胸腔ドレーン留置中の離床・歩行|PTの確認項目と中断・報告

臨床手技・プロトコル
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結論|胸腔ドレーン留置中でも離床・歩行は可能です

胸腔ドレーン留置中でも、患者状態と治療条件が安定し、ドレーン・回路を安全に管理できれば離床・歩行は可能です。PTが確認したいのは、胸腔ドレーンが「入っているか」ではなく、開始前と比べて患者状態・エアリーク・排液・回路に新しい変化がないかです。

特に注意したいのは、泡や呼吸性移動だけで離床可否を決めないことです。呼吸性移動の消失は閉塞だけでなく、肺の再膨張や吸引条件でも起こります。本記事では、胸腔ドレーン留置中の患者を担当したPTが、離床前に何を確認し、離床中のどんな変化で中断・報告へつなげるかを整理します。

まず押さえるポイント

胸腔ドレーンの所見は単独で判定せず、①患者状態、②治療条件、③開始前のドレーン所見、④回路、⑤離床中の変化を合わせて判断します。

離床・安全管理の記事をまとめて確認したい場合は、臨床手技・安全管理ハブから関連テーマを確認できます。

離床前は「患者・治療条件・ドレーン・回路」の4領域を確認する

離床前に重要なのは、泡や水面を先に見ることではなく、その患者が現在どのような状態で、胸腔ドレーンが何のために、どの条件で管理されているかを把握することです。

胸腔ドレーン留置中の離床判断を患者状態、治療条件、ドレーン所見、回路、開始前との変化で確認するフロー図
胸腔ドレーン留置中の離床判断は、単独所見ではなく開始前との変化を比較して考えます。
胸腔ドレーン留置中の離床前に確認する4領域
領域 確認すること PTが押さえる意味
患者状態 呼吸苦、胸痛、意識、SpO2、呼吸数、脈拍、血圧、疼痛など ドレーン所見以前に、離床を開始できる全身状態か確認する
治療条件 挿入目的、気胸・胸水・術後などの病態、吸引/水封、医師指示 何を異常として見るべきか、歩行時に吸引をどう扱うか確認する
ドレーン所見 エアリーク、呼吸性移動、排液量・性状、挿入部 離床中の変化と比較するための基準状態を把握する
回路 接続、屈曲、牽引、固定、ボトル位置、転倒リスク 動作に伴う閉塞・抜去・逆流などのトラブルを防ぐ

離床開始前には、看護師などと「開始前はどのような状態だったか」を共有しておくと、離床によって新たな変化が生じたのか判断しやすくなります。

吸引圧の変更、水封への切り替え、ドレーンのクランプ、ミルキングやストリッピングなどを、PTが独自判断で実施するものではありません。医師指示、使用機器の取扱方法、施設手順に従ってください。

エアリークは「泡があるか」ではなく開始前からの変化を見る

水封室の泡は、胸腔内からのエアリークだけでなく、回路や挿入部から空気が入り込んだ場合にも生じます。そのため、泡がある=離床不可とは判断できません。

気胸では、治療経過中にエアリークが確認されることがあります。重要なのは、離床前からみられていた泡が、体位変換や立位・歩行によってどのように変化したかです。

エアリークを確認するときの考え方
所見 考え方 次に確認すること
開始前から断続的な泡がある 既知のエアリークである可能性がある 治療経過、医師・看護師の把握状況、症状を確認する
咳で泡が増える 胸腔内のエアリークが咳で目立つことがある 安静時の状態と比較する
離床中に新たに連続化・明らかに増加する 病態変化または回路の気密性低下を考える 活動を中断し、患者状態・接続・挿入部・回路を確認して共有する
突然泡が消える 肺の再膨張だけでなく、閉塞・屈曲などもあり得る 患者状態、呼吸性移動、回路、治療経過と合わせて確認する

日本離床学会でも、気胸患者では断続的だった気泡が連続的になるなど、エアリークの変化を見ることが離床時の確認点として示されています。

一方、デジタル胸腔ドレナージシステムでは、水封室の泡ではなく機器上でエアリーク量や推移を確認する製品があります。使用機器に応じて評価方法を変え、従来型ボトルの見方をそのまま当てはめないことが重要です。

呼吸性移動がない=閉塞とは限りません

水封室の水面が呼吸に合わせて上下する現象は、呼吸性移動(tidaling、swing)と呼ばれます。呼吸性移動はドレーンの交通性を確認する手掛かりになりますが、見えなくなったことだけで閉塞や離床中止と断定してはいけません。

呼吸性移動が見えない場合には、主に次の可能性があります。

  • 肺が再膨張し、胸腔内の空気や液体が十分に排出されている
  • 吸引の影響で呼吸性移動が確認しにくい
  • チューブや回路が屈曲・閉塞している
  • ドレーンが移動・逸脱している

