糖尿病の運動療法は「運動量」より先に、開始条件と中止基準をそろえると安全に回せます
糖尿病患者の運動療法では、有酸素運動や筋力トレーニングの種類を決める前に、開始前チェック・実施中の監視・終了後の再評価を共通化することが重要です。現場で事故や迷いが起きやすいのは、知識不足よりも「判断の型」がそろっていない場面です。
本記事は、病棟・外来・通所・訪問で使えるように、運動前の 60 秒フロー、よくある失敗、回避手順、記録ポイントを一連で整理します。まずは「開始可/要調整/延期」を、同じ基準で判断できるようにします。
運動前チェック 60 秒フロー
以下の図は、運動開始前に最低限そろえる確認項目です。数値のみで機械的に判定せず、症状・薬剤・当日の活動量を合わせて判断します。

| 確認項目 | 開始しやすい状態 | 要調整 | 延期・中止を優先 |
|---|---|---|---|
| 体調 | 発熱・胸痛・呼吸苦がない | 軽い不調は強度を下げる | 強い症状がある場合 |
| 運動前血糖 | おおむね安全域 | 低値傾向は補食後に再測定 | 著明高値で症状あり |
| ケトン(高値時) | 陰性 | 判定保留は再確認 | 陽性・疑いあり |
| 足部 | 創傷・発赤・疼痛なし | 荷重量・運動様式を調整 | 潰瘍や感染疑い |
| 薬剤 | 低血糖リスク低い | 補食計画と時間帯調整 | 反復低血糖が続く |
現場の詰まりどころ
迷いを減らすには、先に「失敗パターン」と「回避手順」を固定します。判断は個人技にせず、チームで共有できる言葉にそろえます。
- よくある失敗を先に確認する
- 回避の手順(5 ステップ)で運用を統一する
- 関連:記録の型をそろえる(O の 3 点ルール)
よくある失敗
| 失敗 | 背景 | 改善 | 最低限の記録 |
|---|---|---|---|
| 運動前血糖を確認せず開始 | 時間優先で手順を省略 | 開始前チェックを固定化 | 運動前血糖・症状・補食有無 |
| 高血糖時にケトン未確認 | 血糖値だけで判断 | 高値時はケトン確認を必須化 | 血糖・ケトン・実施可否 |
| 運動後フォロー不足 | 終了時点で管理終了 | 終了後再評価の時刻を固定 | 運動後症状・再測定結果 |
回避の手順(5 ステップ)
- 開始前に体調・血糖・足部を確認する
- 高血糖時はケトン確認を追加する
- 低血糖リスク薬使用時は補食計画を先に決める
- 実施中は症状と運動強度を監視する
- 終了後に再評価し、次回条件へ反映する
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
運動前血糖が低めなら、必ず中止ですか?
一律中止ではありません。補食して再測定し、症状と当日の負荷を踏まえて再開可否を判断します。低血糖リスク薬を使う場合は、開始前後の確認をセットで運用してください。
高血糖時は運動してはいけませんか?
数値だけで決めず、ケトンと全身症状を合わせて判断します。ケトン陽性や体調不良があれば延期を優先します。
足病変がある場合のポイントは?
足部保護を最優先にし、荷重運動の量や方法を調整します。創傷や感染疑いがある場合は中止・連携を優先してください。
何を記録すれば次回につながりますか?
運動前後の状態、実施内容、症状変化、補食や調整内容を簡潔に残すと、次回の安全判断が速くなります。
次の一手
- 運用を整える:内科系リハの全体像を確認する(全体像)
- 共有の型を作る:記録の型をチームで統一する(すぐ実装)
教育体制・人員・記録文化など“環境要因”を一度見える化すると、次の打ち手が決めやすくなります。
チェック後に『続ける/変える』の選択肢も整理したい方は、PT キャリアナビで進め方を確認しておくと迷いが減ります。
参考文献
- 日本糖尿病学会 編・著.糖尿病診療ガイドライン 2024.南江堂,2024.
- Colberg SR, Sigal RJ, Yardley JE, et al. Physical Activity/Exercise and Diabetes: A Position Statement of the American Diabetes Association. Diabetes Care. 2016;39(11):2065-2079. doi:10.2337/dc16-1728.
著者情報
rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


