気管吸引の適応判定|代替策・中止基準・記録例

臨床手技・プロトコル
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気管吸引の適応は、分泌物の所見と排出困難を組み合わせて判断します

成人の人工気道患者に対する気管吸引は、痰の音やSpO₂低下だけで決めず、吸引可能な分泌物の存在、咳嗽・自己排出の可否、呼吸状態、人工気道・人工呼吸器の所見を組み合わせて判断します。非侵襲的な排痰法で改善する場合は吸引を見送り、分泌物が残って気道クリアランスを維持できない場合に必要時吸引を検討します。

本記事では、PT・OT・STなどの医療従事者に向けて、成人の人工気道患者を中心に「吸引する」「いったん見送る」「中止して報告する」の境界を整理します。口腔・鼻腔吸引の具体的手順や、カテーテル径、挿入長、吸引圧などの操作条件は扱いません。

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この記事の対象範囲

主な根拠である「気管吸引ガイドライン2023」は、成人で人工気道を有する患者を対象としています。口腔・鼻腔吸引、人工気道のない患者、在宅・施設独自の運用では、対象者、指示、施設手順書、職種ごとの実施範囲を別に確認してください。

最初に確認する3つの判断

吸引の要否は、分泌物があるか、非侵襲的に排出できるか、安全に実施できるかの3点で整理します。

気管吸引を実施・見送り・報告する判断の目安
判断 主な状態 次の対応
吸引を検討する 吸引可能な分泌物を示す複数所見があり、咳嗽や非侵襲的排痰法でも排出できない 実施条件と安全性を確認し、施設手順に沿って必要最小限の吸引を行う
いったん見送る 所見が単独で原因が不明、または体位調整や咳嗽支援で改善した 吸引せず、呼吸状態と分泌物の変化を再評価する
中止・報告する 酸素化・循環・意識などが不安定、または実施中に有害反応が生じた 吸引を中止して安定化を優先し、医師・看護師などへ報告する
気管吸引を実施する、見送る、中止する判断フロー
図:気管吸引の判断フロー。吸引可能な分泌物、非侵襲的排痰後の変化、全身状態を確認し、実施・見送り・中止を判断します。

気管吸引の適応は3つの情報から総合判断します

適応判断では、患者のフィジカルアセスメント、人工気道の観察、人工呼吸器・生体モニタの3方向から情報を集めます。

患者のフィジカルアセスメント

  • 湿性咳嗽があるが、自己喀出できない
  • 気管付近でロンカイやコースクラックルを聴取する
  • 分泌物の移動に伴う振動や雑音がある
  • 頻呼吸、努力呼吸、呼吸仕事量の増加がある
  • 体位や咳嗽支援を行っても分泌物が排出されない

頻呼吸、努力呼吸、頻脈、SpO₂低下は、分泌物以外の原因でも生じます。これらだけで吸引を決めず、分泌物の存在や排出困難を示す所見と一致しているかを確認します。

人工気道の観察

  • 気管チューブや気管カニューレ内に分泌物を視認できる
  • 人工気道付近から分泌物による振動や雑音を確認できる
  • 咳嗽によって分泌物が上がってくるが、十分に排出できない
  • 粘稠な分泌物による閉塞が疑われる

分泌物が末梢気道にあり、吸引カテーテルが届く位置まで移動していない場合は、吸引を繰り返しても十分な効果を得られないことがあります。先に体位調整や呼吸理学療法などで中枢側への移動を検討します。

人工呼吸器・生体モニタの所見

  • フロー波形に鋸歯状波形がみられる
  • 気道抵抗の増大が疑われる
  • 量規定換気で気道内圧が上昇している
  • 圧規定換気で一回換気量が低下している
  • 分泌物所見と同時にSpO₂や呼吸数が悪化している