そのため、「離床前は呼吸性移動ありだったのに、体位変換後に突然消えた」場合は、変化として注意します。一方、開始前から呼吸性移動が乏しく、肺再膨張が確認されている患者では、同じ所見でも意味が異なります。

判断の境界

「呼吸性移動なし」ではなく、「開始前からどうだったか」「吸引中か」「患者状態に変化があるか」「回路に屈曲・逸脱がないか」まで確認して意味を判断します。

気胸だけでなく術後・胸水では排液量と性状も確認する

胸腔ドレーンは気胸だけでなく、胸水、血胸、膿胸、胸部手術後などでも留置されます。気胸ではエアリークが重要ですが、液体を排出している患者では排液量と性状の変化も離床前後で確認します。

術後患者などで、離床に伴って排液が急に増えた、血性が強くなった、逆にそれまで出ていた排液が突然止まった場合は、単に「運動したから」と判断せず、患者状態と回路を確認して病棟スタッフへ共有します。

胸腔ドレーンの目的によって追加して確認する所見
主な状況 特に確認したい所見
気胸 エアリーク、呼吸性移動、呼吸苦・胸痛、SpO2、回路の気密性
胸水・膿胸 排液量・性状、呼吸状態、排液の急な停止、回路の屈曲
胸部手術後 排液量・性状、エアリーク、疼痛、呼吸・循環状態、術後指示
血胸・出血リスクがある状況 血性排液の増加、循環動態、症状、術後・医師指示

排液量に関する報告基準は、疾患、術式、経過、施設プロトコルによって異なります。PTが一律のmL数で離床可否を決めるのではなく、その患者で想定されている排液と、開始前からの変化を見ることが重要です。

端座位・立位・歩行ではドレーンを低位・直立に保ち牽引を防ぐ

離床中は、患者の呼吸・循環状態を観察しながら、ドレーン装置が安全な位置に保たれているか確認します。胸腔ドレーンがあるから歩行できないわけではありませんが、回路が屈曲・牽引されない動線を先に作る必要があります。

従来型の排液ボトルでは、原則として患者の胸部より低い位置に保ち、直立させます。歩行時もボトルを高く持ち上げたり、チューブだけを持ってぶら下げたりしません。

離床中に確認したい胸腔ドレーン管理
場面 確認すること
起き上がり・端座位 チューブの余裕、挿入部への牽引、ベッド柵や衣服への引っ掛かり
立位 ボトルが直立・低位に保たれているか、回路が足元に入り込んでいないか
歩行 歩行器・点滴台・車椅子などへの引っ掛かり、回路の屈曲、ボトル転倒
方向転換・着座 患者だけが先に回転してチューブが牽引されないか

複数のラインや酸素療法を併用している場合は、患者介助とライン・ドレーン管理を1人で抱えない方が安全な場面があります。必要に応じて看護師などと役割を分担します。

吸引中の歩行は「外してよいか」を先に確認する

胸腔ドレーンが吸引へ接続されている場合、離床時に壁吸引から外して水封管理へ変更できるか、携帯型吸引装置を使用するか、吸引を継続したまま活動範囲を限定するかは患者ごとに異なります。

PTの判断だけで吸引を外したり、水封へ切り替えたりしないことが重要です。離床前に主治医指示・病棟ルールを確認し、看護師と当日の扱いを共有します。

肺手術後のERAS/ESTSガイドラインでは、術後早期の離床が推奨されています。壁吸引は活動性を制限する要因になり得るため、胸腔ドレーン管理そのものが必要以上に離床を妨げないよう、治療条件を事前に確認することが重要です。

離床中は「新しい変化」があれば中断して患者と回路を再評価する

胸腔ドレーン患者に特有の一律な離床中止基準があるわけではありません。離床中は一般的な呼吸・循環状態に加えて、開始前にはなかった症状やドレーン・回路の変化が出現していないかを確認します。

離床をいったん中断して確認・報告したい変化
変化 考えること PTの初期対応
新規・増悪する呼吸苦、胸痛、SpO2低下など 呼吸状態・病態の悪化 活動を中断し、安全な姿勢で患者状態を再評価して共有する
エアリークが新たに出現・明らかに増加する 気胸の変化、挿入部・接続部・回路からのリーク 患者状態と回路を確認し、開始前所見との違いを報告する
呼吸性移動が離床を契機に突然変化する 屈曲・閉塞・位置変化など 単独で原因を断定せず、回路と患者状態を確認して共有する
排液が急に増える・血性が強くなる 出血などを含む病態変化 活動を中断し、排液の変化とバイタルを速やかに共有する
排液が突然止まり回路に屈曲などがある ドレナージ不良 体位・回路を確認し、独自に処置せず共有する
接続外れ、牽引、抜去疑い、ボトル転倒 回路トラブル・偶発抜去 離床を中断し、施設の胸腔ドレーン緊急対応手順に従う

