認知症ケア加算と認知症ケアチーム【PT向け】

制度・実務
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認知症ケアチームと認知症ケア加算とは?

認知症ケアや委員会業務で「赤信号」を感じたときの動き方を見る( PT キャリアガイド )

認知症ケア加算は、認知症のある入院患者さんに対して 専門チームによるケア方針の検討と実践 が行われていることを評価する仕組みです。その中心となるのが、医師・看護職・リハ職・薬剤師・介護職などで構成される 認知症ケアチーム です。 BPSD(行動・心理症状)を「問題行動」として抑え込むのではなく、「なぜ起きているのか」を多職種で整理し、非薬物療法や環境調整を軸にしたケアを進めることが求められます。

本記事では、認知症ケアチームと認知症ケア加算のイメージをざっくり押さえつつ、 PT ・ OT ・ ST の関わり方、身体拘束や医療安全とのつながり、カンファレンス・記録の実務ポイントを整理します。あわせて、院内で使える BPSD 観察チェックシート認知症ケアカンファレンスメモ(いずれも A4 )をダウンロード素材として用意しました。

認知症ケア加算のイメージと施設基準の押さえどころ

認知症ケア加算の施設基準では、認知症のある入院患者に対して、①認知症ケアに関する 多職種チーム(認知症ケアチーム) があり、② BPSD や生活機能に関する 評価とカンファレンス が実施され、③ケア方針や結果が 診療録に記載 されていることなどが求められます。看護部門が主担当になることが多いですが、転倒・誤嚥・拘束・褥瘡など、他のリスクマネジメントとも密接に関連します。

PT ・ OT ・ ST の視点では、「歩行・バランス・ ADL 」に加え、疼痛・呼吸苦・便秘・嚥下障害・不眠といった 身体要因 が BPSD の引き金になっていないかを見抜くことが重要です。施設基準そのものは事務や管理者が確認するとして、リハ職としては「どの患者を認知症ケアチームに挙げるべきか」「カンファレンスで何を伝えるべきか」を型にしておくと安心です。

BPSD 評価と現場の詰まりどころ・よくある失敗

BPSD の評価では、「どんな症状がどのくらい出ているか」を書き出すだけで終わってしまいがちです。実際のカンファレンスでは、発現頻度・出やすい状況・身体要因・環境要因・介入への反応 までをセットで整理しておかないと、方針が曖昧になり、「とりあえず薬増量」で終わってしまうケースも少なくありません。

現場でよく詰まりやすいポイントと、ありがちな失敗例を簡単な表にまとめました。自分たちの運用と見比べるチェックリストとしても活用できます。

認知症ケア・BPSD 評価でのよくある失敗と工夫の方向性(成人・入院患者想定)
よくある失敗 なぜ問題か 一歩目の改善アイデア
「暴れて危ない」「徘徊が多い」とだけ記録している 時間帯・きっかけ・頻度が分からず、具体的な対策につながらない 「いつ・どこで・何の前後で・どのくらい」を BPSD 観察シートに書き出す
身体要因(疼痛・感染・便秘 等)のチェックが抜けている せん妄や急性増悪を見逃し、「認知症だから」で片付けてしまう バイタル・痛み・排泄・服薬状況をルーチンで確認する欄を設ける
ケアの工夫を試しても、誰が何をしたか共有されていない 効果があった方法が継続されず、場当たり対応になりやすい 「試した非薬物療法」と反応を簡潔にメモし、カンファレンスで紹介する
身体拘束に頼ったまま、代替策の検討が進まない 転倒・チューブ自己抜去への不安から拘束が固定化しやすい 拘束の目的とリスクを書き分けたうえで、代替案と観察項目をセットで検討する

PT・OT・ST が担う認知症ケアチームでの役割

リハ職は、 BPSD そのものを評価するというよりも、「その症状が 身体機能・動線・環境・活動量 とどう結びついているか」を読み解く役割が強いです。例えば、徘徊・歩き回りは「負の行動」ではなく、「痛み・不安・トイレ・退院への焦り」などのサインであることが多く、歩行能力やバランス、トイレ動作の難しさを踏まえて解釈する必要があります。

