トレンデレンブルグ歩行は「骨盤下制」と「体幹側屈」を分けて評価する
トレンデレンブルグ(Trendelenburg)歩行は、立脚期に立脚側と反対側の骨盤が下がる歩行所見です。ただし、骨盤下制を見ただけで「中殿筋低下」と決めることはできません。評価では、対側骨盤下制、支持側体幹側屈、疼痛、杖・手すり・速度などの支持条件を分けて観察し、次に行う評価を絞ることが重要です。
この記事では、トレンデレンブルグ歩行を見つけたあとに、何を所見として残し、どの原因仮説を立て、どの評価へ進むかをPT・OT向けに整理します。歩行観察全体の見方は、親記事の歩行観察の基本から確認できます。
同ジャンル回遊:まず全体の型に戻ると、トレンデレンブルグ歩行の位置づけが整理しやすくなります。
- 親記事:歩行観察の基本
- ハブ:歩行・バランス評価ハブ
トレンデレンブルグ歩行とは何か
トレンデレンブルグ歩行とは、立脚期に股関節外転機構が骨盤を十分に支持できず、立脚側と反対側の骨盤が下制する歩行所見です。特に立脚中期から単脚支持の場面で観察しやすく、支持側への体幹側屈を伴うことがあります。
ただし、臨床では骨盤下制だけでなく、体幹側屈、疼痛、歩行速度、杖や手すりの有無などが混ざって見えます。そのため、まずは「骨盤がどう動いたか」と「体幹がどう代償したか」を分けて観察することが大切です。
最初に分けて見るのは「骨盤下制」と「体幹側屈」
トレンデレンブルグ歩行を見たときは、原因名より先にどちらの立脚期に、骨盤と体幹がどう動いたかを記録します。体幹側屈は骨盤下制と同じ意味ではなく、股関節外転機構への要求を減らす代償として現れることもあります。
※スマホでは表を左右にスクロールできます。
| 確認項目 | 見るポイント | 記録例 |
|---|---|---|
| 立脚側 | どちらの下肢で支持しているときに出現するか | 右立脚中期 |
| 骨盤 | 立脚側と反対側の骨盤が下制するか | 右立脚中期に左骨盤下制 |
| 体幹 | 支持側への体幹側屈を伴うか | 右体幹側屈を伴う |
| 疼痛 | 股関節外側、鼠径部、腰部などの疼痛があるか | 右荷重時の鼠径部痛あり |
| 支持条件 | 杖・手すり・歩行速度・靴条件で変化するか | 杖使用で骨盤下制が軽減 |
原因仮説は「股関節外転機構・疼痛/股関節病変・支持条件」で絞る
骨盤下制を見つけたあとに大切なのは、所見から原因を即断しないことです。臨床では、股関節外転機構の機能低下、疼痛や股関節病変、支持条件や代償戦略のどれが強そうかを整理して、次の評価を選びます。

この図版は、骨盤下制を見つけたあとに「何を所見として押さえ、どの原因仮説を置き、何を追加評価するか」を1枚で整理したものです。ここでの3分類は診断名ではなく、次の評価を選ぶための初期整理として使います。
| 所見 | 考える仮説 | 次に確認すること | この所見だけでは言えないこと |
|---|---|---|---|
| 対側骨盤下制 | 股関節外転機構の機能低下 | 股外転筋力、片脚支持での骨盤保持、左右差 | 中殿筋単独の筋力低下とは断定できない |
| 骨盤下制+支持側体幹側屈 | 外転機構への要求を減らす代償、疼痛への適応 | 体幹運動、疼痛の有無、荷重時間、支持条件 | 体幹側屈だけで疼痛回避と断定できない |
| 荷重時痛を伴う | 疼痛、股関節病変、荷重回避 | 疼痛部位、荷重時痛、股関節可動域、既往 | 筋力低下だけが主因とは限らない |
| 杖・手すりで変化する | 支持条件、バランス要求、代償戦略 | 支持物使用前後の骨盤・体幹の変化 | 改善理由を1つに特定できない |
| 靴・装具や速度で変化する | 歩行条件、アライメント、脚長差、支持条件 | 条件をそろえた再観察、立位アライメント | 筋力そのものが変わったとは言えない |
次に行う評価は歩行所見から選ぶ
追加評価はすべてを並べるのではなく、歩行所見から必要なものを選びます。最初に行いやすいのは、股外転筋力、片脚支持での骨盤・体幹、疼痛確認、股関節機能、支持条件の変化です。
| 評価項目 | 見たいこと | 臨床での使い方 |
|---|---|---|
| 股外転筋力 | 左右差、収縮時痛、発揮しにくさ | 股関節外転機構の機能低下を疑うときの基本評価 |
| 片脚支持での骨盤・体幹 | 骨盤を保てるか、体幹側屈が出るか | 歩行所見を静的条件で補って確認する |
| 疼痛部位と荷重時痛 | 股関節外側痛、鼠径部痛、腰痛など | 荷重回避や疼痛関連の代償を考える手がかりにする |
| 股関節機能 | 可動域、荷重時の症状、既往 | 筋力以外の股関節要因を整理する |
| 支持物・速度変更での変化 | 杖・手すり・速度変更で所見がどう変わるか | 支持条件と代償戦略の影響を確かめる |
Trendelenburgテストとは役割を分けて考える
