低栄養の原因( etiology )は 3 類型で置くと、初期対応がブレません
低栄養の介入がうまくいかない原因の 1 つは、「原因が違うのに同じ打ち手で回してしまう」ことです。病因( etiology )を 飢餓(摂取不足)/侵襲・炎症(ストレス)/悪液質( cachexia ) の 3 類型で置くと、栄養・運動・疾患管理の比率が決まり、初期対応の優先順位がそろいます。
本記事は、「 3 類型の置き方 → 1 分トリアージ → GLIM へのつなぎ方 → 再評価の 3 点固定」までを、PT が現場で回しやすい順番で整理した実務ガイドです。分類を暗記するためではなく、最初の 1 手をそろえるために使ってください。
結論: etiology は「飢餓/炎症/悪液質」の 3 つでまず置く
etiology の実務は、「正確な名称を当てること」より、初動の優先順位をそろえることです。まずは 3 類型のどれが主役かを置き、摂取・体重推移・機能(筋力や移動能力)を同じ指標で定点観測します。
採血や筋量データが十分にそろわない場面でも、まずは 摂取( % )+体重(週次)+機能(週次) の「 3 点固定」を作ると、チームの判断がブレにくくなります。併存は多いため、最初から 1 つに決め切るより、主役を置いて比率調整していく発想が実践的です。
最短の見分け方: 1 分トリアージ( 3 質問)
迷ったら、まず次の 3 質問で “主役” を置きます。ここで主役が定まると、介入の比率(疾患管理・栄養・運動)が決まり、病棟カンファでの説明も通りやすくなります。
| 質問 | はい のときに疑う主役 | 初動でやること |
|---|---|---|
| 摂取不足が明確? | 飢餓(摂取不足) | 摂取( % )を可視化し、「食べられない理由」を分解して対策に落とす |
| 侵襲・炎症が “いま” 強い? | 侵襲・炎症(ストレス) | 安全管理を優先し、負荷と栄養を段階的に調整する |
| 慢性疾患+持続炎症で機能が落ちている? | 悪液質( cachexia ) | 疾患フェーズ共有 → 低負荷運動併走 → 栄養をセットで設計する |
ポイントは、「どれか 1 つに決め切ること」ではなく、主役を置いて最初の 1 手をそろえることです。炎症と摂取不足、慢性疾患とサルコペニアなどは重なりやすいため、再評価で比率を調整していきます。
早見表: 3 類型の手がかりと「最初に外せないこと」
下の表は、“原因の暗記” ではなく、初期対応の型に直結する観点(手がかり/判定のキモ/初動)でそろえています。現場では「何が主役か」を 30 秒で共有できる形にしておくと、介入が早くなります。
| 類型 | 手がかり | 判定のキモ | 最初に外せない初動 | 再評価の軸 |
|---|---|---|---|---|
| 飢餓(摂取不足) | 嚥下、食形態、介助量増、口腔・消化器症状、環境要因などで摂取低下 | 「食べられない理由」が説明できる | 摂取( % )の見える化 → 形態・回数・補助の調整 | 摂取( % )+体重(週次)+機能 |
| 侵襲・炎症(ストレス) | 手術、感染、急性増悪などで体調が揺れる | 炎症・ストレスが “いま” 強いか | 安全管理 → 負荷調整 → 段階刺激(無理に進めない) | 症状・バイタル+機能低下の速度 |
| 悪液質( cachexia ) | がん、心不全、 COPD 、 CKD など慢性疾患+持続する炎症 | 栄養単独で反応が鈍い/機能低下が前景 | 疾患フェーズ共有 → 低負荷運動併走 → 栄養をセットで設計 | 増悪・治療イベントと機能の連動 |
GLIM に乗せる最短手順: etiology は “病因基準” を回す実務パート
GLIM は、「表現型基準(体重減少、低 BMI 、筋量低下など)」と「病因基準(摂取低下/炎症)」の組み合わせで整理します。本記事の etiology 3 類型は、病因基準を臨床で回しやすくするための実務整理です。
つまり、スクリーニング陽性後に GLIM へ進むとき、本記事の役割は「病因をどう置くか」をそろえることです。表現型の確定や重症度分類そのものは GLIM 総論で扱い、本記事では 初動の比率を決めるための見立て に集中します。
| ステップ | やること | 詰まりどころ | 記録の型 |
|---|---|---|---|
| 1 | 低栄養リスクを抽出(スクリーニング) | 「食べられているつもり」で摂取が落ちている | 摂取( % )と理由を 1 行で残す |
| 2 | 表現型(体重推移・体格・筋量/機能)を確認 | 浮腫があると体重の解釈が揺れる | 体重は週次、機能は同じ指標で定点観測 |
