筋緊張評価の視診・触診|硬い筋をどう見る・触る?

評価
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筋緊張の視診・触診では「事実」と「仮説」を分ける

筋緊張を評価するとき、筋が硬く見える・硬く触れるだけで「痙縮」と判断することはできません。視診と触診の役割は、痙縮や拘縮を確定することではなく、他動運動を始める前に、肢位・左右差・疼痛・浮腫・筋腹などの所見を整理することです。

PT・OTが押さえたいのは、「見えた事実」「触れた事実」「次に確かめる仮説」を分けることです。本記事では視診・触診に範囲を絞り、速度による抵抗の変化や痙縮・拘縮の鑑別は、その次に行う被動性検査へ役割分担します。

この記事の結論

視診・触診では病態名を決めず、「何が見えたか」「何が触れたか」を残します。筋を他動的に動かしたときの抵抗や速度による変化を確認する段階から、被動性検査として評価します。

視診・触診で分かることと、まだ分からないこと

視診・触診は筋緊張評価の入口として有用ですが、ここで分かるのは主に評価条件と観察・触診所見です。触診による筋の硬さは臨床で用いられる一方、主観的な評価であり、組織の力学的特性をそのまま客観的に測定しているわけではありません。3

特に痙縮は、受動伸張に対する反応を含めて評価する必要があります。受動伸張時の抵抗には神経性要素と組織性要素が混在するため、安静時の見た目や触れた硬さだけで痙縮と確定するのは避けます。12

視診・触診で整理することと、その次に確認すること
段階 確認すること この段階で断定しないこと 次の確認
視診 安静肢位、左右差、筋量、腫脹、疼痛サイン、条件による変化 痙縮、拘縮、固縮などの確定 触診で筋腹・疼痛・軟部組織を確認する
触診 筋腹の触れ方、左右差、圧痛、浮腫、皮膚・皮下組織の状態 「硬い=筋緊張亢進」「硬い=痙縮」 必要に応じて被動性検査へ進む
被動性検査 他動運動時の抵抗、速度による変化、疼痛、可動域、抵抗の現れ方 単一所見だけによる病態確定 ROM、反射、MAS・MTSなどを組み合わせる

視診では「肢位・左右差・出現条件」を見る

視診では、まずどの部位に、どの条件で特徴が現れているかを整理します。最初から「痙縮肢位」「拘縮」と名前を付けるのではなく、観察できた事実をそのまま記録します。

筋緊張評価で確認する視診ポイント
観察項目 見るポイント 記録例
安静肢位 上肢・下肢・体幹がどの位置にあるか 「安静時、右肘屈曲位」「右足関節は底屈・内反位」
左右差 同じ体位で肢位、筋輪郭、支持の仕方に差があるか 「右肩甲帯挙上あり。左との差を認める」
筋量・輪郭 筋萎縮、局所的な筋腹の盛り上がり、左右差 「右下腿筋群に左と比較して筋量低下あり」
皮膚・浮腫 腫脹、圧痕が疑われる外観、皮膚の変化 「右足背に腫脹あり」
疼痛サイン 表情変化、逃避、患部をかばう姿勢 「右肩周囲への接触前から上肢をかばう姿勢あり」
条件による変化 安静時と、会話・努力・姿勢変化・動作時で見え方が変わるか 「安静時より立位時に右上肢屈曲位が明瞭となる」

動作時に特定の肢位や筋活動が強くなる所見は重要ですが、それだけを安静時の「筋緊張亢進」と同一視しません。随意努力、姿勢制御、疼痛などの影響も考え、安静時所見と動作時所見を分けて記録します。

触診では「筋そのもの」と周囲の要素を混同しない

触診では「硬い・柔らかい」だけで終わらず、どこを、どの条件で触れ、何を感じたのかを整理します。筋の触診には主観性があるため、可能な範囲で体位や支持条件をそろえ、左右または前回評価と比較できるようにします。3

筋腹で確認すること

対象筋の筋腹を確認し、安静にしている条件で張りや硬さ、左右差を触れます。ただし、触診で硬さを感じても、その原因が神経性の筋活動なのか、筋・腱などの組織性変化なのかは、この段階では決めません。

例えば「右腓腹筋が硬い」と感じた場合は、「右腓腹筋筋腹は左より硬く触れる」までを事実として残します。「痙縮あり」は、受動伸張に対する反応を確認する前には確定しません。

皮膚・皮下組織、浮腫も分けて確認する

触れた抵抗感がすべて筋に由来するとは限りません。浮腫、皮膚・皮下組織の状態、軟部組織の変化も触れ方に影響します。受動伸張に対する抵抗についても、神経性要素だけでなく組織性要素が混在し得ることが示されています。2

そのため、「筋緊張が高い」と一括して書くより、筋腹・浮腫・皮膚や軟部組織・疼痛を分けて記録した方が、次の評価につながります。

圧痛や防御があれば、その事実を優先する

触診で圧痛を認めたり、接触に対して逃避・表情変化・随意的な力みを認めたりした場合は、その反応を記録します。疼痛や不安がある状態では、筋を他動的に動かした際にも防御性の収縮が混ざる可能性があります。

強い疼痛や明らかな防御がある場合は、視診・触診の段階でその条件を共有し、無理に「筋緊張の高さ」を決めようとしないことが重要です。

「硬い」と触れたら、事実・仮説・次の評価に分ける

この記事で最も重視したいのが、触診所見と病態名を直接つなげないことです。上位運動ニューロン障害では、受動運動への抵抗に神経性要素と軟部組織由来の要素が混在する場合があります。24

