リハビリ中の胸痛|新人PTの初期対応・中止・報告

臨床手技・プロトコル
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結論|リハビリ中に胸痛が出たら、まず運動・離床を中断します

リハビリ中に新たな胸痛・胸部不快感が出た場合は、原因をその場でPTだけで判断して介入を続けるのではなく、まず運動・離床を中断して安全を確保します。そのうえで、意識・呼吸・循環の状態、胸痛の特徴、随伴症状、バイタルの変化を確認し、必要な応援要請と医師・看護師への報告、12誘導ECGなどの医療評価へつなげます。

この記事では、新人PTが「胸痛が出た直後に何をするか」に絞って、確認する順番、急いで報告する所見、12誘導ECGへのつなぎ方、報告・記録までを整理します。胸痛が軽快したことだけを理由に、自己判断でリハビリを再開する方法は扱いません。

まず押さえるポイント:胸痛対応では「心筋梗塞かどうかをPTが当てる」ことより、負荷を止め、患者の安定性を確認し、必要な医療評価へ遅れずにつなぐことを優先します。

胸痛が出た直後|中断・安全確保・緊急性確認から始める

最初に行うのは、詳細な問診や心電図読影ではなく、運動・離床の中断と患者の安全確保です。状態が不安定であれば、情報をすべて集めてから報告するのではなく、応援要請や院内の急変対応を優先します。

リハビリ中に胸痛が出たときの初期対応フロー図
リハビリ中に胸痛が出たときは、運動・離床を中断し、患者の安定性を確認したうえで、必要な医療評価へつなぎます。
  1. 運動・離床を中断する:歩行や立位中であれば、転倒を防ぎながら安全な姿勢を確保します。
  2. 患者の状態を見る:意識、呼吸状態、顔色、発汗、会話の様子を確認します。
  3. 緊急性を判断する:意識変化、失神、循環不安定、強い呼吸困難などがあれば早急に応援を要請します。
  4. 症状とバイタルを確認する:胸痛の特徴とHR、BP、SpO2、RRなどを確認し、発症前との変化を見ます。
  5. 医療評価へつなぐ:医師・看護師へ報告し、院内手順に沿って12誘導ECGなどの評価へつなげます。

この順序は、PTが胸痛の診断を行うためではありません。急性冠症候群だけでなく、大動脈疾患、肺血栓塞栓症など生命を脅かす原因もあるため、「胸痛の原因を絞り込んでから相談する」という進め方を避けることが重要です。

急いで報告・応援要請する所見|痛みの強さだけで決めません

緊急性は胸痛の強さだけでは判断できません。意識・呼吸・循環の不安定さや、胸痛に伴う症状を組み合わせて確認します。

胸痛時に優先して確認する所見
確認領域 注意する所見 PTの初動
意識・神経 意識変化、失神・失神前症状、新たな神経症状 詳細な問診を待たず、応援要請・報告を優先する
循環 明らかな血圧低下、冷汗、顔面蒼白、循環不安定を疑う変化 安静を確保し、バイタルを確認しながら速やかに報告する
呼吸 新規・増悪する呼吸困難、低酸素、会話困難など 呼吸状態を確認し、院内の急変対応手順に沿う
胸部症状 安静でも持続・増悪する胸部症状、強い圧迫感・締め付け感など 運動を再開せず、医療評価へつなぐ
随伴症状 冷汗、悪心・嘔吐、強い息切れ、めまいなど 胸痛とセットで報告する

症状が軽い、短時間で治まった、バイタルが大きく変化していないという情報だけでは、胸痛の原因を確定できません。新たに出現した胸痛では、「継続できる理由」を探すより、まず負荷を止めて評価へつなぐ考え方が安全です。

胸痛は何を聞くか|医師・看護師へ渡せる情報に整理します

患者が安定している場合は、発症状況・部位・性状・持続時間・随伴症状を短く確認します。すべてを聞き終えることより、重要な情報を医療チームへ渡せることを優先します。

胸痛時にPTが確認したい情報
項目 確認する内容
発症 いつ始まったか、何をしているときに出たか、突然か徐々にか
部位 胸部だけでなく、肩、上肢、背部、頸部、顎、上腹部などに症状がないか
性状 圧迫感、締め付け感、重苦しさ、灼熱感、刺すような痛みなど
広がり 肩、腕、背部、頸部、顎などへ広がる感覚があるか
経過 持続しているか、軽快・増悪しているか、同じ症状の既往があるか
随伴症状 呼吸困難、冷汗、悪心・嘔吐、めまい、動悸など

