高齢者の杖・歩行器の選び方と使い分け【理学療法士が解説】

臨床手技・プロトコル
記事内に広告が含まれています。

目的と前提(適合=安全と自立)

杖・歩行器は、高齢者の転倒リスク低減移動の自立を両立させる歩行補助具です。特に「杖の選び方がわからない」「キャスター付き歩行器の種類が多すぎる」といった場面では、身体機能だけでなく、住環境・介護者の有無・外出頻度を含めた総合判断が重要です。介護保険の福祉用具貸与・購入制度も踏まえながら、「身体機能 × 環境 × ゴール」で歩行補助具を選定していきます。

臨床と学びを両立|PT キャリアガイド

使い分け早見表(状況→デバイス)

ここでは、代表的な場面ごとに「杖( T 字・多点杖)」「歩行器(固定型・前輪型・四輪型)」の大まかな使い分けを示します。あくまで目安なので、個々の症例では筋力・バランス・認知機能・既往歴を評価し、ケアマネジャーや福祉用具専門相談員と連携して最終決定します。

状況別の推奨デバイス(成人・2025 年版)
状況 / 課題 杖( T 字 / 四点) 歩行器(固定 / 前輪 / 四輪) ポイント
片側下肢の軽〜中等度筋力低下 ◎ T 字杖 健側で使用。歩容に合わせ支持周期を指導。
両側バランス低下・恐怖感が強い △ 四点杖 ◎ 固定型 → 前輪型 安定性優先。段差・傾斜は固定型が安全。
長距離移動・屋外中心 ◎ 四輪(ロレータ) 休憩用シート・買物かごなど付属品も考慮。
片麻痺で立脚期が不安定 ○ 四点杖 ○ 固定型 立脚期の安定を優先しつつ、歩行練習で段階的に負荷調整。
パーキンソン病のすくみ足 ○ 四輪(レーザー付きなど視覚手がかり付き) 安全第一。段差や狭所は介助併用を前提に。

採寸とセットアップ

「杖の種類・適正」を押さえても、採寸がずれていると十分な効果が得られず、むしろ転倒リスクが増えることも報告されています。身長だけで機械的に決めるのではなく、実際に立位をとって微調整することが重要です。介護保険でレンタル・購入するケースでも、最初のフィッティングは必ず専門職が立ち会いましょう。

  1. 立位アライメント確認:自然立位で前後左右の荷重バランス・脊柱アライメントを確認し、杖や歩行器の導入で悪化しないかをチェックします。
  2. グリップ高さ:上肢を自然下垂し、肘屈曲が 20–30° となる高さにグリップが来るよう調整します。ランドマークは橈骨茎状突起(手首のしわ付近)とほぼ同高を目安にします。
  3. グリップ形状:手指の拘縮・変形・疼痛の有無を確認し、細すぎない円筒型やエルゴグリップなどから選択します。長期使用が見込まれる場合は、交換しやすい製品を選ぶと管理しやすくなります。
  4. 歩行器の設定:固定型・前輪型・四輪型などキャスター付き歩行器の種類に応じて、グリップ高(肘角度 20–30°)、キャスター径、ブレーキの硬さを調整します。

採寸後は、平地歩行 → 方向転換 → 段差・傾斜の順で試し、歩容・痛み・主観的安全感を確認します。必要に応じて筋力・バランス評価や転倒不安尺度を併用し、杖や歩行器の見直しを行います。

練習の段階づけ

歩行補助具の選定は文献上も「装具を渡して終わり」ではなく、十分な練習とフィードバックを伴うことが強調されています。ここでは、理学療法士が想定しやすい 3 段階の流れに整理します。

  1. 屋内平地フェーズ:病棟・自宅の廊下など安全な環境で、直線歩行 → 方向転換 → 後退歩行を練習します。杖の突き出し位置・タイミング、歩行器のフレーム内に身体を保てているかを確認します。
  2. 環境課題フェーズ:ドアの開閉・敷居・短い段差・緩やかなスロープなど、生活上避けられない環境課題を組み込みます。介護保険を使った住宅改修(手すり・スロープなど)のニーズもこの段階で整理します。
  3. 屋外・二重課題フェーズ:屋外歩行・買い物・会話しながらの歩行など、注意分配が必要な場面を追加します。転倒歴がある場合は、速度よりも安全確認と歩数の安定を優先します。

安全管理の要点

杖や歩行器は「使い方」を間違えると、むしろ転倒リスクを高める可能性が指摘されています。装具自体の点検と、本人・家族への説明をセットで行うことが重要です。

  • 先ゴム・キャスターの摩耗:先ゴムの溝が消えていないか、キャスターの回転に引っかかりがないかを定期的に確認します。摩耗・亀裂が見られたら速やかに交換します。
  • 階段・傾斜でのルール:「上がるときは健側先行、下りるときは患側先行」を本人と家族に繰り返し説明し、実際の階段でリハーサルしておきます。
  • 夜間・トイレ動線:夜間はセンサーライトや足元灯を活用し、ベッド〜トイレの動線上に不要物がないかをチェックします。
  • 介護保険とメンテナンス:介護保険でレンタルしている歩行補助具は、定期モニタリングや点検の時期をケアマネジャーと共有し、状態変化に応じて機種変更も検討します。