筋緊張評価で視診・触診から仮説化し次の評価へ進む流れを示した図
筋緊張の視診・触診では「硬い=痙縮」と決めず、見えた事実・触れた事実から仮説を立て、被動性検査など次の評価へつなげます。

臨床では、見えた・触れた事実 → 考える仮説 → 次に確かめることの3段階で整理すると、触診の印象だけで病態を決めることを避けやすくなります。

視診・触診所見を「事実・仮説・次の評価」に分ける例
見えた・触れた事実 考える仮説 次に確かめること
安静時に右足関節が底屈位。腓腹筋筋腹は左より硬く触れる 不随意筋活動、筋・腱の短縮など複数の可能性 被動性検査で低速時の可動域と速度による反応を確認する
右肘屈曲位。上腕二頭筋筋腹が硬く触れる 神経性要素と組織性要素のどちらも残す 他動運動時の抵抗、ROM、反射所見を確認する
筋腹への接触で表情変化と逃避あり 疼痛・防御が評価へ影響している可能性 疼痛部位と誘発条件を確認し、評価条件を調整する
下腿に腫脹があり、筋腹だけでなく皮下組織も硬く触れる 浮腫・軟部組織要素が触診所見へ影響している可能性 浮腫評価などを追加し、筋由来の所見と分ける

判断の境界:視診・触診で「痙縮の可能性」を仮説として持つことはできますが、「痙縮あり」と確定する段階ではありません。見えた・触れた事実を残し、受動伸張に対する反応を次の評価で確認します。

記録は「見えた事実・触れた事実・次に確認すること」を残す

視診・触診の記録では、長い文章よりも次の評価者が同じ状態を想像できることを優先します。病態名だけを書くのではなく、体位と具体的な所見を残します。

筋緊張の視診・触診で記録する項目
項目 記録する内容
条件 背臥位、座位、安静時、支持の有無など
視診 肢位、左右差、筋量、腫脹、疼痛サイン
触診 対象部位、筋腹の触れ方、左右差、圧痛、浮腫・軟部組織所見
条件による変化 安静時と姿勢・努力・動作時の違い
次の評価 被動性検査、ROM、反射、疼痛評価など何を確認するか

記載例

例えば、以下のように書くと視診・触診の事実と次の評価を分けられます。

記録例:背臥位・安静。右足関節は左と比較して底屈位。右腓腹筋筋腹は左より硬く触れる。明らかな圧痛・腫脹なし。視診・触診のみでは原因を確定せず、被動性検査で他動可動域と速度による抵抗変化を確認する。

「右下腿の筋緊張亢進」「痙縮あり」と先に病態名を書くより、どの所見から何を疑い、次に何を確認するのかが伝わります。

速い・遅い他動運動は「被動性検査」で確認する

視診・触診で評価条件と所見を整理したら、必要に応じて実際に関節を他動的に動かします。ここからは触診の続きではなく、受動運動時の抵抗を確認する被動性検査として整理します。

受動伸張時の抵抗には、神経性要素と筋・腱などの組織性要素が混在します。2 そのため、遅い動きでの可動域や疼痛、速い動きでの抵抗変化などを組み合わせ、視診・触診で立てた仮説を確認していきます。

速度による抵抗の変化、キャッチ、終末域、痙縮・拘縮などの鑑別は、本記事で確定せず被動性検査で評価します。

次に行う評価

視診・触診で所見を整理できたら、体位・支持・速度条件をそろえて受動運動時の抵抗を確認します。

被動性検査のやり方を確認する

視診・触診で避けたい4つの判断

視診・触診で重要なのは、所見を増やすことより観察した事実を病態名へ飛躍させないことです。

筋緊張の視診・触診で避けたい判断
避けたい判断 理由 修正方法
硬く触れる=痙縮 触診だけでは神経性要素と組織性要素を分けられない 「硬く触れる」と記載し、被動性検査へ進む
屈曲位・尖足位=痙縮 安静肢位だけでは原因を特定できない 肢位を事実として記載する
動作時に固くなる=安静時筋緊張亢進 随意努力や姿勢・動作条件の影響が混在する 安静時と動作時の所見を分ける
「トーン高い」だけで記録する 次回評価で同じ所見を再現しにくい 体位、部位、視診所見、触診所見を具体的に残す

次の一手:視診・触診から被動性検査へつなぐ

筋緊張評価は、視診・触診だけで完結させず、必要な評価を段階的に追加します。まずは見えた事実と触れた事実を整理し、その後に受動運動時の抵抗を確認することで、「硬い」という印象を具体的な所見へ変えていきます。


参考文献

  1. Francisco G, Pandyan A, Li S, et al. Redefining Spasticity: The Spasticity X Working Group Consensus Statement. Am J Phys Med Rehabil. 2026. PubMed
  2. van den Noort JC, Bar-On L, Aertbeliën E, et al. European consensus on the concepts and measurement of the pathophysiological neuromuscular responses to passive muscle stretch. Eur J Neurol. 2017;24(7):981-e38. doi:10.1111/ene.13322 / PubMed
  3. Kopecká B, Ravnik D, Jelen K, Bittner V. Objective Methods of Muscle Tone Diagnosis and Their Application-A Critical Review. Sensors (Basel). 2023;23(16):7189. doi:10.3390/s23167189 / PubMed
  4. Sheean G, McGuire JR. Spastic hypertonia and movement disorders: pathophysiology, clinical presentation, and quantification. PM R. 2009;1(9):827-833. doi:10.1016/j.pmrj.2009.08.002 / PubMed

著者情報

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rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。

現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。

保有資格

  • 脳卒中認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター2級

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