- I3C(臨界的定着疑い)をどう拾う?結論とこの記事でできること
- I3C(臨界的定着疑い)とは:DESIGN-R®2020 の「感染前」を標準化する考え方
- 現場の詰まりどころ:I1/I3C/I3 のどこで止まりやすい?
- I3C を拾う所見の見方:まず「 3 点セット」で拾う
- I3C と他の状態の見分け:I1/I3/I9 と混ざる所をほどく
- 次アクション:I3C を拾ったら「 24〜48 時間で方向を出す」
- 記録テンプレ:カンファで迷わない「所見→判断→次の一手」
- よくある失敗:I3C を“拾えたのに”治癒が遅れるパターン
- 関連:DESIGN-R®2020 の採点全体像(親記事)
- よくある質問(FAQ)
- 参考文献
- 著者情報
- おわりに
I3C(臨界的定着疑い)をどう拾う?結論とこの記事でできること
結論:DESIGN-R®2020 の「 I3C(臨界的定着疑い) 」は、感染( I3 )に進む前に“怪しいサイン”を拾い、創面調整→滲出液コントロール→短い間隔で再評価につなげるための運用ラベルです。現場で迷いが出やすいのは、炎症( I1 )や感染( I3 )と所見が混ざりやすく、「次に何をするか」が曖昧になりやすいからです。
本記事では、I3C を拾う所見の見方(視診・触診の軸)、迷いどころの鑑別ポイント、そして 24〜48 時間でやる次アクションを、カンファで使える形に整理します。
I3C(臨界的定着疑い)とは:DESIGN-R®2020 の「感染前」を標準化する考え方
I3C(臨界的定着疑い)は、従来「クリティカルコロナイゼーション」と呼ばれてきた“創面の細菌負荷が高く、治癒が遷延しやすい状態”を、現場の観察で拾うために DESIGN-R®2020 の I(炎症/感染)項目へ明示された区分です。I3C は「確定診断」ではなく、疑いとして拾って運用を変えるのが目的です。
ポイントは、I3C を拾えた時点で「感染の治療」へ一直線に飛ぶのではなく、まずは創面を整える(汚れ・膜・ぬめりを減らす)こと、そして滲出液・湿潤環境のコントロールを強化し、短い間隔で再評価することです。
現場の詰まりどころ:I1/I3C/I3 のどこで止まりやすい?
| 詰まりどころ | よくある判断 | 見直す観察軸 | 次アクション |
|---|---|---|---|
| 滲出液が多い=感染? | いきなり I3 と扱う | ぬめり/膜様付着物、肉芽の質(浮腫・脆弱)、臭いの質 | まず創面調整+滲出液コントロール、翌日〜 48 時間で再評価 |
| 発赤・熱感がある=感染? | 炎症( I1 )と感染( I3 )が混線 | 排膿、増悪する疼痛、臭い、創縁・周囲の変化(拡大/硬結) | I1 なら圧・ずれ対策と環境調整、I3 なら医師相談の優先度を上げる |
| I3C と書いたが再評価が遅い | “様子見”が長引く | 24〜48 時間で改善の方向が出るか | 改善なし/悪化なら I3 を疑い、報告・方針変更へ |
I3C を拾う所見の見方:まず「 3 点セット」で拾う
I3C の拾い上げは、難しい検査よりも視診・触診が基本です。DESIGN-R®2020 では、I3C の所見として「創面のぬめり」、「滲出液が多い」、そして肉芽がある場合に「浮腫性で脆弱」といった所見が挙げられています。
| 観察項目 | I3C を疑う所見 | 見落としやすい点 | その場での確認 |
|---|---|---|---|
| 創面の表層 | ぬめり、膜様の付着、拭っても戻る汚れ感 | 乾燥・痂皮と混同 | 洗浄・清拭後に“戻り”があるか確認 |
