いつも当サイト(rehabilikun blog)の記事をお読みいただき誠にありがとうございます。また、初めましての方はよろしくお願い致します。サイト管理者のリハビリくんです!
この記事は「起立性低血圧」をキーワードに内容を構成しております。こちらのテーマについて、もともと関心が高く知識を有している方に対しても、ほとんど知識がなくて右も左も分からない方に対しても、有益な情報がお届けできるように心掛けております。それでは早速、内容に移らせていただきます。
早速ですが、起立性低血圧の症状って本当に厄介ですよね。よくある症状といえばその通りですが、いざ血圧が低下すると実際ヒヤヒヤして不安になると思います。特に臨床経験が少ない若手の頃は尚更じゃないかなと思います。また、起立性低血圧の存在により対象者の活動や参加の制限に繋がってしまい、モヤモヤした覚えがある方もいらっしゃると思います。
そのような中、起立性低血圧を認める患者様でも、なんとか離床活動を促進させてあげたくて弾性包帯や弾性ストッキングの使用を検討したことがありませんか?また、使用してはみたけど目に見える効果がでなくて、使用しなくなってしまったケースもあるかと思います。
こちらの記事ではそういった悩みや不安を解決していきたいと思います!
結論からお伝えしますと「弾性包帯を巻くことは起立性低血圧の予防となります!」
弾性包帯を巻く部位によっても期待できる効果が変わってくるため、下記にて起立性低血圧が発生する要因や弾性包帯を巻く部位について解説していきたいと思います!
【簡単に自己紹介】
30代の現役理学療法士になります。
理学療法士として、医療保険分野と介護保険分野の両方で経験を積んできました。
現在は医療機関で入院している患者様を中心に診療させていただいております。
臨床では、様々な悩みや課題に直面することがあります。
そんな悩みや課題をテーマとし、それらを解決するための記事を書かせて頂いております。
現在、理学療法士として得意としている分野は「脳卒中」「褥瘡」「栄養」「呼吸」「摂食・嚥下」「フレイル・サルコペニア」についてです。そのため、これらのジャンルの記事が中心となっております。
主な取得資格は以下の通りです
脳卒中認定理学療法士
褥瘡 創傷ケア認定理学療法士
3学会合同呼吸療法認定士
福祉住環境コーディネーター2級
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起立性低血圧とは
起立性低血圧とは、立ち上がるときや長時間立っているときに、血圧が急激に下がる症状のことです。血圧が下がると、脳に十分な血液が届かず、めまいや立ちくらみ、失神などの症状が起こります。起立性低血圧は、加齢や病気、薬剤などの影響で起こることが多く、高齢者や慢性疾患の患者さんに多く見られます。
起立性低血圧とは、立ち上がったり体を起こしたりした際に、立ちくらみや眩暈を起こすなど、急激に血圧が下がる症状のことをいいます。血圧低下に関する具体的な数値でいえば、最高血圧(収縮期血圧)が「20 mmHg以上」もしくは最低血圧(拡張期血圧)が「10 mmHg以上」低下する場合を起立性低血圧と定義します。
起立性低血圧の症状として、最も代表的なものは血圧低下になりますが、寝ている状態から身体を起こした後や、立ち上がった後に眩暈や立ちくらみが出現することもあり、症状が重度の場合には失神することもあります。その他の起立性低血圧の症状として、頭痛や腹痛、動悸、食欲不振などを認めることもあります。
起立性低血圧は長期臥床および廃用症候群と密接に関わっております。このテーマについては、他の記事で詳しくまとめておりますので、こちらもご覧になって頂けると幸いです☺️ 【長期臥床の影響についての記事はこちらから】
起立性低血圧への弾性包帯の効果
起立性低血圧の予防法の一つとして、弾性包帯を巻く方法があります。弾性包帯とは、伸縮性のある布やゴムでできた包帯のことで、血管を圧迫して血流を改善する効果があります。
弾性包帯を巻くことで、下肢の血液の貯留を防ぎ、血圧の低下を抑えることができます。弾性包帯は、医師や看護師の指示に従って、適切な圧力と巻き方で使用する必要があります。
腹帯や弾性包帯の使用は失神の診断・治療ガイドライン(2012年改訂版)にてクラスⅡaで推奨されています。
その有効性のメカニズムは外圧が下肢の静脈貯留を減らし心臓への静脈環流を改善することで、1回拍出量の減少を防ぎ、心拍出量を維持することになります。
健常者を対象とした先行文献では、腹帯を使用して起立時の1回拍出量を維持することで起立性低血圧のリスクを減らす可能性を示唆しています。
他の報告では、大腿から下腿に異なる3つの高さの弾性ストッキングを使用した結果、それぞれが起立性低血圧の予防に有用であったことを示唆しています。
弾性包帯を巻く部位
弾性包帯を巻く部位は、足首からふくらはぎ、ももまでの下肢全体になります。ただし、弾性包帯を巻くときは、足首やひざの関節部分は避けるようにします。
関節部分に弾性包帯を巻くと、関節の動きを妨げたり、血流を阻害したりする可能性があります。また、弾性包帯を巻くときは、弾性包帯の圧力が均等になるようにするため、足の指先やふくらはぎの一番太い部分を出すようにします。