人工呼吸器の設定、気管支攣縮、回路異常、体位などでも類似した変化が起こります。モニタ値だけで分泌物貯留と断定せず、患者・人工気道・回路を順に確認します。

SpO₂低下や痰の音だけでは吸引を決めません

次の所見は重要ですが、単独では気管吸引の適応を確定できません。

単独で吸引を決めない所見と追加確認
所見 ほかに考える原因 追加して確認すること
SpO₂低下 無気肺、換気不良、酸素供給・回路の問題、循環不良 分泌物、呼吸音、呼吸努力、回路、体位、換気量
頻呼吸・努力呼吸 疼痛、不安、発熱、心不全、人工呼吸器との不同調 分泌音、咳嗽、人工気道内の分泌物、モニタ波形
湿性音・ゴロつき 口腔・咽頭分泌物、末梢気道の分泌物 音の部位、体位・咳嗽後の変化、吸引可能な位置か
意識レベル低下 低酸素、高二酸化炭素血症、循環不良、薬剤、中枢神経障害 気道開通、呼吸・循環、換気、分泌物、緊急報告の必要性

反対に、SpO₂が保たれていても、人工気道内に多量の分泌物が見え、咳嗽で排出できず、気道抵抗が増えている場合は吸引が必要になることがあります。SpO₂は適応判定の一部であり、単独の開始・終了条件ではありません。

吸引前に非侵襲的な排痰法を検討します

吸引可能な位置まで分泌物が移動していない場合や、自己排出の余地がある場合は、患者の状態に応じて非侵襲的な方法を先に検討します。

  • 体位調整:分泌物の移動、換気、呼吸仕事量が改善する姿勢を探します。
  • 加温・加湿の確認:粘稠な分泌物では、加湿不足や人工鼻・加温加湿器の状態を確認します。
  • 咳嗽・ハフの支援:患者が実施できる場合は、分泌物を中枢側へ移動させ、自己排出を促します。
  • 呼吸介助・排痰手技:適応と安全性を確認し、分泌物の移動を支援します。
  • 口腔・咽頭分泌物への対応:下気道吸引が必要なのか、口腔・咽頭部の分泌物への対応で足りるのかを分けます。

患者が自発呼吸下で指示に応じられる場合には、ACBT、PEP、体位排痰なども選択肢になります。適応と使い分けは、ACBT・PEP・体位排痰の比較で確認できます。

代替策を行った後は、呼吸音、分泌物、咳嗽、SpO₂、呼吸数、呼吸努力を再評価します。改善して気道クリアランスが維持できる場合は、吸引を見送ります。

状態が不安定な場合は、吸引より安定化と報告を優先します

気管吸引には一律の絶対禁忌を設けにくく、緊急の気道閉塞では吸引自体が必要になることもあります。ただし、次の状態では通常どおり開始せず、必要性と危険性を再評価します。

  • 重度の低酸素血症または急速なSpO₂低下がある
  • 著しい頻脈・徐脈、不整脈、血圧変動がある
  • 強い呼吸困難、チアノーゼ、急激な意識変化がある
  • 気道出血または粘膜損傷が疑われる
  • 頭蓋内圧上昇など、咳嗽刺激による悪化リスクが高い
  • 強い抵抗や体動があり、安全な実施体制を確保できない
  • 医師の指示、施設手順、応援要請の体制が確認できない

不安定な状態でも気道閉塞が疑われる場合は、単純に吸引を禁止するのではなく、医師・看護師・呼吸管理担当者と連携し、酸素化や循環の安定化、モニタリング、応援要請を含めて対応します。

実施中に有害反応があれば中止します

吸引中はSpO₂、脈拍、呼吸状態、表情、意識、人工呼吸器の値を観察し、悪化がみられた場合は中止して回復を確認します。

  • SpO₂が急速に低下する、または危険な低値へ向かう
  • 著しい頻脈・徐脈、不整脈が出現する
  • 血圧が大きく変動する
  • チアノーゼ、強い呼吸困難、意識状態の悪化がある
  • 強い疼痛、激しい咳嗽、著しい苦痛や抵抗がある
  • 新たな出血や粘膜損傷が疑われる
  • 人工呼吸器との不同調や換気量低下が強くなる

中止後は、酸素化、換気、循環、意識、人工気道・回路を確認し、患者が実施前の状態まで回復したかを評価します。回復前に繰り返し吸引せず、必要性と方法を再検討します。

判定から再評価までの流れ

  1. 分泌物を確認する:患者、人工気道、人工呼吸器の所見を集めます。
  2. 排出能力を確認する:咳嗽、自己喀出、人工気道までの分泌物移動を評価します。
  3. 代替策を検討する:体位、加温加湿、咳嗽支援、呼吸理学療法を行います。
  4. 再評価する:分泌物と呼吸状態が改善すれば吸引を見送ります。
  5. 安全性を確認する:酸素化、循環、意識、出血、実施体制を確認します。
  6. 必要時のみ吸引する:施設手順に沿い、必要最小限に実施します。
  7. 効果と有害反応を確認する:実施前後を比較して記録・共有します。

