深部感覚の評価手順|位置覚・振動覚を臨床で迷わず測る
深部感覚(位置覚・振動覚)は、歩行の不安定さや巧緻性低下の背景を説明するうえで、臨床的な価値が高い評価です。いっぽうで、手順が検者ごとに揺れると「当たっているのか、推測で答えているのか」が曖昧になり、所見の再現性が落ちます。
本記事は深部感覚評価の総論として、10 分で回せる実装フローに絞って整理します。位置覚・振動覚の詳細手順は今後の各論で拡張予定です。比較から入りたい方は、表在感覚と深部感覚の違い【比較・鑑別】を先に読むと全体像が掴みやすくなります。
図で先に押さえる:初期鑑別フロー(中枢 / 末梢)
深部感覚低下を見たときは、単独所見で断定せず、分布・反射・上位運動ニューロン徴候・動作への影響を順番に確認すると判断が安定します。以下の図版を、初期評価の確認シートとして活用してください。
結論:深部感覚は「位置覚 → 振動覚 → 動作照合」で回す
最短で精度を上げるには、位置覚(母趾・手指)で正答率を取り、つづいて振動覚(骨突起)で減弱の程度を確認し、最後に立位・歩行・上肢操作へ照合する流れが実務的です。先に手順を固定すると、検者間のズレを減らせます。
ポイントは「説明を短く」「最小可動域」「閉眼条件の統一」です。特に位置覚は、関節を大きく動かすと他の手がかりで当てられるため、深部感覚そのものを評価しにくくなります。
| 固定する条件 | 推奨 | 理由 | 記録例 |
|---|---|---|---|
| 反応方法 | 「上 / 下」を口頭で回答 | 反応様式のブレを減らす | 反応:口頭(上 / 下) |
| 視覚条件 | 閉眼で統一 | 視覚代償を除外 | 条件:閉眼 |
| 位置覚の動かし方 | 最小可動域で上下のみ | 推測正答を減らす | 母趾:最小可動域 |
| 試行回数 | 左右各 5 試行を固定 | 経時比較しやすい | 右 4 / 5、左 2 / 5 |
深部感覚とは(臨床での役割)
深部感覚は、関節や筋・腱などから得る「身体の位置・動き」の情報です。評価対象としては位置覚、振動覚、(広義の)運動覚が中心で、臨床では歩行の不安定、立位でのふらつき、上肢の操作不良の説明に直結します。
同じ感覚検査でも、表在感覚が「分布(どこが鈍いか)」を掴むのに対し、深部感覚は「なぜ動作が崩れるか」を補強します。運用全体の流れは、感覚検査の実施手順まとめで確認しておくと実装が安定します。
10 分フロー(スクリーニング → 深掘り)
深部感覚は、全部を細かくやるより、短時間で回せる型を持つほうが臨床で使えます。まず位置覚と振動覚を一定条件で実施し、必要時のみ識別系や追加テストへ進めます。
| 手順 | 何をする | コツ | 記録 |
|---|---|---|---|
| ① 予告と練習 | 反応方法を統一(上 / 下) | 説明 1 文、練習 2 回で切る | 反応様式を 1 行記録 |
| ② 位置覚 | 母趾・手指で上下判別 | 最小可動域、閉眼で実施 | 正答 / 試行(例:3 / 5) |
| ③ 振動覚 | 骨突起で振動の有無を確認 | 左右同条件、開始 / 消失を確認 | 正常 / 減弱 / 消失 |
| ④ 動作照合 | 立位・歩行・操作へ接続 | 所見を機能へ翻訳する | どの場面で崩れるか |
位置覚の手順(要点)
位置覚は、末梢(母趾末節など)を軽く把持し、上下どちらに動いたかを答えてもらう方法が基本です。検者の圧が強すぎたり、可動域が大きすぎると、皮膚感覚や運動の手がかりが混ざり、深部感覚の純粋な低下を見逃します。
実務上は、左右各 5 試行を固定し、正答率で比較すると経時で追いやすくなります。迷ったら「正答 / 試行」で統一し、コメントに実施条件(閉眼・最小可動域)を必ず残します。
| 項目 | 推奨 | NG | 記録例 |
|---|---|---|---|
| 把持部位 | 側面を軽く把持 | 上下面を強くつまむ | 母趾末節側面で実施 |
| 可動域 | 最小可動域で上下のみ | 大きく動かす | 最小可動域で統一 |
| 視覚条件 | 閉眼で統一 | 開眼と混在 | 閉眼条件 |
| 判定 | 正答 / 試行 | 主観のみ | 右 4 / 5、左 2 / 5 |
振動覚の手順(要点)
振動覚は音叉(一般的には 128 Hz )を骨突起に当て、振動の知覚を左右で比較します。開始時点だけでなく「いつ消えたか」を確認すると、減弱の程度を捉えやすくなります。
評価部位と手順を固定し、毎回同じ順序で回すと再現性が上がります。所見は「正常 / 減弱 / 消失」に統一し、必要時に動作上の問題(歩行、段差、暗所)を併記します。
| 項目 | 推奨 | NG | 記録例 |
|---|---|---|---|
| 周波数 | 128 Hz の音叉 | 周波数を混在させる | 128 Hz 使用 |
| 当てる部位 | 骨突起で左右比較 | 毎回部位が異なる | 内果 / 母趾基部で比較 |
