烏口突起の触診方法【位置と結論】
烏口突起は、肩甲骨の前上方から前外側へ突出するフック状の骨性ランドマークです。触診では、肩峰前縁と鎖骨遠位端を確認し、そこから前内下方にある骨性の硬さを指腹で探します。最初から強く押すのではなく、周囲の骨との位置関係を確認することが重要です。
この記事では、新人PT・OTに向けて、烏口突起の触診4ステップ、肩峰・鎖骨・小結節・結節間溝との見分け方、触れないときの修正方法、圧痛の解釈と記録例を解説します。触診で迷ったときに「どこから探し直すか」「触れた所見を次の評価へどうつなげるか」を判断できる構成です。
烏口突起の触診手順|4ステップ
烏口突起を見つけるには、肩峰前縁と鎖骨遠位端を先に確認することが基本です。上方の骨性ランドマークから位置を絞り、深部の硬さを確かめます。
患者は肩の力を抜ける座位を基本とし、上肢を体側でリラックスさせます。肩前面に筋緊張がある場合は上肢を支持し、無理のない姿勢に調整します。

| 手順 | 触診方法 | 確認ポイント |
|---|---|---|
| 1.肩峰前縁を確認 | 肩の上外側にある肩峰の前縁を指腹で確認する | 骨の縁を触れ、探索の基準点を決める |
| 2.鎖骨遠位端を確認 | 鎖骨を外側へたどり、肩峰との位置関係を確認する | 烏口突起が鎖骨遠位部より下方に位置することを意識する |
| 3.前内下方へ進む | 肩峰前縁から前内下方へ指腹を移動し、軟部組織の奥にある骨性の抵抗を探す | 急に圧迫せず、徐々に深さを調整する |
| 4.骨性抵抗と左右差を確認 | 限局した骨性の抵抗を確認し、可能なら反対側と比較する | 位置、触知のしやすさ、圧痛、症状再現を区別する |
触れた硬さが骨なのかを確認する
烏口突起は、肩前面の軟部組織の奥にある骨性の突出です。触診では、筋の弾力とは異なる限局した硬さを確認します。ただし、触れている構造が明確でない場合は、圧を強める前に開始位置へ戻ります。
烏口突起には複数の筋が付着し、周辺には重要な神経・血管も存在します。特に内側や下方へ強く押し込むことを避け、必要最小限の圧で確認してください。
外傷直後の強い痛み、明らかな変形、脱臼・骨折を疑う所見、急激な神経症状などがある場合は、深部触診を行わず、医師による評価を優先します。
烏口突起と間違えやすい部位の見分け方
肩前面で硬い組織に触れても、それが烏口突起とは限りません。肩峰前縁、鎖骨遠位端、小結節、結節間溝は近接するため、骨の所属と位置関係を組み合わせて確認します。
| 部位 | 位置・特徴 | 見分けるポイント |
|---|---|---|
| 烏口突起 | 肩甲骨前上方の突出。鎖骨遠位部の下方、肩峰前縁より前内下方 | 深部で限局した骨性の抵抗を確認する |
| 肩峰前縁 | 肩の上外側に広がる骨の前縁 | 比較的広い骨性の面や縁をたどることができる |
| 鎖骨遠位端 | 鎖骨の外側端。肩の上方に位置する | 鎖骨の連続性とAC関節の位置を確認する |
| 小結節 | 上腕骨近位部の前内側にある骨性隆起 | 上腕骨の位置と、許容範囲での内外旋に伴う変化を参考にする |
| 結節間溝 | 上腕骨の大結節と小結節の間にある溝 | 溝状の位置関係と上腕二頭筋長頭腱の走行を確認する |
| 三角筋前部 | 肩前外側を覆う軟部組織 | 筋の弾力と骨性の硬さを区別する |
烏口突起と小結節は骨の所属が違う
烏口突起は肩甲骨の一部であり、小結節と結節間溝は上腕骨の一部です。肩甲骨の位置をできるだけ安定させ、疼痛のない範囲で上腕骨を軽く内外旋させると、両者の位置関係を確認する補助になります。
ただし、肩関節の運動時には肩甲骨も動くことがあり、動きの違いだけで正確に同定できるわけではありません。肩峰・鎖骨との位置関係、触れている構造の硬さ、上腕骨側のランドマークを合わせて判断します。
烏口突起が触れないときの修正方法
烏口突起が触れないときは、さらに強く押すのではなく「開始位置」「進める方向」「肩の緊張」の順に見直します。特に疼痛が強い場合は、骨性ランドマークの同定より安全性を優先してください。
| 困っている状態 | 考えられる原因 | 修正方法 |
|---|---|---|
| 硬い骨が見つからない | 開始位置や指を進める方向がずれている | 肩峰前縁と鎖骨遠位端を取り直す |
| 筋の抵抗しか分からない | 三角筋前部などの軟部組織を触れている | 上肢を支持して肩を脱力させ、深さを少しずつ調整する |
| 押すとすぐに痛みが出る | 圧迫が強すぎる、または疼痛過敏がある可能性 | 圧を減らす。症状が強ければ触診を中断する |
| 小結節との違いが分からない | 上腕骨近位部を触れている可能性 | 肩峰・鎖骨との位置関係を再確認し、軽い内外旋を補助的に用いる |
| 患側だけ位置が曖昧 | 疼痛、筋緊張、腫脹などの影響 | 健側で基準点を確認し、患側は無理に深く触れない |
触知できない場合は無理に断定しない
疼痛や筋緊張によって骨性の抵抗を明確に確認できない場合は、触診結果を「同定困難」として扱います。強く押して痛みを出すことと、正確な触診は別です。
評価上どうしても位置の確認が必要な場合は、経験のある指導者との確認や、必要に応じて画像所見との照合を検討します。超音波画像を利用した触診教育の有用性を検討した研究もありますが、すべての症例で画像確認が必要という意味ではありません。
烏口突起周囲の圧痛をどう解釈するか
烏口突起周囲の圧痛は、肩前面痛の局在や症状の再現性を確認する手がかりです。ただし、圧痛があるだけで特定の疾患や損傷組織を断定することはできません。
