FIM / Barthel Index を退院支援に落とす手順【介助量・自宅復帰の判断】

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FIM / Barthel Index( BI )を退院支援に落とす手順【介助量・自宅復帰の判断】

臨床で迷わない「評価→方針」の組み立て方を見る( PT キャリアガイド )

FIM や Barthel Index( BI )は ADL を数値化できる一方で、「自宅に戻れるか」「家族介助はどのくらい必要か」「サービスは何を組むか」まで文章に落とす場面で止まりがちです。本記事は、点数(評価)→ 介助量 → 退院先の要件 → 退院前にやること → 説明文(共有)までを 1 本の型でつなげます。

なお、スケール自体の違い・使い分けを先に整理したい場合は Barthel と FIM の違い【比較・使い分け】 を前提として読むと迷いが減ります。

結論:退院支援は「 5 ステップ変換」で書ける

退院支援の書類は、評価の羅列ではなく意思決定の記録です。おすすめは「①点数(事実)→ ②介助量(現実)→ ③退院先の要件(条件)→ ④退院前にやること(優先)→ ⑤説明文(共有)」の固定です。この順番で下書きを作ると、家族・ケアマネ・多職種に伝わる文章になります。

点数が改善しても退院が難しいケースは “赤旗(安全の穴)” が残っていることが多いです。点数の上下だけでなく、どの場面で事故が起きるかを先に言語化すると、退院前指導の優先順位も自然に決まります。

ステップ 1:点数は「退院判断に効く情報」に絞る

FIM / BI は全項目を丁寧に書く必要はありません。退院支援に効くのは次の 3 つです。

  • ボトルネック ADL :移乗・トイレ・更衣・入浴など、介助量が 1 段階変わると生活設計が変わる場面
  • 事故直結 ADL :歩行/車椅子移動、階段、夜間トイレ、屋内外の段差
  • 認知・注意の影響:見守りが外れない理由(逸脱、危険行動、見落とし、指示理解の不安定)

ステップ 2:点数を「介助量の言い換え」に変える

点数をそのまま示しても、家族やケアマネには伝わりにくいことがあります。まずは “介助量の言い換え” を作り、生活像に接続します。

退院支援:点数(評価)を介助量(言い換え)へ変換するメモ(例)
評価の書き方(例) 介助量の言い換え(チーム共有用) 家族説明の言い換え(やさしい言葉)
移乗:最小介助 手すり・見守りで一部介助。立ち上がり局面で支えが必要 基本は自分でできますが、立つ瞬間だけ支えが必要です
トイレ動作:見守り 転倒予防の監視が必要(夜間・疲労時に増悪しやすい) できるけど、倒れないよう “見ていてほしい” 状態です
歩行:見守り〜最小介助 環境により介助段階が変動(狭所・方向転換・段差で崩れやすい) 平らなら歩けますが、曲がる・狭い・段差で危ないです
更衣:中等度介助 手順・上肢操作・姿勢保持の複合で介助が必要 服を着る順番と手の動きで、半分以上手伝いが必要です

ステップ 3:退院先は「要件」で考える(自宅/施設/転院)

退院先の判断は点数そのものより要件を満たせるかで決まります。要件を “人(介助)・物(福祉用具)・環境(家屋)・サービス(支援量)” に分解して書くと、議論が前に進みます。

退院先の要件: ADL の状態から「必要条件」を抽出する(例)
ボトルネック場面 退院後に必要な条件(要件) 満たせない場合の選択肢 退院前にやること
夜間トイレで転倒リスク 動線の確保、手すり、ポータブル、見守り体制(夜間) 短期入所の併用、支援量増を前提に設計 夜間想定の動線で実地練習、家族へ介助の型を統一
移乗が不安定 手すり・ベッド高さ調整、介助者が立つ位置の固定 介助者確保が難しければ転院/施設 家族同席で移乗指導、ヒヤリ場面の共有
屋内歩行は可だが段差で崩れる 段差解消、スロープ、玄関環境。屋外は見守り 外出支援の利用、通所導入を前提に設計 段差場面の練習を優先、福祉用具の試行
手順が不安定(注意・失語など) 見守りが外れない理由の明確化、声かけの統一 単身は危険度が上がるため支援量増/施設検討 危険行動のパターンをリスト化して共有

ステップ 4:点数だけでは決まらない「赤旗」を必ず確認する

FIM / BI が改善しても退院が難しいケースは、赤旗が残っていることが多いです。退院支援の場では、少なくとも次の観点を 1 行で残すと安全性が上がります。

退院判断の赤旗:点数が同じでも事故リスクを変える要因
赤旗(例) 起きやすい事故 書類に残す一言(例) 対策(退院前)
注意配分が不安定 方向転換・狭所で転倒、見落とし 二重課題でふらつきが増えるため、屋内移動は見守り継続 動線固定、声かけ統一、危険場面だけ重点練習
USN /見落とし傾向 衝突、片側の障害物見落とし 探索不足があり、移動時は環境調整と見守りが必要 スキャンのルール化、物品配置の固定
失語・理解の揺れ 指示不一致で危険動作 指示理解が状況で変動するため、介助手順は定型化する 短い定型フレーズ、ジェスチャー併用
疲労で ADL が崩れる 夕方・夜間に転倒、失禁 疲労時に介助量が上がるため、休息計画を含めて設計 活動と休息の配分、夜間場面の再現練習
嚥下・呼吸の不安定 誤嚥、 SpO2 低下で活動量が落ちる 食事前後は負荷を調整し、状態悪化時は介入を中止する 多職種とタイミング調整、リスク場面の共有