血圧、脈拍、SpO2、呼吸数などの一般的な離床中止・再開判断については、離床の中止基準と再開基準で整理しています。本記事では、胸腔ドレーンがあることで追加して確認する項目を中心に考えます。

報告は「原因の推測」より開始前から何が変わったかを伝える

異常時は、PTが気胸再発や閉塞などの原因を断定するより、何をしているときに、開始前と比べて何が変わったかを具体的に伝える方が、その後の診察や治療判断につながります。

胸腔ドレーン患者で共有したい情報
項目 共有内容
活動 端座位・立位・歩行など、何をしていたか
患者の変化 呼吸苦、胸痛、意識、SpO2、RR、PR/HR、血圧など
治療条件 気胸・術後などの目的、吸引/水封、酸素条件
ドレーンの変化 エアリーク、呼吸性移動、排液量・性状が開始前からどう変わったか
回路確認 屈曲、牽引、接続、挿入部、ボトル転倒などの有無

例えば、「歩行開始後に呼吸苦が増悪し、SpO2が低下。開始前は断続的だったエアリークが連続的になった。回路の屈曲や接続外れは確認できず、歩行を中断した」のように、活動・患者・ドレーン・回路を分けて共有すると状況が伝わりやすくなります。

記録は「開始前・実施条件・変化・対応」を残す

胸腔ドレーン留置中の離床記録では、すべての所見を毎回細かく転記するより、次回担当者が「どの条件なら実施できたか」「何が変わったため中断したか」を読み取れる情報を残すことが重要です。

胸腔ドレーン留置中の離床記録例
場面 記録する内容 記録例
開始前 患者状態、治療条件、基準となるドレーン所見 呼吸苦・胸痛なし。SpO2 96%。右胸腔ドレーン水封管理。断続的エアリークあり。排液性状に著変なし。
実施 活動内容と回路管理 端座位から立位、病室内歩行を実施。ボトルを低位・直立で保持し、回路の牽引・屈曲なし。
変化なし 開始前との比較 歩行中も呼吸苦なし。エアリークは開始前と同程度で、排液・回路に新規変化なし。
変化あり 出現した変化、対応、共有内容 立位後に呼吸苦増悪。エアリークが開始前より増加したため活動中断。座位へ戻し再評価後、看護師へ経過を共有。

「胸腔ドレーンあり」「問題なし」だけでは、次回の実施条件を判断できません。開始前との比較を入れることで、経時変化を追いやすくなります。

よくある質問

胸腔ドレーンが入っていたら歩行してはいけませんか?

胸腔ドレーン留置そのものは歩行禁止を意味しません。患者状態が安定し、治療条件を確認したうえで、ドレーンを低位・直立に保ち、牽引や屈曲を防げる環境で離床・歩行を進めます。吸引中の場合は離床時の扱いを事前に確認してください。

呼吸性移動が見えなければ離床を中止しますか?

呼吸性移動の消失だけでは判断しません。肺の再膨張や吸引の影響でも見えにくくなる一方、屈曲・閉塞・逸脱でも消失します。開始前からの変化、患者状態、吸引条件、回路を合わせて確認します。

泡が出ていたら離床できませんか?

泡の存在だけで離床不可とは判断できません。気胸では既知のエアリークが続いている場合があります。開始前の状態を確認し、離床によって新たに連続化・増加したか、症状や回路異常を伴うかを確認します。

吸引中でも歩行できますか?

使用している装置と治療方針によります。壁吸引では活動範囲が制限されることがあり、携帯型装置を使用できる場合もあります。PT単独で吸引を外さず、離床前に主治医指示と施設運用を確認してください。

排液が何mLなら離床を中止しますか?

すべての胸腔ドレーン患者へ共通する「離床中止の排液量」はありません。病態、術式、経過、施設基準によって判断が異なります。開始前からの量・性状と比較し、急増、血性の増強、突然の停止などがあれば患者状態と合わせて共有します。

まとめ|ドレーンの所見は「開始前との比較」で読む

胸腔ドレーン留置中でも、患者状態と治療条件が許せば離床・歩行は可能です。PTが胸腔ドレーンを見る目的は、泡や水面だけで離床可否を判定することではありません。

患者状態、吸引・水封などの治療条件、エアリーク、呼吸性移動、排液、回路を開始前に確認し、離床によって何が変わったかを捉えることが重要です。

新しい呼吸苦や胸痛、エアリークの明らかな増加、排液の急な変化、回路トラブルなどを認めた場合は活動を中断し、患者と回路を再評価して病棟スタッフへ共有します。呼吸性移動の消失など、単独では意味を決められない所見は、治療経過や他の情報と組み合わせて判断してください。


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rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。

現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。

保有資格

  • 脳卒中認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター2級

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