| 3 | 病因( etiology )を置く(飢餓/炎症/悪液質) | 炎症と摂取不足が同時にある | 主役を置いて、介入の比率を明文化する |
| 4 | 介入 → 再評価(頻度と目標を固定) | 体重だけで良否判定する | 摂取・体重・機能の 3 点固定で週次レビュー |
運用で迷わない「 3 点固定」: PT がそろえる観察軸
etiology の主役を置いても、再評価の軸がバラバラだと介入が迷子になります。まずは 摂取( % )・体重(週次)・機能(週次) の 3 点固定を作り、チームで同じ指標を見て判断できるようにします。
特に PT は、機能低下が体重変化より先に出る場面を拾いやすい職種です。栄養だけ、運動だけに分けず、「食べられるか」「保てているか」「動けているか」を同じ週次レビューでそろえると、再評価が実装しやすくなります。
| 項目 | 見るポイント | おすすめ頻度 | コツ |
|---|---|---|---|
| 摂取 | 摂取量( % )、食形態、介助量、補助食品の有無 | 毎日〜週次 | 「理由 → 対策 → 反応」を 1 セットで残す |
| 体重推移 | 週次の変化(浮腫があるときは解釈を保留) | 週次 | 単発ではなく “推移” で見る |
| 機能 | 歩行や立ち上がりなど、同じ指標で定点観測 | 週次〜隔週 | 体重より先に落ちることがある |
判定記録シート( A4 PDF )
etiology の主役、 3 点固定、再評価メモを 1 枚で残したいときは、以下の記録シートが使いやすいです。カンファ前の整理や週次レビューの共通様式として活用できます。
プレビューを開く
ケースでイメージ:主役が変わると「最初に外せないこと」が変わる
同じ “やせ” に見えても、主役が違うと初動が変わります。ここを押さえると、介入の迷いが減り、チーム内で「なぜこの順番なのか」を共有しやすくなります。
| 主役 | よくある状況 | 初動の焦点 | 再評価の目安 |
|---|---|---|---|
| 飢餓(摂取不足) | 食形態ミスマッチ/介助負担増で摂取低下 | 摂取( % )の可視化 → 形態・回数・補助の調整 | 1 週で摂取と機能の反応を見る |
| 侵襲・炎症 | 感染・増悪・術後で体調が揺れる | 安全管理 → 負荷調整 → 段階刺激 | 日単位で体調と活動量を微調整 |
| 悪液質 | 慢性疾患で炎症が持続し、機能低下が前景 | 疾患フェーズ共有 → 低負荷運動併走 → 栄養をセットで設計 | 増悪・治療イベントと機能の連動を追う |
現場の詰まりどころ:ここを外すと改善が遠回りになります
etiology を置けても、運用で詰まりやすい “落とし穴” があります。詰まったら、まず次の 3 つから戻してください。
よくある失敗
原因分類そのものより、運用のズレで改善が止まることが多いです。先に落とし穴を見ておくと、カンファでの修正が早くなります。
| よくある失敗 | なぜ起きる? | 対策(実装) | 記録ポイント |
|---|---|---|---|
| 体重だけで判断する | 浮腫・炎症・摂取で体重が揺れる | 摂取( % )+体重(週次)+機能(週次)を固定 | 週次レビューを “ 3 点固定” で残す |
| 摂取不足の “理由” を分解しない | どこで詰まっているか不明なまま対策が空回り | 理由を 1 行で分解し、対策を 1 つだけ決めて回す | 「理由 → 対策 → 反応」をセットで残す |
| 炎症が強いのに負荷を上げ過ぎる | 安全管理より “進めること” を優先してしまう | 症状・バイタルとセットで負荷を段階調整する | 中止基準と “その日のフェーズ” を明文化 |
| Alb だけで栄養を語る | 炎症や水分バランスの影響が大きい | 摂取・体重推移・機能をセットで判断する | 行動と結果の因果を短文で残す |
回避の手順
止まったときは、情報を増やすよりも順番を戻す方が早いです。主役の再設定 → 3 点固定 → 期限付きの再評価、の順に立て直すと運用しやすくなります。
| 順番 | やること | 記録に残す一言 |
|---|---|---|
| 1 | 主役を再設定する(飢餓/炎症/悪液質) | 「主役は ○○、初動は ○○」 |
| 2 | 摂取・体重・機能の 3 点固定をそろえる | 「摂取 ○%/体重推移 ○/機能 ○」 |
| 3 | 1 〜 2 週の再評価期限を決める | 「次回は ○ 日後に再判定」 |
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. 3 類型は “どれか 1 つ” に決めないといけませんか?
