糖尿病リハ評価は「低血糖リスク→足→合併症→運動耐容能」の順でそろえます
糖尿病(DM)患者のリハビリテーションでは、血糖値だけでなく、①治療内容と低血糖リスク、②足の皮膚・靴・疼痛、③LOPS、④PAD、⑤合併症、⑥運動耐容能を確認します。初回に見る順番を固定すると、運動を始められるか、何を調整するか、誰へ共有するかを判断しやすくなります。
この記事では、PTが初回5〜10分で確認する評価項目と、所見を運動処方・カルテ記録へつなげる方法を解説します。低血糖発生時の対応、詳しいフットスクリーニング、運動中止基準は各実践記事に分け、ここでは初回評価の型に集中します。

初回5〜10分で確認する6項目
初回評価では、すべての検査を一度に実施するのではなく、運動開始前に外せない6項目を先に拾います。異常や不明点があれば、その項目を追加評価するか、多職種へ共有してから運動内容を決めます。
位置づけ:以下の順番は、日本糖尿病学会、ADA、IWGDFなどが示す確認項目をもとに、rehabilikunが初回評価で使いやすい順へ整理した実務フローです。5〜10分という時間や順番自体は、公式の採点基準ではありません。
| 順番 | 評価項目 | 最初に確認すること | 所見がある場合 |
|---|---|---|---|
| 1 | 治療・低血糖リスク | インスリンや低血糖を起こしやすい薬剤、食事時刻、低血糖既往、当日の体調 | 運動時刻、確認方法、補食、見守り方法を調整する |
| 2 | 足の確認 | 発赤、胼胝、亀裂、爪、靴ずれ、疼痛、履物 | 荷重や歩行量を増やす前に原因と皮膚状態を確認する |
| 3 | LOPS | 10gモノフィラメント、振動覚、反射など | 単独所見で決めず、皮膚・変形・既往を含めて層別化する |
| 4 | PADの可能性 | 間欠性跛行、冷感、皮膚色、末梢脈、血管疾患の既往 | 既存のABI・TBIなどを確認し、必要時は医師へ共有する |
| 5 | 合併症・併存疾患 | 網膜症、腎症、末梢・自律神経障害、心血管疾患、運動器疾患 | 避ける負荷、強度の指標、体位変換、監視方法を変更する |
| 6 | 運動耐容能・身体機能 | バイタル、息切れ、疲労、歩行量、筋力、バランス、転倒歴 | 開始量と再評価条件を決め、段階的に調整する |
糖尿病リハ評価で確認する内容
糖尿病リハの評価では、所見を集めるだけでなく、その所見によって運動方法を何から変更するのかまで整理します。初回に詳しく確認する項目と、介入日のたびに確認する項目を分けると運用しやすくなります。
1.治療内容・低血糖リスク・当日の条件
最初に、運動によって低血糖が起こりやすい条件がないかを確認します。1回の血糖値だけで判断せず、治療内容、食事、低血糖既往、当日の体調を組み合わせて評価します。
| 項目 | 確認内容 | 記録すること |
|---|---|---|
| 治療内容 | インスリン、SU薬など低血糖リスクに関係する薬剤と使用時刻 | 薬剤名または系統、投与・服用時刻 |
| 血糖情報 | 確認可能な直近の血糖値、SMBG・CGMの傾向、HbA1c | 確認した値と測定時刻、普段との違い |
| 低血糖既往 | 頻度、発生時間、誘因、症状、自己対処の可否 | 直近の発生状況と必要な支援 |
| 当日の条件 | 食事時刻、食事量、脱水、発熱、感染兆候、睡眠、体調変化 | 通常と異なる条件と対応内容 |
| 対処の準備 | 補食、測定手段、本人・家族・スタッフの対応能力 | 補食の有無、見守り方法、共有先 |
低血糖症状を認めた場合の対応手順や再開判断は、糖尿病の低血糖対応フローで詳しく整理しています。
2.足の皮膚・爪・靴・疼痛
歩行や立位運動を処方する前に、裸足で足を観察します。感覚検査に進む前に、すでに運動量の調整が必要な皮膚損傷や履物の問題がないかを確認します。
| 観点 | 確認すること | 評価後の行動 |
|---|---|---|
| 皮膚 | 発赤、胼胝、亀裂、水疱、出血、潰瘍、浸軟 | 荷重で悪化する可能性を考え、運動量を調整する |
| 爪・感染兆候 | 爪の変形、陥入、白癬、腫脹、熱感、排液 | 処置の必要性を確認し、看護師・医師などへ共有する |
| 靴 | サイズ、圧迫部位、異物、摩耗、靴ずれの位置 | 皮膚所見と靴の接触部位を照合する |
| 疼痛・既往 | 疼痛、しびれ、潰瘍歴、切断歴、足変形 | 再発リスクとセルフチェック能力を確認する |
開放創、感染を疑う所見、赤く熱を持って腫れた足がある場合は、歩行量を増やす前に医師や足病変に関わるチームへ共有します。
3.LOPSとPADの可能性
LOPS(防御知覚の消失)とPAD(末梢動脈疾患)は、歩行量や足部への負荷を決めるうえで重要です。ただし、1つの検査結果だけで運動可否を決めるのではなく、複数の所見をまとめて判断します。
| 評価 | 確認項目 | 判断のポイント |
|---|---|---|
| LOPS | 10gモノフィラメント、振動覚、アキレス腱反射、感覚症状 | モノフィラメント単独で決めず、他の神経学的所見と組み合わせる |
| PAD | 末梢脈、皮膚色、冷感、間欠性跛行、安静時痛、既往 | 疑わしい場合は既存のABI・TBI・血管検査情報を確認する |
