離床プロトコルの進め方|ベッドアップから歩行までの5段階
離床プロトコルは、ベッドアップ・端座位・立位・足踏み・歩行へと段階的に活動を進め、患者の反応を確認するための実践手順です。重要なのは、早く歩行まで進めることではなく、呼吸・循環・意識・症状・運動機能を評価し、その日に安全に実施できる段階を判断することです。
本記事では、PT・OTなどのリハビリテーション専門職に向けて、5段階の進め方、ステップアップの判断、中断・中止時の対応、記録例を解説します。初回離床や状態変化後に「次へ進めるか」「今日はどこまでにするか」と迷う場面で活用できるよう整理しました。
基本の流れ:開始前の安全確認 → 1段階実施 → 呼吸・循環・症状・介助量の確認 → 次の段階へ進むか判断 → 記録・共有、の順に進めます。開始前に問題がなくても、実施中の反応によって段階を維持・変更・中止します。
| 段階 | 実施内容 | 主な確認項目 | 次の段階への判断 |
|---|---|---|---|
| ① ベッドアップ | 背上げによる段階的な頭部・体幹挙上 | 覚醒、血圧、呼吸、顔色、症状 | 姿勢変化への耐容性を確認する |
| ② 端座位 | ベッド端での座位保持 | 座位バランス、めまい、血圧変動、介助量 | 安全に座位を保持できるか確認する |
| ③ 立位 | 介助下での立ち上がり・立位保持 | 起立時症状、膝折れ、荷重、立位バランス | 立位を安全に維持できるか確認する |
| ④ 足踏み | 立位での左右交互の足踏み | 支持性、重心移動、疲労、呼吸・循環反応 | 動的な立位活動に対応できるか確認する |
| ⑤ 歩行 | 介助・歩行補助具を調整した歩行 | 歩容、ふらつき、症状、活動後の回復 | 距離・介助量・次回条件を決定する |
この5段階は、本記事で離床手順を分かりやすく整理した実務モデルであり、すべての患者に順番どおり実施する公式の標準プロトコルではありません。患者の病態、身体機能、禁忌、医師指示、施設基準に応じて段階を省略・変更したり、端座位や立位までで終了したりします。
また、ベッドアップは姿勢変化への反応を確認するために位置づけています。ガイドラインで扱われる離床・積極的運動療法の定義と完全に一致するものではありません。
離床開始前に確認する5項目
離床を始める前には、①病態・医師指示、②意識、③呼吸、④循環、⑤運動機能・デバイスを確認します。バイタルサインが許容範囲内でも、新たな症状や状態変化がある場合は、離床を見送るか医師・看護師と実施条件を再検討します。
| 確認項目 | 確認内容 | 注意が必要な状況 |
|---|---|---|
| 病態・医師指示 | 原疾患、急性増悪、安静度、禁忌、当日の治療方針 | 新たな病態悪化、活動制限、実施条件の変更 |
| 意識 | 覚醒、反応性、指示理解、普段との違い | 急な意識変化、反応低下、強い不穏 |
| 呼吸 | SpO2、呼吸数、呼吸苦、酸素投与条件 | 酸素化の悪化、呼吸努力の増大、酸素条件の急な変更 |
| 循環 | 血圧、心拍数、不整脈、冷汗、顔色、胸部症状 | 症候性低血圧、胸痛、新たな不整脈、循環動態の不安定化 |
| 運動機能・デバイス | 座位・立位能力、介助量、疼痛、点滴、酸素、ドレーンなど | 支持性不足、急な脱力、ライン牽引・抜去リスク |
離床開始の判断では、単一の数値だけで可否を決めないことが重要です。普段のバイタルサイン、症状の有無、測定値の変化、疾患特性、治療内容を合わせて評価します。
日本集中治療医学会の「日本版重症患者リハビリテーション診療ガイドライン2023」には、重症患者の離床・運動療法に関する開始基準案と中止基準案が示されています。ただし、対象は重症患者であり、一般病棟や療養病棟の全患者に適用する一律の数値基準ではありません。
開始前の確認項目を詳しく整理したい場合は、離床前チェックの確認項目と中止サインも参照してください。
ベッドアップから歩行まで|各段階の実施方法と判断境界
離床プロトコルでは、各段階で「実施できたか」だけでなく、「安全に次の段階へ進める状態か」を評価します。実施時間や角度、歩行距離は固定せず、患者の反応に応じて調整します。
① ベッドアップ|姿勢変化への反応を確認する
ベッドアップでは、背上げによる姿勢変化に対して、呼吸・循環・意識・症状がどのように変化するかを確認します。
背上げ角度を一律に設定するのではなく、病態や姿勢制限、疼痛、呼吸状態に合わせて調整します。血圧低下やめまいが懸念される患者では、急激な姿勢変化を避けます。
次の段階への判断:姿勢変化による症状の悪化がなく、呼吸・循環が安定し、必要な介助体制を確保できる場合は、端座位への移行を検討します。
