ABI の評価方法|測り方・見方・ PAD を疑う目安

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ABI は「脈が弱い気がする」を客観化する評価です

ABI は、下肢の血流低下を疑ったときに「何となく脈が弱い」「歩くとふくらはぎが痛い」「足の傷が治りにくい」といった所見を、数値で確かめるための基本検査です。動脈触診が“異常を拾う入口”なら、 ABI は“その疑いを客観化する次の一手”と考えると整理しやすくなります。

大切なのは、数値だけを暗記することではありません。どんな症状や身体所見で測るのか、どう計算するのか、結果をどう次の判断につなげるのかまで分かって初めて実務で使えます。脈拍触診の前提を先に確認したい方は、動脈の触診方法もあわせて読むと流れがつかみやすいです。

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ABI とは何か

ABI は ankle-brachial index の略で、足関節の収縮期血圧を上腕の収縮期血圧で割った値です。標準化された測定では、左右それぞれの足で足背動脈または後脛骨動脈の高い方の圧を使い、分母には左右上腕の高い方を使います。つまり、単なる「足首の血圧」ではなく、上肢に対して下肢の血流がどの程度保たれているかを見る比です。

臨床では、 PAD を疑う症状や身体所見があるときの診断の入口として使います。触診で脈が弱い、左右差がある、歩行で下腿痛が出る、足部の冷感や創傷があるといったときに、 ABI を測る意味が大きくなります。逆に、低リスクで症状も身体所見もない人へ漫然と測る検査ではありません。

ABI はどんなときに測るのか

ABI を考えたい場面は、まず「下肢の血流低下を疑うサインがあるとき」です。代表例は、歩行で出るふくらはぎ痛、足の冷感、色調変化、治りにくい傷、足背や後脛骨動脈の触れにくさなどです。典型的な間欠性跛行だけでなく、「歩くと足がだるい」「しびれや疲労感で止まる」などの非典型的な訴えでも、 PAD を疑う文脈なら候補になります。

また、糖尿病、喫煙歴、高血圧、脂質異常症、 CKD 、他の動脈硬化性疾患がある方では、 PAD のリスクが上がります。糖尿病足の文脈では、創傷や感覚低下だけでなく血流低下の有無も評価の質を左右するため、フットスクリーニングの流れの中で ABI の位置づけを知っておくと実務で役立ちます。

ABI を考えたい場面の早見表
場面 よくある所見 ABI を考える理由
歩行時症状 ふくらはぎ痛、下肢の疲労感、歩行距離で悪化 間欠性跛行や非典型的な下肢虚血症状を客観化しやすい
身体診察異常 足背・後脛骨動脈の減弱、左右差、冷感 触診所見の次の一手として使いやすい
創傷・皮膚変化 治りにくい傷、色調変化、壊疽、安静時痛 血流低下の関与を考える入口になる
リスクが高い患者 糖尿病、喫煙歴、 CKD 、他の動脈硬化性疾患 PAD の見逃しを減らしやすい

ABI の測り方の基本

標準的な ABI は、安静仰臥位で数分休んだあと、カフとドプラを使って両上腕と両足関節の収縮期血圧を測ります。ポイントは、安静条件をそろえること左右を必ず測ること足関節は足背動脈と後脛骨動脈の両方を確認することの 3 つです。どこか 1 か所だけで済ませると、値の解釈がぶれやすくなります。

計算は、左右それぞれの脚で行います。各脚の分子は「足背動脈または後脛骨動脈の高い方」、分母は「左右上腕の高い方」です。つまり 1 人に 1 つの ABI ではなく、通常は右脚と左脚で別々に値を出します。記録では、値だけでなく、どの動脈で測れたか、症状や脈拍所見と合わせて残すと次の判断に使いやすくなります。

スマホでは表を横にスクロールできます。

ABI の最小手順
手順 やること 実務ポイント
1 仰臥位で安静をとる 歩行直後や離床直後は避け、安静条件をそろえる
2 左右上腕の収縮期血圧を測る 分母には左右上腕の高い方を使う
3 左右足関節で足背動脈と後脛骨動脈を測る 各脚で高い方を分子に使う
4 脚ごとに ABI を計算する 右脚と左脚を別々に記録する
5 症状・触診所見と合わせて解釈する 数値だけで終わらせず次の行動まで決める

ABI の見方

ABI の読み方は、まず区分をしっかり押さえることが大切です。異常 ≤ 0.90、境界域 0.91〜0.99、正常 1.00〜1.40、非圧縮 > 1.40 の 4 区分で整理すると迷いにくくなります。まずはこの 4 つを押さえたうえで、症状や脈拍所見と合わせて読むことが実務では重要です。

ただし、実際の臨床では「正常か異常か」だけで終わらせない視点が必要です。たとえば 0.88 なら PAD を強く疑いますが、 1.10 でも症状が典型的なら安心はできません。また、 1.45 は一見高くて良さそうに見えても、むしろ石灰化などで血管が圧迫されにくい可能性を考えます。数値は“答え”ではなく“次の分岐”として読むのがコツです。

ABI の見方と次の一手を整理した早見図
ABI の区分と、結果ごとの次の一手を 1 枚で整理した早見図です。

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ABI の区分と実務での読み方
ABI 区分 考え方 次の一手
≤ 0.90 異常 PAD を疑う根拠になる 症状、創傷、歩行機能と合わせて評価し、必要時は医師共有へ
0.91–0.99 境界域 正常とは言い切れない 症状や所見があれば経過や追加評価を考える
1.00–1.40 正常 安静時 ABI としては保たれている 症状が典型的なら運動負荷 ABI を考える
> 1.40 非圧縮 血管石灰化などで高く出ている可能性 TBI を追加して判断する

