動脈触診は「異常を拾って次へつなぐ」評価です
動脈の触診は、単に「脈があるか」を確認するだけの手技ではありません。橈骨動脈では全身循環の変化を素早く拾い、膝窩動脈・後脛骨動脈・足背動脈では下肢循環の異常を疑う入口になります。重要なのは、触診だけで判断を終わらせず、左右差・減弱・冷感・創傷・色調変化などをあわせて見て、次の評価につなげることです。
とくにリハビリ場面では、「立ちくらみが強い」「歩くとふくらはぎが痛い」「足部に創がある」「下肢の冷感が強い」といった訴えに対して、まず触診で異常を拾えるかどうかが実務上の分かれ目になります。評価の全体像を先に整理したい方は、評価ハブもあわせて確認しておくと流れがつかみやすいです。
動脈触診は何の判断に使うのか
橈骨動脈の触診は、急な血圧低下そのものを正確に数値化するためではなく、循環が落ちていないかを素早く拾うために有用です。脈が弱い、速い、触れにくい、不整があるといった所見は、脱水、出血、ショック、発熱、不整脈などの可能性を考えるきっかけになります。ただし、橈骨動脈が触れるかどうかだけで血圧を推定しないことが大前提です。
一方、膝窩動脈・後脛骨動脈・足背動脈は、下肢循環の評価で役立ちます。歩行時の下腿痛、足部の冷感、創傷治癒遅延、左右差のある色調変化などがある場合は、触診所見が PAD を疑う入口になります。異常を拾ったら、それで完結させず、必要に応じて ABI やドプラ、医師への共有へ進めることが重要です。
動脈触診の基本手順
動脈触診は、部位ごとの探し方よりも先に「共通ルール」をそろえると精度が安定します。基本は、患者さんができるだけリラックスできる姿勢を作り、左右を比べ、指腹で軽く触れ、必要に応じて少しずつ圧を深めることです。冷えた環境や筋緊張が強い状態では、正常でも触れにくくなります。
記録では、触れる・触れないだけでなく、左右差、強さ、リズム、触れにくさの理由まで残すと臨床で使いやすくなります。たとえば「右後脛骨動脈 1 +、左 2 +、右足冷感あり」「膝窩動脈は両側とも深部で微弱、筋緊張強く再確認要」など、次の判断に使える言葉で残すのがコツです。
| 項目 | 見ること | 実務ポイント |
|---|---|---|
| 環境 | 室温、冷え、患者の緊張 | 寒いと末梢血管が収縮しやすいため、冷えたまま判定しない |
| 指の当て方 | 示指〜中指の指腹で触れる | 親指は自分の脈を拾いやすいため原則避ける |
| 比較 | 左右差、強さ、リズム | 片側だけで終わらせず、必ず対側と比べる |
| 強さ | 0 〜 4 + で把握 | 0 = 触れない、1 + = 微弱、2 + = やや弱い、3 + = 標準、4 + = 強い |
| 次の行動 | 異常所見の有無 | 減弱、左右差、冷感、創傷があれば追加評価へつなぐ |
橈骨動脈の触診方法
橈骨動脈は、手関節の橈側、母指側で最も日常的に触れる動脈です。前腕を軽く回外し、手関節を少し楽な位置に置いたうえで、示指と中指の指腹を橈側手関節部に当てると触れやすくなります。最初から強く押し込むと自分で脈を消してしまうため、まずは軽く触れ、そこから圧を微調整します。
臨床では、頻脈、微弱、不整、左右差の有無をみると使いやすいです。離床前後で脈が速くなる、立位で触れにくくなる、冷汗や顔面蒼白を伴うなどの所見があれば、橈骨動脈の触診だけで済ませず、血圧測定や症状確認へ進めます。「橈骨動脈が触れるから血圧は大丈夫」とは言い切れないため、あくまで簡易的な循環スクリーニングとして使うのが安全です。
橈骨動脈を触れやすくするコツ
橈骨動脈は浅いので、触れにくいときは「場所がずれている」か「押し過ぎている」ことが多いです。手関節のしわのすぐ近くで探し過ぎず、少し近位にずらしてみると見つかることがあります。また、患者さんの前腕が力んでいると触れにくくなるため、肘下に枕やタオルを入れて力を抜いてもらうと安定します。
膝窩動脈の触診方法
膝窩動脈は、膝窩の深部を走るため、末梢動脈のなかでも触れにくい部位です。基本は仰臥位で膝を軽く屈曲し、検者が両手で膝を包むように支え、指先で膝窩中央のやや深部を押し込むように探します。大切なのは、患者さんの下肢をしっかり脱力させることです。筋緊張が強いと、正常でもかなり分かりにくくなります。
膝窩動脈は、足背動脈や後脛骨動脈が分かりにくいときに、より近位の血流をみる意味があります。糖尿病、動脈硬化リスクが高い方、歩行時の下腿痛がある方では、膝窩での触れにくさも参考になります。ただし、肥満や筋量の多い方では正常でも触知困難なことがあるため、「触れにくい = 閉塞」と単純には決めつけず、他の所見とあわせて判断します。
