努力呼吸とは?呼吸補助筋の見方・原因・危険なサインを解説

臨床手技・プロトコル
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努力呼吸とは?|通常以上の呼吸筋を動員して行う呼吸

努力呼吸とは、呼吸を維持するために、安静時より多くの呼吸筋を動員して行う呼吸です。

日本救急医学会では、安静時呼吸では主に横隔膜や外肋間筋などが働くのに対し、努力呼吸では吸気時に胸鎖乳突筋などの補助呼吸筋を用い、呼気時には内肋間筋や腹筋も活動すると説明されています。

ベッドサイドでは、単に「呼吸が速い」「苦しそう」といった印象だけで判断せず、

  • 吸気時に頸部の筋活動が目立っていないか
  • 肩が呼吸に合わせて大きく上下していないか
  • 吸気時に胸壁の引き込みがないか
  • 呼気時に腹筋を強く収縮させていないか
  • 胸郭と腹部の動きが崩れていないか

など、「呼吸を維持するために、普段より何を追加して使っているか」を観察することが重要です。

呼吸数・胸郭運動・SpO2などを含めた呼吸評価全体は、呼吸評価の基本|ベッドサイド観察と記録の型で整理しています。

正常な安静時呼吸と努力呼吸の違い

努力呼吸を見分けるポイントは、安静時よりも追加の筋活動や大きな胸壁運動を必要としているかどうかです。

正常な安静時呼吸と努力呼吸の違い
観察項目 安静時呼吸 努力呼吸
吸気 横隔膜などが主体となり、頸部筋活動は目立ちにくい 胸鎖乳突筋など頸部・上胸郭周囲の筋活動が目立つことがある
呼気 通常は主に受動的 腹筋などを使った能動的な呼気を認めることがある
肩・頸部 大きな動きは目立たない 肩の挙上や頸部筋の強い収縮がみられることがある
胸壁 比較的滑らかに動く 陥没や胸腹部非同期などを伴うことがある

ただし、運動中には健常者でも換気量を増やすために呼吸筋活動が増えます。

そのため、呼吸補助筋を使っているだけで直ちに異常と判断するのではなく、安静時に目立っているか、運動負荷に対して過剰ではないか、前回より増えていないかを確認します。

努力呼吸ではどこを見る?|呼吸補助筋と腹筋の観察

努力呼吸では、吸気時の頸部・肩周囲と、呼気時の腹壁活動を中心に観察します。

努力呼吸で観察したい主な部位と所見
部位 主な観察所見
胸鎖乳突筋 吸気に合わせて頸部前外側の筋収縮が目立つ
頸部・上位胸郭周囲 吸気に伴う筋活動や胸郭挙上が目立つ
肩甲帯 肩を挙上したり、上肢を固定して呼吸を補助したりすることがある
腹壁 呼気時に強く収縮し、能動的な呼気を行うことがある

