身体計測(形態測定)まとめ|目的別“最小セット”と測定の標準化
身体計測は「何を」「同じ条件で」測るだけで、筋萎縮・浮腫・栄養の判断が一気にラクになります。 評価 → 記録 → 再評価の流れを 3 分で復習する( #flow )
身体計測(形態測定)は、筋量の変化(萎縮)、浮腫・腫脹、栄養状態、シーティングの適合などを、シンプルな道具(巻尺など)で追える“基礎評価”です。数字そのものよりも、左右差と経時変化( Δ )を読めるようになると、臨床の迷いが減ります。
本記事は「何を測るか(最小セット)」→「誤差を減らす標準化」→「目的別の使い分け」の順に整理します。四肢長・四肢周径のランドマークと測り方は、各論として 形態測定(四肢長・周径)の測り方 にまとめています。
まずはこれだけ:目的別“最小セット”の決め方
身体計測は、全部を測るほど正確になるわけではありません。むしろ目的に合わない部位を測ると、筋の変化より“むくみ”が数字に乗って解釈が崩れます。最初に「何を知りたいか」を 1 行で固定し、その目的に対して“最小セット”を選びます。
| 目的 | まず測る | 補助で足す | 読み方(結論) |
|---|---|---|---|
| 筋萎縮を追う | 左右同一の周径(例:大腿・下腿) | 体重、ROM、疼痛 | 左右差と Δ を重視(単発値より変化) |
| 浮腫・腫脹を追う | 浮腫が出やすい遠位の周径(例:下腿・足関節周囲) | 皮膚所見、圧痕、疼痛、熱感 | 同時刻・同肢位で Δ を比較 |
| 栄養・サルコペニアの入口 | 下腿周径 | 握力、歩行速度など | スクリーニングとして“低下の疑い”を拾う |
| シーティング・適合 | 下腿長、座面幅に関係する周径 | 骨盤傾斜、拘縮、疼痛 | 数値=設定の根拠(再調整の基準) |
最小セットを決めたら、次は誤差を減らすために“条件”を固定します。ここが揃うと、同じ測定でも臨床的な価値が上がります。
誤差を減らす:測定の標準化(固定するのは 6 つ)
周径や長さは、測定者・肢位・テープの張り方でぶれやすい評価です。毎回同じ条件に寄せるほど、数字の解釈がラクになります。
| 固定するもの | 具体例 | 記録欄に残す | 現場の詰まりどころ |
|---|---|---|---|
| 目的 | 筋萎縮/浮腫/栄養など | 測定目的 | 目的が曖昧だと測定点が毎回変わる |
| 姿勢 | 背臥位/座位/立位 | 体位 | 座位は支持面・足底接地で変動しやすい |
| 肢位 | 股関節内外旋中間・膝伸展など | 肢位(角度の目安) | 外旋位で周径が増えたように見えることがある |
| 測定点 | 膝蓋骨上縁+ 10 cm など | ランドマーク/距離 | “だいたい”が Δ を読めなくする最大要因 |
| 道具・張力 | 巻尺(テンション一定) | 使用器具 | 強く締めると細く、緩いと太く出やすい |
| タイミング | 同じ時間帯/介入前後を固定 | 時刻/前後 | 浮腫は日内変動が出やすい |
おすすめの手順は触診 → マーキング → 測定 → その場で記録です。測定点がズレると、改善しているのに“悪化に見える”など誤解が起きます。
数字の読み方:単発値より「左右差」と「Δ(経時変化)」
身体計測は単発値の良し悪しより、左右差と同条件での Δが臨床に効きます。例えば大腿周径が増えても、同時に浮腫が増えていれば筋肥大とは言えません。周径は“筋+皮下+浮腫”の合算なので、所見(圧痕・熱感・疼痛)とセットで読みます。
| 項目 | 右 | 左 | 左右差 | 前回からの Δ |
|---|---|---|---|---|
| 測定点(例:膝蓋骨上縁+ 10 cm ) | cm | cm | cm | cm |
| 測定条件(体位・肢位・時刻) | 背臥位/膝伸展/ 10:00(介入前) | |||
| 併記所見 | 圧痕(あり/なし)、熱感、疼痛、皮膚トラブル | |||
よくある失敗:NG を潰すと再評価が“武器”になります
身体計測は手軽ですが、同じ患者でも測り方次第で数値が動きます。ここを押さえるだけで、測定が“記録のため”から“判断のため”に変わります。
