バーセルインデックス(Barthel Index/BI)とは?【目的と使いどころ】
結論:Barthel Index(BI)(=バーセルインデックス/バーセル指数)は、基本 ADL を 10 項目・ 0–100 点で定量化し、「いま何に介助が要るか」を短時間で共有しやすい尺度です。
ベッドサイドの観察や面接で全体像を押さえられるため、入退院の見立て、経過追跡、退院調整の共通言語として使いやすいのが強みです。まず BI で “ボトルネック” を特定し、必要に応じて他尺度や課題分析で掘り下げるのが実務的です(ADL の全体像は ADL 評価の種類まとめ へ)。
5 分でできる評価フロー(迷わない手順)
- 目的を固定:「現状把握」「変化追跡」「退院調整(生活自立の見立て)」のどれが主目的かを先に決めます。
- 条件を固定:補助具(杖・装具・手すり)、監視/口頭指示の扱い、導線、時間帯を施設ルールに合わせて統一します。
- 実場面を優先:可能な範囲で “している ADL” を観察し、面接のみの場合はその旨を記録します。
- 総点+領域別に読む:合計点に加え、セルフケア/排泄管理/移乗・移動のどこが詰まっているかを言語化します。
- 所見を 1 行で添える:例:「更衣:下衣で立位不安定」「階段: 2 段でふらつき増大し中止」など根拠行動を短文化します。
採点表(公式資料):配点や判定の原典を確認したい場合は、厚労省「介護予防マニュアル 第 4 版 別添資料 2-2(ADL:Barthel Index)」を参照してください(別ウィンドウ)。PDF を開く
早見:BI が向いている場面/向いていない場面
| 観点 | BI が得意 | 注意(補うと良い観点) |
|---|---|---|
| 目的 | ADL の全体像把握/チーム共有/退院調整の会話 | 認知・高次脳・ IADL は別評価や課題分析で補完 |
| 所要時間 | 5–10 分で概況をつかみやすい | 精密な変化追跡は “条件固定+所見併記” が必須 |
| 運用 | 多職種でルール統一しやすい | 監視/口頭指示/補助具の扱いを文書化してブレを減らす |
評価方法(概要)
所要は概ね 5–10 分。通常の生活環境に近い条件で、実場面または再現動作を観察します。判定は “最良” ではなく通常の遂行を基準にし、根拠となる所見(例:更衣は上衣のみ介助、階段は 2 段で中止)を簡潔に併記します。再評価は同条件(補助具・監視・導線・時間帯)で行うと変化が明瞭です。
判定と解釈(めやす)
| 総点 | 自立度の目安 | 臨床での示唆 |
|---|---|---|
| 0–20 | 全介助〜高度介助 | 安全確保と介助者教育、ポジショニング優先 |
| 21–60 | 中等度介助 | セルフケア/移乗などボトルネックを集中的に |
| 61–90 | 軽度介助 | 退院調整を見据え、 IADL /動線の最適化 |
| 91–99 | 最小限の介助/見守り | 転倒・疲労・時間依存性に注意して微調整 |
| 100 | 自立 | IADL や疾患特異的課題へ段階的に移行 |
退院・生活自立の参考カットオフ(運用目安)
退院先の判断は医療・介護資源や家族体制で変動します。以下は施設カンファレンスでの運用目安として使いやすい参考値です(最終判断は各施設で決定)。
| 家族体制 | 自宅退院の目安 | 補足 |
|---|---|---|
| 家族なし | BI 70–75 以上 | 独居では IADL ・安全確認の負荷が高く、閾値をやや高めに設定 |
| 家族 1 人 | BI 60–65 以上 | 介助可能時間帯・導線整備・訪問系サービス併用で調整 |
| 家族 2 人以上 | BI 55–60 以上 | 役割分担で日中の監視・介助が確保できる場合の目安 |
※ 閾値はあくまで参考。認知機能、合併症、住環境、サービス提供体制で上下します。
項目別ガイド:趣旨・判定の考え方・観察ポイント(項目本文なし)
合計点だけでなく、〈セルフケア〉〈排泄管理〉〈移乗・移動〉など領域ごとの詰まりを見つけると、介入設計と退院調整の会話がスムーズになります。特に「監視・口頭指示」をどこまで “介助” とみなすかは、部門内で定義を統一してから実施しましょう。
| 項目 | 趣旨(何を見ているか) | 判定基準の考え方(実務解釈) | 観察ポイント(根拠所見) | 閾値のめやす(施設で統一) |
|---|---|---|---|---|
| 食事 | 盛付〜摂取〜後片付けまでの自己完結度 | 道具準備や開封を含む “いつものやり方” で判定 | 姿勢保持、利き手切替、むせ、時間・疲労 | 監視なしで完遂・危険なし=自立/準備・開封・姿勢補助が必要=一部介助 |
| 更衣 | 衣服選択〜着脱の遂行と効率 | 上衣・下衣とも評価。装具/義肢の条件を明確化 | 片手手技、手順の混乱、立位不安定 | 見守り不要で時間内完了=自立/留め具・袖通しなど部分介助=一部介助 |
| 整容 | 洗面・口腔・整髪などセルフケアの連続性 | 立位/座位を施設基準で固定。準備〜片付けまで含める | 到達距離、両手課題、持久性、清潔到達度 | 安全に手順通り連続実施=自立/口頭指示や準備が必要=監視〜一部介助 |
| 洗身(入浴) | 浴室内の移動・洗身・温冷刺激への安全管理 | 浴槽跨ぎ・シャワー操作・体幹保持を含め総合判断 | 滑り、低血圧、皮膚観察、段差処理 | 監視なし・危険動作なし=自立/跨ぎ・背部洗身などの補助=一部介助 |