患者によっては、両上肢をベッドや膝などに固定し、肩甲帯を安定させながら呼吸する姿勢をとることもあります。

重要なのは筋名を当てることではなく、通常の呼吸だけでは換気を維持しにくくなり、追加の筋活動を必要としているかを見ることです。

吸気と呼気のどちらで努力が強いかを見る

努力呼吸では、「吸うときに頑張っているのか」「吐くときにも強い筋活動が必要なのか」を分けると、呼吸負荷を整理しやすくなります。

吸気時に目立つ所見

  • 胸鎖乳突筋など頸部筋の強い活動
  • 肩の挙上
  • 胸骨上窩・鎖骨上窩・肋間などの陥没
  • 鼻翼の動き
  • 上肢を固定して呼吸する姿勢

吸気負荷が高い場合には、胸郭を広げて吸気を維持しようとして補助筋活動が増えることがあります。

呼気時に目立つ所見

  • 腹壁の強い収縮
  • 呼気時間の延長
  • 口すぼめ呼吸
  • 呼気性喘鳴

とくに気道抵抗が増えて息を吐きにくい病態では、安静時でも呼気筋を積極的に使うことがあります。

「努力呼吸=吸気補助筋使用」とだけ覚えず、呼気時の筋活動も観察することがポイントです。

努力呼吸の原因|なぜ呼吸仕事量が増えているかを考える

努力呼吸は病名ではなく、呼吸を維持するために通常以上の筋活動を必要としていることを示す身体所見です。

原因は1つではありません。気道抵抗の増加、肺や胸郭系への負荷、換気需要の増加、呼吸筋機能低下など、さまざまな背景で努力呼吸が生じます。

努力呼吸を認める主な背景
背景 代表例 併せて見たい所見
気道抵抗の増加 喘息、COPD、上気道狭窄など 喘鳴、呼気延長、吸気性喘鳴、空気の入り方
肺・胸郭系への負荷増大 肺炎、肺水腫、間質性肺疾患、胸水など 頻呼吸、呼吸音、SpO2、胸郭運動
換気需要の増加 低酸素血症、発熱、代謝性アシドーシスなど 呼吸数、呼吸の深さ、全身状態
呼吸筋機能低下 神経筋疾患、横隔膜機能低下など 浅い呼吸、胸腹部非同期、臥位での変化
運動負荷 歩行、階段、運動療法など 負荷量との釣り合い、休息後の回復

つまり努力呼吸を見つけたら、「努力呼吸があるから○○病」と考えるのではなく、なぜ呼吸仕事量が増えているのかを探します。

努力呼吸と呼吸困難は同じ?|客観所見と自覚症状を分ける

努力呼吸と呼吸困難は同じものではありません。

呼吸困難は、「息苦しい」「息が吸えない」など患者本人が感じる主観的な症状です。

一方、努力呼吸では、追加の呼吸筋活動や胸壁運動を視診などから観察できます。

努力呼吸と呼吸困難の違い
項目 努力呼吸 呼吸困難
中心 呼吸筋活動・胸壁運動 患者が感じる息苦しさ
主な確認方法 視診など 問診・自覚症状
意思疎通が難しい場合 観察できることがある 評価が難しい場合がある

したがって、意思疎通が難しい患者でも、頸部筋活動、肩の上下、胸壁の引き込み、胸腹部非同期などから呼吸負荷の増大を捉えられることがあります。

「息苦しいと言っていない=呼吸負荷が低い」とは判断しないことが重要です。

努力呼吸・陥没呼吸・奇異性呼吸の違い

陥没呼吸や奇異性呼吸は、努力呼吸と同時にみられることがありますが、同じ意味ではありません。

努力呼吸・陥没呼吸・奇異性呼吸の違い
所見 何を見るか
努力呼吸 通常以上の呼吸筋活動を必要としているか
陥没呼吸 吸気時に胸骨上・鎖骨上・肋間などが内側へ引き込まれるか
奇異性呼吸 胸郭・腹部・局所胸壁の動く方向やタイミングが通常と異なるか

たとえば強い吸気努力によって胸腔内陰圧が大きくなると、胸壁の一部が内側へ引き込まれ、陥没呼吸が出現することがあります。

また、呼吸筋機能低下や大きな呼吸負荷に伴って胸郭と腹部の協調性が崩れると、胸腹部非同期や奇異性運動がみられることがあります。

それぞれの詳しい観察方法は、陥没呼吸とは?|見る場所・原因と努力呼吸の観察ポイント奇異性呼吸とは?|胸腹部の動き・原因とシーソー呼吸の見方で整理しています。

SpO2が正常でも努力呼吸が強ければ安心とは限らない

努力呼吸が強い患者では、SpO2が保たれていることだけで「呼吸状態に問題がない」と判断できません。

SpO2は主に酸素化をみる指標であり、患者がどの程度の呼吸努力によって換気を維持しているかを直接示すものではありません。

そのため、SpO2が保たれていても、

  • 胸鎖乳突筋などの筋活動が著明
  • 肩を大きく上下させている
  • 陥没呼吸がある
  • 頻呼吸が持続している
  • 会話が短文で途切れる
  • 胸腹部非同期が出現している

などがあれば、呼吸仕事量が高まっている可能性があります。

酸素化と呼吸仕事量は分けて評価することが重要です。

努力呼吸を見つけたら何を確認する?