現場の詰まりどころ

現場では「とりあえず杖」「とりあえず四輪歩行器」となりがちですが、歩行補助具の使い方が不適切だと転倒リスクが 2〜3 倍になる可能性も報告されています。特に、要介護高齢者では膝伸展筋力の低下が歩行補助具使用の大きな決め手になる一方、「杖に頼りすぎて下肢筋力がさらに落ちる」ジレンマも生じやすいです。

  • 「軽いふらつき= T 字杖」一択になっている:実際には恐怖感が強く、四点杖や固定型歩行器の方が安心して歩けるケースも多くあります。
  • 杖の高さが低すぎる / 高すぎる:腰痛や肩関節痛の訴えが増えたときは、杖の高さ・持ち手・利き手を再確認します。
  • キャスター付き歩行器の種類が目的と合っていない:屋内の狭所中心なのに四輪歩行器を使っている、逆に屋外長距離が多いのに固定型のみで疲労が強い、など。
  • 介護保険のレンタル / 購入の整理が不十分:歩行補助杖や歩行器は、介護保険でレンタルだけでなく購入を選べる場合もあります。利用期間やコストを含め、福祉用具専門相談員と一緒に検討するとスムーズです。

おわりに

杖・歩行器の選定は、「評価 → 採寸 → 練習 → 環境調整 → 再評価」という一連のリズムで進めると、臨床での迷いが減りやすくなります。歩行補助具の導入はゴールではなく、その人らしい生活を支えるためのスタートラインと捉え、筋力・バランス・生活環境の変化に合わせて見直していきましょう。

働き方を見直すときの抜け漏れ防止に。見学や情報収集の段階でも使える面談準備チェック( A4・5 分)と職場評価シート( A4 )を無料公開しています。印刷してそのまま使えます。ダウンロードはこちらからどうぞ。

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関・介護福祉施設・訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

運営者について編集・引用ポリシーお問い合わせ

よくある質問

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

杖の高さはどこで合わせますか?

基本は肘屈曲 20–30°になるグリップ高です。自然立位で腕を下げ、橈骨茎状突起(手首のしわ付近)と同じくらいの高さを基準に調整します。低すぎると前屈みになりやすく、高すぎると肩の挙上や腰痛につながるため、立ち姿勢と歩容をセットで確認しましょう。

四点杖と T 字杖、どちらが安定しますか?

静的な安定度だけでいえば四点杖 > T 字杖ですが、段差・狭い廊下・方向転換などでは取り回しが悪くなることがあります。恐怖感が強く一歩が出ない方には四点杖が有利ですが、「四点杖で慣れてきたら T 字杖へ移行する」など、段階的な切り替えも選択肢です。

四輪歩行器(ロレータ)は屋内でも使えますか?

廊下が広く段差が少ない環境であれば屋内でも使用可能です。ただし、狭所・急な方向転換・すきまの多い和室などでは、フレームが引っかかりやすく転倒リスクになります。屋内中心なら固定型や前輪型、屋外長距離が多いなら四輪型など、生活動線に合わせて種類を選びましょう。

パーキンソン病のすくみ足にはどの歩行器が向きますか?

すくみ足には、レーザーラインやメトロノームなどの視覚・聴覚による手がかりを付加できる四輪歩行器が有効な場合があります。一方で、段差・人混み・狭所では四輪歩行器だけに頼らず、必ず付き添いをつける、環境を調整するなど多面的な対策が必要です。

参考文献

  1. Bradley SM, Hernandez CR. Geriatric assistive devices. Am Fam Physician. 2011;84(4):405–411. PubMed
  2. Sehgal M, Gill TM, McAvay GJ, et al. Mobility assistive device use in older adults and incidence of falls and worry about falling: Results from the 2011–2017 National Health and Aging Trends Study. Am Fam Physician. 2021;103(12):737–745. PubMed
  3. Mundt M, Batista JP, Markert B, Bollheimer C, Laurentius T. Walking with rollator: A systematic review of gait parameters in older persons. Eur Rev Aging Phys Act. 2019;16(15). doi:10.1186/s11556-019-0222-5
  4. Thies SB, Bates A, McLoughlin J, et al. Are older people putting themselves at risk when using their walking frames? A mixed methods study in residential care settings. BMC Geriatr. 2020;20(1):90. doi:10.1186/s12877-020-1450-2
  5. 坂野裕也, 村田伸, 中野英樹. 歩行補助具が必要となる要介護高齢者の身体的特徴:2 年間の縦断研究. 日本老年医学会雑誌. 2025;62(2):233–240. doi:10.3143/geriatrics.62.233
タイトルとURLをコピーしました