ステップ 5:書類にそのまま使える例文(家族説明/ケアマネ共有)

以下は “穴埋め” で使える例文です。角括弧[ ]を埋めると、退院支援会議や情報共有の要約が作れます。

退院支援の例文テンプレ:評価 → 要件 → 依頼事項まで一気に書く
用途 例文テンプレ(穴埋め) 埋める要素
現状要約( ADL ) 現在、[移乗/トイレ/更衣]は[見守り/最小介助/中等度介助]で実施しています。特に[夜間/疲労時/段差]で介助量が増える傾向があります。 ボトルネック、介助量、増悪条件
リスク(赤旗) [注意の不安定/見落とし/理解の揺れ]により、[方向転換/狭所/夜間トイレ]で転倒リスクが高いため、退院後も[見守り/環境調整]が必要です。 赤旗、危険場面、必要支援
退院先の要件 自宅退院の条件として、①[手すり/段差解消]など環境整備、②[家族の介助:時間帯]の確保、③[訪問介護/通所]の導入を前提に検討します。 環境、介助体制、サービス
依頼事項(共有用) 退院後は[夜間トイレ/入浴/更衣]で支援量が必要です。[支援種別:回数]と[福祉用具:候補]の調整をご相談ください。再評価は[ 2 週/ 1 か月]で行います。 支援場面、支援量、用具、再評価時期
家族説明(短文) 家では[できること]はご本人で行えますが、[危ない場面]は倒れやすいので[支えるタイミング]だけ手伝ってください。慣れるまでは[見守り]をお願いします。 できること、危ない場面、介助の型

現場の詰まりどころ:よくある失敗と直し方

退院支援で起きやすい “ズレ” と、直すための書き方
失敗 なぜ起きるか 直し方(型) 修正文(例)
点数は良いのに退院が進まない 赤旗(安全の穴)を拾っていない 赤旗を 1 行で必ず記載し、要件に接続する ADL は概ね見守りだが、注意の不安定により狭所と夜間で転倒リスクが高い。環境調整と見守り体制が必要。
“自立” の一言で共有してしまう 条件(時間帯・疲労・段差)が抜ける 「いつ/どこで/どの条件」を追加する 日中の平地は自立だが、段差と方向転換で介助が必要。夜間トイレは見守り継続。
家族指導が “見ていてください” で終わる 介助の型が統一されない 支えるタイミング・立ち位置を固定する 立ち上がりの瞬間のみ骨盤後方から支える。移乗は手すり使用を優先し、介助者は麻痺側後方に立つ。
支援提案が抽象的 支援が必要な場面が明確でない “支援場面” を先に列挙してから支援量を検討 夜間トイレ、入浴、更衣で支援量が必要。支援導入を前提に自宅退院を検討する。

よくある質問

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

Q1. FIM / BI の点数だけで自宅復帰は判断できますか?

A. 点数は重要ですが、単独で決めるより「要件(介助・環境・支援)」に翻訳して判断する方が安全です。点数が近くても、注意の不安定・ USN ・疲労で事故リスクが変わります。退院支援では “赤旗” を 1 行で残すだけでも、意思決定がぶれにくくなります。

Q2. 家族介助量をどう書くと伝わりますか?

A. 「支える場面」と「タイミング」を具体化してください。例)「立ち上がりの瞬間のみ支えが必要」「夜間トイレは見守りが必要」のように、時間帯と場面を入れると家族のイメージが揃います。

Q3. 退院前に優先すべき指導は何ですか?

A. 優先は “事故が起きる場面” です。多くは夜間トイレ、段差、方向転換、入浴で詰まります。点数が伸びていても、危険場面の練習と環境整備が進まないと自宅は難しくなります。

Q4. 共有文は長くなりがちです。短くするコツは?

A. 「現状(介助量)」「赤旗(危険場面)」「要件(介助・環境・支援)」「再評価時期」の 4 点だけに絞ると短くなります。まずは穴埋めテンプレで 4 行に収め、詳細は別紙や口頭で補足するのが実務では速いです。

おわりに

退院支援の要点は、点数を増やすことではなく「危険場面の特定 → 要件(介助・環境・支援)への変換 → 退院前に優先練習 → 書類で共有 → 再評価」の流れを固定することです。この “リズム” が揃うと、会議も家族説明も一気に進みます。

参考文献

  • Mahoney FI, Barthel DW. Functional evaluation: the Barthel Index. Md State Med J. 1965;14:61-65. PubMed
  • Keith RA, Granger CV, Hamilton BB, Sherwin FS. The Functional Independence Measure: a new tool for rehabilitation. Adv Clin Rehabil. 1987;1:6-18. PubMed
  • Winstein CJ, Stein J, Arena R, et al. Guidelines for Adult Stroke Rehabilitation and Recovery. Stroke. 2016;47(6):e98-e169. doi: 10.1161/STR.0000000000000098
  • World Health Organization. International Classification of Functioning, Disability and Health ( ICF ). 2001.

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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