大内転筋トレーニングは「内転だけ」で選ばない
大内転筋トレーニングでは、ボールを挟むような股関節内転運動だけでなく、スクワット、ステップアップ、股関節伸展・ヒップヒンジ系も選択肢になります。大内転筋は股関節内転筋群の一つですが、部位によって股関節伸展にも大きく関与するためです。
本記事では、理学療法・リハビリテーションで大内転筋を鍛えるときに、低負荷の内転運動、Copenhagen adduction、荷重位運動、股関節伸展系をどう使い分けるかを整理します。特定の種目や回数を一律に当てはめず、目的・症状・身体機能・フォームに応じて種目と負荷を調整することを基本とします。
結論|大内転筋は目的に合わせて4つの方向から種目を選ぶ
大内転筋を鍛えるときは、「内ももを閉じる運動」だけに限定せず、何を改善したいかから種目を選びます。低負荷で股関節内転を確認したい場合と、荷重位で股関節伸展を使いたい場合では、適した課題が異なります。
| 目的 | 種目例 | 主に確認すること |
|---|---|---|
| 低負荷で内転運動を確認する | 側臥位股関節内転、等尺性内転 | 骨盤回旋、体幹の反動、疼痛 |
| 内転筋群への負荷を高める | Copenhagen adduction | 支持位置、レバー長、骨盤・体幹の保持 |
| 荷重位で股関節伸展へつなげる | スクワット、ステップアップ | 左右の荷重、股関節運動、症状 |
| 股関節伸展負荷を高める | 股関節伸展運動、ヒップヒンジ、デッドリフト系 | 腰椎伸展、骨盤回旋、周囲筋との協調 |
どの種目も大内転筋だけを完全に分離して収縮させる運動ではありません。股関節内転では他の内転筋群、股関節伸展では大臀筋やハムストリングスなども関与します。そのため、「大内転筋だけに効かせる」ことより、目的とする運動を適切なフォームと負荷で反復できるかを優先します。

大内転筋は股関節内転だけでなく伸展にも関与する
大内転筋は股関節内転筋群の一つですが、広い付着範囲と線維方向を持ち、すべての部位が同じ働きをするわけではありません。大内転筋をトレーニングするときは、股関節内転作用だけでなく、股関節伸展作用を持つ筋として捉える視点が重要です。
2025年に若年成人15名を対象として大内転筋の3次元的な筋構築を調べた研究では、股関節中間位で筋構築とモーメントアームから推定した大内転筋全体の潜在的トルク生成能力は、内転より股関節伸展で2倍以上大きいと報告されました。
ただし、これは若年成人の筋構築をもとにした生体力学的研究であり、「大内転筋を鍛えるなら股関節伸展だけ行えばよい」という意味ではありません。臨床では、対象者の目標動作や身体機能に応じて、内転系と股関節伸展系を使い分けます。
低負荷の内転運動|まず股関節内転を確認したい場合
筋力低下が強い場合や、高負荷の荷重課題へ進む前に股関節内転運動を確認したい場合は、側臥位股関節内転や等尺性内転などから始められます。
この段階では、特定の筋へ最大負荷を加えることより、股関節内転として運動できるか、症状なく反復できるか、骨盤や体幹の動きに置き換わっていないかを確認します。
内転運動で確認するポイント
- 骨盤が前後へ大きく回旋していないか
- 体幹を傾けることで下肢の運動を補っていないか
- 股関節や鼠径部の疼痛が増えていないか
- 設定した可動域を一定して反復できるか
負荷を高めたい場合は、外部抵抗を加えるだけでなく、レバー長、可動域、保持時間なども調整できます。一方、フォームが崩れる場合は、抵抗や可動域を下げるなど、崩れた原因に合わせて条件を変更します。
Copenhagen adduction|内転筋群への負荷を高めたい場合
Copenhagen adductionは、上側の下肢を台などで支持し、身体を側方で保持しながら股関節内転筋群へ負荷を加える運動です。支持位置を膝に近づけたshort-leverと、足部側へ遠ざけたlong-leverでは、レバー長と要求される負荷が異なります。
2026年に報告された健常者15名の筋骨格モデル研究では、調査された8種類の運動のうち、long-lever Copenhagen adductionで複数の股関節内転筋に高い筋力が推定されました。大内転筋を含む内転筋群へ高い負荷を加える選択肢として考えられます。