| 滲出液 | 量が増える/コントロールしにくい | 圧迫・ずれ、湿潤過多でも増える | 体位・除圧・ドレッシング変更後の推移を見る |
| 肉芽の質 | 浮腫状、脆弱、触れると崩れやすい/易出血 | 過剰肉芽や摩擦による出血と混線 | 創縁のずれ・テープ刺激、接触圧を同時評価 |
| 臭い・疼痛 | 臭いが強まる、疼痛が増える(持続) | 失禁、汚染でも臭いは出る | 清拭・交換直後でも残る臭いかを確認 |
I3C と他の状態の見分け:I1/I3/I9 と混ざる所をほどく
I3C は“感染前”の運用ラベルですが、現場では I1(炎症)や I3(局所感染)と所見が混ざりやすいのが難点です。ここでは「どれに寄せるか」ではなく、次アクションが変わる境界に注目して整理します。
| 判定 | 主所見の目安 | まずやること | 相談・エスカレーションの目安 |
|---|---|---|---|
| I1(炎症) | 創周囲の発赤・腫脹・熱感・疼痛(機械的刺激や圧・ずれで説明できる) | 除圧、ずれ対策、湿潤バランス調整、刺激源(テープ・摩擦)の除去 | 環境調整しても増悪、疼痛が強く進行する |
| I3C(臨界的定着疑い) | ぬめり+滲出液多量、肉芽が浮腫状で脆弱(易出血など) | 創面調整(洗浄・清拭・必要ならデブリ検討)+滲出液コントロール、短い間隔で再評価 | 24〜48 時間で改善が出ない/悪化、臭い・疼痛・周囲変化が強まる |
| I3(局所感染) | 炎症所見に加え、排膿、悪臭、明らかな感染兆候(周囲の硬結・拡大など) | 医師へ報告し方針確認、局所処置と全身状態の確認を同時に進める | 迅速な治療方針決定が必要(悪化が速い/全身影響の兆候) |
| I9(全身的影響) | 発熱など全身症状、感染が全身へ波及する懸念 | 医師への至急報告、バイタル・検査・治療の優先順位整理 | 緊急度が高い(状態変化が大きい/敗血症リスクが疑われる) |
次アクション:I3C を拾ったら「 24〜48 時間で方向を出す」
I3C で重要なのは、診断名を当てることよりも“次の一手”を固定化することです。基本は「創面を整える」「滲出液を管理する」「短い間隔で再評価する」の 3 本柱で、改善しないときは I3 方向の対応へ切り替えます。
| タイミング | 観察・評価 | 介入(その場でできる) | 記録のポイント |
|---|---|---|---|
| 当日(拾った直後) | ぬめり、滲出液量、臭い、肉芽の浮腫/脆弱、疼痛、周囲皮膚 | 洗浄・清拭、ドレッシング再検討(吸収・固定・ずれ対策)、除圧の再点検 | “何が I3C を疑わせたか”を具体語で残す |
| 翌日 | 滲出液とぬめりの減少、肉芽の質の変化、臭い・疼痛の推移 | 創面調整の継続、環境調整の微修正 | 改善方向/不変/悪化のいずれかで判断を明文化 |
| 48 時間 | “改善が出るか”を最終確認 | 改善なし/悪化なら I3 を疑い、医師へ報告し方針確認 | 切り替え判断の根拠(所見と経過)を揃えて共有 |
記録テンプレ:カンファで迷わない「所見→判断→次の一手」
I3C の記録は、抽象語(「感染っぽい」など)だと引き継ぎでブレます。所見の具体語と、次アクションと、再評価の期限をセットで残すのがコツです。
| 項目 | 記録例 | 補足 |
|---|---|---|
| I 判定 | I3C(臨界的定着疑い) | “疑い”の理由を必ず下段に書く |
| 疑い所見 | 創面のぬめりあり/滲出液多量/肉芽は浮腫状で脆弱(易出血) | 観察語を固定化するとチームで揃う |
| 介入 | 洗浄+清拭で創面調整、吸収重視の被覆へ変更、除圧とずれ対策を再設定 | “何を変えたか”が次の再評価につながる |
