スクワットピボット移乗のやり方|適応・手順・介助のコツ

臨床手技・プロトコル
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スクワットピボット移乗のやり方|膝折れ・ふらつき時の安全な代替ルート

スクワットピボット移乗は、立位回旋移乗が不安定な症例で使いやすい代替ルートです。ポイントは「浅い立ち上がりで重心を前に保ち、回旋量を最小化して臀部を短距離で移す」ことです。膝折れや恐怖による後方重心が出やすい場面ほど、立位保持を長く求めないこの方法が安全に機能します。

本記事は、適応判断→環境設定→介助位置→失敗修正→記録までを、現場で再現しやすい順番で整理します。なお、移乗全体の 4 相フレームと通常ルートの整理は ベッド⇄車椅子移乗の動作分析(親記事) を先に確認すると理解が早くなります。

スクワットピボットを選ぶ判断基準

まずは「立位回旋を無理に通さない」ことが安全設計の基本です。スクワットピボットは、立位を長く保持できないが、短時間の荷重と指示追従は可能な症例に適しています。評価は“できる能力”ではなく、“崩れ方と危険サイン”で決めます。

スクワットピボットの適応判断(実施前チェック)
評価項目 実施しやすい目安 見送り・方法変更の目安 次の一手
立位安定 浅い離殿後に 1–2 秒の安定が取れる 離殿直後に膝折れ・後方転倒リスク 2 人介助または機器移乗を検討
理解・注意 「止まる」「待つ」の指示が通る 衝動性が高く急に動く 手順を 1 つずつ提示し再評価
疼痛 NRS 0–3 程度で動作継続可 股・膝・腰痛で防御反応が強い 座面差/足位置/支持点を再設定
足部接地 両足底の接地が安定 滑り・引っかかりで踏み替え困難 靴・床面・フットレストを調整

環境設定(角度・距離・座面差)で成功率を上げる

スクワットピボットは、環境設定で難易度が大きく変わります。特に「角度を浅く、距離を短く、座面差を小さく」の 3 点は優先度が高く、介助量を減らす最短ルートです。

スクワットピボット移乗の環境設定チェック
項目 推奨 よくあるミス 理由
車椅子角度 30–45°(回旋を最小化) 90°配置で回旋が大きい 足部の置換えが遅れ、崩れやすい
距離 できるだけ近接 隙間が大きいまま実施 臀部移動距離が増え、後方重心になる
座面高 同高〜移乗先をやや低め 移乗先が高い 制動困難でドスン着座を誘発
障害物 フットレスト外し、移乗側肘掛けを処理 障害物を残す 足部衝突・膝打ちで恐怖増大
ブレーキ ベッド・車椅子とも固定確認 声かけのみで未確認 支持基底面が動くと転倒リスク増大

実施手順(5 ステップ)

「長く立つ」ではなく「浅く上がって短く移す」がスクワットピボットの核です。以下の 5 ステップを固定すると、介助者間の再現性が上がります。

スクワットピボット移乗の標準手順(5 ステップ)
ステップ 実施内容 観察ポイント 声かけ例
1 準備 足を引き込み、臀部を前方へ 足底接地、前傾の準備 「足を後ろ。おしり前。」
2 浅い離殿 前傾で浅く立ち上がる 膝折れ、後方重心の有無 「鼻をひざ。せーの。」
3 短距離移動 小さく方向転換し臀部を移す 足の引っかかり、回旋量 「小さく 1〜2 歩。」
4 接触確認 座面に触れたことを確認 触覚手がかりの獲得 「触れたら止まる。」
5 制動着座 骨盤を後方へ戻しゆっくり着座 ドスン着座、後方転倒兆候 「ゆっくり降ります。」

介助位置と手の置き方(近位で守る)

介助は末端を追うより、骨盤・体幹を近位で管理した方が崩れにくくなります。膝折れリスクがある場合は、膝前方の軽いブロックを併用し、過介助で引っ張らないことが重要です。

介助位置の要点(スクワットピボット)
場面 基本ポジション やってはいけない介助 理由
離殿前後 骨盤近位を保持、体幹前傾を維持 上肢を強く引く 後方重心を誘発し膝折れを招く
方向転換 小刻み移動を待ちつつ誘導 体を一気に回す 足部遅延で絡み・転倒リスク増
着座 骨盤を後方へ戻し制動 支持を外して先に離れる ドスン着座・後方転倒を起こしやすい