胸痛という言葉だけに限定しない点も重要です。急性冠症候群では、胸部の「痛み」だけでなく、圧迫感・締め付け感・不快感や、胸部以外の部位の症状として訴えられることがあります。

バイタルは単独で判定せず、発症前との変化を見ます

胸痛時のバイタルでは、数値が基準範囲内かどうかだけでなく、症状出現前からどう変化したかを確認します。HR、BP、SpO2、RRを中心に、意識・呼吸・末梢循環などの臨床所見と合わせて整理します。

  • HR:発症前からの変化、著しい頻脈・徐脈、不整な脈拍がないか
  • BP:発症前から低下していないか、循環不安定を疑う変化がないか
  • SpO2:低下していないか、呼吸困難などの症状と一致しているか
  • RR:呼吸数が増えていないか、努力性呼吸がないか

バイタルが安定していても、それだけで急性冠症候群などを除外することはできません。逆に、状態が明らかに不安定な場合は、何度も測定を繰り返して報告を遅らせないようにします。

12誘導ECG|「読み切ってから報告」ではなく、迅速な評価へつなぎます

急性胸痛の評価では12誘導ECGが重要ですが、新人PTが心電図を完全に読影してから医師へ報告する必要はありません。胸痛と患者状態から速やかな評価が必要と判断した時点で、院内手順に沿って医師・看護師へ報告し、12誘導ECGの実施・確認へつなげます。

AHA/ACCやESCの急性胸痛・急性冠症候群に関する診療では、初期評価で12誘導ECGを迅速に取得・評価することが重視されています。一方、「10分以内」という基準は救急診療・first medical contactなどで用いられる指標であり、一般病棟のPTが「10分以内にすべて完了させる」という独自ルールへ置き換えるものではありません。

12誘導ECGの基本的な確認方法は、新人PT向け12誘導ECGの読み方で整理しています。

報告|症状・患者状態・経過を一度に伝えます

報告では「胸が痛いと言っています」だけで終わらせず、発症状況、現在の症状、随伴症状、バイタル変化、現在行っている対応をまとめます。SBARなど院内で使用している形式があれば、それに合わせます。

胸痛時のSBAR報告例
区分 伝える内容の例
S:Situation 「歩行練習中に新たな前胸部の圧迫感が出現したため、現在は中止して安静にしています。」
B:Background 「発症前のバイタルは〇〇で、心疾患の既往は〇〇です。」
A:Assessment 「安静後も症状が持続しており、冷汗があります。現在のHR、BP、SpO2、RRは〇〇です。」
R:Recommendation 「診察と、12誘導ECGなど追加評価の要否を確認したいです。」

緊急性が高い場合は、SBARをきれいに完成させることを優先しません。まず応援を求め、分かっている情報から伝えます。

記録|「何が起きたか・どう変化したか・誰へ報告したか」を残します

胸痛後の記録では、症状の有無だけでなく、発症時の負荷、症状の特徴、随伴症状、バイタル推移、実施した対応、報告先、受けた指示を残します。翌日の担当者が、同じ情報から再評価できる記録を目指します。

  • 発症時刻と実施していた活動
  • 胸部症状の部位・性状・持続時間・経過
  • 放散症状・呼吸困難・冷汗・悪心などの随伴症状
  • 発症前後のHR、BP、SpO2、RRなど
  • 運動・離床を中断したことと患者の反応
  • 医師・看護師などへの報告時刻と内容
  • 12誘導ECGなど実施された評価
  • 医師・チームから受けた指示と今後の対応

記録例:歩行練習中に前胸部圧迫感が新規出現したため歩行中止。椅子座位で安静確保。冷汗あり、呼吸困難なし。発症時HR 92回/分、BP 108/64 mmHg、SpO2 96%、RR 20回/分。安静後も胸部症状が残存したため看護師・医師へ報告し、追加評価を依頼。以後のリハビリ実施は医師指示を確認する。