| 排便管理 | 便意認知〜実行〜後始末の自己管理 | 介入の有無も記録。失禁頻度を含め評価 | タイミング、清潔、皮膚トラブル | 連日自力・失禁なし=自立/定期介助や失禁あり=一部〜全介助 |
| 排尿管理 | 尿意認知・器具操作・後始末の一連 | 器具要否で基準を分ける(留置・自己導尿など) | 失禁頻度、手技の正確性、感染兆候 | 自力で継続管理・失禁稀=自立/器具操作・準備の介助=一部介助 |
| トイレ動作 | 出入り〜移乗〜処理〜整容の一連導線 | ドア/衣服/紙/洗浄操作まで含めて判定 | 導線の安定、衛生、姿勢保持、注意分割 | 監視なしで完遂=自立/導線や衛生の一部で補助=一部介助 |
| 移乗(ベッド⇄椅子) | 姿勢変換〜座位制御〜立上がり〜着座 | 補助具(手すり・滑り板等)の可否を事前定義 | 足位置・前傾・制動、合図理解、危険回避 | 合図なしで安全に往復=自立/身体接触が必要=一部〜全介助 |
| 歩行/車いす移動 | 屋内移動能力(代償手段を含む) | 歩行 or 車いすを施設基準で選択して評価 | 直線/方向転換、障害物、疲労、呼吸循環反応 | 監視なしで所内基準距離の連続移動=自立/監視・介助が要る=一部介助 |
| 階段 | 昇降時のバランス・踏面認知・手すり活用 | 手すり条件(片側/両側/なし)と段数を施設で統一 | 踏み外し、対側支持、休止回数、危険回避 | 所内の基準段数を安全に往復=自立/手すり依存・介助=一部〜全介助 |
現場の詰まりどころ・よくある失敗(ここで差がつく)
| よくある失敗 | なぜ起きる? | 対策(統一ポイント) | 記録のコツ( 1 行) |
|---|---|---|---|
| 監視・口頭指示の扱いが人で違う | 「見守り」をどこまで介助に含めるか曖昧 | “口頭指示あり=監視扱い” など施設内ルールを短文化して共有 | 「更衣:声かけで手順維持、立位は支えなし」 |
| 補助具の条件が毎回変わる | 杖・装具・手すりの使用可否が評価ごとに違う | 補助具の “使用可/不可” を先に固定し、再評価も揃える | 「歩行:四点杖使用、 20 m 連続、方向転換でふらつき」 |
| 面接のみで点数化してしまう | 実場面の “している ADL” が拾えない | 最低 2–3 項目は実場面観察(移乗・トイレ動作・歩行など) | 「トイレ:再現動作で衣服操作に介助、実場面未観察」 |
| 総点だけ見て介入がぼやける | 同点でもボトルネックが違う | 領域別(セルフケア/排泄/移乗・移動)で詰まりを言語化 | 「総点 60 点:移乗で介助、トイレは監視、セルフケアは概ね可」 |
症例でみる:同じ総点でも “次の一手” は変わる
| 状況 | ボトルネック | 優先介入(例) | 退院調整の視点 |
|---|---|---|---|
| 例 A:総点は伸びるが転倒リスクが残る | 方向転換・トイレ導線・立位更衣で不安定 | 導線設計、立位課題の段階付け、手すり/環境調整 | 夜間トイレ、疲労時の “見守り” を誰が担うか |
| 例 B:セルフケアは良いが移乗で詰まる | 立上がり・着座制動、合図理解、座位制御 | 移乗の “型” の統一(足位置・前傾・制動)、介助方法の教育 | 家族介助の再現性(できる介助)を確認し、サービス導入を検討 |
ダウンロード(記録フォーマット/要点メモ)
(クリックで開く/A4 印刷向け)
- BI 記録シート(A4・項目本文なし) —— 領域別に得点と所見を並記して共有しやすく
- BI クイックリファレンス(A4) —— 目的・所要時間・実施のコツ・解釈メモを 1 枚に集約
FAQ
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
BI は “総点” だけ見れば十分?
総点は便利ですが、同点でもボトルネックは変わります。セルフケア/排泄管理/移乗・移動のどこが詰まっているかを併記すると、介入目標と退院調整の会話が早くなります。
再評価の間隔はどれくらい?
急性〜回復期では 3–7 日間隔、生活期では介入の節目(サービス変更や退院前後など)で実施する運用が多いです。再評価は “条件固定(補助具・監視・導線・時間帯)” を揃えると変化が読みやすくなります。
面接だけで点数化してもいい?
可能な範囲で実場面観察(移乗・トイレ動作・歩行など)を優先するのがおすすめです。面接のみで点数化した場合は、その旨を記録に残し、次回は観察項目を増やすとブレが減ります。
参考文献
- Mahoney FI, Barthel DW. Functional evaluation: the Barthel Index. Md State Med J. 1965;14:61–65. PubMed
- Shah S, Vanclay F, Cooper B. Improving the sensitivity of the Barthel Index for stroke rehabilitation. J Clin Epidemiol. 1989;42(8):703–709. DOI / PubMed
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