ただし、この研究は外傷のない若年成人を対象とした筋骨格モデルによる推定です。高齢者や疾患患者に同じ負荷をそのまま適用するための基準ではありません。
Copenhagen adductionの負荷をどう調整するか
Copenhagen adductionが難しい場合は、「できない=大内転筋が弱い」と単純に判断せず、支持位置、レバー長、体幹支持、可動域などを確認します。
long-leverへ進めること自体を目標にする必要はありません。short-leverや別の股関節内転運動でも目的を満たせる場合があります。
鼠径部痛や股関節痛が増える場合、体幹を保持できない場合、運動課題そのものが対象者の目標と合わない場合は、別の種目や負荷条件へ変更します。
スクワット・ステップアップ|荷重位で大内転筋を使う
スクワットやステップアップは大内転筋だけを鍛える種目ではありませんが、股関節を屈曲位から伸展しながら身体を支持・移動するため、大内転筋の股関節伸展作用を含めて下肢全体を使う課題になります。
2026年の筋骨格モデル研究では、大内転筋の坐骨顆部で、スクワットやステップアップ中にも高い筋力が推定されました。立ち上がりや段差昇降など、荷重位での股関節伸展へつなげたい場合には、内転運動だけでなく多関節運動も候補になります。
膝の位置だけでフォームを判定しない
スクワットやステップアップで膝が内側へ動いたことだけを理由に、「大内転筋の代償」と決めつけないようにします。股関節、膝関節、足部、体幹は協調して動くためです。
目的とする動作、疼痛、左右の荷重、股関節運動、足部の支持、体幹の位置をまとめて確認します。
動作の質を維持できない場合は、スクワット深度や段差高さを下げる、支持物を利用する、外部負荷を減らすなど、課題の難易度を調整します。
股関節伸展・ヒップヒンジ系|大内転筋の伸展作用を使う
大内転筋の股関節伸展作用を踏まえると、腹臥位などでの股関節伸展、ヒップヒンジ、デッドリフト系も選択肢になります。
2019年の筋電図研究では、健常者22名を対象に腹臥位股関節伸展を比較した結果、股関節内転を組み合わせた条件で大内転筋とハムストリングスの活動が大臀筋より高くなりました。また、2026年の筋骨格モデル研究では、デッドリフトやスモウデッドリフトでも大内転筋の坐骨顆部に高い筋力が推定されています。
一方、デッドリフトのような高負荷運動をすべての患者に行う必要はありません。筋力低下が強い対象者や療養期では、低負荷の股関節伸展課題から始め、目標動作に必要な範囲で段階的に調整します。
股関節伸展系で確認するポイント
- 股関節伸展が腰椎伸展へ置き換わっていないか
- 骨盤回旋や左右差が大きくなっていないか
- 股関節・鼠径部・腰部の症状が増えていないか
- 大臀筋やハムストリングスを含む股関節伸展筋群として動作を維持できるか
大内転筋だけを選択的に収縮させようとするより、目標動作に必要な股関節伸展を安全に反復できることを優先します。
フォームが崩れたら姿勢以外の条件も調整する
フォームが崩れた場合は、立位から座位へ変更するといった姿勢変更だけで対応するのではなく、外部抵抗、レバー長、可動域、支持量、運動速度などから、原因に合う変数を調整します。
| 観察されること | 確認すること | 調整例 |
|---|---|---|
| 骨盤回旋が大きい | 可動域や抵抗が過大でないか | ROMを小さくする、抵抗を下げる |
| 体幹の反動が増える | 支持性、疲労、レバー長 | 支持を増やす、レバーを短くする |
| 左右の荷重差が大きい | 疼痛、筋力、課題難易度 | 段差高さやスクワット深度、支持量を調整する |
| 反復に伴ってフォームが変わる | 疲労、外部抵抗、反復量 | 休息を入れる、抵抗や実施量を調整する |
| 鼠径部・股関節痛が増える | 運動方向、負荷、病態・既往 | いったん中断し、症状と運動の適応を再評価する |
すべての代償をなくすこと自体がトレーニングの目的ではありません。目標としている運動より別の動きが主体になる場合や、症状増悪、安全性低下につながる場合に条件を変更します。
負荷は回数だけでなく複数の変数から調整する
大内転筋トレーニングに「8〜12回×2セット」のような一つの固定処方を当てはめる必要はありません。筋力向上、運動学習、筋持久力、日常動作への転移など、目的によって調整すべき負荷は異なります。
