大腿骨近位部骨折のリハ栄養は「リハ+強化栄養ケア」で考える
大腿骨近位部骨折では、手術後の疼痛や食欲低下、炎症、活動量低下などが重なり、十分に食べられないまま身体機能の回復を目指す状況が起こります。そのため、リハビリテーションと栄養管理を別々に考えず、同時に進めることが重要です。
2026年版リハビリテーション栄養診療ガイドラインでは、リハビリテーションを行う大腿骨近位部骨折患者に対する強化栄養ケアが「強く推奨」されました。推奨強度は1、エビデンスの確実性はCです。
この記事では、2026年版ガイドラインを軸に、最初に何を確認するか、ONSをどう位置づけるか、PT・OTが何を観察・共有し、身体機能やADLとともにどう再評価するかを整理します。
先に結論:大腿骨近位部骨折では「低栄養と診断されてから栄養を考える」のではなく、リハ開始と並行して摂取状況・体重変化・BMI・筋量や筋力・食べられない原因を確認し、必要な栄養介入につなげます。リハ側は、栄養介入の処方そのものよりも、食べられているか、動けているか、回復しているかを継続してチームへ返すことが重要です。
2026年版ガイドラインでは強化栄養ケアを強く推奨
2026年版リハビリテーション栄養診療ガイドラインでは、大腿骨近位部骨折が独立した領域として扱われています。CQ3では、「リハビリテーションを行う大腿骨近位部骨折患者に強化栄養ケアを行うべきか」が検討されています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | リハビリテーションを行う大腿骨近位部骨折患者 |
| 介入 | 強化栄養ケア |
| 推奨 | 強く推奨 |
| 推奨強度 | 1 |
| エビデンスの確実性 | C |
| 主なアウトカム | ADL、身体機能、握力、BMI、在院日数、合併症など |
※エビデンスの確実性Cであることと、「推奨が弱い」ことは同じ意味ではありません。2026年版では利益・害・患者価値・実行可能性などを含めて検討され、強い推奨とされています。
ガイドラインの統合解析では、強化栄養ケアによってADL、握力、BMIの改善、在院日数の短縮、合併症の減少が示されています。死亡についても改善傾向が報告されていますが、エビデンスの確実性には限界があるため、個々の患者状態を踏まえた適用が必要です。
2020年版のリハビリテーション栄養診療ガイドラインでは、大腿骨近位部骨折を含む対象への強化栄養ケアは「弱く推奨」されていました。2026年版で大腿骨近位部骨折について強い推奨へ更新されたことは、今回の記事更新で最も重要なポイントです。
なぜ大腿骨近位部骨折で栄養管理が重要なのか
大腿骨近位部骨折では、骨折そのものだけでなく、手術侵襲、炎症、疼痛、不動、食欲低下などが同時に起こります。高齢者ではもともとの低栄養やサルコペニア、フレイルが併存していることもあり、入院中に筋量や身体機能がさらに低下する可能性があります。
一方で、術後は離床、立ち上がり、歩行、ADL練習などを進めます。つまり、身体には回復のためのエネルギーや栄養が必要なのに、摂取量は低下しやすいというミスマッチが起こりやすい時期です。
そのため、リハビリテーションで運動量だけを増やすのではなく、栄養面も同時に確認します。重要なのは「運動するか、栄養を入れるか」の二択ではなく、動くための栄養と、栄養を身体機能につなげるリハを両輪として考えることです。
最初に確認するのは摂取量・体重変化・筋量/筋力・食べられない原因
術後早期にすべての栄養評価をPT・OTだけで完結させる必要はありません。まずは、「栄養リスクがありそうか」「十分に食べられているか」「身体機能の回復を妨げる要因がないか」を捉え、多職種で共有できる状態にします。
| 確認項目 | 見るポイント | PT・OTが共有しやすい情報 |
|---|---|---|
| 食事摂取量 | 主食・主菜・副菜、補食、ONSなどが実際にどの程度摂取できているか | 「食事○割」だけでなく、残りやすい食品や時間帯も共有する |
| 体重変化・BMI | 現在値だけでなく、受傷前からの意図しない体重減少や経過 | 浮腫や脱水など、体重を変動させる要因も併記する |
| 筋量・筋力 | 握力、下腿周囲長など、患者状態に応じて評価可能な指標 | 疼痛、術側荷重、認知機能など測定条件を残す |
| 身体機能・ADL | 起き上がり、立ち上がり、移乗、歩行、ADLの回復経過 | 前回から改善しているか、停滞しているかを共有する |
| 食べられない原因 | 疼痛、悪心、便秘、せん妄、眠気、口腔、嚥下、食形態、嗜好など | 「食欲がない」で終わらせず、介入可能な原因を具体化する |
| 疾患・治療の影響 | 炎症、感染、心不全、腎機能、消化器症状など | 栄養量や運動負荷の調整が必要な状態を多職種へ共有する |
※BMIや握力など単一の項目だけで低栄養を診断するのではなく、栄養スクリーニング・栄養評価と組み合わせて判断します。
栄養リスクを体系的に確認する方法は、リハ栄養スクリーニングの標準手順で整理しています。
強化栄養ケアは「ONSを出すこと」だけではない
