フレイル評価の選び方(スクリーニング→精査→介入)|基本チェックリスト・ J-CHS ・ SPPB の位置づけ
評価 → 介入 → 再評価の「臨床フロー」をまとめて見る( PT キャリアガイド )
フレイル評価は「何を、どこまで、どの順番で見るか」で迷いが出やすい領域です。結論はシンプルで、入口は質問紙(基本チェックリスト)で広く拾い、必要なら J-CHSで身体的フレイルを共通言語化し、介入設計と追跡には SPPBで“どこが詰まっているか”を可視化します。
この総論では、基本チェックリスト( KCL )・改訂日本版フレイル基準( J-CHS )・ SPPB を、スクリーニング → 精査 → 介入の流れで整理します。点数や判定で止まらず、「次に何を確認するか」まで一気に決められる状態を目指します。
結論:迷ったときの 5 分フロー
- 入口( 1 回目 ):基本チェックリストで広く拾う(総合点と、どの領域にチェックが集まったかを確認)。
- 精査( 2 回目 ):身体的フレイルが疑わしい/転倒や歩行低下が強いときは J-CHSで「 5 項目」をそろえる。
- 介入設計:筋力・バランス・歩行のどこがボトルネックかを SPPBで分け、優先順位を決める。
- 再評価:同じ条件で追う(「測定条件の固定」+「記録の型」を揃える)。
3 つの評価の役割(入口/共通言語/介入の当て)
| 評価 | 役割 | 拾える範囲 | 強い場面 | 落とし穴 |
|---|---|---|---|---|
| 基本チェックリスト( KCL ) | 入口(広く拾う) | 生活機能・運動器・栄養/口腔・閉じこもり・認知・抑うつなど 多面的 | 地域・外来・訪問の初回、介護予防の導入 | 総合点だけで終えると「何を変えるか」が曖昧になる |
| 改訂日本版フレイル基準( J-CHS ) | 身体的フレイルの共通言語 | 体重減少・握力・疲労感・歩行速度・身体活動の 5 項目 | 病棟/外来のチーム共有、身体的要素の整理 | 歩行速度や握力の「測定条件」が揃わないと比較が崩れる |
| SPPB | 介入設計(ボトルネックの分解) | 立ち上がり・バランス・歩行の 下肢機能を短時間で評価 | 運動介入の優先順位、経時変化の追跡 | 実施手順が曖昧だと“点数は変わるが中身が変わらない” |
基本チェックリスト( KCL )の見方:総合点より「領域」で読む
基本チェックリストは、生活機能や社会性を含む 多面的なスクリーニングとして便利です。運用で大事なのは、総合点( 0–25 )で目安をつけたあとに、どの領域にチェックが集中したかを拾うことです。点数だけで「フレイル」と言ってしまうと、介入が筋トレ一本化されやすく、効率が落ちます。
よく参照される使い方として、総合点が 4–7 点=プレフレイル、 8 点以上=フレイルという目安が提案されています。ここでは “判定” というより、「次に何を確認するか」を決める 入口の目安として扱うのが実務的です。
J-CHS の見方: 5 項目の “どれが該当したか” が介入の起点
改訂日本版フレイル基準( J-CHS )は、身体的フレイルを 5 項目で整理します。点数よりも、どの項目が該当したかが介入の当たりを決めます。たとえば「歩行速度」なら移動能力と活動量、「握力」なら全身筋力と栄養、「体重減少」なら摂取不足や疾患影響まで踏み込みます。
運用で詰まりやすいのは測定条件のブレです。歩行速度(通常歩行)や握力は、靴・補助具・指示・環境で変わるため、条件を固定して記録し、同条件で再評価できる形にしておくと、チームでの共有が安定します。
SPPB の見方: “何が遅いか” を分けて、介入の優先順位を決める
SPPB は、下肢機能を 立ち上がり( Chair Stand )・バランス・歩行(短距離)に分けて点数化するため、「フレイルっぽい」で止まらず、どこがボトルネックかを明確にできます。結果として、介入が「全身筋トレ」から「詰まっている要素に寄せた処方」へ変わります。
再現性のカギは手順の固定です。椅子の高さ、歩行の距離、開始・終了の合図、休息の扱いなど、現場のルールを決めておくと、経時変化が読みやすくなります。
目的別:どれを選ぶ?(使い分け早見)
- 初回で広く拾いたい:基本チェックリスト(入口)
- 身体的フレイルを共通言語化したい:J-CHS( 5 項目で整理)
- 運動介入の当たりを付けたい/追跡したい:SPPB(下肢機能を分解)
現場の詰まりどころ:よくある失敗 3 つ