| 目的 | 調整する主な変数 |
|---|---|
| 低負荷で運動を学習する | 支持量を増やす、レバーを短くする、抵抗を下げる、実施可能なROMにする |
| 筋力を高める | 外部抵抗、レバー長、セット数、運動範囲などを調整する |
| 荷重動作へつなげる | スクワット深度、段差高さ、支持量、外部負荷を調整する |
| 内転筋群への要求を高める | Copenhagen adductionの支持位置、レバー長、可動域などを調整する |
2026年のAmerican College of Sports Medicine(ACSM)のPosition Standでは、健康な成人のレジスタンストレーニングについて、筋力向上には高い負荷、十分な運動範囲、複数セットなどが有利と報告されています。
ただし、このPosition Standは主に健康な成人を対象としたエビデンスをまとめたものであり、疾患別リハビリテーションにそのまま当てはめる処方基準ではありません。臨床では、疾患、術後制限、疼痛、疲労、筋力、運動経験、目標動作などを踏まえて調整します。
再評価では「何回できたか」以外も確認する
同じスクワットやCopenhagen adductionでも、支持量、可動域、レバー長、外部抵抗が異なれば、運動課題の難易度は大きく変わります。
経過を追う場合は、種目名だけでなく、負荷条件、可動域または支持条件、実施量、疼痛・疲労、フォーム変化を確認すると、次回の調整につなげやすくなります。
再評価では「同じ運動を何回できたか」だけでなく、外部抵抗を増やせたか、支持を減らせたか、運動範囲が広がったか、症状を悪化させずに実施できたか、目標とする立ち上がりや段差動作などへつながったかも確認します。
疼痛が増える場合は続ける前に再評価する
股関節や鼠径部に鋭い疼痛が出る、運動に伴って症状が増悪する、荷重が明らかに困難になる場合は、予定した回数を消化することを優先せず、いったん運動を中断して再評価します。
術後、骨折、急性外傷、強い鼠径部痛などがある場合は、本記事の一般的なトレーニング方法よりも、疾患・術式ごとの荷重制限や運動制限を優先してください。
また、めまい、胸部症状、強い息切れ、冷汗など筋局所以外の症状が出た場合も、フォームや筋力だけの問題と判断せず、全身状態を確認します。
よくある質問
Q1. ボールを膝で挟む運動だけで大内転筋を鍛えられますか?
A. 股関節内転筋群へ力を入れる低負荷課題として利用できますが、大内転筋だけを選択的に鍛える運動ではありません。大内転筋には股関節伸展への関与もあるため、目的に応じてスクワット、ステップアップ、股関節伸展系なども選択肢になります。
Q2. Copenhagen adductionは必ず行う必要がありますか?
A. 必須ではありません。内転筋群へ高い負荷を加える選択肢の一つですが、体幹支持や股関節への要求も高くなります。筋力、疼痛、支持能力、目標に合わなければ、低負荷の内転運動や荷重位運動など別の課題を選びます。
Q3. 大内転筋トレーニングは何回行えばよいですか?
A. 一律の回数では決めません。筋力向上、運動学習、筋持久力など目的によって負荷設定は異なります。対象者の疾患、筋力、症状、疲労、フォームを確認しながら、抵抗、反復数、セット数、可動域などを調整します。
次に確認したいこと
大内転筋以外も含めて、鍛えたい筋や改善したい動作から種目を選ぶ場合は、筋トレメニュー一覧から各筋のトレーニング記事へ進めます。
股関節伸展を大臀筋側から整理したい場合は、大臀筋トレーニングの種目選択とフォーム調整もあわせて確認してください。
参考文献
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- Neumann DA. Kinesiology of the Hip: A Focus on Muscular Actions. J Orthop Sports Phys Ther. 2010;40(2):82-94. doi: 10.2519/jospt.2010.3025
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