膝窩動脈でつまずきやすい点
膝窩動脈は「場所」より「脱力」と「深さ」がポイントです。膝をしっかり伸ばしたままだと筋が張りやすく、かえって分かりにくくなります。また、膝窩の皮膚表面をなぞるような浅い触れ方では見つかりにくいため、両手で支えながら深部を探す意識が必要です。片側だけで難しいと判断せず、必ず反対側と比べてください。
後脛骨動脈の触診方法
後脛骨動脈は、内果の後方、アキレス腱との間にある溝で触れます。足関節を軽く中間位に置き、検者の指を内果の後ろ側へ回し込むように当てると探しやすいです。イメージとしては、内果の後ろから前に向かって柔らかい部分を押し込む形です。足部浮腫がある場合は、少し深めの触診が必要になります。
後脛骨動脈は、足部循環をみるうえで重要です。足趾の色調変化、冷感、しびれ、創傷、潰瘍などがあるときは、とくに所見の価値が上がります。片側だけ明らかに弱い、または触れない場合は、触診ミスや浮腫の影響だけでなく、循環低下も考えて追加評価につなげます。糖尿病足や創傷管理では、「創を見る前に脈をみる」意識が実務では役立ちます。
後脛骨動脈を触れやすくするコツ
後脛骨動脈は、内果の真後ろではなく「内果とアキレス腱の間」を意識すると見つけやすくなります。浮腫や皮下脂肪がある場合は、指先を少しずつずらしながら最も拍動が伝わる点を探します。足部が冷えていると触れにくくなるため、触診前に視診で色調や温度もみておくと解釈しやすくなります。
足背動脈もセットでみると判断しやすい
下肢循環をみるなら、後脛骨動脈だけで終わらせず、足背動脈もあわせて確認すると解釈が安定します。足背動脈は足背の中央やや内側、長母趾伸筋腱の外側あたりで探します。個人差があり、場所がややずれたり、もともと触れにくかったりするため、見つからないときは少しずつ横方向にずらして探すのがコツです。
後脛骨動脈と足背動脈の両方をみておくと、「末梢の循環が全体として弱いのか」「片方は触れるのか」「足部のどこで血流低下を疑うか」が整理しやすくなります。下肢の脈拍は 1 か所だけで判断すると誤解しやすいため、可能なら膝窩・後脛骨・足背まで縦につなげてみる視点を持つと臨床で迷いにくくなります。
触診所見をどう解釈するか
触診で大切なのは、触れた・触れないの二択で終わらせないことです。速い、遅い、弱い、左右差がある、不整、冷感を伴う、創傷があるなど、周辺所見とまとめて読むことで初めて臨床判断に使えます。たとえば、橈骨動脈が微弱で頻脈なら循環低下の可能性、後脛骨動脈が片側だけ弱く足部冷感があるなら下肢循環低下の可能性を考えます。
逆に、末梢脈拍がしっかり触れるからといって、循環に問題がないと断定するのも危険です。症状が強い、創傷が治りにくい、歩行で典型的な下腿痛が出るなど、病歴が PAD を示唆する場合は、触診が保たれていても追加評価が必要なことがあります。身体診察は「入口」であり、必要時は客観指標で裏づけることが重要です。
| 所見 | 考えたいこと | 次の行動 |
|---|---|---|
| 橈骨動脈が微弱・頻脈 | 循環低下、脱水、発熱、ショック、不整脈など | 血圧、症状、顔色、冷汗、意識状態を追加確認 |
| 膝窩・後脛骨動脈の左右差 | 下肢循環低下、動脈硬化性変化の可能性 | 歩行時症状、冷感、色調、創傷の有無を確認 |
| 足部の冷感 + 脈拍減弱 | 末梢循環不全、虚血所見の可能性 | 医師共有、必要時 ABI やドプラ評価へ |
| 創傷・潰瘍 + 脈拍異常 | 創傷治癒遅延リスク、虚血の関与 | 創部評価だけで終わらせず血流評価を追加 |
| 触れにくいが他所見に乏しい | 浮腫、肥満、筋緊張、冷え、手技の問題 | 体位調整、再触診、対側比較、再評価 |
よくある失敗
動脈触診でありがちな失敗は、「親指で触る」「最初から強く押す」「片側だけで終わる」「冷えたまま評価する」「触れない = 即閉塞と決めつける」の 5 つです。とくに親指は自分の拍動を拾いやすく、慣れないうちは判定を混乱させます。また、強く押しすぎると、浅い動脈では自分で拍動をつぶしてしまいます。
もう 1 つ多いのが、「橈骨動脈が触れるから血圧は大丈夫」と解釈してしまうことです。橈骨動脈の触知は循環低下の拾い上げには役立ちますが、血圧値の代用にはなりません。リハビリ前後の安全確認では、脈の触知と血圧・症状を切り分けず、セットで見ることが重要です。
| 失敗 | なぜ起こるか | 修正ポイント |
|---|---|---|