ただし、ベッドアップで問題がなくても、端座位で同様に安定するとは限りません。端座位へ移行した時点で再評価します。
② 端座位|循環反応と座位保持能力を確認する
端座位では、血圧・心拍数・SpO2などの変化に加えて、めまい、冷汗、顔色、体幹保持能力、介助量を確認します。
特に初回離床や長期臥床後では、臥位で安定していても端座位で症状が出現することがあります。端座位に移行した直後だけでなく、保持中の反応も確認します。
次の段階への判断:必要な介助下で座位を安全に保持でき、症状や循環動態の悪化がなく、立位に必要な支持性と介助体制を確保できる場合は立位を検討します。
座位保持が不安定な場合や、めまい・冷汗・血圧低下などが出現した場合は、立位へ進まず、安全な姿勢へ戻して再評価します。
③ 立位|起立時症状と下肢支持性を確認する
立位では、端座位から立ち上がった際の循環反応と、下肢・体幹の支持性を確認します。
特に、起立直後のめまい、ふらつき、膝折れ、急な介助量の増加に注意します。立位保持中に症状が出現することもあるため、立ち上がれたことだけで次の段階へ進めるとは判断しません。
次の段階への判断:必要な介助下で立位を安全に保持でき、呼吸・循環が安定し、左右への重心移動が可能であれば、足踏みなどの動的活動を検討します。
立位保持が困難な場合は、足踏みや歩行を優先せず、座位での活動や立位条件の再検討を行います。
④ 足踏み|動的な立位バランスを確認する
足踏みは、静的な立位保持から歩行へ進む際に、左右への重心移動や下肢支持性を確認する方法の一つです。
左右交互に下肢を挙上する際の膝折れ、体幹の動揺、支持物への依存、介助量の変化を確認します。必要に応じて歩行補助具や介助者を配置します。
次の段階への判断:足踏み中に著明なふらつきや症状の悪化がなく、歩行に必要な支持性・バランス・介助体制が確保できる場合は歩行を検討します。
足踏みはすべての患者に必須の工程ではありません。患者の運動機能や実施環境によっては、他の評価方法で歩行開始を判断します。
⑤ 歩行|距離より安全性と回復反応を優先する
歩行では、距離を伸ばすことだけを目標にせず、歩容、バランス、介助量、呼吸・循環反応、疲労、症状の変化を確認します。
初回歩行や状態変化後は、短距離から反応を確認し、必要に応じて休息を挟みます。歩行中に膝折れやふらつきが増悪する場合は、安全を確保して中断します。
終了後の判断:歩行距離だけでなく、実施中の症状、終了後の回復、必要な介助量を確認し、次回の歩行条件を決定します。
なお、歩行が困難な患者でも、端座位保持、立位保持、移乗などが適切な到達目標になる場合があります。歩行まで進めなかったことを、離床の失敗とは判断しません。
次の段階へ進める条件・進めない条件
ステップアップの判断では、①症状、②呼吸・循環、③姿勢保持・運動機能、④介助体制の4点を確認します。いずれかに安全上の問題があれば、次の段階へ進むことを優先しません。
| 判断項目 | 進行を検討できる状態 | 進行を見送る状態 |
|---|---|---|
| 症状 | 新たな症状や症状の増悪がない | めまい、冷汗、胸部症状、呼吸苦などが出現・増悪 |
| 呼吸・循環 | 患者ごとの許容範囲で安定している | 酸素化の悪化、症候性血圧変動、危険な不整脈など |
| 姿勢保持 | 必要な介助下で安全に姿勢を保持できる | 膝折れ、体幹保持困難、転倒リスクの増大 |
| 介助体制 | 必要な人員・機器・環境が確保されている | 介助者不足、デバイス管理が困難、安全な移動経路がない |
この表は、離床時の判断を整理するための独自の実務表であり、公式の開始・中止基準ではありません。実際の判断では、施設基準、医師指示、患者の病態と普段の状態を優先します。
判断例|端座位は可能だが立位でめまいが出現した場合
例えば、端座位では症状がなく、立位へ移行した際にめまいが出現した場合は、歩行へ進まず、安全な座位または臥位へ戻して状態を確認します。
このとき、単に「立位不可」と記録するのではなく、症状が出現した姿勢、血圧・心拍数などの変化、症状の持続時間、回復状況を確認します。
症状が改善しても、その場での再開が必ず安全とは限りません。原因や病態を確認し、必要に応じて医師・看護師と次回の実施条件を相談します。
離床中に異常が出現したときの中断・中止対応
離床中に異常が出現した場合は、症状の重症度、バイタルサインの変化、回復状況を踏まえて対応します。特に、新たな強い胸痛、急な意識変化、重度の呼吸困難などは、単なる段階変更として扱わず、速やかな医療対応が必要です。
| 判断区分 | 状態の例 | 対応 |