努力呼吸を見つけたら、「補助筋を使っている」で終わらせず、体位・呼吸相・筋活動・胸壁運動・全身状態・経時変化まで確認します。

努力呼吸の見方。体位と場面、吸気・呼気の呼吸相、頸部筋・肩・腹筋や胸壁運動、SpO2・会話・意識など全身状態を4段階で確認する流れ
努力呼吸は、体位・場面 → 呼吸相 → 使用筋・胸壁 → 全身状態の順で確認します。呼吸数だけでなく、「どのように呼吸しているか」を観察することが重要です。
  1. 体位:安静臥位、座位、運動中のどこで出現したか
  2. 呼吸相:吸気・呼気のどちらで努力が強いか
  3. 筋活動:頸部、肩甲帯、腹壁などが目立って活動しているか
  4. 胸壁運動:陥没や胸腹部非同期を伴うか
  5. 呼吸数・深さ:頻呼吸、浅い呼吸、呼気延長などがないか
  6. 呼吸音:喘鳴、吸気性喘鳴、cracklesなどを伴うか
  7. 全身状態:SpO2、HR、血圧、会話、意識状態がどうか
  8. 経時変化:新規出現か、以前より増悪しているか

とくに、安静時にはなかった努力呼吸が新たに出現した場合や、以前より明らかに強くなっている場合は重要な変化です。

努力呼吸で注意したい危険なサイン

努力呼吸に加えて、換気や全身状態の悪化を示す所見を伴う場合は、運動や通常の評価よりも原因確認と迅速な対応を優先します。

とくに注意したいのは次のような状況です。

  • 安静時でも著明な努力呼吸がある
  • 会話を続けられない
  • 空気の出入りが著しく弱い
  • 吸気性喘鳴など上気道狭窄を疑う所見がある
  • SpO2が低下または持続的に悪化している
  • チアノーゼを認める
  • 意識状態が低下している
  • 一回換気が小さくなったように見える
  • 呼吸が不規則になっている
  • 胸腹部非同期や奇異性運動が目立ってきた

呼吸不全では、呼吸補助筋使用、頻呼吸、頻脈、発汗、意識状態変化などがみられることがあります。

また、「努力呼吸が弱くなった=改善」とは限りません。

それまで強い努力呼吸が続いていた患者で、補助筋活動が急に目立たなくなった一方、呼吸が浅くなる、意識状態が悪化する、空気の出入りが弱くなるなどの変化があれば、呼吸努力を十分に維持できなくなっている可能性も含めて再評価します。

リハ中に努力呼吸が強くなったら?

運動・離床によって努力呼吸が明らかに増えた場合は、そのまま負荷を進めず、いったん負荷を下げて回復過程を確認します。

運動時には換気需要が増えるため、呼吸数や呼吸筋活動が増えること自体は生理的です。

重要なのは、

  • 現在の運動強度に見合った反応か
  • 急激に努力呼吸が強くなっていないか
  • 休息によって軽減するか
  • SpO2・HRなどが回復するか
  • 会話・意識状態が保たれているか
  • 前回と比べ、同じ負荷で悪化していないか

を確認することです。

休息しても強い努力呼吸が持続する、安静時にも新たに出現する、意識状態やバイタルサインの変化を伴う場合には、運動再開よりも原因評価と医師・看護師への共有を優先します。

努力呼吸は「あり・なし」ではなく具体的に記録する

記録では「努力呼吸あり」だけで終わらせず、どの条件で、どの呼吸相に、どのような筋活動や胸壁運動がみられたかを残します。

記録したいのは、次のような項目です。

  • 体位・活動条件
  • 呼吸数
  • 吸気・呼気のどちらで目立つか
  • 頸部・肩甲帯・腹壁などの筋活動
  • 肩の挙上
  • 陥没呼吸・胸腹部非同期の有無
  • SpO2・HR
  • 会話・意識状態
  • 休息や体位変更後の変化

