深部感覚とは(位置覚・運動覚・振動覚)
※本記事は 「感覚検査の完全ガイド」 の子記事です。
深部感覚は関節・筋・腱・骨からの入力で、姿勢制御や巧緻動作の基盤です。本記事では 位置覚・運動覚・振動覚 を、短時間で再現性高く評価するための順序と判定語彙にまとめます。まずスクリーニングで左右差を掴み、異常があれば詳細化します。
所見は FSST などのバランス、 FIM 5 点 の ADL、自覚症状と統合して判断します。脳卒中では SIAS の体性感覚項目と整合を取り、視覚代償の有無を必ず記録します。
位置覚/運動覚:末節把持・最小移動・回答形式
手順:末節骨の側面をピンチし、関節面への圧刺激を避けつつ最小角度で「上/下」を回答してもらいます。視覚遮蔽下で左右・遠位/近位をランダムに提示し、各関節 3 回程度。必要に応じて動かす速度を一定にし、運動覚も併せて確認します。
判定:誤答率、遅延、試行間の一貫性を重視します。近位関節で正答し遠位で低下する場合は遠位優位障害を示唆。把持点のずれ(爪・皮膚牽引)や過大角度は偽陰性/偽陽性の原因となるため備考に明記します。
振動覚( 128 Hz ):当て方・消失点の比較
手順: 128 Hz 音叉を骨隆起(指節骨・内果・膝蓋骨・棘突起 など)に軽く当て、「感じる/消える」を報告してもらいます。左右同一部位で実施し、遠位→近位の順で比較。必要に応じて検者の自己感覚も対照に用います。
判定:遠位からの消失や左右差の有無、温冷・浮腫などの影響を確認します。寒冷環境や末梢循環不良は閾値を上げるため、再加温や体位変更後の再検を推奨。疼痛や皮膚病変がある部位は回避し、安全と同意を優先します。
信頼性を上げる要点(練習試行・ランダム化)
深部感覚は理解度と期待バイアスの影響を受けやすいため、健側で 1–2 回の練習試行を実施します。提示はランダム化し、ダミーを 20–30 % 混在。検者は一定角度・一定速度・一定時間を守り、口頭ヒントやリズムを避けます。
再検は同日内に同条件で行い、一貫性が低い場合は注意機能や疲労、痛み、睡眠などの交絡を点検します。必要に応じて視覚代償の有無を条件として記録を二系統で残します(開眼/閉眼)。
記録テンプレ(誤答率/左右差の扱い)
項目 | 左 | 右 | 所見/語彙 | 備考 |
---|---|---|---|---|
位置覚 | ○/△/× | ○/△/× | 誤答率 xx %・遅延 | 把持点・角度 |
運動覚 | ○/△/× | ○/△/× | 速度一定/不一定 | 代償・視覚依存 |
振動覚( 128 Hz ) | 感じる→消失点(遠位/近位) | 感じる→消失点(遠位/近位) | 左右差あり/なし | 寒冷・浮腫・疼痛 |
NG/OK 早見(質を落とす典型と対策)
場面 | OK(推奨) | NG(避ける) | 理由/メモ |
---|---|---|---|
把持 | 末節側面・最小角度 | 末節末端や爪を掴む | 皮膚牽引で誤所見 |
提示 | ランダム+ダミー 20–30 % | 予測可能なリズム | 期待バイアス増大 |
環境 | 十分な説明・練習試行 | 説明不足・寒冷環境 | 誤答率・閾値上昇 |
歩行/バランス・ ADL と統合した解釈
深部感覚低下は歩行の足底接地や立位安定に直結します。バランスは FSST 、 ADL は FIM 5 点 と合わせて影響度を推定。開眼では保たれて閉眼で破綻する場合は視覚代償依存が示唆されます。
脳卒中では片麻痺側の深部感覚低下が巧緻動作・歩行対称性に影響します。末梢ニューロパチーでは遠位優位の振動覚低下が転倒・褥瘡リスクへ波及。対策は補装具・足底管理・視覚手掛かりの活用など、所見に応じて個別化します。
関連:表在感覚の評価【触覚・痛覚・温度覚】 / 複合感覚の評価【二点識別・立体覚・数字書字覚】
参考文献(一次情報は DOI/PubMed を後日追記)
- 神経学的検査の標準テキスト(深部感覚の章)
- 128 Hz 振動覚検査・位置覚検査の信頼性/妥当性に関する研究