| リスクを高める背景 | 足変形、潰瘍歴、切断歴、末期腎不全、セルフケア困難 | 観察頻度、履物、荷重、教育方法を個別に設定する |
検査方法、リスク分類、共有方法、再評価までの詳しい流れは、糖尿病フットスクリーニングの実施手順で確認できます。
4.運動方法に影響する合併症
合併症があることだけで一律に運動を中止するのではなく、病期と程度を確認し、避ける負荷や監視方法を決めます。
| 合併症・併存疾患 | 確認すること | 運動への反映 |
|---|---|---|
| 網膜症 | 病期、眼科受診状況、視覚症状、医師からの制限 | 重症度に応じ、いきみ、高強度、衝撃、頭位を下げる活動を避ける |
| 腎症・腎機能低下 | 病期、透析、浮腫、血圧、貧血、脱水、当日の体調 | 体調変動を考慮し、休息を含めて個別に負荷を設定する |
| 末梢神経障害 | 感覚低下、疼痛、筋力低下、足変形、皮膚損傷 | 適切な履物と足の観察を前提に、荷重を段階化する |
| 自律神経障害 | 起立時症状、心拍反応、発汗・体温調節、無自覚性低血糖 | 心拍数だけに依存せず、RPE、症状、血圧反応を併用する |
| 心血管疾患 | 既往、胸部症状、息切れ、活動量低下、医師からの指示 | 高リスクまたは高強度運動では、主治医による確認を優先する |
| 運動器疾患 | 疼痛、関節可動域、荷重制限、転倒リスク | 歩行以外の運動も含め、継続できる方法へ変更する |
5.運動耐容能・身体機能・活動状況
最後に、実際に開始できる運動量を決めるための評価を行います。糖尿病特有のリスク評価だけでなく、普段の活動量と身体機能を確認することで、無理のない開始量を設定できます。
| 項目 | 確認方法の例 | 記録すること |
|---|---|---|
| 安静時・起立時反応 | 血圧、脈拍、SpO2、ふらつき、起立時症状 | 体位、症状、回復に要した時間 |
| 自覚的運動強度 | RPE、息切れ、疲労、会話のしやすさ | 実施負荷とRPE、症状の変化 |
| 歩行・持久力 | 普段の歩行量、連続歩行時間、休憩、必要に応じた歩行試験 | 距離・時間・休憩・足部症状 |
| 筋力・移動能力 | 立ち上がり、階段、下肢筋力、移乗 | 介助量、反復回数、疼痛 |
| バランス・転倒 | 立位、方向転換、転倒歴、履物、視覚の影響 | 不安定となる条件と必要な支援 |
| 活動・自己管理 | 運動習慣、座位時間、生活環境、家族支援、セルフチェック能力 | 実行可能な頻度と次回確認項目 |
評価結果を運動処方と共有へつなげる
評価後は、単に「異常あり」と記録するのではなく、何を変更し、何を次回確認し、誰へ共有するかまで決めます。
| 主な所見 | 最初に変更すること | 記録・共有すること |
|---|---|---|
| 低血糖リスクが高い | 運動時刻、確認方法、補食、見守りを調整する | 薬剤、食事、既往、本人の対処能力 |
| 皮膚損傷・靴ずれがある | 歩行量や荷重を増やさず、原因を確認する | 部位、大きさ、靴との位置関係、対応先 |
| LOPS・PADが疑われる | 足部負荷を段階化し、追加評価を行う | 実施した検査と所見、既存検査情報 |
| 網膜症・自律神経障害がある | 避ける運動と強度管理方法を変更する | 病期、症状、医師の指示、使用した強度指標 |
| 運動耐容能が低い | 低強度・短時間から開始し、休息条件を決める | 開始量、中止した症状、回復、次回の増減条件 |
運動処方を確定せず、共有を優先する所見
- 低血糖を疑う症状や意識状態の変化がある
- 開放創、感染を疑う所見、赤く熱を持って腫れた足がある
- 新たな胸部症状、失神、著しい呼吸困難がある
- 合併症の病期や医師からの運動制限を確認できない
糖尿病リハ評価の記録シートPDF
初回評価と再評価の項目をそろえたい場合は、A4・1枚の記録シートを使用できます。低血糖リスク、足、LOPS、PAD、合併症、運動耐容能を同じ順番で記録し、対応と次回確認事項まで残せる構成です。
このPDFは記録用紙です。尺度の採点基準や運動開始・中止基準を掲載した判定表ではありません。患者の状態や施設の手順に合わせて使用してください。
初回に固定する6項目、評価結果、対応メモ、再評価内容をA4・1枚に記録できます。
記録シートのプレビューを開く
カルテに残す最小記録テンプレート
記録では、検査名や数値だけでなく、その所見によって何を変更したかを残します。次回の担当者が同じ判断を再現できることが重要です。
| 項目 | 最低限残す内容 | 短文例 |
|---|---|---|
| 治療・低血糖 | 薬剤、食事、既往、自己対処、補食 | インスリン使用。直近の低血糖なし。補食携帯あり |
| 当日の状態 | 血糖情報、体調、食事、通常との違い | 朝食摂取済み。発熱・倦怠感なし。通常と変化なし |
| 足所見 | 皮膚、爪、靴、疼痛、変形 | 発赤・開放創なし。胼胝軽度。靴の圧迫所見なし |
| LOPS・PAD | 実施した検査、左右差、所見の要約 | 振動覚低下あり。足背動脈触知可。跛行なし |
| 合併症 | 病期、症状、避ける負荷、医師の指示 | 起立時ふらつきあり。急な体位変換を避けて実施 |