|---|---|---|
| 即時中止・緊急対応 | 新たな強い胸痛、急な意識障害、重度の呼吸困難、重篤な不整脈が疑われる状態など | 直ちに活動を中止し、安全を確保する。院内の急変対応手順に従い、必要な応援を要請する |
| 一時中断・再評価 | 軽度のめまい、ふらつき、原因を確認すべきバイタル変化など | 安全な姿勢へ戻し、症状・測定値・回復状況を確認する。必要に応じて医師・看護師へ相談する |
| 段階維持・慎重な進行 | 症状の悪化がなく、呼吸・循環と姿勢保持が安定している | 現在の段階で反応を確認し、次の段階へ進む必要性と安全性を判断する |
この3区分は実務上の整理であり、公式の分類ではありません。症状が軽度に見えても、患者の病態によっては重大な異常の初期徴候である可能性があります。
一時中断後に再開を検討するときの確認事項
一時中断後は、症状が軽快したことだけでなく、呼吸・循環の安定、異常が出現した原因、再発リスク、姿勢保持能力を確認します。
特に、めまいや血圧低下などが出現した場合は、可能な範囲で症状出現時と回復後の血圧・心拍数などを確認し、姿勢変化との関係を評価します。測定できなかった項目は未測定として扱います。
再開判断の原則:症状の消失だけをもって再開可能とは判断しません。再開の可否は患者の病態、異常の原因、施設基準、医師指示に基づいて判断し、必要に応じて医師・看護師へ相談します。安全性が確認できない場合は、その日の離床を終了します。
中止後の再開判断や具体的な申し送りについては、離床の中止基準と再開基準で詳しく解説しています。
離床プロトコルの判断フロー|5段階の進め方を図で確認
離床プロトコルの全体像を、開始前の安全確認、5段階の実施手順、各段階での進行判断、記録・病棟共有まで1枚にまとめました。

図版の見方:まず上段で病態・医師指示、意識、呼吸、循環、運動機能、デバイスを確認します。次に、患者の状態に応じて実施可能な段階を選び、姿勢や活動を変えるたびに反応を評価します。
症状やバイタルサイン、姿勢保持が安定している場合は次の段階を検討します。一方、めまい、冷汗、呼吸苦、胸部症状、著しいふらつきなどが出現した場合は、安全を確保して中断・再評価します。急変が疑われる場合は、院内の緊急対応手順を優先します。
注意:図版の5段階は一般的な進め方を整理したものであり、すべての患者に5段階を実施する必要はありません。足踏みを省略する場合や、端座位・立位までで終了する場合もあります。開始段階や到達目標は、患者の病態、ADL、施設基準、医師指示に応じて調整してください。
また、図版内の「安定している場合」は、単一の測定値が正常範囲にあることだけを意味しません。症状、表情、呼吸・循環の変化、回復状況、介助量を総合的に判断します。
初回離床で起こりやすい失敗と対策
初回離床では、歩行まで進めることに意識が向きすぎると、途中の姿勢変化に対する反応や介助量の変化を見落とす可能性があります。各段階で何を確認するかを事前に決めておくことが重要です。
| よくある問題 | 起こり得ること | 対策 |
|---|---|---|
| 歩行を優先しすぎる | 端座位・立位での異常を見落とす | 各段階で反応を確認し、到達段階を調整する |
| 数値だけで判断する | めまい、冷汗、呼吸苦などを見落とす | 測定値と症状を合わせて評価する |
| 立ち上がれたら歩行へ進む | 立位保持中の膝折れや循環変化に対応できない | 立位保持と必要に応じた動的バランスを確認する |
| デバイス確認が不十分 | ライン牽引や抜去につながる | 移動経路、チューブの余裕、管理担当者を確認する |
| 中止理由を共有しない | 次回も同じ状況で中断する可能性がある | 異常が起きた段階、症状、回復、次回条件を記録する |
患者の状態によっては、端座位保持や車椅子移乗がその日の適切な到達目標になります。歩行距離だけでなく、安全に実施できた活動と次回の課題を評価してください。
離床後の記録と病棟への申し送り
離床後は、実施した内容だけでなく、「どの段階でどのような反応があったか」「次回はどの条件から始めるか」を記録します。特に中断・中止した場合は、症状の出現状況と回復経過を残すことが重要です。
| 項目 | 記録する内容 | 記録例 |
|---|---|---|
| 実施段階 | 実施した姿勢・動作、保持時間、介助量 | 端座位3分、立位保持30秒まで実施 |
| 患者の反応 | 症状、血圧、心拍数、SpO2、姿勢保持能力 | 立位でめまい出現。座位へ戻すと軽快 |
| 中断・中止理由 | 異常が出現した段階、症状、回復経過 | 立位でふらつき増悪。歩行へ進まず中止 |