| 再評価 | 翌日( 24 時間)に滲出液量・ぬめり・臭い・疼痛を再確認、改善なければ 48 時間で医師へ報告 | 期限を明記すると様子見が延びない |
よくある失敗:I3C を“拾えたのに”治癒が遅れるパターン
| よくあるミス | 起こること | 対策( 1 手目) | 記録で防ぐコツ |
|---|---|---|---|
| 滲出液だけで I3C にする | 湿潤過多やずれ要因が残り、改善しない | 除圧・ずれ・固定の再点検をセット化 | “刺激源”の評価も一緒に書く |
| I3C と書いたのに再評価が遅い | I3 への進行を見逃しやすい | 24〜48 時間で判断を出すルールを固定 | 再評価期限を必ず書く |
| 創面調整が弱い | ぬめり・膜様付着が残り治癒が遷延 | 洗浄+清拭の質を上げる(必要ならデブリ検討) | 処置後の“戻り”を観察項目に入れる |
| 相談が遅れる | 局所感染や全身影響の対応が後手 | 悪化サイン(臭い・排膿・疼痛増悪など)を共有 | 悪化サインの有無を毎回記録 |
関連:DESIGN-R®2020 の採点全体像(親記事)
この I3C の判断は、D(深さ)・E(滲出液)・G(肉芽)など他項目の評価とセットで運用するとブレが減ります。採点ルールの全体像は、親記事の「DESIGN-R®2020:評価項目 7 つと採点のポイント」にまとめています。
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
I3C と I3 は点数が同じですが、何が違うのですか?
I3C は「感染の確定」ではなく、“感染前かもしれない”サインを拾って運用を変えるための判定です。I3C を拾ったら、創面調整と滲出液コントロールを強化し、短い間隔( 24〜48 時間)で再評価して、改善しない場合は I3 方向の対応へ切り替えます。
ぬめりがあれば必ず I3C ですか?
ぬめりは重要なサインですが、単独では決め打ちしません。滲出液量、肉芽の質(浮腫・脆弱)、臭い・疼痛の推移などを合わせて拾い上げ、処置・環境調整後に“戻り”があるかを再評価するのが安全です。
I3C を拾ったら、抗菌外用だけで良いですか?
まずは「創面を整える」「滲出液を管理する」「短い間隔で再評価する」をセットで行い、改善しない場合に方針を上げます。抗菌外用は“目的と観察”を明確にした上で、チーム内の手順と医師の方針に沿って位置づけるのが実務的です。
24〜48 時間で何を見れば「改善」と言えますか?
滲出液量が落ち着く、ぬめりが減る、肉芽の質が締まる(脆弱さが減る)、臭い・疼痛が軽減する、といった“方向性”が見えるかが目安です。逆に不変/悪化(臭い増強、排膿、周囲の発赤拡大など)があれば、I3 方向の対応に切り替える判断材料になります。
参考文献
- 日本褥瘡学会:改定 DESIGN-R®2020(解説)。PDF
- 日本褥瘡学会:DESIGN-R®2020 褥瘡経過評価用(評価表)。PDF
- 医学書院:医学界新聞プラス「DESIGN-R®2020 を使ってみよう( I3C 症例解説を含む)」。Web
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下
おわりに
I3C(臨界的定着疑い)は、所見を拾う→創面調整→滲出液管理→短い間隔で再評価のリズムを作ると、現場の迷いが一気に減ります。次の一手が曖昧なまま“様子見”が延びないように、この記事のフローと記録テンプレをチームで共有してみてください。
転職や職場選びで「教育体制」や「創傷ケアを学べる環境」を整理したいときは、面談準備チェックと職場評価シートが使えるページも活用できます。

