身体計測(形態測定)まとめ|目的別“最小セット”と測定の標準化
身体計測(形態測定)は、筋量の変化、浮腫・腫脹、栄養状態、シーティング適合を、シンプルな道具で追える基礎評価です。単発値だけで判断するより、左右差と経時変化( Δ )を同条件で読み続けるほうが、臨床判断の精度は上がります。
このページでは「何を測るか(最小セット)→どう揃えるか(標準化)→どう読むか(解釈)」の順に整理します。測定点の細かな取り方は各論へつなぎ、総論として迷わない導線にまとめます。
まずはこれだけ:目的別“最小セット”の決め方
身体計測は、測定項目を増やすほど良いわけではありません。目的に合わない部位を混ぜると、筋変化より浮腫の影響が強くなり、解釈が崩れます。先に「何を判断するか」を固定し、目的ごとに最小セットを選ぶことが再評価の質を決めます。
| 目的 | まず測る | 補助で足す | 読み方(結論) |
|---|---|---|---|
| 筋萎縮を追う | 左右同一の周径(例:大腿・下腿) | 体重、 ROM 、疼痛 | 左右差と Δ を重視(単発値より変化) |
| 浮腫・腫脹を追う | 遠位の周径(例:下腿・足関節周囲) | 皮膚所見、圧痕、疼痛、熱感 | 同時刻・同肢位で Δ を比較 |
| 栄養・サルコペニアの入口 | 下腿周径 | 握力、歩行速度など | スクリーニングとして“低下の疑い”を拾う |
| シーティング・適合 | 下腿長、座面幅に関係する周径 | 骨盤傾斜、拘縮、疼痛 | 数値を設定根拠として残す |
シーティング目的の計測では、数値は設定変更の根拠になります。とくにずり落ち(仙骨座り)と側方崩れ(骨盤傾斜)では、最初に確認すべき部位が変わるため、症状別の調整手順とセットで運用すると再調整が速くなります。
誤差を減らす:測定の標準化(固定するのは 6 つ)
周径や長さは、測定者・肢位・張力・時刻でぶれます。条件を固定し、記録欄に残す項目を統一すると、同じ数値でも解釈の再現性が上がります。
| 固定するもの | 具体例 | 記録欄に残す | 現場の詰まりどころ |
|---|---|---|---|
| 目的 | 筋萎縮/浮腫/栄養など | 測定目的 | 目的が曖昧だと測定点が毎回変わる |
| 姿勢 | 背臥位/座位/立位 | 体位 | 座位は支持面・足底接地で変動しやすい |
| 肢位 | 股関節内外旋中間・膝伸展など | 肢位(角度の目安) | 外旋位で周径が増えたように見えることがある |
| 測定点 | 膝蓋骨上縁+ 10 cm など | ランドマーク/距離 | “だいたい”が Δ を読めなくする |
| 道具・張力 | 巻尺(テンション一定) | 使用器具 | 締め過ぎ・緩過ぎで値が動く |
| タイミング | 同じ時間帯/介入前後を固定 | 時刻/前後 | 浮腫は日内変動の影響が大きい |
実務では「触診 → マーキング → 測定 → その場で記録」の順に固定すると、測定点のズレによる誤判定を減らせます。
数字の読み方:単発値より「左右差」と「 Δ (経時変化)」
身体計測は単発値の良否より、左右差と同条件での Δ が判断に直結します。周径は“筋+皮下組織+浮腫”の合算なので、圧痕・熱感・疼痛などの所見を併記し、数字だけで結論を急がないことが重要です。
| 項目 | 右 | 左 | 左右差 | 前回からの Δ |
|---|---|---|---|---|
| 測定点(例:膝蓋骨上縁+ 10 cm ) | cm | cm | cm | cm |
| 測定条件(体位・肢位・時刻) | 背臥位/膝伸展/ 10:00(介入前) | |||
| 併記所見 | 圧痕(あり/なし)、熱感、疼痛、皮膚トラブル | |||
現場の詰まりどころ
身体計測が続かない原因は、技術不足より「ルールの不統一」であることが多いです。まずは失敗パターンと回避手順をチームで共有し、記録テンプレを共通化すると、再評価が意思決定に使えるデータへ変わります。
よくある失敗:NG を潰すと再評価が“武器”になります
同じ患者でも、測定点・肢位・張力・時刻がずれると数値は簡単に動きます。比較可能なデータを作るには、以下の NG を先に潰すのが近道です。
