- 歩行速度4m・6m・10mの違い|距離ではなく「参照する基準」で選ぶ
- まず比較|4m・6m・10mは何が違う?
- 4m歩行|SPPBなど短距離歩行評価で使われる
- 6m歩行|AWGS 2019では6m通常歩行を使う
- 10m歩行|10MWTはリハビリ領域で広く使われる
- 4m・6m・10mは同じm/sでも単純に置き換えない
- カットオフは「数字」ではなく測定法とセットで使う
- どれを選ぶ?|まず「何のために測るか」を決める
- 距離より先にそろえたい測定プロトコル
- 途中で4mから6m・10mへ変更したらどうする?
- よくある失敗|距離そのものより「条件の混在」に注意する
- よくある質問(FAQ)
- 次の一手|距離を決めたら測定条件を固定する
- 参考文献
- 著者情報
歩行速度4m・6m・10mの違い|距離ではなく「参照する基準」で選ぶ
歩行速度は4 m・6 m・10 mなど複数の距離で測定されますが、どの距離でも同じ基準値をそのまま使えるわけではありません。4 mはSPPBなど、6 mはAWGS 2019、10 mは10MWTとして使われる代表的な文脈があり、開始方法や計測区間まで含めてプロトコルが異なります。
この記事ではPT・OTなどの医療従事者向けに、4 m・6 m・10 mの違い、代表的な評価体系、カットオフの扱い、再評価で条件を変更したときの考え方を整理します。結論は、目的と参照する評価体系に合わせて距離を選び、再評価では同じプロトコルをそろえることです。

まず比較|4m・6m・10mは何が違う?
最も重要な違いは、単なる距離の長短ではなく、どの評価体系・測定プロトコルで使われているかです。同じ「m/s」で表されても、異なる測定法を完全に交換可能な値として扱わないようにします。
表は横にスクロールできます(スマホ対応)。
| 距離 | 代表的な使用例 | 確認したいポイント | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 4 m | SPPB、4 m gait speedなど | 短距離歩行として、参照する評価法の開始方法・採用値を確認する | 他距離で設定されたカットオフを、そのまま4 mへ置き換えない |
| 6 m | AWGS 2019の通常歩行速度 | AWGS 2019を使う場合は6 m通常歩行のプロトコルに合わせる | AWGS 2019の<1.0 m/sを、異なる歩行プロトコルへ機械的に流用しない |
| 10 m | 10 Meter Walk Test(10MWT) | comfortable / fast、開始方法、実際の計測区間を確認する | 「10MWT」という名称だけで同一プロトコルとは判断しない |
この記事の要点:「4 m・6 m・10 mのどれが最も正確か」ではなく、何を判定したいのか → どの基準を参照するのか → その基準と同じ測定条件を使えているかの順で考えると迷いにくくなります。
4m歩行|SPPBなど短距離歩行評価で使われる
4 m歩行は、短い歩行区間で歩行速度を評価する方法として広く使われています。代表例の一つがShort Physical Performance Battery(SPPB)です。
SPPBは立位バランス、歩行、椅子立ち上がりから下肢機能を評価するバッテリーで、現在の標準的な実施資料では4 m通常歩行が用いられます。重要なのは、「4 mだから簡易版」という意味ではなく、SPPBという評価体系の中で定められた歩行課題として使用することです。
EWGSOP2の0.8m/sは距離だけで覚えない
EWGSOP2では、低身体機能を示す歩行速度のカットオフとして≤0.8 m/sが示されています。4 m gait speedを用いた臨床運用も広くみられますが、「4 mを測れば必ず0.8 m/sで判定する」と距離だけで覚えるのは避けます。
カットオフを使うときは、対象者、測定条件、参照している診断基準をセットで確認してください。施設内で経時変化を見るだけなのか、サルコペニアなど特定の診断基準へ当てはめるのかでも、数値の役割が異なります。
6m歩行|AWGS 2019では6m通常歩行を使う
日本を含むアジア圏でサルコペニア評価を行う場合、6 m歩行で最も重要な参照先の一つがAWGS 2019です。
AWGS 2019では、低身体機能の基準の一つとして6 m歩行速度 <1.0 m/sが示されています。したがって、「AWGS 2019の基準で判定したい」という目的があるなら、単に施設で使いやすい距離を選ぶのではなく、AWGS 2019が示す6 m通常歩行に合わせることが重要です。
| 項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 距離 | 6 m |
| 歩行条件 | 通常歩行速度 |
| 低身体機能の基準 | <1.0 m/s |
| 再評価 | 距離、開始方法、補助具などの条件をそろえる |
AWGS 2019での握力・6 m歩行速度の具体的な測定方法や採用値まで確認したい場合は、AWGS 2019の握力・歩行速度の測り方で整理しています。
10m歩行|10MWTはリハビリ領域で広く使われる