| 次回条件 | 開始段階、再評価項目、相談事項 | 次回は端座位から再評価。立位・歩行は状態確認後に判断 |
記録例|立位でめまいが出現した場合
以下は記載方法を説明するための架空症例です。実在患者の記録ではありません。
離床記録例
端座位3分、立位保持30秒まで実施。端座位では自覚症状なし。立位でめまいと軽度のふらつきが出現したため、座位へ戻して活動を中断。座位で血圧・心拍数・SpO2を再評価し、約1分でめまいが軽快したことを確認。立位時の血圧・心拍数は未測定のため、起立時の循環変化は判定できず。歩行は実施せず。症状出現時の状況と評価結果を看護師へ共有。次回は端座位での循環反応を確認し、立位への進行は状態確認後に判断する。
この例では、立位時の血圧・心拍数が測定できていないため、起立性低血圧の有無を判定していません。実際の記録では、測定した数値、測定時点、姿勢、酸素投与条件、介助量などを必要に応じて記載します。
記録上の注意:測定していない数値を補ったり、未確認の所見を「異常なし」と記載したりしてはいけません。症状出現時の測定が困難だった場合は、その事実を明示し、次回の評価条件へつなげます。
また、記録例の「再評価」は、実際の患者では必要な測定を行い、その結果を確認することが前提です。症状が軽快しただけで離床再開の安全性が確認されたことにはなりません。
よくある質問
初回離床は歩行まで進める必要がありますか?
いいえ。初回離床では、端座位や立位での反応を確認するだけでも重要な評価になります。患者の病態や身体機能に応じて到達段階を設定し、安全に実施できた内容と次回条件を確認します。
端座位でめまいが出現した場合、立位へ進んでもよいですか?
症状が出現した状態で立位へ進むことは避け、安全な姿勢へ戻して症状・血圧・心拍数などを再評価します。症状の原因や回復状況を確認し、必要に応じて医師・看護師へ相談してください。症状が軽快しただけで自動的に再開可能とは判断しません。
5段階は必ず順番どおり実施する必要がありますか?
いいえ。5段階は本記事で示した実務上の整理であり、すべての患者に必須の手順ではありません。患者の病態やADL、医師指示、施設基準に応じて開始段階や到達目標を調整します。足踏みを省略したり、端座位や立位までで終了したりする場合もあります。
ICUと一般病棟で同じ離床プロトコルを使えますか?
段階的に活動を進め、各段階で安全性を確認する考え方は共通します。ただし、ICUでは鎮静、人工呼吸器、循環作動薬、各種デバイスなどの影響を考慮する必要があります。開始・中止基準は患者の病態や治療条件に応じて判断し、施設基準と医師指示を優先してください。
次の一手|離床判断を病棟全体で共有する
離床プロトコルを継続的に運用するには、リハビリテーション実施中の判断だけでなく、病棟で共有する活動条件を明確にすることが重要です。
全体像を確認する:離床ハブ|安全確認から歩行までの進め方では、離床前評価、症状別対応、記録・共有などの関連記事を目的別に整理しています。
離床は、その日の到達段階だけでなく、患者の反応を次回の判断へつなげることが重要です。「どこまでできたか」「何があれば中止するか」「次回は何を確認するか」を病棟で共有しましょう。
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参考文献
- 日本集中治療医学会集中治療早期リハビリテーション委員会. 日本版重症患者リハビリテーション診療ガイドライン2023(J-ReCIP 2023). 日本集中治療医学会雑誌. 2023;30(Suppl 2). 公式PDF
- 日本集中治療医学会. 早期離床の進め方. PICS 集中治療後症候群. 公式解説
- Mindsガイドラインライブラリ. 日本版重症患者リハビリテーション診療ガイドライン2023. ガイドライン掲載ページ
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
2022年4月にrehabilikun blogを開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの経験をもとに、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士に役立つ臨床情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションなどを中心に、評価・介入・記録・多職種連携に関する実務情報を整理しています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