A. 決め切る必要はありません。臨床では併存が多いため、まずは “主役” を置いて初動の優先順位をそろえ、摂取・体重推移・機能の 3 点固定で再評価しながら比率調整する方が回ります。
Q2. etiology の 3 類型は、 GLIM とどうつながりますか?
A. 本記事の 3 類型は、 GLIM の「病因基準(摂取低下/炎症)」を臨床で回しやすくするための実務整理です。 GLIM で確定診断・重症度を考える前段として、「病因をどう置くか」をそろえる役割があります。
Q3. Alb や CRP だけで主役を置いてもいいですか?
A. それだけで決めるのは危険です。 Alb は炎症や体液バランスの影響を受けやすく、 CRP も慢性炎症では強く出ないことがあります。摂取、体重推移、機能、疾患イベントを合わせて解釈する方が安全です。
Q4. 飢餓(摂取不足)が主役のとき、最初に直すのは何ですか?
A. 摂取( % )の見える化と、「食べられない理由」の分解です。食形態、回数、介助、悪心、便秘、口腔、環境などを 1 行で整理すると、対策が具体化しやすくなります。
Q5. 侵襲・炎症が強いときは、 PT の負荷はどう考えればいいですか?
A. 一律に休止するのではなく、安全管理を優先しつつ、その日のフェーズに合わせて段階調整します。症状・バイタルとセットで「何をどこまで行うか」を明文化しておくと、負荷設定がぶれにくくなります。
次の一手
このテーマは、「全体像 → 診断フロー → etiology の置き方」の順で固めると、実務に落とし込みやすくなります。続けて確認するなら、次の 2 本がつながりやすいです。
参考文献
- Cederholm T, et al. GLIM criteria for the diagnosis of malnutrition – A consensus report. Clinical Nutrition. 2019;38(1):1-9. doi: 10.1016/j.clnu.2018.08.002 / PubMed: 30181091
- Jensen GL, et al. Adult starvation and disease-related malnutrition: A proposal for etiology-based diagnosis. JPEN J Parenter Enteral Nutr. 2010;34(2):156-159. doi: 10.1177/0148607110361910 / PubMed: 20375427
- White JV, et al. Consensus statement: characteristics recommended for the identification and documentation of adult malnutrition (undernutrition). J Acad Nutr Diet. 2012;112(5):730-738. doi: 10.1016/j.jand.2012.03.012 / PubMed: 22535923
- Evans DC, et al. The Use of Visceral Proteins as Nutrition Markers: An ASPEN Position Paper. Nutr Clin Pract. 2021. doi: 10.1002/ncp.10588 / PubMed: 33125793
- Fearon K, et al. Definition and classification of cancer cachexia: an international consensus. The Lancet Oncology. 2011;12(5):489-495. doi: 10.1016/S1470-2045(10)70218-7 / PubMed: 21296615
- Cruz-Jentoft AJ, et al. Sarcopenia: revised European consensus on definition and diagnosis ( EWGSOP2 ). Age and Ageing. 2019;48(1):16-31. doi: 10.1093/ageing/afy169 / PubMed: 30312372
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


