FIM・BIを退院支援の共有文へ変える手順
FIM や Barthel Index(BI)は採点できても、退院支援では「どこで介助が必要か」「何を整えれば自宅生活が回るか」「家族やケアマネへ何を伝えるか」まで文章にできず止まりやすいです。退院支援で重要なのは、合計点そのものではなく、評価結果を実際の生活場面へ翻訳することです。
この記事では、ADL の低下 → 実際の介助場面 → 介助が増える条件 → 退院先の要件 → 共有文の順に整理します。退院支援全体の時系列や進め方を確認したい場合は、退院支援の進め方|3日・7日・14日とPTの5ステップを先に確認してください。
結論:点数を直接換算せず「生活場面と必要な支援」へ変える
FIM と BI は異なる尺度なので、BI の点数を FIM の介助段階へ置き換えるような1 対 1 の換算は行いません。それぞれの基準で評価したあと、退院支援では「どの ADL に課題があるか」「実際に何を手伝っているか」「どの条件で介助量が増えるか」を確認します。
そのうえで、人・物・環境・サービスの要件へつなげ、最後に多職種・ケアマネ・家族が判断できる文章へ変換します。おすすめの順番は、次の 5 ステップです。
- ADL の低下を整理する
- 実際の介助場面へ落とし込む
- 介助が増える条件を確認する
- 退院先の要件へつなげる
- 共有文にまとめる

退院支援の共有文は、この型で整理できます
[ADL]は[生活場面]で[必要な介助]を要する。[夜間・疲労・狭所など]では介助量が増える。退院には[人・物・環境・サービス]の調整が必要で、[事故につながる条件]を確認しながら再評価する。
ステップ1:点数ではなく「退院判断に効くADL」を絞る
最初に確認するのは合計点の高低ではなく、退院後の生活設計や安全性を変える ADLです。全項目を同じ重さで並べると、家族やケアマネが知りたい「どこに支援が必要なのか」が埋もれます。
FIM は項目ごとの自立度や介助の程度、認知面まで確認でき、BI は基本的 ADL の状態を簡潔に整理できます。両尺度の目的や評価構造の違いは、Barthel IndexとFIMの違い|目的別の使い分けで詳しく整理しています。
| 優先する情報 | 代表場面 | 退院支援で確認すること |
|---|---|---|
| 生活のボトルネック | 移乗、トイレ、更衣、入浴 | この介助が残ると、誰の負担やどのサービスが増えるか |
| 事故につながる動作 | 方向転換、狭所、段差、階段 | どの条件で転倒や失敗が起こりやすいか |
| 時間帯・体調による変化 | 夜間トイレ、夕方、疲労後 | 病棟の日中評価より介助量が増えないか |
| 認知・注意の影響 | 手順、見落とし、危険認識 | 身体能力だけでは見守りを外せない理由がないか |
退院支援の文章では、すべての評価項目を書き写す必要はありません。「介助量が変わる」「事故につながる」「家族やサービスの負担が変わる」のいずれかに該当する ADL を優先して整理します。
ステップ2:評価結果を「実際の介助場面」に変える
次に、評価結果を生活の言葉へ変えます。「見守り」「一部介助」といった表現だけで終わらせず、どの局面で、何を支援しているのかまで書くことがポイントです。
以下は FIM や BI の正式な採点基準を示す表ではありません。採点はそれぞれの尺度の基準に従い、ここでは採点後の情報を退院支援の文章へ翻訳する例として示します。
| 評価で分かったこと | 追加で確認すること | 共有文の例 |
|---|---|---|
| 移乗に介助を要する | 立ち上がり・方向転換・着座のどこで介助するか | 移乗は立ち上がりから方向転換で支えを要する。着座後は自力で姿勢を整えられる。 |
| 歩行・移動に見守りを要する | 直線・方向転換・狭所・段差で違いがあるか | 直線歩行は安定しているが、狭所の方向転換でふらつくため見守りを要する。 |
| トイレ動作に介助を要する | 移乗・衣服操作・姿勢保持など何がボトルネックか | トイレまでの移動は可能だが、衣服操作時の立位保持に介助を要する。 |
| 更衣に介助を要する | 手順・上肢操作・下衣操作・姿勢保持のどこが難しいか | 上衣は自力で行えるが、下衣操作では立位保持と衣服操作に介助を要する。 |
家族へ説明するときも、「見守りが必要です」だけでは介助方法が伝わりません。「平らな場所は歩けますが、向きを変えるときは近くで確認してください」のように、できる条件と介助が必要な条件をセットにします。
ステップ3:介助が増える条件を確認する
病棟で確認した ADL が、そのまま自宅でも再現できるとは限りません。同じ患者でも、夜間、疲労、狭所、段差、注意を分ける場面などで介助量が変わります。