10 mは、10 Meter Walk Test(10MWT)としてリハビリテーション領域で広く使われています。特に脳卒中後のdistance-limited walk testを検討したシステマティックレビューでは、comfortable paceの10MWTが最も多く評価され、10MWTには信頼性・妥当性に関する多くの研究があります。
一方で、「10MWT」という名前だけを見て、すべて同じ測定法だと考えることはできません。同レビューではcomfortable / fastを含め多数のプロトコルが確認されており、研究や施設によって歩行路、計測区間、開始方法などが異なる場合があります。
10MWTで確認したい点:「10 m歩いた」という情報だけでは不十分です。comfortableかfastか、静止状態から計時したのか、助走後に計測区間へ入ったのか、どの区間を計時したのかまで確認します。
10MWTそのものの実施条件・計算・記録方法は、10メートル歩行テスト(10MWT)の測定方法で詳しく整理しています。
4m・6m・10mは同じm/sでも単純に置き換えない
歩行速度は「距離 ÷ 時間」でm/sへ変換できるため、4 m・6 m・10 mでも同じ単位になります。しかし、単位が同じことと、測定法が交換可能であることは別問題です。
測定手順を比較したシステマティックレビューでは、開始方法や測定距離、歩行路面などが得られる歩行速度へ影響する可能性が示されています。dynamic startはstatic startより速い値になりやすく、長い計測距離と短い計測距離でも差が生じる研究があります。
実際、高齢外来患者288例を対象とした研究では、10 m歩行で測定した速度は4 m歩行より平均0.11 m/s速い結果でした。この研究でも、歩行速度の値と解釈は測定方法に依存するため、異なる方法を交換可能として扱うべきではないとされています。
| 比較する条件 | 扱い | 理由 |
|---|---|---|
| 同じ距離・同じ開始方法・同じ歩行条件 | 経時比較しやすい | 測定条件による差を小さくしやすい |
| 同じ距離だが開始方法が違う | 単純比較しない | 加速相を含むかどうかで速度が変わり得る |
| 4 m → 6 mなど距離を変更 | 条件変更として扱う | 測定距離そのものが結果へ影響し得る |
| 別プロトコルのカットオフを使用 | 原則として避ける | カットオフは対象・測定法を含む評価体系とセットだから |
カットオフは「数字」ではなく測定法とセットで使う
4 m・6 m・10 mを比較するときに最も注意したいのが、別の評価体系で示されたカットオフを、そのまま現在の測定値へ当てはめることです。
たとえば、AWGS 2019の6 m歩行速度 <1.0 m/sは、AWGS 2019における低身体機能の判定基準です。一方、EWGSOP2では歩行速度≤0.8 m/sが低身体機能のカットオフとして示されています。
この違いは「アジア人なら1.0、欧州なら0.8」と数字だけ覚えるためのものではありません。対象集団、診断アルゴリズム、測定手順などを含めて、それぞれ異なるコンセンサスの中で設定された値です。
避けたい使い方:「今日は4 mしか取れなかったので、4 m歩行速度にAWGS 2019の<1.0 m/sをそのまま当てはめる」といった代用です。臨床上4 mを測定すること自体は可能ですが、AWGS 2019の6 m測定と同一条件の判定として扱わないようにします。
どれを選ぶ?|まず「何のために測るか」を決める
距離選択で迷ったら、スペースだけで決める前に評価目的を確認します。外部の基準値や診断基準へ当てはめる場合は、その基準が採用した測定方法に合わせることが優先です。
| 評価目的 | 考え方 |
|---|---|
| SPPBを実施する | SPPBの正式な実施方法に沿って4 m歩行を行う |
| AWGS 2019で身体機能を判定する | AWGS 2019に合わせて6 m通常歩行を用いる |
| 脳卒中などで10MWTを評価する | 使用する10MWTプロトコルを決め、同じ条件で再評価する |
| 施設内で経時変化を見る | 安全に反復できる方法を標準化し、距離・開始方法・歩行条件を固定する |
| 論文や基準値と比較する | 論文側の距離・開始方法・歩行条件が自施設と一致するか確認する |
つまり、「病棟だから4 m」「外来だから10 m」と場所だけで一律に決める必要はありません。病棟でもAWGS 2019の判定が目的なら6 mが必要になり、外来でもSPPBを使うなら4 mを測定します。
距離より先にそろえたい測定プロトコル
歩行速度を再評価に使う場合は、距離だけでなく測定プロトコル全体を記録します。患者の変化と測定条件の変化を混同しないためです。
- 計測距離:4 m・6 m・10 mなど
- 歩行路:計測区間だけか、助走・減速区間を含むか
- 開始方法:static startかmoving / dynamic startか
- 歩行条件:usual / comfortableかfastか
- 試行回数と採用方法:1回、平均値、最速値など
- 補助具・装具:杖、歩行器、AFOなど
- 靴・路面:裸足か靴か、床面の違い
- 介助条件:自立、見守り、身体介助の有無
歩行速度評価全体の測定条件、計算方法、解釈を確認したい場合は、歩行速度評価の総論を参照してください。
途中で4mから6m・10mへ変更したらどうする?