先行文献では、①下腿 ②大腿 ③腹部から下肢 ④腹部のみ の4つの異なるレベルでの圧迫の有効性について報告されています。
特に ③腹部から下肢 ④腹部のみ を圧迫した場合には、ほかの2つと比較し姿勢変化後の収縮期血圧低下を大いに減少させることができると考えることができます。
これは、腹部が身体中で最大の体液貯留層であり、起立時の体液シフトの70%以上を占めるという過去の報告により裏づけされています。
起立性低血圧に対する弾性包帯の効果に関するエビデンスはまだまだ不十分となっています。
そのため、起立性低血圧に対して弾性包帯を巻くことで「めちゃくちゃ効果があります!!」とは言えないと思います。
しかし、医師と連携して投薬による起立性低血圧のコントロールももちろん必要にはなりますが、投薬による治療の効果が乏しい時には、弾性包帯の使用を検討すべきだと思います。
弾性包帯の巻き方
弾性包帯を装着する部位については、上述したように指定されてはいませんが、弾性包帯の巻き方について、下肢末梢部から下腿部を例に出して説明します。
- 指の付け根から巻き始めます
- 足の甲を横巻きで少しずつ重なるようにずらして、かかとを包むように巻きます。
- 踵部は緩みやすいため、足関節をやや強めに固定しますが、締め過ぎないように注意します
- 踵部を固定した後は、中枢に向かっていきますが、圧迫力が均等になるように包帯を半分ずつ重ねながら巻いていきます
- 適切な圧迫力は 15 – 20 mmHg、巻いた後で、指が 2 – 3 本入る程度の圧迫力が適切になります
- 膝関節から 5 cm 程度下まで巻いて完了になります
弾性包帯の注意点、禁忌
以下の状態に当てはまる対象者に使用する場合は、担当医師に弾性包帯を巻いても良いか確認してから使用する必要があります。
- 急性期の深部静脈血栓症を認める患者
- 動脈血行障害、うっ血性心不全を認める患者
- 下肢に炎症性疾患、化膿性疾患、急性創傷を認める患者
- 急性循環不全等、末梢循環が不安定な患者
- 糖尿病患者
- 下肢表在静脈の血栓性静脈炎の患者
- 皮膚の感染症、開放創、皮膚炎、潰瘍がある患者
- 患肢に知覚・神経障害がある患者
- ストッキング素材に対する過敏症がある患者
血圧が低下するメカニズム
血圧はなぜ下がるのでしょうか?
人が背臥位から立位になる際、体位変換による重力の影響により約500〜800mLの血液が胸腔内から下肢や腹部内臓系へ移動します。このとき、心臓への還流血液量が約30%減少するため、心拍出量は減少し体血圧は低下します。
この循環動態の変化に対し、生体は圧受容器反射系の賦活により対処しています。これらの圧受容器反射が反応することにより、心拍数増加、心収縮力増加、末梢血管抵抗増加、末梢静脈の収縮が生じます
健常者では、この圧受容器反射系が適切に機能して血圧の過剰な低下を抑制しています。
「圧受反射系のいずれかの部分に異常を来すか、循環血液量が異常に低下した状態では、起立時に高度の血圧低下を来たします。その原因は、神経原性と非神経原性に分けられ、低心拍出量を来す、そのほかの要因(脱水、出血、発熱など急性期で起こる症状)が影響を及ぼすことも考えられます。
また、体液量減や血管拡張作用を有する薬剤に起因するものが多く、特に高齢者では圧受容器反射系の機能低下が強いため、血圧低下が生じやすくなります。
まとめ
起立性低血圧は臨床でよく遭遇する症状ですが、この症状に対ししっかりと対策がなされた上でリハビリテーションを行っているのか、そうでないのかは重要になります。
パーキンソン病、糖尿病、レビー小体型認知症のように自律神経障害を起因として生じる起立性低血圧もあれば、歳をとって生体の圧受容器反射機能が低下し起立性低血圧が生じることもあります。
私は医療機関に従事し、リハビリテーションを行なっていますが、起立性低血圧に悩むスタッフは非常に多い印象があります。
また、経験不足であったり、医療知識に乏しいスタッフでは起立性低血圧に気付かず、ベッドのギャッジアップ練習を行なったり、車椅子に乗車する練習を行っていることがあります。
適切なリスク管理が行われていない状態での起立性低血圧の発症は、命に関わりますし、意識消失からの転倒転落も考えられますのでしっかり対策しないといけません。
一方、起立性低血圧を認める患者様に対して、日々リハビリテーションを実施していきADLの向上を目指したい!!という気持ちもよくわかります!
冒頭でも説明しましたが、腹帯や弾性包帯の使用は失神の診断・治療ガイドライン(2012年改訂版)にてクラスⅡaとなっていますが、まだまだエビデンスは不十分といえると思います。
しかし、予防的な観点でいえば何も工夫をしないまま、身体を起こすより、評価を行うことも含めて弾性包帯を巻いてから身体を起こす取り組みは良いと思います。
起立性低血圧に対して適切なリスク管理に努め、患者様、利用者様の力になれるようにリハビリテーションを実施していきましょう!
参考文献
- 橋本拓哉,髙橋智子,松山友子.下腿型弾性ストッキング着用の有無による離床時の血圧及び脈拍の比較検証.東京医療保健大学.第1号 ,2020年,
- 鈴木裕二, 守川恵助, 乾亮介, 芳野広和, 田平一行.下肢弾性ストッキング強度が起立時の血行動態に及ぼす影響. (社)日本理学療法士協会近畿ブロック.第51回近畿理学療法学術大会,