たとえば、

「安静座位、RR 28回/分。吸気時に胸鎖乳突筋活動と肩挙上が目立つ。会話は短文で途切れる。SpO2 94%。5分休息後も補助筋使用が持続」

のように記録すると、「努力呼吸あり」とするだけより、状態と経時変化を共有しやすくなります。

努力呼吸で避けたい4つの思い込み

努力呼吸で避けたい判断
思い込み 実際の考え方
呼吸が速い=努力呼吸 呼吸数だけでなく、追加の筋活動や胸壁運動を確認する
苦しいと言わない=努力呼吸なし 意思疎通が難しくても視診から呼吸負荷を捉えられることがある
SpO2正常=問題なし 酸素化と呼吸仕事量・換気は分けて評価する
努力呼吸が減った=改善 全身状態が悪化していないかを同時に確認する

努力呼吸では、「どれだけ苦しそうか」という印象ではなく、何を使って呼吸を維持しているかと、その変化を具体的に観察することが重要です。

努力呼吸のよくある質問

努力呼吸とは簡単にいうと何ですか?

呼吸を維持するために、安静時より多くの呼吸筋を動員している状態です。代表的には、吸気時の胸鎖乳突筋などの活動や、呼気時の腹筋活動が目立つことがあります。

努力呼吸と頻呼吸は同じですか?

同じではありません。頻呼吸は呼吸数が増えている状態で、努力呼吸は通常以上の呼吸筋活動を必要としている状態です。両者は同時にみられることがありますが、分けて観察します。

努力呼吸と呼吸困難は同じですか?

呼吸困難は患者本人が感じる息苦しさという主観症状です。努力呼吸では、追加の呼吸筋活動や胸壁運動などを観察できます。

どの筋を使うと努力呼吸ですか?

吸気では胸鎖乳突筋など頸部・上胸郭周囲の筋活動、呼気では腹筋などの活動が目立つことがあります。ただし、特定の筋名だけで判断するのではなく、安静時より追加の呼吸筋活動を必要としているかを確認します。

運動中に呼吸補助筋を使ったら異常ですか?

必ずしも異常ではありません。運動時には換気量を増やすため呼吸筋活動も増えます。負荷量に対して過剰か、休息後に回復するか、前回より悪化していないかを確認します。

努力呼吸と陥没呼吸は同じですか?

同じではありません。努力呼吸は通常以上の呼吸筋活動を必要としている状態で、陥没呼吸は吸気時に胸骨上・鎖骨上・肋間などが内側へ引き込まれる所見です。強い吸気努力に伴って陥没呼吸が出現することがあります。

SpO2が正常なら努力呼吸があっても大丈夫ですか?

SpO2だけでは判断できません。SpO2は酸素化をみる指標であり、呼吸仕事量や換気状態を直接示すものではありません。呼吸数、筋活動、胸壁運動、会話、意識状態なども合わせて評価します。

まとめ|努力呼吸は「何を使って呼吸しているか」を見る

努力呼吸とは、呼吸を維持するために安静時より多くの呼吸筋を動員している状態です。

「呼吸が速い」「苦しそう」という印象だけでなく、吸気時の頸部筋活動、肩の挙上、呼気時の腹壁収縮、陥没呼吸、胸腹部非同期などを具体的に観察することが重要です。

また、努力呼吸と呼吸困難は同じではありません。意思疎通が難しい患者でも、呼吸筋活動や胸壁運動から呼吸負荷の増大を捉えられることがあります。

SpO2が保たれていても、強い努力によって呼吸を維持している可能性があるため、酸素化と呼吸仕事量を分けて考えます。

臨床では、体位 → 呼吸相 → 筋活動 → 胸壁運動 → 呼吸数・深さ → 呼吸音 → SpO2・会話・意識 → 前回からの変化の順で整理すると評価しやすくなります。

そして、強い努力呼吸が続いていた患者で呼吸努力が急に弱くなった場合には、改善と決めつけず、呼吸の深さ、空気の出入り、意識状態など全身状態をあらためて確認します。

参考文献

  1. 日本救急医学会. 努力呼吸. 医学用語解説集.
  2. Patel BK, Rivera MP. Overview of Respiratory Failure. MSD Manual Professional Edition. Updated June 2026.
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