| 親指で触る | 自分の脈を拾いやすい | 示指・中指の指腹に固定する |
| 強く押しすぎる | 動脈を自分で圧迫してしまう | 軽く当ててから少しずつ圧を深める |
| 片側だけで終わる | 左右差が分からない | 必ず対側とセットで比較する |
| 脱力を作らない | 膝窩動脈がとくに触れにくい | 体位を整え、下肢を検者が支える |
| 触知だけで血圧を推定する | 簡便だが誤差が大きい | 血圧は血圧計で測り、触診は補助情報として使う |
こんなときは次の評価へ進みます
以下のような場合は、触診だけで終わらせず、追加評価を考えます。具体的には、下肢脈拍の左右差、明らかな減弱、歩行時のふくらはぎ痛、足部の冷感、色調変化、創傷や潰瘍、治りにくい傷などです。こうした所見があるときは、病歴とあわせて PAD を疑う根拠になります。
実務では、「脈が弱いから様子見」ではなく、「脈が弱いので ABI やドプラ、医師共有を検討する」という次の一手まで決めておくと安全です。逆に、膝窩動脈が触れにくいが足部は温かく左右差が乏しい場合は、まず体位や脱力、再触診を優先するなど、所見の重みづけをして判断すると過剰反応を避けられます。
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
橈骨動脈が触れれば血圧は保たれていると考えてよいですか?
いいえ。橈骨動脈の触知は循環低下の簡易的な拾い上げには有用ですが、触れていることだけで収縮期血圧を正確に推定することはできません。離床前後の安全確認では、脈拍触診に加えて血圧、症状、顔色、冷汗、意識状態をセットで確認してください。
膝窩動脈が触れにくいのは異常ですか?
膝窩動脈は深部を走るため、正常でも触れにくい部位です。肥満、筋量、浮腫、筋緊張の影響でも分かりにくくなります。体位調整と脱力を十分に行い、対側比較や足部の脈拍、冷感、色調などの所見もあわせて判断してください。
後脛骨動脈と足背動脈は両方みた方がよいですか?
はい。下肢循環の評価では、後脛骨動脈だけでなく足背動脈も一緒にみる方が解釈しやすくなります。片方だけでは拾いきれない左右差や末梢循環の低下を把握しやすくなるため、可能ならセットで確認するのがおすすめです。
触れないときはすぐに PAD を疑うべきですか?
触れないことは重要な所見ですが、それだけで即 PAD と断定はしません。冷え、浮腫、体位、検者の手技、解剖学的個人差でも触れにくくなります。ただし、歩行時痛、冷感、創傷、色調変化、左右差などが重なる場合は、追加評価へ進む価値が高くなります。
次の一手
動脈触診は、単独で完結する評価ではなく、全身循環や下肢循環の異常を拾って次へつなぐ入口です。今回の内容を実務で使うなら、まずは「橈骨・膝窩・後脛骨・足背を左右で比較する」型を統一しておくと迷いが減ります。
続けて評価全体を整理したい方は、評価ハブから他の身体診察や機能評価もまとめて確認してみてください。臨床の進め方や働き方も含めて見直したい方は、PT キャリアガイドもあわせてどうぞ。
参考文献
- Gornik HL, Aronow HD, Goodney PP, et al. 2024 ACC/AHA/AACVPR/APMA/ABC/SCAI/SVM/SVN/SVS/SIR/VESS Guideline for the Management of Lower Extremity Peripheral Artery Disease. Circulation. 2024;149:e1313-e1410. DOI: 10.1161/CIR.0000000000001251
- Zimmerman B, Williams D. Peripheral Pulse. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2025 Jan-. PubMed: 31194332
- Deakin CD, Low JL. Accuracy of the advanced trauma life support guidelines for predicting systolic blood pressure using carotid, femoral, and radial pulses: observational study. BMJ. 2000;321(7262):673-674. DOI: 10.1136/bmj.321.7262.673
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