| 場面 | NG | OK | 理由(臨床的な意味) |
|---|---|---|---|
| 測定点 | 最大膨隆部を目視で毎回決める | ランドマーク+距離で固定して印を付ける | 測定点のズレが Δ 解釈を壊す |
| 肢位 | 毎回、股関節回旋や膝屈曲が違う | 肢位をルール化(内外旋中間など) | 筋張力と軟部組織が変化する |
| 張力 | 締め方が一定でない | 皮膚を圧迫しない張力で統一 | 数 mm 〜 cm 単位で誤差が出る |
| タイミング | 午前と夕方を混在させる | 同時刻・同条件で測る | 浮腫の日内変動を避けるため |
測定を延期・中止する目安(安全管理)
身体計測は低侵襲ですが、測定部位の状態によっては延期・中止を検討します。
- 測定部位の皮膚損傷(びらん、強い発赤、水疱など)
- 強い疼痛で肢位保持が困難
- 急性増悪が疑われる腫脹(熱感・疼痛増悪)
よくある質問( FAQ )
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Q1. 周径は「最大膨隆部」で測れば十分ですか?
A. 最大膨隆部のみだと、毎回の測定位置がずれて Δ が読みにくくなります。筋萎縮や浮腫を追う場合は、ランドマーク+距離(例:膝蓋骨上縁+ 10 cm)で固定し、同じ条件で反復することが重要です。
Q2. 左右差は何 cm から異常ですか?
A. 一律の閾値だけで判断せず、目的と経過で読みます。浮腫評価は遠位での左右差、筋量評価は同条件での Δ が有用です。まずは測定条件の固定を優先してください。
Q3. 下腿周径は何に使いますか?
A. 下腿周径はサルコペニアのケースファインディングに用いられます。AWGS 2019 では男性 < 34 cm、女性 < 33 cm が目安です。単独で確定せず、握力や身体機能と組み合わせて判断します。
Q4. 腹囲の測定位置を統一するには?
A. WHO STEPS では、最後の肋骨下縁と腸骨稜の中点で、正常呼気終末に水平測定する手順が示されています。施設内で測定位置と呼気条件を固定すると比較しやすくなります。
次の一手
- 運用を整える:評価ハブ(全体像)
- 共有の型を作る:形態測定(四肢長・周径)の測り方(すぐ実装)
教育体制・人員・記録文化など“環境要因”を一度見える化すると、次の打ち手が決めやすくなります。
チェック後に『続ける/変える』の選択肢も整理したい方は、PT キャリアナビで進め方を確認しておくと迷いが減ります。
参考文献
- Chen LK, Woo J, Assantachai P, et al. Asian Working Group for Sarcopenia: 2019 Consensus Update on Sarcopenia Diagnosis and Treatment. J Am Med Dir Assoc. 2020;21(3):300-307.e2. DOI: 10.1016/j.jamda.2019.12.012. PubMed: 32033882.
- World Health Organization. WHO STEPS Surveillance: Section 5 (Physical Measurements) — Measuring Waist Circumference (procedure and standardization). (Last updated: 26 Jan 2017). PDF.
- Foroughi N, Dylke ES, Paterson RD, et al. Inter-rater reliability of arm circumference measurement. Lymphat Res Biol. 2011;9(2):101-107. DOI: 10.1089/lrb.2011.0002. PubMed: 21688979.
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