強化栄養ケア=ONSだけと考えないことが重要です。リハビリテーション栄養のガイドラインで扱われる強化栄養ケアは、通常の栄養管理に加えて、患者の状態や摂取状況に応じた追加の栄養的介入を行う考え方です。
実際の介入には、例えば以下が含まれます。
- 食事量・栄養状態の評価
- 食事内容や食形態の調整
- エネルギー・たんぱく質を確保しやすくする食事の工夫
- 補食や栄養補助食品の活用
- ONS(oral nutritional supplements:経口栄養補助食品)の検討
- 管理栄養士による栄養評価・栄養指導
- 口腔・嚥下の問題への対応
- 必要に応じた経腸栄養・静脈栄養の検討
したがって、「食事→補食→ONS」の順番を全患者に機械的に当てはめるものではありません。患者の栄養状態、経口摂取の可否、疾患、嚥下機能、本人の希望などを踏まえて、医師・管理栄養士・看護師・ST・PT・OTなどで介入を組み立てます。
ONSは「食事5割未満」だけを開始基準にしない
ONSは、大腿骨近位部骨折の栄養管理で重要な選択肢です。一方、「食事摂取量が5割未満になったらONSを開始する」という単一のカットオフを、すべての患者に共通する標準基準として扱うのは適切ではありません。
ESPENの高齢者栄養ガイドラインでは、高齢の股関節骨折患者に術後ONSを提供することが推奨されています。標準的なONSによってエネルギー・栄養素摂取量が増え、術後合併症のリスク低下が期待されることが根拠です。
2023年のRCTを対象としたシステマティックレビュー・メタ解析でも、ONSは感染性合併症、褥瘡を含む合併症、在院日数などの改善と関連していました。一方、死亡率については統計学的に明確な差が示されていません。
ONSを見るときのポイント
「処方されているか」だけでなく、実際にどの程度摂取できているかを確認します。味・量・温度・提供時間、悪心、便秘、満腹感、嚥下、認知機能などが摂取継続を妨げる場合があります。
また、「高たんぱくであれば多いほどよい」と単純化することも避けます。必要量や製品の選択は、エネルギー摂取、腎機能などの併存疾患、食事からの摂取状況を含め、医師・管理栄養士と個別に検討します。
PT・OTは「食べられているか」と「回復しているか」をつなぐ
PT・OTが栄養量やONSを単独で処方するわけではありません。一方で、リハ場面では、摂取状況と身体機能の変化を同じ患者で繰り返し観察できるという強みがあります。
| 観察 | 確認すること | 共有の例 |
|---|---|---|
| 摂取状況 | 食事・補食・ONSが実際に摂取できているか | 「主食は摂取できるが主菜が残る」 |
| 疲労・活動耐容能 | 離床・歩行後の疲労、翌日までの影響 | 「歩行量増加後から食事時の疲労が強い」 |
| 筋力・身体機能 | 握力、起立、移乗、歩行などの推移 | 「疼痛は改善したが起立能力が停滞」 |
| ADL | 食事、更衣、排泄、移動などの回復 | 「歩行は改善したがADL拡大が進まない」 |
| 食べられない原因 | 疼痛、便秘、悪心、姿勢、口腔・嚥下など | 「昼食時は疼痛が強く摂取量が低下」 |
特に重要なのは、食事摂取量の割合だけでリハ負荷を自動的に決めないことです。摂取不足は負荷設定を考える材料の1つですが、疼痛、循環・呼吸状態、炎症、術式、荷重条件、疲労、身体機能の変化などを合わせて判断します。
多職種へ共有したいのは「原因」と「変化」
栄養について「食事が進んでいません」と伝えるだけでは、次の介入につながりにくいことがあります。共有するときは、何が起きているか、なぜ起きていそうか、身体機能がどう変化しているかまで整理すると実務に結びつきます。
共有例
「ここ3日ほど主菜の摂取が少なく、ONSも半量程度です。悪心はありませんが便秘と食後の腹部膨満感があります。疼痛は改善している一方、立ち上がり回数と歩行距離の伸びが停滞しています。栄養摂取と便秘への対応を一度見直したいです。」
このように共有すると、管理栄養士による食事・ONS調整、医師による疾患・薬剤の確認、看護師による排便・摂取状況の確認など、次の行動につながりやすくなります。
再評価は摂取状況・身体機能・ADLを同じ方向で追う
リハ栄養では、一度スクリーニングして終わりではありません。栄養介入を行った後に、実際の摂取状況と身体機能・ADLがどう変化したかを確認します。
再評価するタイミングを「必ず週1回」「必ず月1回」と一律に固定する必要はありません。急性期、回復期、退院前などの時期、患者状態の変化、施設の運用に合わせて設定します。
| 領域 | 再評価すること | 次の判断 |
|---|---|---|
| 摂取 | 食事・補食・ONSの実摂取量、食べられない原因 | 現在の栄養介入を継続・調整するか |
| 栄養状態 | 体重変化、BMI、必要に応じた栄養評価 | 栄養目標や介入内容を見直すか |
| 筋・身体機能 | 筋力、起立、移乗、歩行、活動耐容能 | リハ負荷を進める・維持する・修正するか |
| ADL | 食事、更衣、排泄、移動などの変化 | 退院目標とのズレがないか |