現場の詰まりどころ(失敗パターン別に即修正)

詰まりやすい場面は共通しています。原因を「筋力がない」だけで終わらせず、環境→手順→声かけの順で修正すると、短時間で再現性が上がります。

スクワットピボットでよくある失敗と修正
失敗パターン 主な原因 その場の修正 再発予防
離殿できない 足が前、前傾不足、臀部後方 足を引く→臀部前方→合図短文化 準備手順を固定して毎回同順で実施
膝が崩れる 後方重心、恐怖、立位要求が高い 浅い離殿へ戻す、膝前方ブロック 座面差調整と立位保持時間の短縮
足が絡む 回旋量過大、障害物残存 角度を浅く、障害物除去、小刻み化 環境チェックを開始前に読み合わせ
ドスン着座 触覚手がかり不足、制動不足 「触れたら止まる」を徹底 骨盤後方誘導のタイミング統一

記録テンプレ(申し送りでブレない書き方)

申し送りで必要なのは「できた/できない」ではなく、「どこで崩れ、何を変えたら改善したか」です。下表の型で残すと、担当者が変わっても再現しやすくなります。

スクワットピボット移乗の記録テンプレ
観察(事実) 評価(解釈) 実施した修正 次回方針
離殿時に後方重心、膝折れ傾向 前傾量不足+恐怖で伸展戦略が先行 足引き込み、合図短文化、膝前方ブロック 準備手順を固定し 3 回連続で再現確認
方向転換で麻痺側足が遅れる 回旋量過大、障害物影響 角度 30–45°、肘掛け/フットレスト処理 小刻み 1–2 歩を統一コールで実施
着座時に制動不十分 座面差と触覚手がかり不足 座面差調整、「触れたら止まる」固定 骨盤後方誘導の介助タイミングを共有

よくある質問(FAQ)

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

Q1. 立位回旋移乗とスクワットピボットは、どちらを先に試すべきですか?

A. 膝折れや後方重心が少しでも見える場合は、スクワットピボットを先に選ぶ方が安全です。先に成功体験を作ってから、条件を整えて立位回旋へ戻す方が、結果的に自立度が上がりやすくなります。

Q2. 介助量が多くなりすぎます。減らす順番はありますか?

A. 介助量より先に、角度・距離・座面差・障害物の 4 点を整えてください。次に声かけを短く固定し、最後に介助を減らします。順番を逆にすると崩れやすく、再介助で時間が増えます。

Q3. 麻痺側足が遅れる場合、最初に何を変えるべきですか?

A. 回旋量を減らすのが最優先です。車椅子角度を浅くし、距離を詰め、障害物を除去します。引っ張って回す介助は足の遅れを悪化させるため避けます。

Q4. 着座で「ドスン」となってしまいます。改善のコツは?

A. 「触れる→止まる→ゆっくり降りる」の順序を固定し、座面差を再確認してください。介助者は骨盤を後方へ戻すサポートを残し、支持を早く外さないことが重要です。

次の一手

教育体制・人員・記録文化など“環境要因”を一度見える化すると、次の打ち手が決めやすくなります。

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参考文献

  1. Schenkman M, Berger RA, Riley PO, Mann RW, Hodge WA. Whole-body movements during rising to standing from sitting. Phys Ther. 1990;70(10):638-648. doi: 10.1093/ptj/70.10.638PubMed
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  3. Kitamura S, et al. Reliability and Validity of a New Transfer Assessment Form for Stroke Patients. PM R. 2021;13(3):282-288. doi: 10.1002/pmrj.12400PubMed
  4. Tsai CY, Boninger ML, Hastings J, Cooper RA, Rice LA, Koontz AM. Immediate Biomechanical Implications of Transfer Component Skills Training on Independent Wheelchair Transfers. Arch Phys Med Rehabil. 2016;97(10):1785-1792. doi: 10.1016/j.apmr.2016.03.009PubMed
  5. Tsai CY, Boninger ML, Bass SR, Koontz AM. Upper-limb biomechanical analysis of wheelchair transfer techniques in two toilet configurations. Clin Biomech (Bristol). 2018;55:79-85. doi: 10.1016/j.clinbiomech.2018.04.008PubMed

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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