- 失敗 1:点数だけで終える:入口( KCL )は「領域」で読み、精査( J-CHS )は「該当項目」で読みます。
- 失敗 2:測定条件が毎回違う:歩行速度・握力・ SPPB は、条件がズレると経時変化が読めません(靴・補助具・指示・環境を固定)。
- 失敗 3:介入が筋トレ一本化:活動性、栄養、口腔、閉じこもりなど “非運動のボトルネック” を見落とさないことが、転倒・再入院・廃用の予防につながります。
記録の型:再評価で迷わないための最小セット
| 項目 | 最低限の記録 | 再評価のコツ |
|---|---|---|
| 基本チェックリスト | 総合点、チェック集中領域(例:運動器/栄養・口腔/閉じこもり) | 点数変化より「領域の変化」を見る |
| J-CHS | 該当項目( 5 項目中どれか)、測定条件(歩行・握力) | 条件固定(補助具・靴・指示・距離)を徹底 |
| SPPB | 各サブテストの点数、実施条件(椅子・歩行距離・休息) | 同じセットアップで比較し、ボトルネックの移動を追う |
よくある質問( FAQ )
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Q1. まず 1 つだけやるなら、どれが一番おすすめ?
初回で幅広く拾いたいなら、入口として 基本チェックリストが扱いやすいです。次に、歩行低下・転倒・体重減少など “身体的フレイル” が強い場合は J-CHSで共通言語化し、運動介入の当たりを付けたいときは SPPBを足すと、評価 → 介入がつながります。
Q2. 基本チェックリストの「 8 点以上」は診断として扱っていい?
実務では「確定診断」というより、介入設計に入るための 入口の目安として使うのが安全です。総合点と同じくらい、どの領域にチェックが集まったかを重視すると、介入の精度が上がります。
Q3. KCL と J-CHS の結果がズレたら、どう考える?
ズレは珍しくありません。KCL は生活・心理・社会面も含む一方、J-CHS は身体的要素に寄っています。まず「生活側の課題」と「身体側の課題」を分け、介入を二本立て(活動機会の改善+身体機能への介入)で組むと失敗が減ります。
Q4. 再評価はどのくらいの頻度が現実的?
介入が入っているなら、まずは 4–12 週で “同条件の再評価” を回すと変化が読みやすいです。大事なのは頻度より、測定条件と記録の型を固定して「比較できるデータ」にすることです。
参考文献
- Satake S, Arai H. The revised Japanese version of the Cardiovascular Health Study criteria (revised J-CHS criteria). Geriatr Gerontol Int. 2020;20(10):992-993. doi: 10.1111/ggi.14005.(PubMed: 33003255)
- Fried LP, et al. Frailty in older adults: evidence for a phenotype. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2001;56(3):M146-M156. doi: 10.1093/gerona/56.3.M146.(PubMed: 11253156)
- Guralnik JM, et al. A short physical performance battery assessing lower extremity function: association with self-reported disability and prediction of mortality and nursing home admission. J Gerontol. 1994;49(2):M85-M94. doi: 10.1093/geronj/49.2.M85.(PubMed: 8126356)
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下
おわりに
フレイル評価は、安全の確保 → 入口で拾う → 身体的要素をそろえる → ボトルネックを分解 → 介入 → 同条件で再評価のリズムにすると、チーム内の共有と介入の精度が一気に上がります。
評価が回り始めたら、面談前の確認と職場の体制チェックをセットで整えると、臨床の迷いがさらに減ります。続けて読む:面談準備チェック&職場評価シート(ダウンロード)

