 回だけ確認する |
| 介入が思いつかない | 仮説が 1 つに絞れていない | 「止まる」「視線」「足運び」から 1 つだけ選び、再評価する |
| 再評価が曖昧 | 指標がない | 「歩数」「ふらつき収束時間」「手の使用」の 3 指標に固定する |
よくある質問(FAQ)
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Q1. ターンは「 pivot と step 」どちらが良いですか?
A. 良し悪しではなく、目的と安全性で選びます。支持脚が安定し、軸が保てるなら pivot は効率的です。一方で、支持が弱い場合は step で支持基底面を作りながら回る方が安全なことがあります。まずは「歩数が増えすぎて破綻していないか」「ターン後のふらつきが収束するか」を基準に判断します。
Q2. 「止まってから回る」と「回りながら止まる」は何が違いますか?
A. 初学者の観察では、「止まってから回る」に統一すると準備相(支持脚)が見えやすくなります。回りながら止まると、重心移動・回旋・再安定が混ざって、破綻点が曖昧になりがちです。まずは相を分けるために「止まってから回る」で評価し、慣れてきたら課題条件として「連続動作」に広げると整理しやすいです。
Q3. ターン後のふらつきは、どこを優先して見ますか?
A. ①足部で支持が作り直せているか(すり足・足部の潰れ)②視線が定まるか(顔が泳ぐ)③着地位置がバラつくか、の順で見ます。再安定は「回れたか」よりも「収束できたか」が重要なので、収束時間を毎回メモすると再評価が回ります。
Q4. パーキンソン病のターンで「 en bloc 」が出たらどう考えますか?
A. 報告では、頭部・体幹・骨盤の回旋開始が近い(同時)ことで「一塊の回旋」になりやすいとされます。臨床では、まず視線先行のキュー(「顔→胸→骨盤」)で変化が出るかを確認し、それでも難しければ、ターン角度や環境(幅、支持、目標)を調整して安全に回れる条件を探します。
おわりに
方向転換の動作分析は、準備(支持脚)→回旋協調(視線先行)→足運び(戦略)→再安定(収束)の順で見れば、新人でも「どこが問題か」を言語化しやすくなります。まずは 30 秒ルーティンで所見を固定し、歩数・収束時間・手の使用の 3 指標で再評価を回していきましょう。
面談や見学で「教育体制・評価の回し方」を確認するためのチェックにも使えるので、準備を進めたい方は 面談準備チェックと職場評価シート もあわせて活用してみてください。
参考文献
- Thigpen MT, Light KE, Creel GL, Flynn SM. Turning difficulty characteristics of adults aged 65 years or older. Phys Ther. 2000;80(12):1174-1187. PubMed
- Conradsson D, Paquette C, Franzén E. Medio-lateral stability during walking turns in older adults. PLOS ONE. 2018;13(6):e0198455. doi: 10.1371/journal.pone.0198455
- Gulley E, Ayers E, Verghese J. A comparison of turn and straight walking phases as predictors of incident falls. Gait Posture. 2020;79:239-243. doi: 10.1016/j.gaitpost.2020.05.002
- Hong M, Earhart GM. Effects of Medication on Turning Deficits in Individuals with Parkinson’s Disease. J Neurol Phys Ther. 2010;34(1):11-16. doi: 10.1097/NPT.0b013e3181d070fe
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