ABI が高すぎるときに TBI を考える理由

ABI が 1.40 を超えるときは、「血流がとても良い」と読むのではなく、血管が硬くてカフで十分に圧迫できない可能性を考えます。こうした“非圧縮”の値は、糖尿病や CKD 、高齢者などで出会いやすく、 ABI 単独では判断しにくくなります。

このときの次の一手が TBI です。高い ABI は「安心材料」ではなく、「別の指標で見直すサイン」と捉えるのが安全です。糖尿病足や足部創傷の文脈では、とくにこの分岐を知っておくと実務で迷いにくくなります。

ABI が正常でも症状があるときはどうするか

実務で詰まりやすいのがここです。安静時 ABI が正常でも、歩くと下腿が痛い、一定距離で足がだるくなる、休むと軽くなる、といった症状が典型的なら、 PAD を完全には否定できません。とくに「安静時は平気だが、負荷で症状が出る」ケースでは、安静時の数値だけで終わらせると見逃しにつながります。

そのため、正常値だから終了ではなく、「症状が典型的か」「脈拍減弱や冷感があるか」「創傷や色調変化があるか」を合わせて考えることが重要です。安静時 ABI は入口として優秀ですが、歩行時症状と検査条件を切り分けて読む姿勢が必要です。

PT が ABI をどう実務に落とすか

PT の実務では、 ABI を「検査室の数字」として扱うより、歩行・創傷・運動処方の判断材料として読むと使いやすくなります。たとえば、動脈触診で脈拍減弱があり、歩行でふくらはぎ痛が出るなら、単なる疲労ではなく血流低下の可能性を意識できます。逆に、創傷や胼胝の管理で介入していても、血流評価が抜けていると全体像を取り違えやすくなります。

記録では、「 ABI 値」だけでなく、「どちらの脚か」「歩行時症状はあるか」「脈拍はどうか」「足部の冷感や創はあるか」までセットで残すのがコツです。数値だけでなく、機能や皮膚所見と並べて読むことで再評価に使いやすくなります。

現場の詰まりどころ

ABI でありがちな失敗は、「安静条件をそろえない」「足関節で 1 本しか測らない」「高い ABI を正常と誤解する」「正常 ABI で症状を見逃す」「値だけ記録して終わる」の 5 つです。とくに、後脛骨動脈だけ、または足背動脈だけで済ませると、測定値の解釈がぶれやすくなります。

もう 1 つ大事なのは、 ABI は“数字の暗記科目”ではなく“分岐の道具”だということです。異常なら PAD を疑う、非圧縮なら TBI を考える、正常でも症状が典型的なら追加評価を考える。この 3 分岐を押さえるだけで、かなり実務で使いやすくなります。

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ABI でよくある失敗と修正ポイント
失敗 なぜ困るか 修正ポイント
安静条件をそろえない 安静時 ABI の比較がぶれる 仰臥位で安静をとってから測る
足関節で 1 本しか測らない 本来使うべき高い方を拾えない 足背動脈と後脛骨動脈の両方を確認する
高い ABI を正常と考える 非圧縮例を見逃す > 1.40 は TBI を考える
正常 ABI で安心してしまう 負荷時症状のある PAD を見逃す 症状があれば追加評価を考える
値だけ記録する 次の判断に使いにくい 症状、脈拍、創傷、冷感まで残す

よくある質問

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

ABI が正常なら PAD は否定できますか?

安静時 ABI が正常でも、歩行で出る下肢症状が典型的なら PAD を完全には否定できません。安静時 ABI だけで終わらせず、症状や脈拍所見、必要時の追加評価まで含めて判断してください。

ABI が 1.40 を超えるのは良い値ですか?

必ずしも良い値ではありません。高値は血流が良いというより、血管が硬くて圧迫されにくい“非圧縮”の可能性があります。この場合は TBI を追加して判断する流れが基本です。

ABI は触診異常がなくても考えますか?

はい。歩行時症状、治りにくい傷、安静時痛、糖尿病や喫煙歴などのリスクが強い場合は、明らかな触診異常がなくても候補になります。逆に、低リスクで症状も所見もない人に漫然と測る検査ではありません。

PT は ABI の結果をどう記録すると使いやすいですか?

右脚・左脚の値、歩行時症状の有無、足背・後脛骨動脈の触診所見、冷感や創傷の有無をセットで残すと使いやすいです。数値だけよりも、歩行や創傷管理とつながる情報がある方が再評価に活きます。

次の一手

ABI は、動脈触診の次に置くと最も使いやすい評価の 1 つです。まずは「脈拍触診で異常を拾う → ABI で客観化する → 症状と足部所見を合わせて判断する」という流れを固定すると、下肢循環の見落としを減らしやすくなります。

続けて読むなら、まずは動脈の触診方法で入口を整理し、糖尿病足の実装までつなげたい方は糖尿病フットスクリーニングを PT が実装する手順、感覚評価まで深掘りしたい方は10 g モノフィラメント検査のやり方へ進んでください。


参考文献

  1. Gornik HL, Aronow HD, Goodney PP, et al. 2024 ACC/AHA/AACVPR/APMA/ABC/SCAI/SVM/SVN/SVS/SIR/VESS Guideline for the Management of Lower Extremity Peripheral Artery Disease. Circulation. 2024;149:e1313-e1410. DOI: 10.1161/CIR.0000000000001251
  2. Aboyans V, Criqui MH, Abraham P, et al. Measurement and Interpretation of the Ankle-Brachial Index: A Scientific Statement From the American Heart Association. Circulation. 2012;126:2890-2909. DOI: 10.1161/CIR.0b013e318276fbcb

著者情報

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rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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