退院支援では「普段どこまでできるか」だけでなく、どの条件になると能力が崩れるかまで書きます。これが抜けると、「病院ではできていたのに、自宅では危ない」というズレが起こりやすくなります。
| 条件 | 確認する場面 | 共有文の例 |
|---|---|---|
| 夜間 | 起床直後、夜間トイレ、暗い動線 | 日中より夜間の移動が不安定であり、退院直後は夜間の見守りを要する。 |
| 疲労 | 夕方、長距離移動、連続した活動後 | 疲労後は歩行の安定性が低下するため、活動量と休息の調整を要する。 |
| 狭所・方向転換 | トイレ、家具間、出入口 | 直線歩行は可能だが、狭所の方向転換ではふらつきが増える。 |
| 段差・階段 | 玄関、上がり框、階段 | 平地移動より段差場面で介助量が増えるため、自宅環境での確認を要する。 |
| 注意配分 | 会話しながらの移動、周囲確認、複数動作 | 周囲へ注意を向ける場面で動作が不安定となるため、狭所移動では見守りを要する。 |
ステップ4:退院先は「人・物・環境・サービス」の要件へ変える
FIM・BI は退院支援の重要な判断材料ですが、合計点だけで退院先を決めるものではありません。FIM と自宅退院との関連を示した研究もありますが、実際の退院可否には病状、家族の介助力、住環境、利用できるサービスなど複数の条件が関係します。
そのため、ADL の課題が分かったら、次は人・物・環境・サービスの 4 つへ変換します。「自宅は可能か/不可能か」という二択ではなく、「何を整えれば生活できるか」を考えるための整理です。
| 区分 | 確認すること | 不足するときに検討すること |
|---|---|---|
| 人 | 誰が、どの時間帯に、どの動作を支援できるか | 家族指導、支援時間の調整、外部サービスの追加 |
| 物 | 手すり、ポータブルトイレ、歩行補助具などが必要か | 福祉用具の試行、導入方法・時期の調整 |
| 環境 | 寝室〜トイレ、玄関、段差、階段、浴室で介助量が変わらないか | 動線変更、家具配置、住宅改修、代替動作の検討 |
| サービス | 訪問・通所・介護サービスを、どの生活場面へ入れるか | 回数、時間帯、サービス種別の再調整 |
たとえば「夜間トイレで見守りが必要」という結果なら、すぐに「自宅は難しい」と結論づけるのではありません。夜間に対応できる人がいるか、寝室からトイレまでの環境を変えられるか、福祉用具や代替手段を使えるか、サービスで補完できるかを順番に確認します。
点数だけでは伝わらない「事故につながる条件」も1行で残す
FIM・BI の結果が同じでも、転倒や失敗が起きる条件が違えば退院後に必要な支援は変わります。本記事では、退院後の事故や失敗につながりやすい具体的な条件を「事故につながる条件」として別に整理します。
これは医学的な緊急所見を示す一般的な「red flag」とは異なる、本記事内の実務整理です。「どこで」「どの条件になると」「何が起きるか」の 3 点が分かれば、対策や家族説明へつなげやすくなります。
| 観察したこと | 起こりやすい問題 | 書き残す例 |
|---|---|---|
| 注意配分が不安定 | 方向転換や狭所でふらつく | 周囲へ注意を向ける場面でふらつきが増えるため、狭所移動は見守りを要する。 |
| 障害物の見落としがある | 家具や物品への接触 | 移動時に障害物を見落とすことがあり、環境調整と確認の声かけを要する。 |
| 疲労で動作が崩れる | 夕方や活動後に転倒リスクが上がる | 疲労後は歩行の安定性が低下するため、活動と休息の調整が必要である。 |
| 夜間に介助量が増える | 夜間トイレでふらつく | 夜間は日中より移動が不安定であり、退院直後は見守りを要する。 |
ステップ5:会議・ケアマネ・家族が使える共有文へ変える
最後に、評価結果を共有相手が判断できる文章へ変えます。全員へ同じ情報量を渡すのではなく、多職種会議では意思決定、ケアマネには支援設計、家族には具体的な介助場面が分かるように整えます。
以下は、回復期の脳卒中患者を想定した架空の例です。実際には患者ごとの評価結果、認知機能、家族状況、自宅環境などに合わせて変更してください。
退院支援会議:現状→条件→要件→次の確認まで書く
現状:移乗は一部介助、トイレ動作は見守り、更衣は下衣操作に介助を要します。日中の平地歩行は見守りで可能です。
介助が増える条件:狭所の方向転換と夜間トイレでふらつきが増え、疲労後は介助量が上がります。
退院先の要件:夜間に対応できる支援者、トイレまでの安全な動線、必要な福祉用具、退院後のサービス調整が必要です。
退院前の確認:自宅を想定した動線と方向転換を確認し、家族が必要な介助を再現できるか確認します。
意思決定:必要な要件を満たせる場合は自宅退院を候補とし、不足する要件があれば支援方法や退院先を再検討します。あわせて再評価する時期または条件を共有します。