歩行中のトレンデレンブルグ歩行と、片脚立位でみるTrendelenburgテストは同じ記事の中で混ぜやすい部分ですが、役割は分けた方が整理しやすくなります。歩行記事では動的な骨盤下制と体幹代償の観察を主役にし、Trendelenburgテストは補助的に使う位置づけです。
歩行で骨盤下制を認めても、静的片脚立位の結果だけで原因を確定することはできません。テスト手順や陽性判定を確認したい場合は、Trendelenburgテストの手順を参照してください。
記録は「条件+立脚側+骨盤+体幹+次評価」で残す
「トレンデレンブルグ歩行あり」とだけ記録すると、どちら側のどの所見だったのかが伝わりません。観察した事実と原因仮説を分けて残すと、再評価や申し送りがしやすくなります。
記録例
O:自由歩行。右立脚中期で左骨盤下制を認め、右体幹側屈を伴う。杖なし歩行で観察。右荷重時の明らかな疼痛訴えはない。
A:右股関節外転機構の機能低下を候補とする。体幹側屈による代償を伴う可能性あり。歩行所見のみで原因は断定しない。
P:右股外転筋力、片脚支持での骨盤・体幹、股関節機能を追加評価する。
支持物や速度を変えた場合は、「改善した」だけで終わらせず、何を変えたか、骨盤と体幹のどちらがどう変化したかまで記録すると、次回評価に活かしやすくなります。
よくある失敗と修正ポイント
| よくある失敗 | 問題点 | 修正ポイント | 記録の言い換え例 |
|---|---|---|---|
| 骨盤下制だけで中殿筋低下と断定する | 股関節病変や支持条件の影響を見落としやすい | 股関節外転機構、疼痛、支持条件の3方向で整理する | 「右股関節外転機構の機能低下を候補とする」 |
| 骨盤下制と体幹側屈を同じ所見として扱う | 主所見と代償が曖昧になる | 骨盤と体幹を別々に書く | 「左骨盤下制+右体幹側屈」 |
| 支持物で変化した理由を1つに決める | 支持条件・バランス・代償が混在する | まずは事実として変化を書き、追加評価につなげる | 「杖使用で骨盤下制が軽減」 |
| Trendelenburgテストの結果をそのまま歩行原因にする | 静的条件と歩行中の動的条件は同一ではない | 歩行所見と静的検査を分けて解釈する | 「歩行所見と片脚支持所見を統合して判断する」 |
よくある質問(FAQ)
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Q1. トレンデレンブルグ歩行は中殿筋低下で決まりですか?
決まりではありません。股関節外転筋機構の機能低下は重要な候補ですが、股関節病変、疼痛、支持条件、代償戦略などでも似た見え方になります。骨盤下制を見た時点では原因を1つに決めず、追加評価へ進むことが大切です。
Q2. 体幹側屈もあれば何を疑いますか?
支持側への体幹側屈は、股関節外転機構への要求を減らす代償として生じることがあります。一方で、疼痛への適応として現れる場合もあるため、体幹側屈だけで原因を決めず、疼痛の有無や支持条件の変化をあわせて確認します。
Q3. 最初に行う追加評価は何ですか?
股外転筋力、片脚支持での骨盤・体幹、疼痛部位と荷重時痛、股関節機能の確認から始めると整理しやすくなります。杖・手すり・速度変更で所見が変わるかも、臨床では有用な情報です。
次の一手
- テスト手順を確認する:Trendelenburgテストで、片脚立位での陽性判定と記録を整理する
- 記録の型を整える:動作分析のやり方で、観察→解釈→計画の書き分けを確認する
参考文献
- Gandbhir VN, Lam JC, Lui F, Rayi A. Trendelenburg Gait. StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2024. PubMed
- McCarney L, Andrews A, Henry P, Fazalbhoy A, Selva Raj I, Lythgo N, Kendall JC. Determining Trendelenburg test validity and reliability using 3-dimensional motion analysis and muscle dynamometry. Chiropr Man Therap. 2020;28(1):53. PubMed
- Kendall KD, Schmidt C, Ferber R. Steps toward the validation of the Trendelenburg test: the effect of experimentally reduced hip abductor muscle function on frontal plane mechanics. Clin J Sport Med. 2013;23(1):45-51. PubMed
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