胸痛が軽快したら再開できる?|軽快だけで再開を決めません

胸痛が安静で軽快しても、「症状が消えた=リハビリ再開可能」とは判断しません。新規胸痛では、原因や患者背景、症状の経過、心電図などの医療評価によって対応が異なるためです。

再開する場合は、医師・医療チームによる評価や指示、施設の安全管理手順を確認したうえで、症状とバイタルを再評価します。この記事独自の「通常・軽負荷・延期」といった固定区分や、一律の再開時間は設定しません。

新人PTが迷いやすいポイント|診断より「つなぐ」ことを優先します

胸痛対応では、知識不足よりも「もう少し様子を見てから報告しよう」「軽い痛みだから続けられるかもしれない」という判断が初動を遅らせることがあります。PTが担うべきなのは、胸痛の原因を単独で確定することではなく、安全に中断し、必要な評価へつなぐことです。

  • 痛みが軽いことだけを理由に運動を継続する
  • バイタルが正常範囲という理由だけで安心する
  • 問診や再測定を繰り返し、報告が遅れる
  • 12誘導ECGを自分で読み切ってから報告しようとする
  • 症状が軽快したため、原因未評価のまま自己判断で再開する

よくある質問

Q1. 胸痛がすぐ消えた場合もリハビリを止めますか?

A. 新たに出現した胸痛・胸部不快感であれば、まず一度負荷を止めて状態を確認します。短時間で軽快したことだけを理由に自己判断で再開せず、患者背景や随伴症状、経過を整理し、必要に応じて医療チームへ報告します。

Q2. 押すと痛い、体を動かすと痛い場合は筋骨格系の痛みと判断してよいですか?

A. 筋骨格系の痛みを示唆する所見にはなりますが、その所見だけで心血管系などの原因を完全に除外することはできません。新規症状であれば、患者背景、発症状況、随伴症状、バイタル変化と合わせて判断し、必要な場合は相談します。

Q3. 胸痛が出たらPTも12誘導ECGを読めないといけませんか?

A. 初動では、心電図を完全に読影することより、胸痛を認識して負荷を止め、患者状態を確認し、12誘導ECGを含む医療評価へ速やかにつなぐことが重要です。心電図所見を確認できる場合も、異常の有無を自分だけで確定して報告を遅らせないようにします。

Q4. BPやSpO2が安定していれば続けてもよいですか?

A. BPやSpO2が安定していることだけでは、急性冠症候群などを除外できません。胸痛の新規性、持続・増悪、随伴症状、患者背景などを合わせて確認し、必要な医療評価へつなげます。

次の一手|胸痛以外の異常と心電図所見を整理します

胸痛対応の基本は「診断を当てること」ではなく、「負荷を止め、安全を確認し、必要な医療評価へつなぐこと」です。胸痛以外の体調変化を含めた初動はリハビリ中のバイタル異常・体調変化の初期対応、モニターで新たなST変化を認めた場合はST変化を認めたときの中止・報告手順で確認できます。


参考文献

  1. 日本循環器学会, 日本心臓リハビリテーション学会. 2021年改訂版 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン. 2021. 公式PDF
  2. Gulati M, Levy PD, Mukherjee D, et al. 2021 AHA/ACC/ASE/CHEST/SAEM/SCCT/SCMR Guideline for the Evaluation and Diagnosis of Chest Pain. Circulation. 2021;144:e368-e454. doi:10.1161/CIR.0000000000001029. AHA
  3. Rao SV, O’Donoghue ML, Ruel M, et al. 2025 ACC/AHA/ACEP/NAEMSP/SCAI Guideline for the Management of Patients With Acute Coronary Syndromes. J Am Coll Cardiol. 2025. doi:10.1016/j.jacc.2024.11.009. ACC
  4. Byrne RA, Rossello X, Coughlan JJ, et al. 2023 ESC Guidelines for the management of acute coronary syndromes. Eur Heart J. 2023;44(38):3720-3826. doi:10.1093/eurheartj/ehad191. ESC
  5. 日本リハビリテーション医学会診療ガイドライン委員会 編. リハビリテーション医療における安全管理・推進のためのガイドライン 第2版. 診断と治療社; 2018. 日本リハビリテーション医学会

著者情報

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rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。

現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。

保有資格

  • 脳卒中認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター2級

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