| 運動内容・反応 | 種目、時間、強度、症状、終了後の足所見 | 歩行10分、RPE11。低血糖症状・足部疼痛なし |
| 教育・次回確認 | 説明内容、理解、次回の増減条件 | 運動後の足確認を指導。次回は皮膚と歩行後疲労を再確認 |
短文例は記載形式の一例です。患者の病型、治療、合併症、施設の記録ルールに合わせて変更してください。
糖尿病リハ評価のよくある質問
Q1.初回評価で最優先する項目は何ですか?
最初に治療内容、低血糖既往、食事、当日の体調を確認し、続けて足の皮膚・靴・疼痛を見ます。低血糖リスクと足の状態が不明なままでは、運動時刻、監視方法、歩行量を決めにくいためです。
Q2.10gモノフィラメントだけでLOPSを判断してよいですか?
モノフィラメントだけで決めず、振動覚、アキレス腱反射、感覚症状、皮膚所見、足変形、既往などを組み合わせます。検査の目的は単に感覚低下を見つけることではなく、足部損傷のリスクと必要な支援を判断することです。
Q3.心拍数よりRPEを重視する場面はありますか?
自律神経障害や心拍反応へ影響する薬剤がある場合は、心拍数だけでは強度を判断しにくくなります。RPE、息切れ、疲労、会話のしやすさ、血圧、症状を組み合わせて評価します。
Q4.末梢神経障害があっても歩行運動はできますか?
末梢神経障害があることだけで、すべての歩行運動が禁止されるわけではありません。開放創や活動性の足病変がないこと、適切な履物を使用できること、運動後に皮膚を確認できることを前提に、少量から段階的に増やします。
次の一手
初回評価を終えたら、評価結果から運動方法を組み立てます。運動療法全体を確認する場合と、開始・変更・延期の判断をそろえる場合は、次の記事へ進んでください。
A.糖尿病リハの全体像を確認する
血糖・合併症の確認からFITT、患者教育、再評価までを整理します。
B.開始・変更・延期の判断を確認する
運動前チェック、中止・変更の考え方、実施後の確認を整理します。
参考文献
- American Diabetes Association Professional Practice Committee for Diabetes. 5. Facilitating Positive Health Behaviors and Well-being to Improve Health Outcomes: Standards of Care in Diabetes—2026. Diabetes Care. 2026;49(Suppl 1):S89-S131. doi: 10.2337/dc26-S005
- American Diabetes Association Professional Practice Committee for Diabetes. 6. Glycemic Goals, Hypoglycemia, and Hyperglycemic Crises: Standards of Care in Diabetes—2026. Diabetes Care. 2026;49(Suppl 1):S132-S149. doi: 10.2337/dc26-S006
- American Diabetes Association Professional Practice Committee for Diabetes. 12. Retinopathy, Neuropathy, and Foot Care: Standards of Care in Diabetes—2026. Diabetes Care. 2026;49(Suppl 1):S261-S276. doi: 10.2337/dc26-S012
- 日本糖尿病学会 編. 糖尿病診療ガイドライン2024. 第4章 運動療法. 公式PDF
- 日本糖尿病学会 編. 糖尿病診療ガイドライン2024. 第10章 糖尿病性神経障害. 公式PDF
- 日本糖尿病学会 編. 糖尿病診療ガイドライン2024. 第11章 糖尿病性足病変. 公式PDF
- Bus SA, Sacco ICN, Monteiro-Soares M, et al. Practical guidelines on the prevention and management of diabetes-related foot disease (IWGDF 2023). Diabetes Metab Res Rev. 2024;40(3):e3651. doi: 10.1002/dmrr.3651
- Kanaley JA, Colberg SR, Corcoran MH, et al. Exercise/Physical Activity in Individuals with Type 2 Diabetes: A Consensus Statement from the American College of Sports Medicine. Med Sci Sports Exerc. 2022;54(2):353-368. doi: 10.1249/MSS.0000000000002800
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