記録は「根拠・代替・結果」を残します

吸引を実施した場合だけでなく、見送った場合にも判断根拠を残すと、次回の適応判定をそろえやすくなります。

気管吸引の適応判定で残す記録
項目 記録する内容
適応根拠 呼吸音、人工気道内の分泌物、咳嗽、呼吸努力、人工呼吸器波形など
実施前の状態 SpO₂、呼吸数、脈拍、血圧、意識、表情、体位
代替策 体位調整、加湿確認、咳嗽支援、排痰手技とその反応
判断 吸引を実施した理由、見送った理由、中止・報告した理由
実施後 分泌物の量・色・粘稠度、呼吸音、SpO₂、呼吸数、換気量、苦痛
次の対応 再評価時期、加湿・体位の見直し、報告内容、再吸引の条件

記録例

気管部でロンカイを聴取し、気管カニューレ内に粘稠な分泌物を確認。湿性咳嗽はあるが自己排出できず。体位調整と咳嗽介助後も残存したため、施設手順に沿って吸引を実施。黄白色・粘稠痰を中等量回収し、ロンカイと呼吸努力が軽減。SpO₂は実施前94%、直後95%。出血・不整脈なし。加湿状態を再確認し、分泌音の再出現時に再評価する。

ダウンロード|気管吸引の適応判定記録シート(A4)

観察所見、非侵襲的な代替策、吸引の実施・見送り、中止基準、再評価を1枚で記録するためのシートです。施設の指示や手順書に置き換わるものではないため、院内ルールと合わせて使用してください。

判定から再評価までをA4 1枚に記録できます

吸引を実施した場合だけでなく、代替策で改善して見送った場合や、中止・報告した場合の根拠も残せます。

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気管吸引の適応に関するよくある質問

各質問をタップすると回答が開きます。

SpO₂が低下したら、すぐに吸引しますか?

SpO₂低下だけでは決めません。人工気道内の分泌物、呼吸音、咳嗽、呼吸努力、人工呼吸器波形などを確認します。酸素供給、回路、体位、無気肺、循環など、分泌物以外の原因も考える必要があります。

痰の音が聞こえたら吸引しますか?

音の部位と、吸引可能な位置に分泌物があるかを確認します。口腔・咽頭部や末梢気道の分泌物では、気管吸引を行っても回収できないことがあります。体位や咳嗽後の変化も評価します。

定時吸引は必要ですか?

成人の人工気道患者では、適応を評価したうえで必要時に行うことが基本です。予定時刻になったことだけを理由に実施せず、その時点の分泌物、排出能力、呼吸状態を確認します。

吸引しても痰が取れない場合は、続けて繰り返しますか?

直ちに繰り返すのではなく、吸引可能な位置に分泌物があるか、粘稠度が高くないか、加湿不足がないかを再評価します。末梢にある分泌物では、体位調整や非侵襲的排痰法で中枢側へ移動させる必要があります。

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参考文献

  1. 日本呼吸療法医学会気管吸引ガイドライン改訂ワーキンググループ. 気管吸引ガイドライン2023〔改訂第3版〕:成人で人工気道を有する患者のための. 呼吸療法. 2024;41(1):1-47. 公式PDF
  2. Blakeman TC, Scott JB, Yoder MA, Capellari E, Strickland SL. AARC Clinical Practice Guidelines: Artificial Airway Suctioning. Respir Care. 2022;67(2):258-271. doi:10.4187/respcare.09548. DOI
  3. 厚生労働省. 喀痰吸引等研修テキスト:口腔・鼻腔吸引の手順ほか. 公式PDF
  4. McIlwaine M, Bradley J, Elborn JS, Moran F. Personalising airway clearance in chronic lung disease. Eur Respir Rev. 2017;26(143):160086. doi:10.1183/16000617.0086-2016. DOI

著者情報

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rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。

現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。

保有資格

  • 脳卒中認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター2級

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