ケアマネ共有:支援設計につながる3行にする
1行目:支援が必要な場面は、夜間トイレ、更衣、入浴です。移乗は立ち上がりから方向転換で一部介助を要します。
2行目:狭所、段差、疲労後にふらつきが増え、特に夜間トイレでは見守りが必要です。
3行目:退院には夜間の支援体制、福祉用具、トイレ動線の調整、必要な介護サービスの設定が必要です。退院後は生活場面を確認し、必要に応じて支援量を見直します。
家族説明:「できること」と「手伝う場面」を分ける
できること:日中の平らな場所は、近くで確認していれば歩けます。
注意すること:狭い場所で向きを変えるときや、疲れているとき、夜間はふらつきが増えます。
お願いしたいこと:危ない場面ですぐ支えられる距離から確認し、病院で一緒に練習した介助方法を自宅でも同じように行ってください。
見直し:退院後の生活状況を確認し、必要に応じて介助量やサービスを調整します。
よくある失敗:点数・生活条件・介助方法を混同しない
退院支援で起きやすいのは、尺度そのものの説明不足より、評価結果と実生活の条件を同じものとして扱ってしまうことです。特に、次の 4 点は確認しておきます。
| 失敗 | 問題 | 直し方 |
|---|---|---|
| 合計点だけで退院可否を考える | 家族、環境、時間帯による違いが抜ける | ボトルネック ADL と介助が増える条件を追加する |
| FIM と BI を直接換算する | 尺度ごとの項目構成や採点方法の違いを無視してしまう | それぞれの基準で評価したあと、実生活場面へ翻訳する |
| 「自立」「見守り」だけで共有する | どの条件で介助が必要か伝わらない | 夜間、疲労、狭所、方向転換などの条件を追加する |
| 研究のカットオフをそのまま個人へ当てはめる | 対象、評価時期、疾患、社会的背景などが異なる | 研究値は参考情報とし、個別の生活要件を別に確認する |
また、家族指導で「必ずこの位置に立つ」「必ずここを持つ」と一律に決めることも避けます。介助方法は、運動機能、認知機能、動作方向、使用する福祉用具、自宅環境などによって変わるため、実際の動作を確認したうえで個別にそろえます。
共有文を書く前の最終チェック
共有文が完成したら、点数の記載だけで終わっていないかを確認します。
- ボトルネック ADL:退院後の生活を左右する項目が分かる
- 介助場面:何を、どの局面で手伝っているか分かる
- 条件:夜間、疲労、狭所、段差など介助量が増える条件が分かる
- 要件:人・物・環境・サービスのうち必要な調整が分かる
- 事故につながる条件:どこで何が起こりやすいか具体的に書けている
- 次の行動:誰が何を確認・調整するか決まっている
- 再評価:いつ、またはどの条件で見直すか共有できている
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。
Q1. FIMやBIの合計点だけで自宅退院を判断できますか?
合計点は重要な判断材料ですが、それだけで自宅退院の可否は決まりません。どの ADL に介助が必要か、夜間や疲労時に能力が変わらないか、家族が必要な介助を行えるか、住環境やサービスを調整できるかまで確認します。
Q2. FIMとBIの点数を相互に換算できますか?
単純な 1 対 1 の換算は行いません。FIM と BI は項目構成や採点方法が異なります。それぞれの基準で評価したうえで、退院支援では「どの生活場面で、どのような介助が必要か」という共通の情報へ翻訳します。
Q3. 合計点は改善しているのに、退院後も見守りが必要なのはなぜですか?
合計点だけでは、夜間、疲労、狭所、方向転換など、特定の条件で能力が低下することを十分に表せない場合があります。「どの条件で介助量が増えるか」を別に記録すると、見守りが必要な理由を共有しやすくなります。
Q4. ケアマネにはFIM・BIの点数以外に何を共有すべきですか?
支援が必要な生活場面、具体的な介助内容、介助量が増える条件、退院後に必要な人・物・環境・サービスを伝えます。さらに、誰が何を調整するか、退院後に何を再評価するかまで共有するとサービス設計につながりやすくなります。
次の一手:必要な介助を家族が再現できるか確認する
FIM・BI の結果から必要な介助場面を整理できたら、次は家族がその介助を安全に再現できるか確認します。説明だけで終わらせず、介助練習、声かけ、危険場面、記録までそろえたい場合は、リハビリ家族指導の実践フロー|介助練習・声かけ・記録例へ進んでください。
参考文献
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著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