| 確認内容 | 開始と消失を確認 | 有無だけで終了 | 右:減弱、左:正常 |
| 結果表現 | 正常 / 減弱 / 消失 | 曖昧表現 | 両側減弱(下肢優位) |
所見の読み方(断定ではなく当たりを付ける)
深部感覚の低下は、単独で病変部位を断定するためではなく、次の評価の優先順位を決めるために使います。分布、反射、上位運動ニューロン徴候、歩行・立位の崩れ方を合わせると、鑑別の方向性が見えます。
特に「暗所で悪化」「足の接地感が乏しい」「段差で不安定」といった訴えは、深部感覚低下の実害を示しやすい所見です。安全管理と併せて、追加評価の提案につなげます。
現場の詰まりどころ(ここで精度が落ちる)
多いのは、①説明が長い、②閉眼条件が揃わない、③位置覚を大きく動かしてしまう、の 3 つです。これらがあると推測正答が増え、「改善したように見える」誤判定につながります。最優先は条件の固定です。
よくある失敗( OK / NG 早見)
| NG | なぜ起きる? | OK(修正) | 記録のコツ |
|---|---|---|---|
| 位置覚で関節を大きく動かす | 他の手がかりで当てられる | 最小可動域で上下のみ | 実施条件を必ず併記 |
| 開眼 / 閉眼が混在する | 視覚代償で結果が揺れる | 閉眼で統一 | 条件:閉眼と明記 |
| 試行数が毎回違う | 経時比較できない | 左右各 5 試行で固定 | 正答 / 試行で記録 |
| 振動覚を有無だけで終える | 減弱の把握が粗くなる | 開始 / 消失を確認 | 正常 / 減弱 / 消失で統一 |
よくある質問(FAQ)
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Q1. 位置覚と振動覚はどちらを先に測るべきですか?
実務では、まず位置覚で正答率を取り、その後に振動覚で減弱の程度を確認すると流れが安定します。最後に歩行や立位へ照合すると、介入ポイントが明確になります。
Q2. 位置覚の正答率は何回で取るのがよいですか?
左右各 5 試行など、毎回同じ回数で固定する方法が扱いやすいです。「正答 / 試行」で統一すると、再評価時の比較が簡単になります。
Q3. 振動覚は低下しているのに表在感覚は保たれることがありますか?
あります。感覚モダリティごとに低下の出方は異なるため、深部感覚と表在感覚を分けて評価することが重要です。動作への影響を合わせて判断してください。
Q4. 推測で答えている感じがするときの対処は?
説明を 1 文に短縮し、練習は 2 回で切り、閉眼条件を徹底します。位置覚は最小可動域で実施し、刺激のテンポを一定にすると推測正答が減ります。
Q5. 中枢と末梢の初期鑑別は、まずどこを見ればよいですか?
初期鑑別では、分布(神経根・末梢神経らしいか)、運動徴候(筋力低下の型)、反射(亢進か低下か)、上位運動ニューロン徴候(病的反射・痙性の有無)を先に揃えると方向性が定まります。実務では「深部感覚低下」という単独所見で断定せず、歩行・立位・巧緻性への影響をあわせて確認し、必要に応じて医師へ追加評価を提案します。
次の一手
- 運用を整える:神経学的評価ハブ(全体像)
- 共有の型を作る:表在感覚と深部感覚の違い【比較・鑑別】(使い分け)
教育体制・人員・記録文化など“環境要因”を一度見える化すると、次の打ち手が決めやすくなります。
チェック後に『続ける/変える』の選択肢も整理したい方は、PT キャリアナビで進め方を確認しておくと迷いが減ります。
参考文献
- Han J, Waddington G, Adams R, et al. Assessing proprioception: A critical review of methods. J Sport Health Sci. 2016;5(1):80-90. DOI: 10.1016/j.jshs.2014.10.004(PMID: 30356896)
- Chong PS, Cros DP. Technology literature review: quantitative sensory testing. Muscle Nerve. 2004;29(5):734-747. DOI: 10.1002/mus.20053(PMID: 15116380)
- Reimer M, Forstenpointner J, et al. Sensory bedside testing: a simple stratification approach for sensory phenotyping. PAIN Reports. 2020;5(3):e820. DOI: 10.1097/PR9.0000000000000820(PMID: 32903958)
著者情報
rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