また、転倒歴や起立時のふらつきがある患者では、 BPSD としての不穏の裏側に「立ち上がると気分が悪い」「ふらつく」などの身体症状が隠れていることも少なくありません。 PT ・ OT は、歩行・起立・ ADL の評価に加えて、「どの場面で危険が高いか」「どうすれば拘束を減らしつつ安全を担保できるか」という視点で、認知症ケアチームや医療安全担当者と連携していくことになります。

認知症ケアカンファレンスと記録のポイント

認知症ケア加算では、認知症ケアチームによるカンファレンス実施と、その内容が診療録等に記録されていることが重要です。看護記録や医師記録のほか、リハ記録の中でも「 BPSD の背景要因」「非薬物療法の試行内容」「環境調整・リハ介入の方針」などを簡潔に残しておくと、多職種でストーリーがつながります。

カンファレンスでは、①主な BPSD と頻度・状況、②身体要因・薬剤・環境要因、③非薬物療法・環境調整・身体ケア(リハ)の具体策、④薬物療法・身体拘束に関する方針、⑤短期目標と評価方法、を 1 枚で整理しておくと議論がスムーズです。ここで決まった方針が、病棟ケア・リハ計画・家族支援に一貫して反映されると、 BPSD と安全対策の両立が図りやすくなります。

BPSD 観察シート/認知症ケアカンファレンスメモ(ダウンロード)

この記事の内容を院内で具体的に運用できるように、認知症ケアチーム向けの A4 シートを 2 種類用意しました。どちらも HTML 形式なので、自施設のルールや様式に合わせて編集し、印刷してご利用いただけます。

  • 認知症ケア・BPSD 観察チェックシート( A4 )
    認知機能・見当識の概要、 BPSD の種類・頻度・出やすい状況、身体状況・環境要因、ケアの工夫、認知症ケアチームへの相談事項を整理できるシートです。日々の観察をためておくことで、カンファレンス時に「何となく困っている」から一歩踏み込んだ検討ができます。
  • 認知症ケアカンファレンスメモ(認知症ケアチーム用・ A4 )
    カンファレンス参加者、多職種で共有した BPSD の概要、身体・環境・生活歴の要因、非薬物療法・環境調整・身体ケアの具体策、薬物療法・身体拘束に関する方針、目標・評価方法などを 1 枚で記録できるメモ用紙です。

認知症ケア・BPSD 観察チェックシート( A4・無料ダウンロード )

認知症ケアカンファレンスメモ( A4・無料ダウンロード )

おわりに:BPSD・拘束・安全対策を一本の線で考える

認知症ケアチームや認知症ケア加算は、「 BPSD 対応」「身体拘束」「転倒・誤嚥リスク」など、ふだんはバラバラに語られやすいテーマを一本の線で結び直すための仕組みでもあります。評価スケールや加算要件を覚えることも大切ですが、現場では「なぜその BPSD が起きているのか」「どうすれば拘束を減らしつつ安全を守れるか」を、多職種で具体的に検討できる場があるかどうかが勝負どころです。

働き方を見直すときの抜け漏れ防止に、見学や情報収集の段階でも使える面談準備チェック( A4 ・ 5 分)と職場評価シート( A4 )を無料公開しています。印刷してそのまま使えますので、「今の職場でできる工夫」と「環境を変える選択肢」の両方を整理するツールとして活用してみてください。ダウンロードページを見る

よくある質問

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教育体制に不安があるとき、転職はいつ検討すべきですか?

認知症ケアチームや委員会業務を任されるのはチャンスでもありますが、指導者や相談相手がいないまま「責任だけ増える」状態が続くと、燃え尽きやミスにつながりかねません。まずは、①業務量、②学べる環境(指導・フィードバック)、③自分のキャリア希望の 3 点を書き出し、上司や先輩と話し合ってみるのが一歩目です。

改善を求めても状況が変わらない、あるいは安全に関わる問題が放置されている場合は、職場環境の見直しを検討してよいタイミングです。判断材料を整理したいときは、PT キャリアガイドの「赤信号チェックリスト」も参考になります。

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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