| 原因 | 疼痛、便秘、悪心、せん妄、嚥下など | 未解決の阻害因子へ追加介入するか |
ポイントは、栄養指標だけ、あるいは歩行距離だけを見るのではなく、「摂取できるようになったか → 身体機能が回復しているか → ADLにつながっているか」を一連の流れで確認することです。
術後回復の栄養と骨粗鬆症の栄養は分けて整理する
大腿骨近位部骨折では、術後の機能回復を支える栄養管理と、骨粗鬆症・再骨折予防を目的とした栄養指導が混ざりやすくなります。
この記事で中心にしているのは、骨折後のリハビリテーションと並行して行う栄養管理です。摂取量、エネルギー・たんぱく質の確保、ONS、低栄養やサルコペニアへの対応などを扱います。
一方、カルシウム、ビタミンDなどを含む再骨折予防の食事管理は、骨粗鬆症の栄養管理で詳しく整理しています。
よくある4つの誤解
| 誤解 | 修正したい考え方 |
|---|---|
| 低栄養と診断されてから介入する | 術後から摂取状況・栄養リスクを確認し、必要な介入を早期に検討する |
| 食事5割未満なら全員ONS | 単一の摂取率だけで決めず、患者状態とガイドラインを踏まえて個別に判断する |
| ONSを処方すれば介入終了 | 実際に摂取できた量、継続できない原因、身体機能の変化まで確認する |
| 栄養が少ないからリハをしない | 栄養状態を重要な判断材料にしつつ、全身状態・疼痛・術後条件・身体機能を含めてリハ負荷を調整する |
よくある質問(FAQ)
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Q1:栄養介入は低栄養と診断された患者だけでよいですか?
低栄養と診断された患者だけに限定する考え方ではありません。2026年版ガイドラインでは、リハビリテーションを行う大腿骨近位部骨折患者への強化栄養ケアが強く推奨されています。実際の介入内容は栄養状態、摂取状況、疾患、患者の希望などに応じて個別に調整します。
Q2:大腿骨近位部骨折では全員にONSが必要ですか?
日本の2026年版ガイドラインは「全員に同一のONSを投与する」という推奨ではなく、強化栄養ケアを推奨しています。一方、ESPENの高齢者栄養ガイドラインでは、高齢の股関節骨折患者に術後ONSを提供することが推奨されています。実際には経口摂取状況、嚥下、併存疾患、栄養目標などを踏まえて医師・管理栄養士を含む多職種で検討します。
Q3:PT・OTは栄養についてどこまで関わればよいですか?
必要エネルギー量や栄養処方をPT・OTだけで決定するのではなく、食事・ONSの摂取状況、疲労、筋力、起立・歩行、ADLの回復、食べられない原因などを観察し、多職種へ共有します。「栄養状態」と「身体機能の回復」をつなぐ情報を出すことが重要です。
Q4:カルシウムやビタミンDの指導も同じリハ栄養ですか?
関連しますが、目的を分けると整理しやすくなります。術後のリハ栄養では、機能回復を支える摂取量・エネルギー・たんぱく質・栄養状態などを中心に考えます。カルシウムやビタミンDを含む骨粗鬆症の食事管理は、再骨折予防という別の目的も含めて考えます。
まとめ
大腿骨近位部骨折のリハ栄養では、リハビリテーションと栄養介入を同時に考えることが基本です。2026年版リハビリテーション栄養診療ガイドラインでは、リハを行う大腿骨近位部骨折患者への強化栄養ケアが強く推奨されています。
PT・OTは、栄養処方を単独で決めるのではなく、摂取量、体重変化・BMI、筋量・筋力、身体機能、ADL、食べられない原因を確認し、その変化をチームへ共有します。
「ONSを出したか」「食事を何割食べたか」だけで終わらず、食べられるようになったか、動けるようになったか、ADLにつながっているかまで再評価することが、大腿骨近位部骨折におけるリハ栄養の実務ポイントです。
次に読む記事
- 栄養・嚥下領域の全体像:栄養・嚥下ハブ
- 低栄養リスクの評価:リハ栄養スクリーニングの標準手順
- 再骨折予防の栄養:骨粗鬆症の栄養管理
参考文献
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- Volkert D, Beck AM, Cederholm T, et al. ESPEN practical guideline: Clinical nutrition and hydration in geriatrics. Clin Nutr. 2022;41(4):958-989. doi: 10.1016/j.clnu.2022.01.024
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- 藤原大, 飯田有輝, 西岡心大, ほか. 大腿骨近位部骨折患者におけるリハビリテーション栄養診療ガイドライン. リハビリテーション栄養. 2018;2(2):268-275. 日本リハビリテーション栄養学会 PDF
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