測定距離や開始方法を変更した場合は、以前と完全に同じ測定系列として単純につなげないことが重要です。患者の歩行能力が変わったのか、測定法が変わったため数値が変化したのかを分離できなくなるためです。
記録には変更日と変更内容を残し、それ以降は新しいプロトコルとして追跡します。たとえば「4 m static start」から「6 m moving start」へ変えた場合は、距離だけでなく開始条件も変更されたことを記載します。
実務上の記録例
「9/21より評価目的をAWGS 2019へ変更。従来の4 m歩行から6 m通常歩行へ変更。moving start、T字杖使用、運動靴。旧4 mデータとは別条件として経時評価する。」
安全性と時間に余裕がある場合は、切り替え時に旧プロトコルと新プロトコルをそれぞれ測定しておくと、条件変更前後の状況を把握しやすくなります。ただし、両者の値を同一測定法として換算するためではなく、条件変更時点の参考情報として残します。
よくある失敗|距離そのものより「条件の混在」に注意する
4 m・6 m・10 mのどれを採用しても、測定条件が毎回変われば経時変化を解釈しにくくなります。特に次の4つは確認しておきたいポイントです。
| 場面 | 避けたい状態 | 対応 |
|---|---|---|
| 開始方法 | static startとmoving startを説明なく混在させる | 参照プロトコルに合わせ、開始方法を記録する |
| 歩行速度条件 | comfortableとfastを同じ系列で比較する | それぞれ別条件として記録する |
| 補助具 | 杖・歩行器・装具の変更を記載しない | 使用条件を記録し、変更を解釈に反映する |
| カットオフ | 測定法が違う基準値を数値だけ流用する | 対象・距離・プロトコルが一致するか確認する |
よくある質問(FAQ)
Q1. 4m・6m・10mでは、どれが一番正確ですか?
A. すべての目的に共通する「最も正確な距離」は決められません。SPPB、AWGS 2019、10MWTなど、何を評価・判定したいかによって選ぶべきプロトコルが異なります。再評価では同じ条件をそろえることが重要です。
Q2. 4m歩行速度にAWGS 2019の1.0m/sを使えますか?
A. AWGS 2019では6 m歩行速度<1.0 m/sが低身体機能の基準として示されています。4 m歩行を施設内評価として使うことはできますが、AWGS 2019の6 m歩行と同一条件の値としてカットオフを機械的に流用しない方が適切です。
Q3. 途中で4mから10mに変更したら、過去データと比較できますか?
A. 参考として経過を見ることはできますが、同じ測定系列として単純比較するのは避けます。変更日、距離、開始方法、歩行速度条件などを記録し、新しいプロトコルとして追跡してください。
Q4. 合図と同時に計時する方法は間違いですか?
A. 一律に間違いとはいえません。static startとdynamic / moving startの両方が使われており、採用する評価法によって異なります。重要なのは参照するプロトコルに合わせ、再評価でも同じ開始方法を使うことです。
Q5. 杖や装具が変わった場合も同じ歩行速度として比較できますか?
A. 数値は残せますが、補助具・装具の変更は測定条件の変更として明記します。歩行能力の改善・悪化だけでなく、補助具や装具の影響が含まれる可能性を踏まえて解釈します。
次の一手|距離を決めたら測定条件を固定する
4 m・6 m・10 mの違いを整理したら、次は採用した評価法の具体的な手順を固定します。歩行速度そのものの測り方・計算・解釈は「歩行速度評価の総論」、10MWTを採用する場合は「10MWTの測定方法」、AWGS 2019を使う場合は「AWGS 2019の握力・歩行速度」で確認すると整理しやすくなります。
参考文献
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- Cheng DKY, Dagenais M, Alsbury-Nealy K, et al. Distance-limited walk tests post-stroke: a systematic review of measurement properties. NeuroRehabilitation. 2021;48(4):413-439. doi: 10.3233/NRE-210026(PubMed)
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