烏口突起には小胸筋、烏口腕筋、上腕二頭筋短頭などが付着しています。圧痛を確認した場合は、普段の痛みと一致するか、どの動作で増悪するか、肩関節ROMの制限があるかを併せて確認します。
coracoid pain testとは区別する
Carboneらが報告したcoracoid pain testは、単に烏口突起を圧迫して痛みの有無をみる検査ではありません。烏口突起部、AC関節部、肩峰下前外側部への圧迫による疼痛を比較し、烏口突起部の疼痛VASが他の2部位より3ポイントを超えて強い場合を陽性とする研究上の判定です。
この研究では癒着性関節包炎(いわゆる凍結肩)との関連が報告されています。ただし、通常の触診で烏口突起周囲に圧痛があるだけでは、同検査の陽性とは判定できません。疾患の判断には病歴、可動域、その他の身体所見などを組み合わせる必要があります。
圧痛と組み合わせて確認する評価
| 確認した所見 | 次に確認すること |
|---|---|
| 限局した圧痛がある | 普段の痛みとの一致、左右差、周辺部位の圧痛 |
| 肩外旋の制限が目立つ | 自動・他動ROM、他方向の制限、疼痛と拘縮の特徴 |
| 前方挙上・内転・内旋で痛む | 疼痛誘発動作、烏口突起と小結節の位置関係、他の肩関節所見 |
| 結節間溝方向にも圧痛がある | 上腕二頭筋長頭腱の走行、抵抗運動、肩ROM |
烏口下インピンジメントは肩前面痛の鑑別候補ですが、烏口突起の圧痛のみで判断できるものではありません。症状、誘発動作、他の評価結果を整理し、必要に応じて医師による診察や画像所見との照合を行います。
烏口突起の触診所見の記録例
触診結果は「位置を同定できたか」「圧痛の有無」「普段の症状の再現」「左右差」「次の評価」を分けて記録します。以下は記載方法を示した架空の例です。実際に確認していない所見は記録しません。
| 場面 | 記録例 | 記録のポイント |
|---|---|---|
| 圧痛あり | 右烏口突起を触知。周囲に限局した圧痛あり。圧迫にて普段の肩前面痛が一部再現される。 | 骨の同定と症状再現を区別する |
| 左右差あり | 両側烏口突起を触知。右側で左側より圧痛が強い。右肩他動外旋ROMに制限を認める。 | 触診所見と別に評価したROMを記載する |
| 位置同定が困難 | 肩前面の筋緊張と疼痛により、右烏口突起の明確な触知は困難。深部圧迫は実施せず。 | 確認できなかった理由と実施範囲を残す |
| 圧痛なし | 烏口突起周囲の明らかな圧痛なし。結節間溝方向の圧痛と挙上時痛を追加評価する。 | 陰性所見だけで判断を終えない |
「烏口突起に圧痛なし」と「烏口突起を触知できなかった」は意味が異なります。位置を正確に同定できていない場合、圧痛の有無を断定しないことが重要です。
次の評価と関連記事
烏口突起を触診できたら、肩前面にある小結節、結節間溝、上腕二頭筋長頭腱との位置関係を確認します。圧痛や症状再現を確認した場合は、ROM、誘発動作、抵抗運動などへ評価を進めてください。
肩関節・肩甲帯の触診を全体から整理したい場合は、肩関節・肩甲帯の触診ポイントまとめを参照してください。
肩前面の別のランドマークを続けて確認する場合は、結節間溝の触診方法が次の学習先になります。
参考文献
- Miniato MA, Mudreac A, Borger J. Anatomy, Thorax, Scapula. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2026. Updated 2023 Jul 24. NCBI Bookshelf.
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- Gigante A, Bottegoni C, Barbadoro P. Coracoid syndrome: a neglected cause of anterior shoulder pain. Joints. 2016;4(1):31-38. doi:10.11138/jts/2016.4.1.031.
- Okoro T, Reddy VRM, Pimpelnarkar A. Coracoid impingement syndrome: a literature review. Curr Rev Musculoskelet Med. 2009;2(1):51-55. doi:10.1007/s12178-009-9044-9.
- Kitagawa T, Aoki Y, Sugimoto H, Ozaki N. Randomised controlled trial for evaluation of an ultrasound-guided palpation intervention for palpation skill training. Sci Rep. 2022;12:1189. doi:10.1038/s41598-022-05290-z.
- Woodward TW, Best TM. The painful shoulder: part I. Clinical evaluation. Am Fam Physician. 2000;61(10):3079-3088. AAFP.
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