| 場面 | NG | OK | 理由(臨床的な意味) |
|---|---|---|---|
| 測定点 | 最大膨隆部を“目視”で毎回決める | ランドマーク+距離で固定し印を付ける | 測定点のズレが Δ を破壊する |
| 肢位 | 毎回、股関節の回旋や膝屈曲が違う | 肢位をルール化(内外旋中間など) | 筋の張力と軟部組織が変わる |
| 張力 | 締めたり緩めたりが一定でない | “皮膚を圧迫しない”張力で統一 | 同じ周径でも数 mm 〜 cm 動く |
| タイミング | 午前と夕方を混ぜる | 同じ時間帯・介入前後を固定 | 浮腫の影響で比較不能になる |
測定を延期・中止する目安(安全管理)
測定自体は侵襲が低い一方、強い痛みや皮膚トラブルがある部位では悪化を招くことがあります。以下は延期・中止を検討します。
- 測定部位の皮膚損傷(びらん、強い発赤、水疱など)
- 強い疼痛で肢位保持が困難
- 急性増悪が疑われる腫脹(熱感・疼痛増悪など)
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. 周径は「最大膨隆部」で測ればいいですか?
A. 最大膨隆部だけだと、毎回の“最大”の位置がズレて Δ が読めなくなりやすいです。筋萎縮・浮腫を追う目的なら、ランドマーク(膝蓋骨上縁など)+距離(+ 10 cm など)で測定点を固定し、印を付けて運用すると再現性が上がります。
Q2. 左右差はどのくらいで問題と考えますか?
A. 一律の“絶対値”より、症例の目的で判断します。浮腫なら遠位(足関節周囲など)に左右差が出やすく、筋萎縮なら“同条件での Δ ”の方が臨床意思決定に直結します。まずは条件固定を優先し、経時変化で見てください。
Q3. 栄養・サルコペニアの入口に下腿周径を使う根拠は?
A. AWGS 2019 では、サルコペニアのケースファインディングとして下腿周径(男性 < 34 cm、女性 < 33 cm)を含むスクリーニングが推奨されています。単独で確定診断には使わず、“疑いを拾う”入口として活用します。
Q4. 腹囲はどの位置で測るのが標準ですか?
A. WHO STEPS では、最後の肋骨下縁と腸骨稜(腸骨上縁)の中点で、正常呼気終末に、皮膚を圧迫しない張力で水平に測る手順が示されています。施設内でプロトコルを統一すると比較しやすくなります。
参考文献
- Chen LK, Woo J, Assantachai P, et al. Asian Working Group for Sarcopenia: 2019 Consensus Update on Sarcopenia Diagnosis and Treatment. J Am Med Dir Assoc. 2020;21(3):300-307.e2. DOI: 10.1016/j.jamda.2019.12.012. PubMed: 32033882.
- World Health Organization. WHO STEPS Surveillance: Section 5 (Physical Measurements) — Measuring Waist Circumference (procedure and standardization). (Last updated: 26 Jan 2017). PDF.
- Foroughi N, Dylke ES, Paterson RD, et al. Inter-rater reliability of arm circumference measurement. Lymphat Res Biol. 2011;9(2):101-107. DOI: 10.1089/lrb.2011.0002. PubMed: 21688979.
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下
おわりに
身体計測は、目的の固定 → 条件の標準化 → 測定 → 記録 → 再評価( Δ )のリズムを作ると、数字が“判断”に直結します。面談前の準備チェックと職場評価シートも、必要なら こちら からまとめて確認できます。

